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【配信を拝診①】宗教モノと敬遠する勿れ! 孤島の人々を取り込む”福音”は、地方選挙の構造そのもの... Netflix独占ドラマシリーズ『真夜中のミサ』のススメ

 結論から言おう‼・・・・・・こんにちは。( *¯ ꒳¯*)
 つい先週末、豪華版の円盤が発売されたガッカリSF映画『SFレーザーブラスト』をポチろうかどうしようか迷っている、O次郎です。

「ストップモーション・アニメーションで動くトカゲ型エイリアンと
そのレーザーガンギミック以外は全く見どころが無い」
と評される怪作。
地雷だ地雷だ、と言われるとなおさら気になっちゃう。

 今回は動画配信サービスNetflixの独占配信タイトルのドラマシリーズ『真夜中のミサ』について語ってみようと思います。
 というのも先日、聴いていたTBSラジオの『木曜JUNK おぎやはぎのメガネびいき』内でネトフリフリークの小木さんが本作を絶賛しており、それではと自分で観てみていろいろと思うところが有ったので、という次第です。

小木さんといえば個人的には『~おかげでした』の全落・水落シリーズが
めちゃくちゃ面白かったイメージ。毎回のタカさんとの喧嘩のくだりも抜群の安定感。
あのシリーズで鎖骨を骨折されてしまったそうなのでお気の毒ではあるのですが…。

 尺は、一回当たり60分超 × 全7回で、現在1シーズンのみ。
 タイトルが示すように宗教が作品の根幹になっていますので、そのあたりに縁遠い身としては理解が難しかったり、いろいろと過剰なシーンでは辟易することもありましたが、小さな島で暮らす様々な出自の老若男女の群像劇として非常に秀逸でした。
 また、隔絶された田舎で起こる怪異や理不尽に登場人物が苛まれる”田舎ホラー”としても高水準で、主要登場人物は居ても一人の主人公は居らず、彼らの全てが島民ないし元島民であって、余所者が登場しない、ということも、この手のジャンルにしてはユニークです。

”田舎の恐怖”を描いた作品は大概『ウィッカーマン』『悪魔の追跡』『ミッドサマー』等々、
都会の人間が田舎に迷い込んで酷い目に遭う、という展開が鉄板。

 ネタバレを含みますので、避けたい方は先にご視聴のうえどうぞ。
 ネトフリ契約しているけど単発映画のみであんまり独占ドラマタイトルに手を出せてない方(私のように…)や、ホラーはホラーでも大作映画よりアイデア勝負のシチュエーションスリラーが好みな方、読んでいただければ之幸いでございます。
 それでは・・・・・・・・・ナイスイィィ~~~~~~~ンンッッ!!!
「え~小木くん、ダブルパーですね~…」


Ⅰ. 『真夜中のミサ』概要

↑ ※英語版しか無いようなので翻訳等でご参照ください。

 漁業を主産業として細々と生計を立てている平々凡々とした孤島のクロケット島。そこに飲酒運転で服役していた元島民のライリーと、高齢で本土療養中の神父に代わって赴任したポール神父が島に来たことで島に異変が起こり、そこから生じた小さな綻びがやがては大きな不協和音となり、遂には島全体の破滅に繋がっていきます。
 島が名実ともに崩壊していく最終2話と、それ以前の1~5話で大きくテイストが異なり、ドラマティック且つドラスティックに人と島が破滅していく最終2話に比べ、それ以前の島民が個々に体験する”福音”に沸き、一方でそれに疑問を抱く者たちとの不和を描く展開は非常にスローペース且つオフビートな描き方であり、それがゆえに”異物”が入り込んだことで秘かにしかし着実に崩壊していく地域コミュニティーの姿の暗喩として非常に厭なリアリティーが有ります。
 外殻はあくまで宗教的奇跡に翻弄される地域社会の物語ですが、例えばろくな仕事が無く、人工流出が止められない過疎地の村に颯爽と現れた地方議員とそれに連なる巨大な公共事業、と置き換えて考えればどうでしょうか?
 以下は各主要登場人物と、それぞれが受けた”福音”とそれに対する本人の始末の付け方です。


Ⅱ. 主な登場人物と受けた”福音”

