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毎日1曲『三種の神器』20221126 - 二つの世界的なチャリティソング

作詞、作曲、歌唱、演奏、DTMを趣味や仕事にしている人に向けて書いています。毎日1曲、頭に浮かんだ曲を取り上げて、僕が独断で『ヒット曲の三種の神器』と呼ぶ、世界のヒット曲に共通する不思議な法則を解説をしているコラムです。興味を惹かれたら『ヒット曲の三種の神器』の詳細についての過去記事もご覧ください。

今日の2曲


日付:2022年11月26日
タイトル:二つの世界的なチャリティソングを比較
アーティスト:Band Aid、U.S.A. For Africa

『三種の神器』度数


①「Do They Know It's Christmas」
ヨナヌキメロディ度:3
弱起度:3
客観描写度:7

②「We Are the World」
ヨナヌキメロディ度:9
弱起度:10
客観描写度:0

解説:
久しぶりの投稿なので、今日はいつもと少し違う観点で話をしたいと思います。1983年から1985年にかけてエチオピアで起こった大飢饉を背景に、1984年12月、その救済を呼びかけるチャリティソングがイギリスで発売されました。企画したのはブームタウンラッツのボーカル、ボブ・ゲルドフとウルトラヴォックスのミッジ・ユーロのふたり。タイトルは「Do They Know It's Christmas」で、一般的にはバンドエイドというプロジェクト名で知られています。

企画者のふたりが曲を作り、ロンドンのスタジオに集まった、主にイギリスとアイルランドのトップスター30数名が1日でボーカルを録音しました。この曲は発売と同時にイギリスで記録的なヒットとなり、すぐにアメリカでも発売され、世界に広がっていきました。日本でも頻繁に放送されていたのを覚えています。

この成功に触発されて、アメリカではUSAフォーアフリカというプロジェクトが立ち上がり、翌年1985年3月に同じくチャリティソングを発売、タイトルは「We Are the World」です。マイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーの共作で、こちらはアメリカを代表する錚々たるスター達が一同に会して、交互にソロを歌い最後はサビを大合唱する有名な映像を見たことがある人は多いと思います。

2曲とも発売国ではナンバーワンヒットとなり、史上トップクラスの売上を記録しています。企画意図は同じ、チャリティという目的も同じ、先行の「Do They Know It's Christmas」と、その内容を真似して制作された「We Are the World」は、いろいろな面で共通点が多い2大チャリティソングといえます。

ところが詳しく調べてみると、実はこの2曲の売上数には2倍近くの差があります。イギリスとアメリカの人口とか、データの精度など考慮すべき要因はあるとはいえ、僕らから見れば両方とも世界でヒットした英語のポップソングで、曲のテーマも構成も、参加メンバーの知名度も、そして発売時期も、あらゆる面で共通点が多いこの2曲になぜ、そんなに差が出たのか。

最初にこの2曲の『三種の神器』度数を比較してみました。
まず「Do They Know It's Christmas」の出だし(ヴァース=Aメロ)はヨナヌキメロディで弱起です。少し暗めなサウンドに乗ってポール・ヤングが静かに歌い出すこのメロディは素直に心に入ってきます。ところが曲が進んでいって、デュラン・デュランのサイモン・ル・ボンが歌うメインボーカルにスティングが高音パートのハーモニーをかぶせてくると、それ以降、この高いハーモニーラインがメインメロディとすり替わってメインに聞こえるようになります。そして、その後は最後の大合唱のリフレイン(コーラス=サビ)まで、基本的には高低2声のハーモニーが続くのですが、ずっと高音のラインがメインメロディという印象で終わります。この途中から出てきてメインの座を奪っていく高音のメロディが、4と7すなわちファとシの連発なのです。さらに、最後に繰り返されるコーラスは弱起ではなくなります。

一方の「We Are the World」は、出だし(ヴァース=Aメロ〜Bメロ)は覚えやすいメロディですが、ところどころに4(ファ)と7(シ)が使われていてヨナヌキとはいえません。しかしながらマイケル・ジャクソンのソロで始まる「we are the world / we are the children」というサビ(=コーラス)は、完全なヨナヌキメロディで大弱起です。「Do They Know It's Christmas」とちょうど逆で、一番聞かせたいサビ(=コーラス)がヨナヌキ&弱起で、そこまでの導入(ヴァース=A,Bメロ)がヨナヌキではないわけです。だからサビがより引き立つんですね。誰もが聞いた直後から歌えてしまえそうな覚えやすさと、子供でも心を掴まれる言葉の繰り返し。今だにこの曲は日本のカラオケでも歌われていると思います。

歌詞については「We Are the World」は「世界は一家人類は皆兄弟」という日本船舶振興会の昭和のCMのようなメッセージで、そのサビの歌詞がタイトルになっているのも直球です。一方の「Do They Know It's Christmas」はタイトルにも現れているように、少しイギリス人らしいアイロニーがあり、クリスマスというキリスト教の価値観を上から目線で押し付けるような内容が、後に批判されたりしたようです。ただ、個人的にはこの曲の「雪が降らないアフリカの人々は今がクリスマスだと知っているの?」という直球な描写は心に刺さります。客観描写度についてはその意味で差をつけました。

コメント:
こじつけだと思われるかも知れませんし、僕の独り合点なのも事実ですが、僕はこの同じテーマと内容と目的を持ち、わずか3ヶ月の時間差で発売された2つのチャリティソングにトータルで1,000万枚近い売上数の差があることは、国が違うとはいえ僕の『三種の神器』メソッドのエビデンスのひとつだと思っています。どちらの作品もセールス的には大成功、むしろ先発の「Do They Know It's Christmas」のアイディアをそのまま真似た「We Are the World」は二番煎じと言えなくもないわけです。なのに40年近い年月を経て、今でも多くの人に愛されて歌われているのは「We Are the World」のサビなのではないでしょうか?なぜなら「We Are the World」のサビが、ヨナヌキメロディと弱起と世界中が理解できる言葉の組み合わせによって、圧倒的に覚えやすいからなのです。

「世界で最も売れた曲ランキング」というサイトを見つけたのでリンクを貼っておきます。世界で史上最も売れた曲が1位から60位まで紹介されているのですが「Do They Know It's Christmas」は53位で1170万万枚、「We Are the World」は6位で2000万枚ということになっています。

各種リンク

Band Aid - Do they know it's christmas 1984
U.S.A. For Africa - We Are the World

『ヒット曲の三種の神器』解説記事

大平太一流 作詞作曲の必殺技『ヒット曲の三種の神器』解説記事です、是非あわせて読んでみてください。
①ヨナヌキメロディ/なぜか覚えやすい音階の不思議
②弱起/インパクト大!言葉やメロディが飛び込んでくる
③客観描写/具体的で無感情な描写が人の心に感動を生む


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