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醜男きたりなば

  • 初出『群像』2000年12月号

  • 『南へ下る道』2002年2月(講談社)所収

  • 約141枚/400字詰め換算

醜さを説明したり描写したりすることなく、ただひと言「醜男」であると言ってしまえば、それでもう、自由な存在になれるのではないか、と考えたのがそもそもでした。

なんというかまあ、樽いっぱいのワインに1滴の泥水を落とせば樽いっぱいの泥水になるが、樽いっぱいの泥水にワインを1滴落としても樽いっぱいの泥水のまま、というようなもので、泥水の気楽さ、みたいなものです。

不潔だったり卑劣だったりするとダメでしょうけど、そうじゃなければ、ブサイクなほうが、かえって愛される、というようなことも、ないことはないみたいですし。

そんな「醜男」と、ひと組の若い夫婦(伸一と和子)は、いわば好対照だと思いますけど、でもその対比は、あまり際立たせたくはありませんでした。だってそういう話ではないので──というか、むしろ対比を解消したい気持ちでした。

国道を旅することは「秒速10センチの越冬」でも言及していて、いつか書くつもりでいました。作品が作品を生むというのも悪くはないし、自律的に派生してくれたら、書き物稼業もちょっとはラクできるかも…などと下心も生まれそうになりましたけど、でもあまり派生の勢いが増すと、その奴隷になり下がるかもしれないですから。

まあ、なんにせよ、いつものことでしたけど、この作品も特に大きな反響を呼ぶことはなかったので、次作「南へ下る道」についても、あまり窮屈な思いをすることなく、気ままに書くことができました。

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