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【最新作云々51】これぞ本家だ、北欧版地塗れハムレット!! 復讐に彩られた亡国の王子の人生の咆哮と魔女の微笑...これぞ本当の貴種流離譚映画『ノースマン 導かれし復讐者』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
 本日1/12は「スキーの日」らしいということで、学生時代にスキー場で流れていた曲は『ロマンスの神様』『DEPARTURES』あたりが特にタイムリーな世代、O次郎です。

実家がスキー場まで車で30分程度の距離にある雪国だったこともあって、
小・中学校の頃には毎年冬に丸一日のスキー教室の授業が有りました。
午前中は先生(PTAの中でスキーの上手い親御さんに有休取っていただいて講師になってもらう)に
班で指導してもらい、午後は数人でグループになってフリー実習。
中学生の頃のある年、午後のフリー実習が面倒になってこっそりペンションの裏山で友人数人と
雪合戦してたら先生に見つかって怒られたのも懐かしい・・・。
ちなみに父がスキーが趣味だったゆえによく講師を引き受けてたのは気恥ずかしかったんですが、
父の定年後に母が陰で「子どもたちが小さい時は休みぐらい面倒見て欲しかったのに
さっさと自分だけスキーに行っちゃうし、定年になったらなったで
スキーにでも行ってくればいいのに動きたがらず家にずっと居るから鬱陶しい」と
ボヤいてて夫婦の諸行無常を感じたのはいつだったか・・・。(´・ω・`)

 今回は最新の洋画『ノースマン 導かれし復讐者です。
 封切日は来週末1/20(金)なのですが幸運にもFilmarksの試写会に当選しまして一足お先に明日へダッシュで観られたので勢いそのままにの感想記でございます。
 数か月前のTBSラジオたまむすび』内のコーナー「アメリカ流れ者」にて映画評論家の町山智浩さんが本作をご紹介されており俄然気になっておりましたが、噂に違わぬ骨太で血みどろな北欧神話譚でした。
 "父王を叔父君に誅殺され母を奪われた王子が漂流の末に復讐を果たす"というまさしく『ハムレット』的な貴種流離譚がその本筋なのですが、そのモデルとされるスカンディナヴィアの伝説上の人物アムレートを主人公に、より物語の出自に沿った北欧神話的な純然たる暴力と峻厳な自然を背景としたダークファンタジーに仕上がっており、『ハムレット』の抒情たっぷりで"女々しい(誤解を恐れずに言えば)"部分を排した徹頭徹尾猛々しい復讐の物語にリビルドされています。
 『ハムレット』はどうにも甘ったるくて…と感じている方々、幼少期に慣れ親しんだ『小さなバイキング ビッケ』から転じてバイキングの勇躍に惹かれる、そしてシュワちゃんの『コナン・ザ・グレート』やジェイソン・モモアの『コナン・ザ・バーバリアン』の野性味に打たれた方々、鑑賞の参考までに読んでいっていただければ之幸いでございます。なお、ラストまでネタバレ含んでおりますので予めご了承くださいませ。
 それでは・・・・・・・・・"スーパーマリオ ヨッシーアイランド"!!

私をスキーに連れてって』と繋げたいところですが、当時まだ2歳でしたのでさすがに…。
というわけで「後半のスキーのステージが楽しかった!!」と言えば当時小学生だった同世代には
きっと伝わるであろうスーファミソフトの『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』(1995)です。
んでもって初代PSの『FFⅦ』のミニゲームのスノーボードにハマったのが
小学校高学年から中学入ったくらいだったか・・・あと洋ゲーの『クールボーダーズ』ってのも。

 

Ⅰ. 作品概要

(ストーリー抜粋)
10世紀アイスランドを舞台に、ヴァイキングの王子アムレートが、父親のホーヴェンディル王を叔父フィヨルニルに殺され、復讐と王座奪還を目指す。

 ということで『ハムレット』の話の原型ということを抜きにしても、"復讐""仇討ち"というのは日本の歴史を紐解いてみてもいくらでも出てくるように親和性が高く、誰にでも理解し易い秀逸なドラマツルギーだと言えましょう。

