見出し画像

注射は国防総省主導の軍事作戦?!(その1)

「法律の解釈上、💉は医薬品ではなく国防総省主導の軍事的な『対策』で、ただの『試作品』。臨床試験もインフォームドコンセントも不要で、製薬会社も接種した医療従事者も一切免責される」…
こんなとんでもない内容のレポートが昨年の暮れに発表されていました。
発信者は、元治験受託会社社員で、今はジャーナリストのSasha Latypovaさん。

衝撃の内容なのですが、法律が絡む話なのでなかなか難解で、咀嚼するのにえらく時間がかかってしまいました。
(詳しい方がいらっしゃいましたら、間違いあればコメント欄でお教えください…)

しかも、調べれば調べるほどかなり根が深く、歴史をだいぶ遡る必要がありました。お陰でとんでもなく長くなってしまった…
(なるべく引用箇所を飛ばしても読めるようにしました)
超絶長いので、記事を三回くらいに分割することにしました。
この記事では、米国保健福祉省(Health and Human Services; HHS)と米国食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA)を中心にお伝えします。

☆ ☆ ☆

序章と記事の要点:元治験受託会社社員が感じた違和感

きっかけは、💉による副反応がロット番号ごとにあまりにもばらつきがあったこと。元の職業柄、いくら緊急時使用許可された医薬品とはいえ、こんなことがありうるのかと疑問に思ったそうです。
(振り返ると、この違和感がとても正しかったことが分かるのですが。)
そこで情報公開請求を使って入手した資料等を法律研究家のKatherine Wattさんと一緒に読みといていったようです。

そこでわかったことは……

●米国の以下の3つの法律や制度を組み合わせると、

・緊急時使用許可(EUA)
・契約関係のOTA(Other Transactions Authority )
・特許関係のPREP法

1)💉は海外からの脅威に対する「対策」
2)💉は国防総省から発注された「試作品」
「試作品」なので、臨床試験も、品質保証も不要
3)💉を接種する際のインフォームドコンセントは不要で、いかなる責任からも保護される
4)💉を製造した製薬企業にも法的な責任がない

●以上のことを把握しているのは極一部。
FDAの大多数の職員ですら理解していなかった

●これを可能にした3つの法制度は
第二次世界大戦後から徐々に巧妙に構築されていった

実にとんでもない話ですね……
では、3つの法制度と、それに関連する政府機関をひとつひとつ見ていきましょう。

第一章:緊急時使用許可(EUA)と保健福祉省、FDA

1)緊急時使用許可(EUA)とは

567が始まってから、EUAという言葉をニュースでよく聞くようになりました。

医薬品は、基本、認可制(承認制)です。
●●という病気の患者さんに、××という用量で使って良い(これを「適用」と呼んでいます)、という風に許可(承認)されます。
未承認のものは、どんなに使いたくても法の枠組みの中では使用できないわけです。それを、色々な条件付で緊急時に特別に許可する、という制度がEUAです。

米国では、連邦食品医薬品化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act:FD&C Act)の第564条(セクション564)が法的根拠になっています。

米食品医薬品局(FDA)が緊急時に未承認薬などの使用を許可したり、既承認薬の適応を拡大したりする制度のこと。
FD&C Actの第564条に基づく。
具体的には、FDAが、
(1)生命を脅かす疾患である、
(2)当該製品に関して、疾患の治療などで一定の有効性が認められる、
(3)当該製品を使用した際のメリットが、製品の潜在的なリスクを上回ると判断できる、
(4)当該製品以外に、疾患を診断、予防、または治療するための適当な代替品が無い──
という条件を満たすと判断した場合に発行できる。

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/011900001/20/05/15/00334/

2)始まりはAIDS

緊急時なんだから、特例を認めるのは当たり前じゃん。
内容も問題無さそうだし……
確かにそう見えるかもしれません。
が、EUAという仕組みはいつ頃できて、どういう変遷を辿ってきたのか、それを見てみると、本当に今の制度で良いのか?という疑問が出てくるのです。

EUAの前にも、未承認薬を例外的に認める制度は非公式には1960年代から存在していましたが、本格的に開始されたのはあのAIDSからでした(この時点ですでにキナ臭い…)。

1980 年代における AIDS/HIV の流行を受けて,連邦行政規則により FDA の許可のもとに重大な又は死が迫った疾病を持つ患者に対して未承認医薬品を提供するプログラムが始まった。

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=21735&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1

