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【最新作云々㉕】一大暴力団に潜入した土竜の正体はあの実在未解決事件の所轄警官?! ガチムチ、細マッチョ選り取り見取りの血みどろBL映画『ヘルドッグス』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
 BL作品といって真っ先に思い出すのは中学生の頃に連載・TVアニメ放映されていた『闇の末裔』、なO次郎です。

96年に連載開始して担当本11巻(2001年年末)までは半年~1年ぐらいのペースで
新刊が出ていたものの、そこから12巻が出たのはなんと9年後。
さらに13巻が出たのはそこからさらに7年後でしかも絵柄が劇的に変化(右から左へ)…。
こっちに比べたら富樫先生のアレや高屋先生のソレなんかはまだコンスタントに見えるかも?

 今回は最新映画『ヘルドッグス』のお話です。
 邦画のアクション作品にしてゴリゴリのヤクザ映画ですが、警察がターゲット組織に潜入する"土竜"のお話でもあり、さらには屈強な男たちが冷厳な世界の中でほれ込んだ男に命懸けで尽くすBL作品でもあるという幾重にも楽しめる一本…。
 それを演じる俳優さん達も錚々たる顔ぶれで、個人的に特にキマって脳汁垂れ流しだった点とどうにもシブちんに感じた点を攫って行こうと思います。
 ネタバレございますのでそこはご承知いただきつつ、アクション・ヤクザ・潜入・BL好きな方々にご紹介できればと存じます。
 それでは・・・・・・"闇の住人は 夜毎彷徨う…"

※2000年末に放映されたアニメはBL要素はもとより、隠微なミステリー要素も凝縮されていて、1クールで終わりとはいえなかなか面白かった。セル画最後期のアニメですね。ちょうど高校受験の追い込みの頃でこのWOWOWの平日夕方の無料時間帯アニメ枠が数少ない娯楽でした・・・懐かしい。



Ⅰ. 作品概要と監督と

 原作は深町秋生さんのハードボイルド小説ですが、映画化に際して大胆に設定変更や登場人物追加が為されているようで、大きなところとしては実在の未解決事件である90年代半ばに発生した八王子のスーパーでの拳銃殺人事件がモチーフとなっており、主人公とその相棒の出自に深く関わっています。

※当時は関西の田舎の小学生でしたが、「東京って怖いところなんだな…」と漠然と怖くなった事件の一つかも。この無味乾燥なカタカナの看板もなんか不気味に見えたもので…。
そして大学進学で上京後はゴシップ好きが高じてついついブックオフやコンビニで「ヤバすぎる未解決事件の真相?!」みたいな類の本を立ち読みしてる際にちょくちょく目にしていたのでした。

 物語としては根底にこそ駆け出しの警官の頃の正義感を近しい人間を守れなかったことで踏み躙られ、その凶悪犯たちに復讐する中で道を踏み外して全うできなくなった潜入捜査官としての悲哀が有りますが、相棒と汚れ仕事をこなし死地を潜り抜けて成り上がっていく充足感と血生臭くも泥臭さを極力排したスタイリッシュなヤクザと殺し屋たちとの抗争の活劇感はさすがベテラン原田監督という手腕です。 
 原田眞人監督は近年では『日本のいちばん長い日』『関ヶ原』『燃えよ剣』といった重厚な歴史ものを手掛けられていますが、ヤクザものは初期の頃からちょくちょく撮られていて『KAMIKAZE TAXI』や『タフ』シリーズあたり。
 特に『タフ』シリーズはスタイリッシュなアクションの裏で確たる師弟愛を描きつつ、いぎたない同士討ちや性描写は極力排して美化されており、ずんぐりむっくりな御仁も構図と人物造形でカッコよく見せてしまうマジックは本作に連なっている部分が大きいかもしれません。

『タフ PART 3 ビジネス殺戮篇』(1991)
ターゲット連中を根こそぎ仕留めるために木村一八さん演じる主人公が変装して
店員になりすまし、延々殺人の仕込みをする様が独特の緊張感を生んでいるVシネの怪作。
『PART 1 誕生編』の不器用な青年が殺し屋稼業に足を踏み入れる王道も良いけどこれはこれで。

 勢力争いを制した組織が一夜にして瓦解していく退廃の極みと、結局は傍観していた国家権力がちゃっかり目的を達成するラストは徒労感も感じますが、それでもそれぞれの信念と美学に散っていった狂犬たちが眩しく写るのは同監督の時代劇作品の侍たちの姿に擬えられているところもあるのかもしれません。


Ⅱ. 個人的ヒャッハー!!な点

・骨太ながらスタイリッシュ、激痛ながらもグロ過ぎない、素晴らしい塩梅のアクションの数々

ヤクザといえば拳銃とヤッパのイメージですが、
そこにショットガンやグレネードランチャーまで持ち出すケレン味よ!!