反対に日本人に馴染みが薄いプロットというと「革命」でしょうか。
上流階級同士が鬩ぎ合いをすることがあっても天地がひっくり返った試しは無し…。
そういう意味でも『太陽の牙ダグラム』は稀有な作品だったなと。

 監督は未だ40前の新鋭ロバート・エガ―ス
 過去に監督した二作品とも人心の醜悪さや超自然的な事象に対する得体の知れない恐怖を鬻ぐ展開が高く評価されており、本作でもその手法は踏襲されつつもさらにアクション(それも多分にバイオレンスな)にロマンスという娯楽要素が加わり、製作者として一気にマジョリティーを獲得した感があります。
 史実を背景としたリアリティーとケレン味を利かせたオーバー表現との間のバランスにやや迷いは感じられましたが、今後の彼の監督作品については職人としてよりどちらかに振り切った趣向が企図されるかと思うと、本作でのこの混然一体とした独特の妙味はなかなかに貴重かもしれません。それがゆえにオフトーンにも荒唐無稽にもなり過ぎず、独自の空気感が漲っているように思いました。

ウィッチ』(2015)
17世紀のニューイングランドを舞台に魔女への恐怖によって崩壊していく
敬虔なキリスト教徒の家族を描いくオカルトスリラー。
序盤から中盤にかけては厭な人間心理を描きながら終盤は超自然の彼方に我々を追い遣ります。
ライトハウス』(2019)
19世紀ニューイングランドの沖の孤島の灯台守として派遣されたベテランと新人の男の一か月。
パワハラ、幻覚、喧嘩、騙し合い、そしてどんでん返しに残る謎…と盛りだくさんな内容。



Ⅱ. 個人的ヒャッハー‼な点

・躍動するバイキングの筋肉と舞う血飛沫のダイナミズム

叔父の魔の手から命からがら逃げだしたひ弱な少年が長年を掛けて培ったのは
仁義に共感する仲間たちと裏表のある支援者たち・・・ではなく、
相手の骨を叩き割る鋼の肉体と"復讐"のみに研ぎ澄ませた昏い心、というのがまた。

 幼少期に家族と引き裂かれて天涯孤独で育った主人公アムレート(演:アレクサンダー・スカルスガルド)が従事するはバイキングの戦士としての略奪の戦い
 ターゲットの集落に船で漕ぎ着けるや(ここでのオールを漕いでるシーンの筋肉の躍動がこれまた『コマンド―』でのシュワちゃんばりにあざとくてグッド!)門番の兵たちを戦槌でそのシールドごと叩き切っていき、騎馬兵も馬ごと仕留めるその迫力・・・。
 かといってアップや人体断裂描写は極力抑えられており、残された女子どもたちは奴隷として捕縛のうえ売り払われるものの暴行等の苛烈な表現は避けられており、そのあたりが苦手な方でも鑑賞出来るような水準のグロに統一されています。
 そのへん、倫理を振り切ったリアリティーを期待する向きにはやや不満が出るかもしれませんが、血と汗に塗れながら憤怒を滾らせる主人公の輪郭を形作るには十二分なバイオレンスであり、"戦の中で死ぬ"ことを何よりも名誉とする冷厳な戦士の哲学が顕現しています。