ただ、この時点では、特別な病気の患者さんへの使用を想定しており、インフォームドコンセントも必須でした。

3)湾岸戦争で軍人に拡大、ICを廃止

これが拡大されることになったのが湾岸戦争で、従軍した兵士が神経ガス等にやられてしまった時の治療のために、未承認の薬剤を使えるようにしたのです。

その端緒になったのが 1990 年に始まった湾岸戦争において派遣された兵士を守るための未承認医薬品の使用である。
当時,ボツリヌス症を治療するためのボツリヌス毒素,神経ガスに対する治療薬であるピリドスチグミンはそれぞれ承認申請のための臨床試験中であった(ボツリヌス毒素は完全な未承認,ピリドスチグミンは必要とされた適応について未承認だった)が,米国防衛省はそのいずれもの使用が必要と判断して FDA と協議し,FDA は未承認であるこれらの医薬品の軍隊への使用を可能とすること,及び未承認医薬品の使用に当たり本来要求される被験者に対するインフォームド・コンセントを免除することを内容とする暫定的規則を制定した。

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=21735&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1

その際に、なんと、インフォームドコンセントが不要になってしまいました。

4)911でバイオテロ等を想定し一般人に拡大

それでも、まだこの段階では対象は「軍人」であり、不特定多数の人々を想定していませんでした。
が、その後、911や炭疽菌事件の影響で、一般人へも拡大される「バイオシールド法」というのが出来てしまうのです。

しかしながら,9.11 同時多発テロ事件と炭疽菌事件は,軍隊という一定のグループではなく一般市民全体に対して緊急的な未承認医薬品の使用が必要となりうるという強い認識をもたらした。

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=21735&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1

2001 年秋の炭疽テロ以降,炭疽及び天然痘に対する次世代ワクチンの確保が進められていたが,十分量の確保のために企業を動かすには様々な施策が必要であることが認知されてきた.
(中略)こういった諸問題を解決し,企業の参入を促すべく,2003 年にプロジェクト・バイオシールドが一般教書でブッシュ大統領により提案され,“バイオシールド法(The Project BioShield Act of2004)”として,2004 年 7 月 21 日に施行された。
この法律は,テロに対する医薬品等の研究開発促進及び製品の確保と使用を迅速化するために保健福祉省に以下の 3 つの権限を与えている.
1)テロ対策医薬品の調達,雇用,研究資金の手続きの緩和
2)CBRN(Chemical,Biological,Radiological,Nuclear)テロリズムに対抗するための医薬品等の調達・市場保証
3)FDA に認可されていない薬剤等の緊急使用許可

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kansenshogakuzasshi/83/1/83_1/_pdf

バイオシールド法では、CBRN、つまりバイオテロや核を使った脅威にまで話を広げて、「一般人に対する軍事的な脅威にも備えるべきだ」、としたわけです。

化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear)を用いた兵器はそれぞれの頭文字をとってCBRN兵器と呼ばれ、これらを用いて行われるテロは、CBRNテロと呼ばれます。

https://www.anzen.mofa.go.jp/pamph/pamph06/contents/souron.html#1

5)鳥インフルで「自然発生の脅威」にも拡大

しかし、この時点でも、まだ「軍事的な理由で起こった脅威」に対処する場合に限定されていました。
それが、「自然発生的な脅威」に拡大されたのが、2013年のいわゆる「パンデミック法」です。

このような緊急使用許可制度は(中略)当初,強く念頭に置いていたのは軍事的に引き起こされた公衆衛生上の緊急事態であったが,その後,2013 年の法改正によって自然に発生した公衆衛生上の緊急事態への対応を強化する方向へと変化している。
すなわち,2013 年に成立したパンデミック及び全領域的災害準備再授権法(Pandemic and All-Hazards Preparedness Reauthorization Act)により,公衆衛生上の危機が実際に発生する前であってもその恐れがあれば緊急使用許可を発出することが可能とされ,感染症の小規模な流行が発生した時点であってもパンデミックに備えて緊急使用許可を発出し,医薬品・医療機器の開発と緊急使用許可の発出及び当該医薬品・医療機器の備蓄を行うことが可能となった。

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=21735&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1

2013年といえば…?

