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クラシックorJAZZ?

美術館めぐりが一段落ついたので、コンサートの感想など。

コンサートホールを持っている自治体主催で「ワンコイン・コンサート」といったものが開かれることがある。ワンコイン=500円で、平日の昼間などに小規模なコンサートを楽しめるという企画だ。小規模というのは、だいたい数人の演奏者が1時間程度の内容で、100人~300人くらいの客数を想定した演奏会。万が一外れても損害はワンコインで済むから、聞く方も気軽に足を運べる。

しかし、「万が一外れても」というのはなかなか失礼な書き方で、実際には満足できる内容のものが多いし、特に今回長久手市文化の家まで聞きに行った、午後の佇みシリーズ「サックス&ピアノ クラシックとジャズの交差点2」という企画は、500円ではもったいないくらい楽しい内容だった。

サックス&ピアノが2組出演して、そのうち1組はクラシック畑で活動してきたチーム、もう1組はジャズ畑を歩いてきたチーム。同じ楽器の組み合わせでもこんなに違うんですよ、というのを見せる企画。

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「クラシックVSジャズ」をテーマに、音色の違い、奏法の違い、共通するところを比較しながら、サックスという楽器の真実に迫ります。
出演:石川貴憲、丸尾祐嗣、坂井彰太郎、平光広太郎
(長久手市文化の家HPより)

最初は普通にクラシックチームはクラシック曲のレパートリーを、ジャズチームはジャズのレパートリーを演奏して、軽く演奏者紹介。
クラシックチームは石川貴憲(Sax)&丸尾祐嗣(P)、ジャズチームは坂井彰太郎(Sax)&平光広太郎(P)。
あと、実にフリーダムで楽しい司会が平光氏。

さて、ここからが本番で、あえてジャンルを入れ替えての演奏を披露。
ジャズチーム→ラフマニノフ「ヴォカリーズ」
クラシックチーム→「枯れ葉」
どちらにしても比較的シンプルで超メジャーな曲なので、どんな出来映えかと楽しみにしつつ演奏に耳を傾けると、苦労の跡が見えつつも、意外にそれっぽくまとまってる。なあんだと思ったが、その後に流された初見時の動画で大爆笑した。譜割りがわからず苦労するジャズチーム、こっそりアレンジ済みの譜面を手に入れてズルしようとするクラシックチーム。ふふふ。

苦労話や裏話も公開され、それをまとめると、ジャズの人間がクラシックをやる難しさは、主に次の2点。
①譜面を正しく読んでそのとおりに表現する(基本)
②譜面に従いつつも、譜面に書かれていないお約束(※)を読み取り表現する(発展)
※譜面に書かれていない「お約束」というのは、フレーズの区切りを表現するための間合いとか微妙な緩急のこと。経験を重ねることによって自然に身につく。

逆にクラシックの人間がジャズをやる難しさも主に2つ
①譜面に書かれていない音を即興で入れるのは難しい(※)。
②ジャズ特有のノリを掴むのが難しい。
※ジャズの譜面はごく基本的なメロディとコード進行しか書かれていないので、メロディ担当は装飾を好きにつけて演奏し、伴奏担当は指定されたコードを使ってメロディに合わせた伴奏をアレンジする。

お次は質問コーナー。客席から質問を募り、演奏者が答える。良い質問が続き、ジャズとクラシックの演奏法の違い、出演者の音楽的なバックグラウンド(みんなバラバラなのが面白い)、遠い昔に作られた音楽を現在に蘇らせる意味や心構えなど、濃くて深い話が聞けた。

最後は、ジャズとクラシックが入り混じったメドレーで楽しく終わった。切り替わると空気感がするっと変わるので面白かったが、クラシックにもジャズにも共通することはある。まず、基礎力大事。音楽人生のどこかで楽器演奏の基本をみっちり習得した人は、ジャンルが何であろうがやはり上手い。

そしてさらに重要なのが、音楽は生き物である、ということだ。生きているから即興演奏が可能だし、楽譜に閉じ込められてもなお、呼吸をするかのようなテンポの揺れが必要になってくる。演奏者によって生命力を与えられた音楽は空間へ踊りだし、耳を傾ける者の内部にするすると侵入(!)してくるのだ。

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