バイキングというと"角の付いた兜"というイメージですが
史実ではそうでもないらしく、そのあたりはリアル志向のようです。


・信仰する神に基づく戦士の倫理と戦闘スタイル

獣の雄性も大いに讃え、戦闘の際には雄たけびを上げつつ
時には敵の喉元に食らいつくことも・・・。

 主神オーディンを崇める戦士たちは戦に行き戦に死ぬことを何よりも尊び、その戦いの中で謀殺されるも権力を奪われるもあるべき流れとして之を良しとする。
 "命あっての物種"というのとは対極の倫理観であり、戦闘種族としての己の生き様を裏打ちするように信仰と人生が存在しているのがよく伝わってきます。
 父王ホーヴェンヴィル(演: イーサン・ホーク)にしてもやがて自分がより強大な力によって排除される運命を弁えており、そこからしてひ弱な息子を一流の戦士にして復讐の王に育て上げるべく自らの身を捧げたフシさえあります。
 クライマックスでの叔父フィヨルニル(演: クレス・バング)とアムレートとの決闘は、兄王から権力を奪取したものの喰い詰めて僻地の羊飼いに落ち着いた叔父と、常に戦場に命を投げだしてそこから血塗れで生を拾い上げてきた主人公との、異なる神を奉ずる同士の対決でもあります。
 他方、この時代のこの地方の肌感としてキリスト教は得体の知れない遠方のカルトと見做されており、アムレートが奴隷に紛れてフィヨルニルの配下を一人また一人と夜な夜な血祭りに上げていくシークエンスでの恐怖描写にその雑感が表れています。

ちなみにクライマックスの対決行われる"地獄の門"はこんな感じのマグマの吹き出す山肌。
個人的に思わず『バイオハザード5』のラスボス戦を思い出す。


・"げに恐ろしきは女なり"を地で行く物語展開

一見威厳に満ちた国王家の夫妻と王子ですが・・・。
序盤に父の凱旋帰国に思わず母の居室に飛び込んだ王子を
諫めるシーンが伏線にもなっています。

 後半にいよいよ忍び込んだフィヨルニルの羊飼い集落にて復讐劇の敢行を決意するアムレートですが、その前にと遂に母であるグートルン王妃(演: ニコール・キッドマン)の部屋に忍び込んで正体を明かしたところ驚きの事実が…。
 なんと、父王ホーヴェンヴィルを誅殺するようフィヨルニルを唆したのはグートルン王妃であり、曰く、"王は奴隷だった私を無理やり犯して妻としただけ"とのこと。
 世界観として、男性が肉体と執念の塊となっている一方で女性が権謀術数を担う、という些か安直に見えなくもありませんが、それだけにキャラクターの濃さは相当なものです。

"戦の背景には女在り"とはよくいったもので?
ダンサー・イン・ザ・ダーク』で有名なアイスランドの歌手のビョーク氏は
サイケデリックな盲目の巫女として登場し、序盤の略奪に身を窶す主人公に
復讐の本懐を思い出させる。
スラブ系の魔法使い少女オルガ(演: アニャ・テイラー=ジョイ)は
主人公の復讐の本懐を献身的にサポートしつつ彼に愛の感情を芽生えさせ、
やがて彼の子らを身籠るが・・・。

 作中の男たちは彼女らを守ろうとして、あるいはその期待に応えようとしてその血肉と魂を戦に供しているわけで、その遺志に拠るにしろ拠らないにしろ、歴史の歯車の両輪という感があります。


Ⅲ. 個人的ムムムッ!!だった点

・王子→復讐者への激変の過程やこれ如何に?

冒頭では父の帰りを無邪気に喜んでいた王子アムレート。
十歳の時に国を捨て、その後、一家は離散したと伝えられる。
天涯孤独なアムレート。なぜ、無宿渡世の道に入ったか、定かでない。

 冒頭では剣も握ったことがないような無邪気な少年がたった数年間であれだけの狂戦士になった…その過程をこそ時間を割いて描いて欲しかったのですが、そこは観ている側の想像に委ねる形で端折られました
 これだけのバイオレンスアクション巨編に舵を切った分、『ハムレット』で見られるような復讐に関する延々とした煩悶はミスマッチなので、そこで削った尺を前半の復讐者誕生譚に振って欲しかった、というのが正直なところです。
 ヴァイキングの部隊を離れる前に「お前の目を一目見た時に大成すると判った」と嘯いていた老体が居ましたが、そうした経緯や戦闘の日々の中で失っていったもの、得たもの、そして失わなかったものを暗喩的にでも描いてくれればより主人公の人格が重層的になったように思います。


・復讐を前にして示した煩悶はいかがなものか

ラストバトルでは父王誅殺のこの時点よりも強くなってたフィヨルニルだけど、
その後は羊飼いやってたんだからかなり衰えてたハズでは…?

