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天体写真のクリエイティブの幅を広げるためのナローバンド活用について考えてみた(IC1396)

はじめに

 ちょうど撮影システムを入れ替えているタイミングなので、撮影も画像処理もまだできないことから、7月に撮影したIC1396と過去に同じシステムで撮影したナローバンド素材を合成してみました。そこから天体写真のクリエイティブについて考えています。

ナローバンド撮影とは

 波長幅10nmとか5nm、狭いものだと3nmに絞れるフィルターで撮影することをナローバンド撮影といいます。波長の領域によって、Ha、O3、S2などのフィルターがあります。

 メリットは、必要とする狭い波長で撮影するので、非常にコントラストの高い素材が得られることです。カメラに到達する光が制限されるので、十分な光量を得るためには時間がかかるのですが、それはデメリットでなく、そもそも必要とする光量がそれくらいしかないということです。

 例えば、IC1396をε-130DとG3-16200で撮影して前処理が終わった素材がこちらになります。2017年秋に撮影したものです。

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 こちらの素材は、都心のド真ん中からAstrodon 5nm Haフィルターで、10分×38フレーム撮影したものをコンポジットしたものです。都心の光害が強烈な環境においても、実は光が届いていることが証明されました。撮影時期が冬に入ってきたころだったので空が澄んでいたのがよかったのかもしれません。

L画像とHa画像の比較

 このナローバンドと、2020年7月に旧上九一色村のリモート観測所で撮影したLフィルターの画像を比較してみました。左がL画像(10分×12枚)、右がHa画像(10分×38枚)です。

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 冷却CCDで撮影していることもあって、L画像も非常にノイズが少なくツルツルの良い素材がえられています。常温のデジタル一眼レフで撮影していたときにくらべても天と地ほどの差があります。Haフィルターは撮影枚数も多いこともありノイズがなく、さらにコントラストの高い素材になっております。鏡筒もカメラも同じ。違うのはフィルターだけです。

Ha画像をつかったHaRGB合成

 対象としたIC1396については、赤色中心ということもあり、L画像の代わりにHa画像を使う合成をやってみました。

 それぞれデジタル現像したRGB画像とHa画像を使います。PhotoShop上でLRGB合成と同じように、LabモードにしてからL画像(今回はHa画像)を入れ替えます。

 完成したHaRGB合成のIC1396はこちらになります。

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 下はLRGBと比較したものです。左がLRGBです。

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 右のほうがコントラストが高く神秘的な表現になるのですが、星があからさまに少なくなってしまいます。

LRGBとHaRGBの合成

 だったら、両方を合成しました。レイヤー構造とレイヤー効果はこのようにしてます。暗部は積極的にHaRGBを使いつつ、LRGBを41%の不透明度で合成してます。

キャプチャ

 同じ条件での描画モードの比較です。オーバーライト、ソフトライト、ハードライトでも強調される部分に違いがでてきますね。

合成方法比較

 ファイナルアンサーは「通常」モードです。星が一番まともだったからです。少々彩度アップしておきました。

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 さらなる応用としては、マスクを活用することで、すべての描画モードや合成方法の「良いところどり」を実現できます。要するにローカルコントラストやローカルカラーリングが可能となり、さらに自分が表現したいアウトプットに近づけることができるようになります。

さいごに

 ナローバンド撮影したコントラストの高い素材を用いることによって、通常のLRGB撮影よりも表現の幅を広げることがわかりました。ただし、科学的な根拠に基づく天体写真ではありません。あくまで深さや神秘さという人間が心に抱く宇宙を表現した写真になります。

 後者のような写真においては、最終的に自分が表現したいイメージを強くもってないと、強調しすぎによる破綻が待っているし、できたとしても、それはラッキーイメージングです。

 万人から美しいと評価されるクリエイティブ的な天体写真に挑戦するには、万人さとは何かを明らかにして、そのうえで自分の作風を作っていく必要がありますね。LRGBHaフィルターによる5つの最高の素材をそろえて、その素材をつかって、頭に描くアウトプットに近づけていく。万人受けする写真なのか、それとも破綻と隣り合わせのインパクトのある写真なのか、人それぞれでしょう。日本人の侘び寂の感覚も必要になるかもしれませんね。

 5色の絵の具をつかって黒いキャンパスに自由に絵を描いていくのと同じですね。。

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