ヒマラヤ

下婢

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桂花ラーメンの太肉麺

人生のそばには、常に桂花ラーメンの“太肉麺”があった。新宿に4店舗を構える桂花ラーメンで頼むのは、絶対に太肉麺。 豚骨ベースの細麺に、角煮のような太肉が乗っている熊本発祥のラーメン。15年以上も通っているのに、太肉麺以外を食べたことがない。 大学入学と同時に始めた新宿三丁目での料亭のバイト。酒の味も分からない18歳では、職人気質の従業員とも反りが合わず、クビを言い渡されてしまった。末広店で泣きながら食べた太肉麺は、社会のやり切れなさを表現するようなマー油の苦味が口いっぱい

    • ある夏の昼の流れ

      Spotifyでランダム再生していたら、BONNIE PINKの"Perfect Sky"が流れそうになっていた。だから、イントロの1小節目4分音符に合わせて飛び起き、"君の胸で泣かない"の歌詞をモデル立ちしながらリップシンクした。 この曲が流れなければきっと15時ごろまでベッドでゴロゴロしていただろう。人生はこんな些細な選択の集合で形成されていることを実感し、切ない気持ちになる年齢になってしまった。 せっかくモデル立ちをしたので、モデルの生活宛ら、枕元にある2Lのペットボト

      • 過去にさよならを告げる日

        青年期の終わりと成人期の始まりを迎えたタイミングで、私はこれまでの過去を受け入れないことにした。 理由は単純で、"人生の終わりが見えた"からだ。社会人も二年目になり、徐々に忙しくなっていくなかで、今回の人生の果てをなんとなく意識するようになった。ライフプランといえば聞こえはいいが、結局は"死に場所"を選ぶということだ。そして残念なことに、神は存在しないと思っている私には来世がない。だから、今世を快く死ぬために、過去を全て受け入れないことにした。 人生をボタンひとつでリセッ

        • 化物

          そいつは2年ほど前から頭の中で動き始め、近頃私の思考や選択を阻害している。腐敗しきって、爛れた黒い肉塊。そいつの無数の手指が、先へ進もうとする私を、逃すまいと追随するのであった。 その"化物"は、幸福の匂いにいやに敏感であった。私が変化を求め、現状から抜け出そうとする度、そいつは呻き声をあげながら追いかけてくる。そして追いつかれてしまったら最後、私は四肢を引きちぎられるのだった。 化物は、散らばった私の肉片を満足そうに拾い集めて、大きな口を開けてバリボリと咀嚼する。私の将

        桂花ラーメンの太肉麺

          ある秋の朝の流れ

          今死ぬのが全てのタイミング的に丁度良いんだよなぁと思いながら、帯状疱疹が再発している気がしてチクチクする乳首下の皮膚の表層を撫でる。やっぱり藤井風も"死ぬのがいいわ"ってこんな気分の時に歌詞書いたんだろうか。嘘、あれは美しい"独白"であってこんな怠惰な生活を送っている人間が軽薄に共感していいものではない。 この季節の朝5時は思っているよりも冷えている。目覚めと同時に窓を開けるので、ワイシャツを着るため数秒裸体になる瞬間に"もう冬じゃん"と小さな苛立ちが漏れる。じゃあ窓開けな

          ある秋の朝の流れ