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ひとり歩きするヒット曲の作り方②弱起

玉置浩二のアシスタントディレクターからキャリアをスタート。高橋洋子、Akeboshi、SCANDAL、CECILなど多数の作品を残し、自身も作詞、作曲、編曲、ミュージシャンを兼任しながら、音楽出版社やスタジオ経営まで、豊富なエピソードを交えて語る、音楽クリエイターとパフォーマーのためのヒントコラムです

※この記事は2020年9月8日にFacebookグループ「大平塾」に投稿された内容を一部編集して転載しています。


今日のテーマ、弱起(じゃっき)とは

前回の「ヨナヌキメロディ」に続いて、今回の「ひとり歩きするヒット曲の作り方」のテーマは「弱起」です。

前回の「ヨナヌキメロディ」はドレミファの音程の話でしたが、今日はメロディのリズムというか、曲の拍子に対するメロディの始まり方や位置の話になります。

「弱起」(じゃっき)とは音楽用語で、小節の一拍目よりも前からメロディが始まることを言います。ネットで検索するとこれもいろいろ解説が見つかりますのでサクッと調べてみてください。

世界一のひとり歩きメロディ「ねこふんじゃった」

弱起の例はたくさんあるのですが、みなさんが絶対に知っているメロディだと、世界中で誰もがピアノで弾いてしまう「ねこふんじゃった」です。

このメロディを譜面に書くと「ねこ」という2音が先行して「ふんじゃった」の「ふ」が小節の1泊目であることがわかります。つまり、曲の進行の中でメロディが少し早く始まることを言います。
https://w.wiki/3vua

ちなみに「ねこふんじゃった」をピアノで弾ける人は多いと思いますが、ほとんど黒鍵だけで弾けるこのメロディには、前回「ひとり歩きするヒット曲の作り方①」の「ヨナヌキメロディ」も隠れています。

メロディが耳に飛び込んでくるヒミツ

で?  その「弱起」がどういう意味があるの?
聞いたときの感覚はモノスゴク違います。
ひとことで言うと、覚えやすいのです。
メロディや歌詞がボーンと頭に飛び込んでくるようになります。

前回「ひとり歩きするヒット曲」の条件のひとつは「誰もが覚えやすいメロディ」だと書きました。「覚えやすい」というのは主観なので、好みの違いだとかの議論になったりするのですが、それを客観的に示すのがヒットという統計だと思っています。

結論、多くの人が覚えてしまう曲がひとり歩きヒットの定義です。

「ねこふんじゃった」は作曲者不明、世界中で歌詞も違えば、メロディもちょっと違ったり構成や展開も異なるものがたくさん存在するそうです。これぞ「ひとり歩きヒット」の神!超超超大ヒット曲ですよね。

ちなみにもう一つ紹介しておくと、これもみなさんご存知の「蛍の光」
この曲も原曲はスコットランド民謡で作者不明、ヨーロッパから世界に伝搬して、それぞれの言語で歌詞が作られて、日本では卒業式やお別れの時の歌として、完全に日本の歌になっています。

この「蛍の光」も楽器が弾ける人は是非、楽譜に書いたり、弾いたりしてみてください。弱起であると同時に、一度もシとファが出てこない、100%ヨナヌキメロディであることも発見できると思います。
https://w.wiki/3vud

瑛人の「香水」は?

さて、ここで前回からの流れで瑛人の「香水」を検証してみましょう。
わかりやすいメロディ譜がYoutubeで公開されていたので引用します。
https://youtu.be/INkLr8LKJts
(この動画を見て、前回「ヨナヌキメロディ」と解説したのに「シ」とか「ファ」が出てくるじゃないか!と思った方は音名、階名の違いなので是非自分で調べてください ^^;)

ものの見事に「弱起」ですね。
僕はこのロジックを「弱起」ではなくて「偶数奇数小節とセンテンス」という独自の言葉で教えるのですが、ヨナヌキメロディとともにこういうヒントを知ると、音楽の不思議を実感できるはずです。

モーツァルトもビートルズもサザンオールスターズも

「弱起」も「ヨナヌキメロディ」も、曲の優劣を左右する話では決してありません。聴いた時に受ける印象の違いの話ですから、作曲技法として使えることが大切ですし、「弱起」でも「ヨナヌキメロディ」でもないヒット曲もたくさんあります。

でも、瑛人の「香水」がひとり歩きヒットをした、という具体的な事実と、「ねこふんじゃった」や「蛍の光」が勝手に世界中に拡散していった現象に共通点がある、ということを覚えておくのは作曲をする人には絶対に楽しい知識だと思います。

モーツァルトの「トルコ行進曲」、ビートルズの「Let It Be」、サザンオールスターズの「いとしのエリー」などはすべて弱起メロディが肝になっているのであります。

次回もやはり「香水」を題材にして「ひとり歩きするヒット曲の作り方③」をお送りしたいと思います。

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