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『逆光記』〜ビッグボス・須藤蓮〜

 うちのボス…つまり映画『逆光』の主演・監督の須藤蓮は、よくものを忘れ、よくものを失くす。停めていた自転車に乗ろうとするたびに「鍵がない」とポケットをまさぐり、カバンを漁る。ある時は、宿泊していたマガザン京都から次のホテルへ移る際、複数回確認をしたのにもかかわらず、マガザン京都の洗濯機にパンツとTシャツを忘れ、次の宿泊者がびっくりしたという。またある時は、出町座での舞台挨拶後、自分が少し離れたコンビニに自転車を置き忘れていることを忘れ、普段利用させていただいている出町座スタッフ駐輪場にあった、他人の自転車に鍵を差し込んでいたこともある。さらにある時は、発送する荷物の中にホテルの鍵を入れたまま、配送手続きを完了し、鍵を東京へ送りかけたこともある。自分が火をつけたたばこをひと吸いしたかと思えば灰皿の上に忘れ、しばらくして2本目に火をつけることなんて日常茶飯事だ。

 このように散々うちのボスのポンコツポイントを挙げてきたが、落として上げるスタイルを用いることとして、今日は蓮さんの素敵さをプレゼンテーションさせていただこうと思う。

 まず、須藤蓮はよく動く。ひたすら動く。『逆光』の京都上映に合わせた1ヶ月とすこしの京都滞在期間、毎日休みなく動いている。ぼくら大学生を率い、自らの作品を抱え、自転車で京都市内を縦横無尽に駆け巡り、古今東西のお店に挨拶をしながら、いろんな人とお話をする。普通の人間なら何年もかけて築き上げるような人脈をあっという間に作っていく。ものすごい熱量を他人に魅力的に見せるのがものすごく上手いのか、須藤蓮の周りには大人も若者も寄ってくるのである。

 そして、須藤蓮は映画『逆光』の監督として、毎日出町座へ赴き、上映後にシアターから出てくるお客さんひとりひとりに感謝を伝え、パンフレットにサインをして、お話をする。お望みとあらば一緒に写真を撮る。いくら自分の映画を観てくれたお客さんだからといっても、そして、いくら京都に滞在しているといっても、毎日劇場に通い続けるなんて並大抵の覚悟ではできることではない。
 その中で、やはり「あの時のお客さん」が来る。1ヶ月近く京都を動き回っていると、あのイベントで会ったから、あのお店で会ったから観に来たというお客さんがいる。そんなお客さんのことを蓮さんは「どこそこでお会いした方ですよね?」とちゃんと覚えているし、覚えてもらっている方もさぞかし嬉しいことだろう。そして、そんなお客さんが『逆光』を観に出町座まで来てくれていることを知ると、ここ1ヶ月ほどの、僕らの遊んでいるかのような努力がとても救われる。

 何より、須藤蓮は自分の作品を届けることを第一に、そのために何ができるかを考え、行動する。しかし、その中で他人を巻き込みながら、おもしろさを共有してくれる。僕らはそのおもしろさを求め、しっかりと受け止めながら、さらに多くの人に拡散していきたいという思いで、何か形のある見返りなんて求めずに動き回っている。ずっとこの人と一緒に動けたら楽しいに違いないと思えるのだ。ついて行きたくなる人なのだ。

 とてつもなく気さくで、いばったりすることのない須藤蓮は、2ヶ月前にはじめて出会った俳優だとは思えない。3年前から仲の良い大学の先輩みたいな距離感で、毎日一緒に動いている。なので、六曜社珈琲店にいって同じテーブルに座ると、店内に貼ってある『逆光』ポスターのキャラクター・晃がぼくの目の前にいたりして、ものすごく不思議に思える時があるのだ。




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