そう、鳥インフルエンザが「流行った」とされた時期です。
わーお…

6)有効期間も撤廃

しかししかし(しつこい)、それでもまだEUAには有効期間がありました。
それが、この鳥インフルの際に撤廃されてしまうのです。

そして,事前準備が可能となったことに併せて,保健福祉省長官による緊急事態の宣言について制度創設時に付されていた原則 1 年という有効期限が撤廃された。

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=21735&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1

言い換えると、緊急事態(これは次の章で詳しく説明します)が続く限り、使用可能ということになっているのです。

☆ ☆ ☆

ようやく第一章が終わりました(既に長い…)
ここまでをまとめると、EUAはAIDS、湾岸戦争、911、炭疽菌、鳥インフル……と、詳しい方ならピンとくるあれやこれやの「イベント」ごとに段階を踏んで法整備が進み、パンデミック時に一般人にも使用できるけど、藪さん(父)の時代にIC不要になった状態が法制度上は今も続いている、ということになります。なんとまぁ……

第二章:緊急事態の意味と緊急事態宣言(PHE)

1)誰がいつ宣言したか

では、EUAはどうやって「発動」するのか?
誰かが『緊急事態だー!』と「宣言」する必要があります。
そこで、「誰が」「何を緊急事態と判断するのか」、それを調べて見ました。

まず,前提としての緊急事態の存在は,国土安全保障省長官,国防省長官又は保健福祉省長官が判断することになる。各長官が判断権を有する緊急事態はそれぞれ要件が異なっており……
これらのうちのいずれかの判断に基づいて保健福祉省長官は緊急事態の宣言を行うことができる。

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=21735&item_no=1&attribute_id=18&file_no=

HHSだけではなく、国土安全保障省や国防省が出て来ました。そうです、EUAがどんどん拡大解釈されているので、関連省庁も拡大されているわけですね。で、最終的にはHHS長官が宣言する、と。

2020年にいつ誰が宣言したのか確認してみました。
ご紹介した記事の著者、Latypovaさんは「寅さん」と書いていましたが、ちょっと違うようです。
・「国家緊急事態宣言」:これは寅さんが宣言。
・「公衆衛生緊急事態宣言」:これは保健福祉省長官が宣言。

新型コロナウイルスに対しては、後述するように3月13日にトランプ大統領が国家緊急事態を宣言したが、実は1月31日時点で、保健福祉長官アレックス・アザーの名前で、公衆衛生緊急事態(Public Health Emergency)が宣言されている[5]

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3420https://aspr.hhs.gov/legal/PHE/Pages/covid19-11Jan23.aspx

ちなみに、WHOも緊急事態宣言をしていましたよね。
これは、Public Health Emergency of International Concern, 略称: PHEIC)というもので、米国での宣言の前日に出されていました。

ということは、WHOの宣言を受けて間髪入れずに米国でもHHS長官が宣言した。それがEUAの根拠になった、ということになります。

2)緊急事態宣言とEUAの関係(おさらい)

繰り返しになりますが、2020年1月の緊急事態宣言だけで、注射が使用できるようになったわけではありません。

2020年1月31日、HHS長官は、”2019年新型コロナウイルス(2019-nCoV)の確定症例の結果として、公衆衛生上の緊急事態が米国に存在することを正式に決定しました。” しかし、FDAが指摘したように、この宣言によってFDAはEUAを発行することができませんでした。FDAのアクションのためには、長官はFD&C法第564条の下で別の決定と宣言をしなければなりませんでした。

https://clarivate.com/ja/blog/treating-a-pandemic-drug-repurposing-expanded-access-and-emergency-use-authorization/

緊急事態宣言だけではなく、そのあとに個別にFDAの許可が必要になるということのようです。

緊急使用許可制度は,第一段階としての緊急事態の判断・宣言を前提として,第二段階としての個別の医薬品・医療機器に対する緊急使用許可が発出される仕組みになっている。

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=21735&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1

これを、別の言い方で表現すると。
注射が開発されていたとしても、緊急事態をHHS長官が宣言し、FDAが個別に承認して初めて、EUAを根拠に接種が可能になる、というわけです。

☆ ☆ ☆

第一章と第二章のまとめ

今はHHS長官が宣言した公衆衛生緊急事態宣言が続いており、FDAがワクチンについてEUAを出した状態。
ということは、今の💉はICなんて不要なので、接種した医療従事者を「ちゃんと説明しなかったじゃないか!」と訴えることができない、ということになってしまうんです。
うへぇ……

法制度のひとつ目だけでかなりお腹いっぱいですよね。
しかし、まだまだ続きます。
次回は本丸(?)の国防総省です。
乞うご期待……(気長に待っていただけると嬉しいです……)

いいなと思ったら応援しよう!