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天体写真の画像処理フロー概論(玄人限定)

はじめに

 画像処理について何処から説明をしようかと考えたときに、まずは画像処理の全体フローを知っていただき、そこからブレークダウンしていったほうが分かりやすいと思いました。
 画像処理のフローについては、ひとそれぞれだと思っているので、どの処理フローがベストだととかはないと思います。

処理フロー図

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このフローの意味

 まず、画像処理には前処理と後処理があり、前処理は主に画像スタックまでを示し、後処理はスタックした画像を写真作品にまで仕上げるまでとなります。

Pixinsight

 前処理で使用しているのはPixinsightです。Pixinsightは正確で緻密にスタックまでの工程を処理することができ、さらに最近のマルチスレッドCPU(例えば16スレッドなど)にちゃんと対応しているので、処理が高速です。
 16スレッドあれば、16の処理を並行してやってくれるので、例えば、数十枚といった大量のファイルに対して同じ処理を実行する場合などは非常に強力です。そうなってくると今度は読み書きがボトルネックとなるので、保存用の記憶領域は内蔵SSDはマストでしょう。仮想メモリ領域もあてがったほうがいいです。Benchmarkを計測する機能もはいっているので、それを見ながら最適なチューニングとカスタムをしていくのがいいと思います。

 Pixinsight上での細かい処理については、別の記事で説明しますね。

ステライメージ

 国産の天体写真専門ソフトウエア「ステライメージ」。Pixinsightがあれば前処理は全てこなせるのですが、なんで使っているのでしょう?
 ステライメージには非常にUIに優れている光害カブリ補正機能があるのと、これも優れたデジタル現像機能があるからで、この2つのためだけにステライメージを使っています。

 RGB合成についてもステライメージでこなしているのですが、すでにStarAlignmentを実施済みなので、単純に同ポジで3つのファイルを1つのRGBファイルに合成するだけです。合成後のRGBファイルをさらにLRGB合成するのはPhotoShop上で実施しています。
 なぜなら、カラー情報であるRGB画像と輝度情報であるL画像ではデジタル現像時のパラメータが異なるからです。RGB画像については、極力カラー情報を引き出すことを重視し、シャープさなどは二の次です。L画像についてはシャープさやコントラスト重視でパラメータを設定しています。

 ちなみに、ステライメージで光害カブリ補正したFitsファイルについては、Pixinsightで開いても補正されていることから、画像確認がしにくいステライメージで補正したデータの最終チェックをPixinSightで実施してから、ステライメージでデジタル現像することにしています。

PhotoShop

 Photoshopは写真作品や商業写真で誰もが利用している代表的なツールですね。その全ての機能を直感的に進めることができるので、写真作品におけるクリエイティブワークの全人類マストアイテムです。
 ただし、現在のPhotoshopは、Fits形式の実数データを扱うことはできないいので、ステライメージでデジタル現像したファイルを16bitのTIFF形式ファイルで保存しています。TIFF形式はJPEG形式のように圧縮していないからです。32bitでも保存することもできるし、Photoshopで開くこともできますが、ステライメージやPixinsightのヒストグラムを確認してもらえればわかると思うのですが、16bitであっても天体写真の元素材の星雲部分の諧調は数百程度、暗い天体だと100もありませんからね。16bit=65,536を必要とするのは星ぐらいですから。

 また、PhotoShopのタイミングで、LRGB合成を実行しています。ステライメージでデジタル現像したRGBのTIFF形式ファイルをPhotoShopで開いたところでカラーバランスのチェックを実施し、少しでも課題があれば、もう一度ステライメージでデジタル現像のパラメータを修正して実行します。カラーバランスが乱れているとPhotoShop上で強いコントラスト調整などを実施する必要がでてきて、それが強烈なダメージ加工に繋がるからです。
 問題のないRGB画像をLabモードに変更して、PhotoShop上で開いたL画像をコピーして、Lチャネルにペーストします。そうすると豊富なカラー情報と精密な輝度情報を利用するLRGB合成法のメリットを最大限利用することができるようになります。

さいごに

 ぶっちゃけると、Pixinsightで全ての処理を完結することもできます。ステライメージでも然りです。
 数学に強い方はPixinsightのほうがやりやすいでしょう。ただ自分は、天体写真を作品レベルにもっていくには、美的センスを画像に詰め込んでいかないといけないので、クリエイティブワークがやりやすいPhotoShopを利用します。

 大事なことは、「ミスや課題がみつかったら必ず前工程からやりなおせ」です。処理の過程において前工程でのミスが見つかった場合、Photoshopで誤魔化そうとせずに、絶対に前工程に戻ります。
 実数ファイルの段階で丁寧に作業することで、最後のPhotoShopの工程での自由度が増え、強調処理に耐えれる画像素材を準備することができます。具体的には星のシャープさ、エッジの効いた暗黒帯、豊富な色情報、ウルトラスムーズなバックグラウンドを得るには丁寧な処理がマストです。

 あと、「星雲をあぶり出す」とかいう方々もいらっしゃって、PhotoShopで「いかに上手く強調処理をするかが大切だ」という誤解をされている方々がおられます。
 違うんです。天体写真は引き算です。不必要な光を取り除き、純粋な天体から放たれた光のデータを抽出することが一番大切です。それをさらに人間にとって少しだけ見栄え良くしてあげるのがクリエイターとしてできることなのです。

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