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カラーバランスの正解探し(Cygnus Wall Nebula)

はじめに

久しぶりに撮影できました。システムもモノクロ冷却CCDカメラから、One Shot Color冷却CMOSカメラに変更しました。望遠鏡の焦点距離が伸びたら(2000mmほど)、モノクロCMOSカメラでナロー主体にしようと思うのですが、現状の焦点距離(720mm)だとカラーCMOSカメラにフィルターホイールにデュアルバンドフィルターを搭載してアシストする程度がベストかと考えています。
それに、冬以外はまともに撮影条件が揃わず、リモートだと新月期に4時間ほどしか撮影できない状況で、モノクロCCDカメラだと自分にとっては露出時間が足りなくて中途半端に撮影して画像処理に進めないストックが溜まり、そしてフラストレーションも溜まる一方となります。なので、今のベストとして冷却OSCを選択しました。

新カメラは国内外で多くの実績があるASI 2600MC pro。2021年のオイル漏れロットから改善されたロットを2022年1月に購入しておりました。今回は、ほぼファーストライトになります。ファーストライトには、今がベストシーズンの白鳥座を選び、そこから北アメリカ星雲のメキシコ湾部分、海外ではCygnus Wall Nebulaと呼ばれる対象をフレーミングしてみました。

また、今回は、Cygnus Wallだけを切り取ったということもあり、カラーバランスに悩みました。この悩んだ過程についても触れることができればと思います。

構図

最終的に半切りで印刷して額装することも踏まえてフレーミングを検討しております。今までのカメラ(KAF-16200)よりも横長の縦横比となっておりますので、半切りに印刷したときに枠切れする余地を考えておきました。

↑中心座標

Tips

いつもフレーミングでお世話になっているWebサイト、TELESCOPIUSは、事前に作成していた「My Observing Lists」をAPTなどの撮影ソフトに取り込むことができます。自分はSequence Generator Proを利用しており、この機能を利用しております。一度使い出したら手放せなく機能ですよ!特にAPTユーザー向け!

リストごとのページのURLをコピーして撮影ソフトにペーストするだけで、
リストをインポートすることができます

撮影データ

[Technical Data]
Main Object Name: Cygnus Wall Nebula
Date: 2022/08/19
Location: Fujigane Remote Observatry, Yamanashi, Japan
Scope: Astro System Austria 8N + 3“ Wynne Corrector
Focal Length: 720mm
F-Ratios: 3.6
Mount: iOptron CEM60EC

Auto-Guide: ASI120MM, KOWA LM100JC, PHD2 
Camera: ASI 2600MC Pro
Filter: 
 IDAS LPS-P3
Exposure: 
 LPS-P3:  1x1 300sec x 23 -5C
Imaging SoftWare: Sequence Generator Pro
Processing: PixInsight, Photoshop

Point!

フィルターにIDASの光害カットフィルターLPS-P3を使っています。デュアルバンドフィルター(IDAS NBZ)も運用することを踏まえて、フィルターホイールを組み込んでおります。フィルター厚(2.5mm)によるコマコレクターのバックフォーカス延長を考慮に入れて、同じ厚みのLPS-P3とHEUIB-IIのフィルターも組み込んでおきました。IDASの天文用フィルターの厚みは2.5mmで統一されていることは試験に出るポイントです。※サポートセンターから回答もらいました。

アウトプット

いろいろとカラーバランスに悩みましたが、赤色一辺倒にならず、Cygnus Wallが複雑に絡み合い、全体的に透明感を維持し、さらに左下に複雑な色の重なりが出るように心がけてカラーバランスを決めて行きました。ただし、ここに行き着くには複数のトライアルがあったので、それは次の段落で記載します。

縦幅を半切りサイズに切り詰めて、横幅2048ピクセルに縮小した画像

Check Point!

ファンタジーでなく、写真であること
星雲部分の透明感があること
星が輝いていること、色がついていること
適度で適切なノイズ処理が施されていること

問題点

まず、星が赤経方向に流れています。なので星が横方向に楕円の状態です。

色ズレも発生している

新しいカメラに接続したこともあるのかもしれないのですが、あまりにも影響が大きいので要改善しないといけません。ケーブルの問題?ガイドレンズとカメラのマウントが緩いなど、原因はいくつか考えられますが、まずはオートガイドをオフにしたり、PHD2のパラメータをいじって調査してみようと思っています。

画像処理

モノクロCCDではLRGB合成でしたが、カラーCMOSだからといって特別なことはやっていません。PixinsightでHistgramTransformationでRGB別にカラーバランスを仮合わせして、Photoshopで仕上げの追い込みをするというフローです。Pixinsightも、

  1. ImageCalibrationでダークとフラットの処理

  2. CosmeticCrrectionでホットとコールドピクセルの除去

  3. Debayerでカラー化

  4. ABEでカブリ(光害)補正

  5. SubframeSelecterで重みづけ

  6. StarAlignmentで位置合わせ

  7. LocalNormalizationでノーマライズ

  8. ImageIntegrationでスタック

  9. DrizzleIntegrationで2 x Drizzle

  10. Resamleで縮小

というフローで前処理をやっております。

カラーバランスの悩み

今回の対象はとてもメジャーで明るいこともあり、カラーバランスとしても偏ったものになりがちです。例えば、広い画角で対象全体を捉えたときの最適なカラーバランスと、今回のようにクローズアップしたときのカラーバランスが違うのは当然と思っています。
要するに、今回の画角で前回と同じカラーバランスで仕上げると「赤カブリしたような」「単に真っ赤な写真」になりがちです。

First Trial

まず、完成だ!としたのはこのようなカラーバランスでした。

ブログを書いている時点でも、これがラストチョイスでも良かったとも思っています。でも、ここでファイナルにしなかったのは、全体的に赤カブリが残る感じがしたからです。

Second Trial

もう少しブルーチャネルとグリーンチャネルのコントラストが高くてもいいのではと処理したのが次のカラーバランスでした。

Cygnus Wallの部分から右上に伸びる領域について色が混じり合うような感じがナロー合成作品に近く、表現として可ではないかという結論となりました。しかし、左下の領域の色不足、そして特に星がシアンに寄ってしまっているのがエラーとして確認できました。

結果的には最終版はこの2つをミックスしています。暗部から中間にかけては前者を採用、そして星の輝度の範囲にかけては後者を採用し、さらにミックス度合いもいい塩梅に着地させたのが、前のアプトプット画像です。

さいごに

天体は誰が撮影しても素材もポーズも同じなのですが、その制約のなかで、誰も見たことのない対象を写真として表現することに価値があると思っています。
ナローバンド合成の天体写真がそうであるように、写真としての美しさが表現できているのかが大事で、その表現パターンは無数にあるのではないでしょうか。
もちろん、宇宙の写真であること、星の写真であることは忘れてはいけないでしょう。

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