 奴隷に紛れ込んで自らも奴隷としてフィヨルニルの集落に紛れ込んだアムレートですが、異父兄弟の弟(母とフィヨルニルの子)に情けを掛けたり、ある意味で諸悪の根源であった母を思い切れずにその場を逃げたりと散漫さが目立ちます。
 一人間の煩悶としてはもっともなのですが、それまでのマグマだまりのような復讐への渇望からやや肩透かしを食らったようでどうも。
 多勢に無勢ということで夜毎にこっそり配下を少しずつ始末していくのか、それとも死なば諸共的に真正面から復讐を撒き散らすのか、どちらの描写もやや中途半端に終わった印象も否めません。


 物語のラスト、従兄を屠った末に、身籠ったオルガとともに船で遠方へ落ち延びようとするアムレートは一転して一人海に飛び込んでフィヨルニルの元へ戻ります。"フィヨルニルが居る限り復讐の連鎖は終わらない。俺はそれを断ち切る。"と。
 人数だけでいえば、アムレートは父を殺され、フィヨルニルは息子の一人を殺されたということでイーブンなのですが、それでは済みません。
 結果としてアムレートは母と弟も手にかけてしまい、フィヨルニルとは刺し違えることになります。遺恨の種を蒔かれたのならそれに連なる係累全てを根絶やしにしてこそ復讐、という信念というかもはや美学に近いそれだったのかも。
 それを思うと、とみに主人公はその生を全うした、ということは云えそうです。

"浄化を!!"・・・なんつってね。


Ⅳ. ヴァイキング関連作いろいろ

 今作は試写会で観たのですが、上映後のトークショーで丸屋九兵衛さんがご自身のヴァイキング愛そのままに勧めていらした関連作を列記いたします。

普通、こういうトークショーってパネリストお二人のトークか
パネリストと司会の方のトークがセオリーですが、
お一人で三十分以上己のヴァイキング愛を語られていたのは実に大したもので。

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※言わずと知れたシュワちゃんの出世作の一つ。主人公の貴種流離譚ぶりや冒頭のモノローグは本作もかなり影響を受けているということで。

※ちなみに蛇足ですが、こちらのシュワちゃん研究本も面白いっす。もちろん『コナン~』の話も出てるよ。絶版になっちゃって高いけど…。

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※ジェイソン=モモアの方のコナン。こちらはよりエグみが強くて特に敵の鼻を・・・ということで。

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※00年代は俄かにこの『ベオウルフ』的な作品が賑わってた…っけ?
ロバート・ゼメキス監督作はエンタメとして素晴らしい反面、ご自身の政治思想がてんこもりだったりも・・・。

そして昨年末公開になったばかりの『グリーン・ナイト』。
円卓の騎士を扱った作品で、なかなかにアーティスティックな作風とかなんとか。



Ⅴ. おしまいに

 というわけで今回は最新の洋画『ノースマン 導かれし復讐者について語りました。
 予備知識無しに見ても亡国の王子の復讐劇として非常に解り易い作りながら、目を瞠るバイオレンス描写や寒々として美しい風景、豪華キャストの共演に拘りの時代風俗といったどの方面でも万遍無く美味しい作品だと思います。よほど残酷描写に忌避感が無い限りはおススメです。
 個人的にはロバート・エガース監督の次回作はこれまでの3作とは違ったジャンルに挑んで欲しいなと楽しみになった次第です。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




最後の決着に赴くアムレートを必死に止めようとするオルガと、
彼の今際の際に聞こえるヴァルハラへと誘うオルガの声、両方が真実か…。

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