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孤独のみちかけ

  • 初出『群像』1998年5月号

  • 『楽天屋』2000年7月(講談社)所収

  • 約120枚/400字詰め換算

書くことは、なんというか、お祓いみたいなものなのかな、と思うことがあります。自分の中にあった「なにか」が祓われて、晴れ晴れした気分になり、祓われた「なにか」のことは、コロッと忘れてしまう。だからなのか、自分がどこになにを書いたのか、なんとなくしかおぼえていないことがよくあります。

けれど、お祓いが不十分だったり、やり方をまちがえていたりすると、そういう「なにか」は──地層からしみ出す水のように、どことなく見おぼえのあるキノコのように、数年おきに右ないしは左の尿路でぶり返す結石のように、干潮と満潮のように──自分の中でまたしてもムクムクと頭をもたげることになります。するとそれをまた祓って…ということのくり返し。

この「孤独のみちかけ」という作品を読みかえしていたら、他のところでも似たようなことを書いたことがあるような気がしたり、こういうのはもうちょっとちがう書き方をするほうがいいのかもしれない、と思えるような箇所がチラホラあったりはするものの、だったらそういうのが自分にとってのテーマとか業とかモチーフとか課題みたいなものだったりするのかというと、そういうのはちょっと大げさすぎるというか、無意識にくり返す行為にはなにか意味があるのだとしても、意図的にくり返す行為には文字通り意図ぐらいしかなさそうな気がしてしまいます。もちろん、そこをどう乗り越えるかが大事だったりすることはあるのかもしれませんけど。


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