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楽天屋

  • 初出『群像』2000年2月号

  • 『楽天屋』2000年7月(講談社)所収

  • 約148枚/400字詰め換算

ずっと前に住んでいた家のような感じがします──間取りはもちろん、家具調度もそのまま、カーテンや壁紙も変わっておらず、後からネジ止めしたフックの曲がり具合もそっくり同じ……とでもいうような。

この作品で初めて芥川賞の候補になったり落選したり、単行本化されてから野間文芸新人賞を受賞したり、というように文学業界的な思い出がいくつかありますが、そういうのはみんな(玄関を入ってすぐのところにあるなにかが気に入らない、みたいな嫌われ方をしたのも含めて)、そういえばそんなこともあったっけ、とでもいうか、今は昔の話です。

書いた本人が書いたものについて、とやかく言うべきではないのかもしれないですけど、プロットとか風変わりな名前とかちょっとした痛ましさみたいなものは、作品を成立させるうえで欠かせないし、予感のような手ざわりもそこここにあるとはいえ、今になってみると、不二子ちゃんの見た飛び飛びの夢が、なぜかいちばんキュートで、グッとくる気がします。

なので、最初にもどって言いなおすと、ずっと前に住んでいた家のなかで昼寝して目をさましたような読後感が、今はしています。


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