wtmまとめ記事(熊おうさんのこちらとかこちら)にも何度か登場しているこの話。前回は、主に保健福祉省やFDAでしたが、今回は本丸の国防総省(DoD)です。DoDは💉の開発に資金援助しただけではなく、発注元でもあった。そして製薬会社と特殊な契約を結んでいた…その辺りを法律畑には縁がないのですが、頑張って理解できた範囲でお伝えしていきます(間違いがあっら、是非ご指摘ください、詳しい方、求む)。
第三章 国防総省と特殊な契約”OTA”
1)モデルナは早くから資金提供を受けていた
2020年8月、英国フィナンシャルタイムズに「米国国防総省がモデルナに助成金を払っていたのに、情報開示しなかった」という記事が出ました。
製薬企業が国から助成金を受ける。
まあ、それはよしとして(隠してたのはまずいですが)、いつ、どの政府の部門が支払ったのか?
FTの記事の元になったレポートを見てみると……
えーっ!?2013年!?567の5の字もないときから、モデルナはmRNA💉の開発をしていた…!?あ、2013年って鳥インフルエンザの時ですね……
(またお前かーっ)
しかも、払っていたのが、あの国防総省の下部組織、DARPA (Defense Advanced Research Projects Agency; 国防高等研究計画局)というわけです。
なんで保健福祉省じゃないんでしょうか…?
そもそもDARPAってなんぞや…?
2)スプートニクショックから生まれたDARPA
DARPAのルーツはスプートニクショックにまで遡ります。
おお、単なる下部組織じゃなくて、大統領直轄だと……?
これまでに、こんな実績があるそうです。なるほど、今のインターネットのさきがけって、DARPAの前身、ARPAが作ったんですね…。
3)炭疽菌事件でバイオ関連に拡大
DARPAが取り扱う技術は、当初は一般にもイメージしやすい軍事技術が主体でした。それがバイオ関連まで拡大するのが、2000年代。炭疽菌事件です。ん、この流れ、どこかで見たな…?
そして、2013年には、バイオ関連の専門部署が誕生。あれ、また2013年……
4)エボラ出血熱騒ぎの時期にワクチン開発を開始
そして、2017年。パンデミック防止プラットフォーム(P3)プログラムというのが立ち上がりました。
これだけだと、よくわからないですよね。
そこで、DARPAのサイトで見てみると……
これって要するに、mRNAワクチンのこと…?!
しかも2017年の時点で「過去数年間」と言っている。
エボラ出血熱の発見は1976年ですが、大きなアウトブレイクで連日ニュースで騒がれたのは2014年頃です。
ということは、感染症とおよそ縁の無さそうな国防総省の下部組織DARPAが、エボラ出血熱が騒がれていた時期にワクチン開発のための研究を既に始めていた、と明記していることになります。
なんてこったい…。
5)DoDが大手製薬会社等と結んだ特殊な契約
でもまあ、ワクチン開発に国が資金援助くらいしたって別にいいじゃない。
パンデミックなんて国家の緊急事態なわけだし。
…と思うかも知れません。
が、DoDは単にお金だけ提供したわけではありません。
多数の大手製薬会社等と膨大な量の「契約」を結んでいました。
つまり、DoDは発注元で、製薬会社は受託先ということになるんです。
公衆衛生の話をしていたはずなのに、どうしてこうなった……???
まず、どれだけ多数の企業と契約したか。
ここのページに契約の一覧表があります。
英国FTの記事にも登場した、ナレッジ エコロジー インターナショナル (KEI)のサイトです。ご丁寧にスプレッドシートも作成されていました。
アストラゼネカ、グラクソ・スミスクライン、ジョンソン&ジョンソン、MSD、サノフィ……大手製薬企業や有名大学の名前が並んでいます。
もちろん、モデルナやファイザーの名前も。
ワクチンだけではなく医療資材等も含まれており、契約本数は400以上ありました。思ったより多かった……
6)NASA設立と「OTA(Other Transactions Authority )」契約
そして、重要なのが、その契約の形式。かなり特殊な内容でした。
今回の衝撃のレポートの胆と言ってもいいと思います。
が、個人的には難解でした…なるべく理解した範囲で書いてみます。
まず、例としてファイザーの契約書を見てみましょう。
「OTAのもとに」と書いてある。
OTA(Other Transactions Authority)。直訳すると「その他の取引権限」。「その他」ってなんぞや…???
文部科学省の資料をみると…
いまいちピンときませんが、「柔軟な契約」が出来るようです。
さらにDoDのサイトの説明をみると…
なんと、NASA設立まで遡る…!?
どうやら、今まで接点のなかった分野の企業とも契約を結べるようにした、ということのようです。
今まで接点がなかった分野。ここに、製薬企業も含まれる、ということ…?
7)「柔軟性のある」と称賛されるOTAの本当の意味
では、具体的な内容は、というと。
うーん。普通の「調達」(政府が民間からモノや技術を手に入れることですよね、たぶん)ではないらしいことは分かるのですが、いまいちわかりづらかったので、別のサイトの説明をお借りしました。
やはり「柔軟な契約が可能」ということまでしかわかりません…。
しかし、Latypovaさん達の解説では、こんな風に話しています。
えっ?
契約でもないし、助成金でもない?!
しかも何かあった時に免責されちゃう…?!
