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2022春の短歌集

●望郷編

<一>
節分だ
雛祭りだと
はしゃいでる
大人も子供も
桃色の頬で

<二>
新しい
教室に怯え
震えてる
幼い私に
ミモザの抱擁を

<三>
好きでした
伝えたかった
それだけを
忘れられぬ
美術室のにおい

<四>
一年で
一番苦手な
季節です
不安でいっぱい
就活で失敗

<五>
新卒で
入社した日の
ことなんか
桜の海に
溶けて消えたよ

<六>
ふるさとの
雪解けの便り
目にすれば
思い出すのは
泥に濡れた靴

<七>
裏庭で
辛夷の花びら
拾い上げ
口づけをする
白昼夢を見た

<八>
味噌汁に
スナップえんどう
鮮やかに
芽吹く緑を
そっと飲み込む


●ディストピア編

<壱>
啓蟄を
迎えた虫たち
跳ね躍る
我ら人間
巣穴で朽ちゆく

<弐>
海上に
厚く積もった
毒の霧
白い闇まるで
この街の未来

<参>
じめじめと
覆い尽くす霧
「梅雨ですね。」
「マスクが濡れて
窒息しそうよ。」

<肆>
ミニトマト
ふわふわのカビ
生えてきた
天使の綿毛か
悪魔のうぶ毛か

<伍>
人権が
取り上げられる
その前に
最後の飲茶
さよなら香片

<陸>
やわらかな
花の香りを
吸いたくて
マスクをずらす
(警察に見つからないよう)

<柒>
ハムスター
殺さないでと
泣く子供
春の匂いも
癒やせやしない

<捌>
十年前
辛うじて聞こえた
"...put him to sleep?"
弥生の日々に
残された爪痕


●後書き
<伍>ワクチンパスポートについて。香片の発音はhoeng pin。ジャスミンティーのこと。
<陸>日本でいう「マスク警察」のことではなく、リアル警察のこと。
<柒>政府によって無意味に殺害された数千匹の小動物について。
<捌>安楽死の選択はできませんでした。忘れられない記憶。

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