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曲作り『三種の神器』のエピソード①

玉置浩二の2ndソロアルバム「あこがれ」のアシスタントディレクターからキャリアをスタート。高橋洋子、Akeboshi、SCANDAL、CECILなど多数の作品を残す。自身も作詞、作曲、編曲、ミュージシャンを兼任しながら、音楽出版社とレコーディングスタジオ経営まで、豊富なエピソードを交えて語る、音楽クリエイターと表現者のためのヒントコラムです

※この記事は2020年1月19日にFacebookグループ「大平塾」に投稿された内容を一部編集して転載しています。

『三種の神器』のエピソード

作詞や作曲をするときに、たった3つのことを意識してみるだけで、聞き手への伝わり方が俄然変わる話をしてきました。今日は実際に経験した例について話したいと思います。

最近、とあるワークショップのオーディションで、ひとり気になる女性シンガーソングライターがいたので話を聞くと、僕もよく知る作曲家のアドバイスを受けているというので、過去のいくつか作品を聞かせてもらって、僕も少し手伝うことにしました。

とても才能のある方だと思いましたし、野心も情熱も持っています。ただ、作品の雰囲気は悪くないものの、多くの人と同様にやや当てずっぽうでバラツキがありました。

この1年後に、彼女は新曲をライブで披露して、人生初の経験をします。

何かを得るために何かを捨てる

彼女は基本的にギターを弾きながら歌うスタイルなのですが、そのギターがあまり上手ではありません。ギターを弾くことの不自由さが歌うことや曲作りの邪魔をしているという話をしました。この解決策は2つにひとつ、一生懸命練習してもう少しギターをモノにするか、いっそのことその労力を他の何かで置き換えてしまうかです。

これは実は大切なことで、意識をどこに集中させるかを決めることでもあります。目的はギターを弾くストレスから解放されることなので、練習するといってもギタリストになるわけではありません。でも何かを得るために何かを捨てる、ということが解決することは意外に多いものです。

理屈ではわかっても実際には・・・

もうひとつのアドバイスは『三種の神器』です。彼女には音楽の素養があり、耳が良かったのでヨナヌキメロディの話はすぐに理解してくれました。そして気持ちが上がったところですぐに新しい曲作りに取り組んだのですが、なかなかうまくいかず時間が過ぎて行きました。これ、普通みなさんこうなるんです。

変な例えですが「隠し絵」のようなところがあって、そのことに気づかないうちは何回見てもその隠れたカタチが目に入ってきません。ところが一度それが見えてしまうと、もう見えていない時の感覚に戻れなくなるんです。最初に気づくまでが必ず苦労します。人によっては逆に最初から気づいているというか、無意識に『三種の神器』を使っている人もいます。センスというか、洋服の着こなしなんかにも似ています。

いろいろなやり方を試す

何度かミーティングを繰り返し、まずは今まで通り自分の感覚で思いつくままに作ってみて、一度それを俯瞰して見ながら『三種の神器』が使えるところがないか探してみるという方法を勧めました。やはり、ファとシを使わないとか、偶数小節からメロディをスタートさせる、なんて理屈に縛られて考えてもイメージは湧かないものです。

3ヶ月後にかくして彼女から新しい曲が送られてきました。彼女なりの苦労の跡が見えるものの、なんだか見違えるように言葉が入ってくる、メロディが耳に残る曲でした。歌詞の作風が変わったわけでもなく、メロディの雰囲気も彼女の今までの作品と比べて違和感はありません。ただ、聞いている最中、聞いた後の感覚が全然違います。本人も「なんか少しわかりました」ということでした。

アドバイスを受けている作曲家の先生にも聞かせたら「まとまりが出てきた、進歩してる」と褒められたそうです。おまけですが、僕と知り合う前にその先生にもう1曲だけ褒められた曲があって、改めて今まで作った曲を全部調べたら、たまたまその1曲だけが『三種の神器』に当てはまっていたそうです。

人生初の経験

その後、彼女とはしばらく会っていなかったのですが、先日半年ぶりに電話があり「お礼を言いたい」とのこと。コロナ渦でずっとライブができなかったそうなのですが「久しぶりに小さなイベントに出演して、あの新曲を初めて人前で歌ったら、客席で泣いた人がいたのだそうです。決して悲しい歌ではなく、前向きに歩いていく、という歌です。

「ライブで自分の歌で、聞いた人が感動して泣いたなんて、初めての経験でした」

なんだか都市伝説っぽくて楽しいでしょう?
上記の曲はいつかみなさんの耳にも届くかもしれませんね。

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