 ヤクザというと型を無視した力み過ぎの"ダサカッコ良さ"的なアクションがその個性の大きなところですが、本作ではそのあたりは避けて戦闘のプロ集団としてのアクションシーンが展開されているのが印象的です。
 しかしながらやたらと恰好重視なわけでもなく、鈍重な暴力性もそこかしこで担保されており、結果としてリアルな暴力とスタイリッシュな格闘アクションが絶妙なタイミングでミックスされています。
 相手もライバルのヤクザ連中のみならず先方が雇ったプロの殺し屋との戦闘シーンも有るため、ミリタリーチックな色合いもあってとにかく飽きさせない多才なアクション描写が展開されます。
エンドクレジットに「技闘デザイン:岡田准一」と表記されていましたが、実際に実践的な格闘技を嗜まれている岡田さんの現実と見栄えとのバランス感覚に負うところもかなり大きいのではないかと思います。

・筋骨隆々、あるいはしなやかな細マッチョな俳優陣が暗に織りなす血塗れのBL物語

メインの二人を演じる兄貴分の岡田准一さんと弟分の坂口健太郎さん
血腥い世界の中で生き生きと絆を深める姿は歪で滑稽ながらも、
実は八王子事件で心に深い傷を負ったピュアな心も持つ者同士でもある。
二人の出会いの場面が物語のラストに挿入される演出で、あらためて本作が
二人のラブストーリーだったと感じさせられる
そして組の頭を演じるMIYAVIさんの貫禄と丹力が素晴らしい!!
非俳優出身にもかかわらず迫力と佇まいで共演陣に全く引けをとっておらず、
BLEACH 死神代行篇』での朽木白哉役はアーティストとしての浮世離れした雰囲気がそのまま
生きていましたが、本作ではまさに他方面での雰囲気とは別人の役者さんぶりです。

※ちなみにこちらの記事にはMIYAVIさんがかつて所属されていたバンドDué le quartzについても書いてます。よかったら併せてどうぞ。

元々シャープな雰囲気だった北村一輝さんは酸いも甘いも嚙み分けた若頭役で抜群の安定感。
そしてその情婦役の松岡茉優さんが別人かと見紛うばかりの極道の妻!!
メインキャストなので出番は多いものの途中まで彼女と気付きませんでした・・・。
ほぼ大竹しのぶさんと彼女のみで本作の女極道の画圧を担保しているのが凄いのなんの。
実はお互いに土竜同士だったMIYAVIさんと岡田さん…。
土竜としてあまりにも優秀であまりにも狂犬過ぎたがゆえに本物の極道になってしまった
MIYAVIさんが本当の腹心になれと岡田さんに持ち掛け、結果決裂してその場で死闘に…。
クライマックス目前の最大の見せ場にして、命懸けのプロポーズでもあります
細かいところで気になったのはもう一人の若頭役のはんにゃ川田さん
髪型が組長役のMIYAVIさんに近く、お二人とも細面なので特に後ろ姿だと
パッと見でどちらなのか判らなくなることがしばしばありまして・・・。
そして岡田さんの弟分の坂口健太郎さん。
兄貴分としての彼は勿論、土竜としての正体を知ってなお彼を敬愛する姿はピュアそのもの。
アニキは俺とこの女とどっちが大事なんだよ!!」と岡田さんを前にして
松岡さんの頭に銃を突きつける究極のツンデレBL・・・おそらく好きな人には堪らんハズ。( ´ー`)

 直接的な同性愛でこそないですが、それぞれの男が自分の見定めた男に不器用で一方的で暴力的で、そして一途な愛を捧げています
 最終的に勝ったのは岡田さん演じる金高の雇い主である警察の阿内でしょうが、規範と命令だけで生きている彼こそ本作では醜悪そのものであり、それこそが本作の世界観の象徴であって監督のメッセージであるようにも思います。

Ⅲ. 個人的ムムムッ!!な点

・組長のオペラが場違い・・・しかも長くてしつこい・・・

体格とコワモテぶりはまさに古式ゆかしいヤクザ像として
リアリティーの一端を担っていたと思いますが…。

 本作の舞台である東鞘会の二次団体・熊沢組の組長の元力士。物語中盤で敵暴力団の雇った殺し屋集団に重火器を用いて奮戦するも敢え無く散る…。
 そこは素晴らしいのですが、歌が得意という設定で、クラブ内でのMIYAVI組長を狙った女暗殺者との攻防のシーンでは格闘劇を目の前に一人だけ朗々とオペラを熱唱・・・しかも自身の葬式では彼の趣味を受けて弔問客一同がまたしてもオペラを歌う始末
 それが上手いこと作品やシーンにマッチしていたり、あるいは振り切れたギャグになっていれば良かったのですが、残念ながらあまりにもガチ過ぎてそこだけサムかったんです…。
 調べてみると件のクマを演じられた吉原光夫さんは元劇団四季の舞台畑の役者さん。原田監督の前作の『燃えよ剣』にも出演されていたのでその縁での登板だったのかもしれませんが、彼の特技を作品に盛り込んだのが些か悪目立ちになってしまっていたように思えます。歌唱そのものは見事なだけに、演出として作品から浮いてしまっているのがなんとも勿体無い限りです。


Ⅳ. おしまいに

 というわけで今回は最新映画『ヘルドッグス』について思うところを書いてみました。
 本作によって、ガチムチのコワモテの方々だけでなく、眉目秀麗な男優さん方がメインを張ってもこれだけ骨太なヤクザ映画が成立する、ということが立証されたように思います。
 原田監督の次回作のみならず、出演俳優さんそれぞれの次回作も大いに楽しみになる一本でした。
 最近映画館に行く頻度が減ってしまっていたのですが、最新作もコンスタントに感想書いていくようにしていく所存です。

 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




序盤の問答無用でのハンマーでの始末殺人・・・
こうした凄惨な描写が有りつつもPG12指定までで保てているのは監督の手腕・意向か。
昨年の『孤狼の血 LEVEL2』では、おそらくは松坂桃李さん村上虹郎さんのファンと思しき
若い女の子の集団があまりの暴力描写の苛烈さに耐えかねたのか、
開始30分ぐらいで場内から出て行ったのを見掛けたもんね。(´;ω;`)


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