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蚊のチートバグについて

 もう11月も下旬であると言うのに、大学構内には蚊が飛び回っています。天変地異でしょうか。


 私の通う大学は、規模も生徒数もこじんまりとしていて、山を開いた森の中にそっと佇んでいる、と言う風に建っています。むしろ森羅万象に頭を下げ、有り難くそこに身を置かせていただいている、と表現する方が似合うかもしれません。

 ここはほぼ森、つまりヒトよりも自然が強いのです。
 校舎の側には蛇がいます。手のひらほどの蛾がいます。セアカゴケグモがいます。見たことのない毛虫がいます。黒い毛の生えた四つ足の獣(名称不明)がいます。猫もいますね。このメンツの中では、はっきり言って人間は雑魚だと言えるでしょう。

 大学で過ごす日々の中では、我々ホモ・サピエンスがいかに無力であるかを厭が応にでも思い知らされます。

 我々学生の前を野生の狐が呑気にトコトコと通り過ぎるのをじっと見ては、掲示板の隅の「エキノコックス注意! 狐に触るな」と書かれてある貼り紙を思い出してソワソワする、なんてのは日常茶飯事であります。樹々の揺れは所詮我々とてただ毛の薄い猿でしかないのだということを説いてくるようです。

 眠くて朦朧とする朝なんかは、ガサガサ、カサカサ、と木の葉の擦れる音が「人間♡ ざぁこ♡ よわよわ霊長類♡」と囁くメスガキの声に聞こえるので、その度に学園の中央通りの木を軒並み伐採してやろうかと言う気になります。ゼミ室に大きなノコギリがありますから、やろうと思えば出来ます。今はSDGsの「陸の豊かさも守ろう」に従ってギリギリ踏みとどまっているに過ぎないのです。

 さて、大学には蚊が出ます。木と水があるので当然です。
 夏は先生から支給される蚊取り線香を携帯して過ごすわけですが……そんなもので撃退出来る蚊ではありません。
 ただの蚊ではなく、田舎特有の強靭な蚊なのです。

 都会に出るものより一回り大きいスーパーモスキート。
 こいつに噛まれると(私の地元では、蚊に血を吸われることを『蚊に噛まれる』と言います)、噛まれたところは丸く500円玉くらいの大きさに腫れます。この赤いぽっち、意識がトぶくらい痒いのです。こんなんほぼモルヒネです。

 11月24日12時27分現在、蚊は講義室を元気よく飛び回っていました。
 意味がわからない。もう秋です。冬の足音すら聞こえてくる時分に、蚊がいていいはずがありません。
 その時たまたまそこにいたのが私と蚊だけでしたので、日頃の鬱憤を晴らすように「お前達は夏にしか出ないんじゃあないのか!」と大声で叫びました(よく考えたら隣の教室には誰かいたかもしれませんね)。

 私が蚊を認識した時点で闘いが始まります。
 お互い譲れません。

 しかもコイツ、めちゃくちゃ素早い。
 アクセルペダルをガン踏みしたフェラーリくらい速いのです。私のような鈍間のクラップハンズで仕留められるわけがありません。

 私が両手を広げ、さあ引っ叩いてぺちゃんこにしてやろうとする度、蚊はそれをひらりひらりと躱すのでした。
 目で追えないあたり、瞬間移動をしている可能性すら浮上しつつあります。

 長すぎる覇権、速すぎる動き。

 こいつらスーパーモスキートが何かしらのチートバグを使っているのはもはや自明であります。

 これでいてデング熱やマラリア、日本脳炎なんていう厄介かつ最悪な病ばかりを媒介するのだからスタートの時点で迷惑行為に該当するというのに、加えてチートバグだなんて……即BAN、垢永久凍結が妥当といったところでしょう。運営に報告すべきですね。

 そもそも冬に蚊が出るのはおかしいのではありませんか。彼らは夏に出るものであって、こんな紅葉の時期に出没するものではありません。

 ご存知の通り、蚊は夏の季語であります。秋の句に蚊とかいたら、夏井先生に才能ナシ判定を喰らって赤ペン添削けちょんけちょんにされること必須であります。

 そう思ったのでインターネット(便利!)で調べてみたところ、驚きの事実が発覚しました。

 「蚊は冬にも活動する」

 えらいことです。秋どころではなかった。

 以下urlは今年の10月14日のウェザーニュースさんの記事です。私の疑問への答えが全部書いてありました(ページ最下部にもリンクを貼っておきます)。

https://weathernews.jp/s/topics/202210/170295/
 出典:ウェザーニュース「どうして、涼しくなったのに蚊に刺されるの!? 秋の蚊が“必死になる”理由とは」


 要は、種類によって理由は異なるものの、越冬卵を産む、あるいは成虫のまま冬を越すためにエネルギーを蓄えなければならないようです。
 知らなかった……浅学でした。チートバグでもなんでもなかったということですか。そうですか。

 命をかけて冬支度。プンプン鬱陶しい蚊とて生き物ですから、生命を繋ぐために頑張っているのですね。
 一寸の魂にも五分の魂。害虫としか思えなかった蚊への見方が変わってくるかもしれません。








 そんなわけねーーだろ!!!!!
 オラーーーーーッッ!!!!!

 オデ コイツ ツブス

叩き潰した蚊が床に落下した様子(めちゃくちゃハッキリ写った接写だったのでモザイクをかけました)








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