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南へ下る道

  • 初出『群像』2001年11月号

  • 『南へ下る道』2002年2月(講談社)所収

  • 約206枚/400字詰め換算

カーナビもなければ、スマホもない、ETCカードもない、さらに言うなら、音楽もかかっていない自動車の旅です。

際立つものなんて何もない若い夫婦が、借り物の軽自動車に乗り、東京から南へ南へと走っていく──ただそれだけの話。

時たま、すこしチクチクするような、なんとなく意味ありげな言葉が露出することはありますけど、それにかこつけて長々と語り始めたりしないし、現実では起こりそうにない奇想天外な珍事がくり広げられるわけでもありません。

それでいい──昔も今もそう思っています。

しかし書き手としては、内容的には異存がなくても、文体は気になるというか、今の自分なら、こんなふうに書いたりはしないんだろうな、ということは思いました。

そういえば、この作品を書いた当時は気づいてませんでしたけど、夫婦が旅立つ前の1箇所だけ、アスタリスクを打って区切りを入れている他は、章立てがまったくなくて、空行すら使っていませんでした。時間の経過を感じさせたがるとか、場面転換を工夫するとか、そういうことは考えなかったみたいです。

旅をするということについて、また考えてみるのもいいかもしれないです。

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