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星の小論文

 2022年は一貫して、正五角形およびその頂点を結んだ五芒星に含まれる、黄金比をはじめとした幾何学的な要素をモチーフとして、その図形の特徴である部分と全体の相似関係、ひいては自己と世界との相似関係を、主に絵画で表現しました。自分自身がより大きな全体と繋がっているという一体感に秩序づけられることで、混沌を穿ち、天然健康のありさまを得さしむるための一助となることを願っています。解剖学者の三木成夫は、人間の肉体には猛毒となる元素を含めた地球上のあらゆる物質が微量ながら含まれていることから、人間自体をひとつの星、生きた地球の衛星と呼びました。この三木の世界観には、「小宇宙」に対する「大宇宙」という自己相似の関係を見出すことができます。

 ところで、正三角形や正方形、または正三角形を上下に組み合わせるだけで描ける正六角形は比較的容易に作図が可能ですが、正五角形の作図方法は一見すると複雑そうであまり思いつきそうにもありません。(実際私も、当初は人から教わった作図方法を覚えるためにたくさん描いたという側面があります。)にもかかわらず五芒星の形態は、子どもの落書きにも頻繁に登場することから分かるように、その作図方法を知らない人にも馴染み深いものです。もちろん夜空を眺めてみたことのある人であれば、漆黒を彩る星々が五芒星の形態をとっていないことなどご存知でしょう。にもかかわらず星といえば五芒星を思い浮かべてしまうのは、「生きた地球の衛星」である人間の、両手両脚を広げた姿が抽象化された形態を、遥か彼方の輝きにあてはめているからかもしれません。人類学者のグレゴリー・ベイトソンは『精神の生態学』で、芸術の意味や価値は「〜みたい」という関係から離れては考えられないと主張しています。この「〜みたい」の関係は、ベガとアルタイルを織姫と彦星になぞらえて、さらにその悲恋まで想像するミームが知られていることから分かるように非常に強力です。

 社会学者のマックス・ウェーバーは、1904年の論文『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で、現今の世界はファウスト的な人間の全体性からの「断念」が、全ての価値ある行為、「業績」に不可欠であると指摘しています。このように極度に複雑化した現代社会では、全体との一体感は失われています。日々分断が生み出されるこの崩壊と混沌たる無秩序の時代には、希望をもたらす処方箋が必要であることは言うまでもありません。さて、ウェーバーが例に挙げたゲーテ『ファウスト』には、五芒星の一角が少し開いていたために犬に化けた悪魔メフィストフェレスの侵入を許してしまう場面があります。この場面が示しているのは逆に、五芒星にある魔除けの効果です。そもそも自分が採用している正五角形の作図方法も陰陽道によるものであり、いかにも無機質に見える数学を使っていながら、霊的な力もあるのです。

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