・ライリー=フリン役 - ザック=ギルフォード

(受けた福音)不死の身体

シュワちゃん主演の『ラストスタンド』で都会への転勤を夢見ながら凶悪犯の配下に射殺され、
シュワちゃん演じる老保安官が大暴れするきっかけを作った副保安官役の人

 都会でベンチャーキャピタリストとして派手に暮らしていたものの飲酒運転による事故で人を殺して服役し、故郷に戻ってきた長男。
 母親が敬虔なクリスチャンだったこともあって信仰とともに育ったようだが、事故を起こしての逮捕時に祈っていると駆け付けた警官に「神よ、教えてほしい。なぜ無実の少女を殺して、酔っぱらいを生かすのか?」と皮肉たっぷりに言われたことが相当堪えたのか、収監中の信教活動を経ても結局は宗教に懐疑的。毎晩、自分が殺した少女が夢枕に出てくる。
 ケイトとお互いの苦しみを分かち合うことで精神的に立ち直りかけたが、神父の秘密を知ったことで”福音”を強制的に受けて人外の者に。
 その直後、ケイトと自分の家族に島外へ避難するようメッセージを残して自死を選んだが、重要なのは人外の者となって以降に自分が過去の事故で殺した少女が脳裏に浮かばなくなったこと
 神父に生前、”神を口実に罪の意識から逃れようとする”ことの欺瞞を訴えていたが、そのことが人ならざる肉体になってしまったことよりも自分で自分を赦せなくなった由縁と思われる。
 神の教えから距離を置きながらその実、作中誰よりも高潔な人物といえ、物語としても彼の死から一気にクライマックスに雪崩れ込むことになる。

・エリン=グリーン役 - ケイト=シーゲル

(受けた福音)流産

本作の監督の奥方だそうで。

 ライリーの子供の頃の恋人で、現在は島の学校の教師。別れた恋人の子を身籠っている。
 島を襲う悪魔からの”福音”で「流産」という唯一の悪影響を受けた女性。それゆえにポール神父の秘跡には冷静に疑義的でいられ、ライリーの死を賭しての訴え信じることができたが時すでに遅し。が、悲劇が島外に及ぶのを食い止めた。
 特にライリーと再会する前は島での空虚な生活の中でお腹の子どもだけを拠り所にしていたようで、もし”福音”が反対方向に機能していたとしたら島を破滅させる側に加担していた可能性は十分に有り得る
 もし子どもの生存のために自らが人外の者に変貌していたとしたら、まさにこないだ公開の『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』の闇落ちワンダヴィジョンそのものだったはずで、”偶然の重なりによって正気を保ちえた人”として物語上貴重な存在。
 カトリック教会ではバースコントロールはご法度なハズで、彼女が受けた”福音”が流産、というのはなんたる皮肉。


・サラ=ガニング役 - アナベス=ギッシュ

(受けた福音)無し

X-ファイル』シリーズでお馴染み。

 エリンの親友で島唯一の医者。
 ポール神父が島で巻き起こす”福音”に当初から懐疑的で、科学的知見から危険を察知。同居する高齢の母親が”福音”の影響で認知症から快癒して若返るという恩恵を受けながらも目を瞑らず現実と向き合った。
 自身が母とプルーイット神父との隠し子であり、死にゆく母と残される自身に何か施しをとプルーイット神父が考えたことがすべての元凶である事実と向き合いながら凶弾を受けて両親とともに息絶える。
 彼女も信心とは距離を置きながらも、親の罪を背負って自らの命で贖った信念の人。


・ベバリー=キーン役 - サマンサ=スローヤン

(受けた福音)不死身の肉体

本作の監督夫妻脚本のネットフリックス映画『サイレンス』にも出演。

 島の聖パトリック協会の助祭にして狂信者。
 悪魔の姦計で人ならざる力を得たプルーイット神父の若返った姿であるポール神父を補佐しながら、”福音”をエサに島民を掌握していく。
 己の信ずる教義を守るために殺人も厭わず、証拠を隠滅し、”福音”の恩恵に浴した者の罪悪感を煽って島民を犯罪に加担させる様は悪魔そのもので、宗教のネガティブな側面を極大化させたようなキャラクター。
 後半の”福音”による人ならざる力を得てからの強権ぶりはさて置き、序盤の車椅子の少女リーザが歩けるようになった”福音”を背景とする公立学校への聖書の持ち込みという教育の中立性危機を、イスラム教徒である島の保安官の反対を排してねじ伏せたくだりは実に嫌なリアリティーであった。
 ラストで自らが島内に放った炎で家が焼け、朝日で浄化される身("福音"の副作用で陽の光が天敵。タイトルもこれに由来。)を必死に土中に逃がそうと土を掘る醜悪さはあまりに象徴的。物語当初から徹頭徹尾行動にブレが無い”筋の通った”人物

スティーブン=キング原作のSFホラー『ミスト』の
ミセス=カーモディみたいな女性、と言えば分かり易い…かな?