そんなバカな、と思い、DARPAのページを見てみたのですが、難しくて断念(歯が立たないどころか、歯形すらつかないレベル…)。
なので、とある米国の弁護士さんの解説記事から。
連邦調達規則ではない。
そして、やっぱり「契約」じゃない、って書いてある。
しかも、裁判所や会計検査院の管轄下でもない…?!
むちゃくちゃじゃないですか……
そんなすごい話なのに、なんで誰も何も言わないんだろう。本当なのだろうか…とモヤモヤしていたのですが、意外なところからこれを裏付けるような話が出て来ました。
それは、治験受託会社の元従業員(Latypovaさんとは別の人です)が内部告発した、ベンタビア事件です。
8)元治験受託会社社員による内部告発
2021年11月に、英国の超有名医学誌British Medical Journalにこんな記事が掲載されました。
Covid-19: 研究者がファイザーのワクチン試験におけるデータの完全性の問題について内部告発
それによると、ファイザーが行った臨床試験の実務を請け負う治験受託会社ベンタビアの元社員であるブルック・ジャクソンさんは、治験が問題だらけであることに気づき、何度も会社に改善要望を出しました。
しかし、会社が何もしなかったため、FDAに直談判。
すると、いきなり解雇されたため、沢山の資料をBMJ編集部に送ってきた、ということのようです。
これを不服としたジャクソンさんは、P社とベンタビアを相手に訴訟を開始。
するとP社は、「国との契約が『プロトタイプ』だ」ということを理由にして、訴訟の却下申し立てをしたのです。
ファイザーは、「プロトタイプ」契約を理由に、COVID-19ワクチンの治験から訴訟を却下する動きを見せている
契約がOTAだというのは、書面でも確認できましたが、プロトタイプって、何…??もう一度、契約書をよく読んでみたら…ほんとだ、プロトタイプって書いてある?!
9)注射は「試作品」
調べてみると、どうやら、OTAの契約にはいくつか種類があるようなのです。具体的には、「研究」「試作品」「生産」の3つ。
DoDのサイトの説明を見てみると…
これを踏まえて、ファイザーの契約書を見てみると……
むむ、「研究」「生産」と言うのが見当たりません。代わりに確認できるのが、プロトタイプやdemonstrationという不穏な文字です。
これと、先に説明したベンタビア事件のことをあわせて考えると、やはり、契約書上、あの注射はただの「試作品」で、P社は試作品のデモンストレーションをしているに過ぎない、ということになります。
そんな馬鹿な…?!
10)「試作品」のデモンストレーションとは?
それにしても、デモンストレーションとは、一体なんのこと…?
調べてみたら、イギリスの国際戦略研究所のサイトに、ベトナム戦争を例にした解説がありました。
上の文章で、ベトナムを世界各国の国に、米国軍人を医療従事者に、
AR-15ライフル(試作品)を💉に置き換えてみてください。
ベトナムで、米軍は、AR-15ライフルを使って「訓練」し、(本番のための)データが集積された。その結果、M-16ライフルが開発・生産され、陸軍で採用された。
世界各国で、医療従事者は、💉(試作品)を使って「訓練」し、(本番のための)データが集積された。その結果、新しい💉(まだ登場していないかな…)が開発・生産され、病院で採用され(る見込み?)。
OTAでのプロトタイプ(試作品)って、どうやらそういう位置付けらしいです…。
今、世界中で行われているのは、本番のために「試作品」を打って打って打ちまくって、データを収集していますよ。治験って言っても、本番じゃないんですよ、ということみたいです。法律上は………。
11)「試作品」は臨床試験も品質保証も要らない
💉が「試作品」扱いだと、他の法律にも影響します。
GCPの要件を課さない……?
GCPとは、臨床試験を実施する際のルールです。
厚労省のサイトを見てみると。
ということは、今回の💉は、OTAという特殊な契約をしているので、臨床試験のルールに従う必要もないし(ぶっちゃけしなくても良い)、FDAの通常の医薬品規制の管轄外になってしまい、品質保証や製造責任がないことになってしまうのです。
道理で、ロット毎にばらつきが激しいわけです……(ようやくフラグ回収)。
12)まとめと明るいニュース
ということで以上をまとめると…
DoDは一見、💉と無関係に見えるけれど、下部組織のDARPAは2014年頃からバイオテロを想定して、💉開発のための研究を開始していた。
そのDoDと製薬会社が💉について契約を結んでいて、その契約上、💉はただの「試作品」だし、受注した内容は「研究」や「生産」ではなく「試作品(のデモンストレーション)」だった。
したがって、P社は通常の医薬品のような臨床試験も品質保証も製造責任もない。今現在、「本番に向けた練習中」ということ。
いったい、なんなの、これ……
☆ ☆ ☆
ふぅ。何だか暗い話になってしまったので、最後に明るいニュースを1つ。
P社とベンタビアを相手に訴訟を起こしたジャクソンさんの続報です。
P社の申し立ては退けられ、テキサス州が裁判を開始する決定を下しました。ついに裁判が始まるぞぉぉぉ!!!
☆ ☆ ☆
さて、第1回に続き、またまたとんでもなく濃く、長い記事になってしまいました(根気よく読み続けていただいた皆様、本当にありがとうございます)。いったんここで区切りますね。
次回は、注射が試作品だったとして、じゃあいったい誰が💉の生産をしていたのか?そして、特許関連はどうなっているのか?等をお伝えする予定です(あくまで予定です。結構根が深くて、うっかり掘ってしまうと話が広がる広がる…)。
気長にお待ちください……