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コミュニケーションもまたアート(技芸)なのか

ずっと行きたいと思っていながら、何度も行きそびれていたアートイベントにようやく足を運ぶことができた。名古屋港で催されている「アッセンブリッジ名古屋」というイベントだ。現代アート+音楽+コミュニティとして展開されており、あいちトリエンナーレのまちなか会場と似ていなくもない。むしろ、まちなか会場の機能を特化させた上で毎年同じ地区で開かれている芸術祭であり、まちを愛する人たちの手で大事に育てられている印象があった。

市営地下鉄で築地口駅を降りたら、まず向かうのがポットラックビル。昔は書店や文房具店が入っていたという地味めのビルで、駅のすぐ近くにあるにもかかわらず見つけるのに手間取った。

出かけたその日は、ポットラックビルでコンサートが行われることになっており、最初の目当てがそれ。1F奥のラウンジにて、ごくごく至近距離で、春日井久美子(Vn)と杉山亜由美氏(Pf)による演奏を聞くことができた。グラズノフの室内楽曲など、ちょっと珍しい小品もあり、またアップライトピアノのアンティークな音色も面白い効果があり、楽しい時間だった。演奏もさることながら、曲間のトークが興味深く、カルマス社倒産のショックに始まり、楽譜を集めすぎて置く場所がなくなりかけている話とか、海外に行くと日本では手に入りづらい楽譜を漁る話など、音楽家の業の深さ(!)がしみじみわかる話題がたくさん! 演奏が終わった後、もう少しお話を聞かせてもらえたらと思ったし、実際に話しかけているお客さんもいたが、気後れしてそそくさとその場を去る。

演奏会のあとは、地図を片手に現代美術展『パノラマ庭園 -移ろう地図、侵食する風景-』の作品を訪ね歩く。色形や造形の奇をてらうタイプの作品ではなく、思想を形にするようなタイプの作品が多い。展示数がもっとも多い青崎伸孝氏の作品は、まちに溶け込み、まちの住人の声を拾い、足跡をたどることで生まれているが、人々の人生のかけらを拾い集めるその視点に温かみを感じた。

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(築地口~港にかけて珍スポットが結構あるらしい)

途中で、まだ昼食を食べていないことを思い出し、目についたカフェに飛び込む。「食事のメニューはありますか?」と尋ねると、面白い答えが帰ってきた。好きな具材を持ち込むと、野菜といっしょに食パンにはさんでホットサンドにしてくれるというのだ。近くのコンビニでメンチカツを買ってきたら、メンチカツサンドができるではないか! 

実はそこは「NUCO」という街の社交場も兼ねているカフェで、上階には展示会場もある。もともとは向かいの駐車場に建っていた「UCO(うしお)」という「まちの社交場」が初代で、そのUCOは20年間空き家でさらに前は寿司屋だった。そこを、L PACK.(エルパック)という小田桐奨氏と中嶋哲矢氏のユニットが再生させたのだという。UCOの変遷については、作品として店内に展示されている。同様に、この秋現代美術展が開催された瀬戸市でも、空き家を再生してアーティストの活動拠点にする活動が始まっている。

さて、NUCO内に展示されている作品を見てから買い出しにゆく。コンビニにたどり着くまでの道中、町のいろんな建物を見て歩いた。正直、古いというか鄙びたというか、「昔は賑わい、今はシャッター街」というありがちな町並みではあるけれど、もちろんほかのどことも違うその町ならでの歴史と空気感がある。

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コンビニで買ったのは白身魚のフライ。レジにいたのは、外国人の男の子だった(自分の観測範囲だけかもしれないが、名古屋は南部に行くほど外国人がレジに立つ割合が高くなる気がする)。会計を済ませるまでは無問題だったが、最後に「ソースいりますか?」の発音が聞き取れず困った。そしたら彼はソースの入った小袋を見せてくれて、ようやく意味が通じた。

白身魚のフライを持ってカフェ「NUCO」に戻ると、カウンターの中の女の子が丁寧にホットサンドにしてくれた。そして自分にしてはめずらしくカウンター席に居座り、お店のマスター……じゃなく、ミストレス(それは全然違う)でもなく、大学生だというバイトの子とぽつぽつお喋りしながらお昼を頂いた。基本、コミュニケーションが苦手な自分にとって、こんなことは大変珍しい。いや、初めてだ。
実は、彼女は自分の子どもたちと年が近い。今どきの若い子によくある、心理的なガードの低さと芯の強さが同居している感じの子で、ついつい母親スイッチが入ってしまったようだ。楽しいランチタイムだった。

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少し歩いて、旧・名古屋税関寮にたどり着く。窓を突き破るように四方に飛び出したハート型の造形物が目を引くそこは、建物をまるごと利用した千葉正也氏によるインスタレーション作品。これは非常にパワフルな作品で、例えて言うと自意識が爆発したかのような勢い。音、光、におい……それこそ五感を活用して味わうこの作品には、他の手段では決して伝えられない情念のようなものが詰まっている気がした。言葉が伝えうる情報は、本来の情報の半分以上を削ぎ落としているに違いない。

さらに歩くと、名古屋港ポートビルが見えてくる。海はすぐそこ。現代美術展のトリを飾る作品はポートビルの展望室にある。展望室にのぼったらいきなりスゴい眺め。作品のことは忘れ、まず港の景色を堪能した。

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景色を堪能してからようやく我に返り、青木氏の作品を「聞く」ためにコイン式望遠鏡に100円を入れた。確かにそこには街のささやきがあった。同じようなつぶやきでありながら、決して同一にはならず、発言者の人生がいやでも見えてしまうような声が。

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(上の写真のどこかに青木氏の作品があります)

……と余韻を楽しんでいたら、帰りのエレベーターで外国人男性に「英語わかりますか?」といきなり聞かれ(もちろん英語で)、しどろもどろになりながらなんとか会話するという罰ゲームつきだった。だから、コミュニケーションは基本的に苦手なのだと何度言えば……(以下略)


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