・ポール神父役 - ヘイミッシュ・リンクレイター

(受けた福音)不死身の肉体、若返り

本作での演技が批評家に高く評価されたとのことで、今後大作映画でも彼を拝めるかも?

 島から本土に出張中、高齢による体調不良で死にかけていたプルーイット神父が悪魔の”福音”を受けて若返った姿。
 神職に有りながら”老いて天に帰る”という道理に抗い、神職ゆえに一緒になれなかったミルドレッドの認知症と、彼女との娘のサラの行く末を案じてその”福音”を島に持ち帰ってしまったことがすべての元凶。
 ”殺人”という島内の誰よりも重い十字架を背負ったライリーを”福音”によってその罪の意識から解き放った結果、彼がその強制的な宥恕を断固拒否して自ら死を選んだことで我に返ったくだりはとても秀逸だと思います。
 神父がその後、ライリーが彼に残した、聖書になぞらえた「我らは塵ゆえ、塵に帰るべきなり」というメッセージに沿って最後を迎えたことも、彼がもたらした”福音”を曲解・拡大解釈して自らの妄信を島内に敷衍させたベバリーの姿も、まさに人間の業そのもの、という感じです。

親子が揃って最期を迎えるラストシーン、経緯も含めてあの作品を思い出しちゃった・・・。


Ⅲ. ”福音”を置き換えてみると・・・

 上述の通り、本作は宗教信仰を巡る話ではあるのですが、

・クロケット島 = 地方の過疎地の村(島同様に仕事が無く、さしたる名産品も無く、近隣都市からのアクセスも悪い。ゆえに若者を中心に人口流出が止まらない)
・悪魔とそれがもたらす”福音” = 利権政治屋とそれに連なる巨大な公共事業

と置き換えて考えれば一気に身近なテーマに変わるはずです。
 全国的に先行き不透明な今日に在って貴重な公務員のパイは地方だとさらに狭く、自然を相手にする産業は気象に左右されるうえに人手が必要で、サービス業も原価が乱降下するリスクに加えて顧客の母数が少ないと成り立たず。加えて斬新なアイディアは旧習に阻まれる。
 そんな中で各々の安定的な収入とそれに連なる真っ当な生活を保障してくれる実力者は”神”にも等しく、如何なる理由があろうとそれを批判することは”大罪”に等しく、批判する者は”大罪人”である…。
 
 全国的に不正疑惑が報道されながらも圧倒的な地元の支持を背景に当選する議員の先生、みたいな構図は昔から枚挙に暇が無く、部外者からは不可解というより無いですが、その地域地域にフォーカスしてみるとそこにはまさしく『真夜中のミサ』のような世界が広がっているのかもしれません。
 ともあれ、首都近郊に住む独り身のオジさんの自分は、いわばそうした魔力からの”安全圏”に在る訳であって、これ以上は見苦しくなるのでこのへんで・・・。

こないだデアゴスティーニDVDで観た
Gメン'75の第81話「灰色高官殺人事件」がまさにそんな話やったんや~。



Ⅳ. おまとめ

 ということで今回はいつもの映画からちょっと趣向を変えてサブスク配信の海外ドラマの話をしてみました。
 基本的に映画等ではお見掛けしない俳優さんが主なのでイメージが付いておらず物語に没頭出来てイイですね。それに引き換え国内の配信作品は有名キャスト起用が多いので目は惹くんだけども、ストーリーそのものの訴求力に自信が無いのかなんなのか。
 これを機に同製作陣の過去のネトフリ配信の単発ホラー映画『サイレンス』についても観てみようと思いました。ホラーに限らず、サブスク配信のドラマシリーズで他におススメの作品が有ればお教えいただければ恐悦至極です。
 今回はこのへんで。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。



ちなみにホラー映画によくあるPOV視点の作品は苦手です。
三半規管が弱いのか、すぐ画面酔いしちゃうんですわん。(・ω・)
『ブレア・ウィッチ』は途中で気持ち悪くなったし、
『カメラを止めるな』も前半一時間で画面酔い…。



  


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