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僕と侍ジャパン

僕は日の丸を背負い、侍ジャパンの一員として世界と闘うことが夢だった。中学の野球部を引退してからなので、7年ほど野球から離れた生活をしているのみならず、中学時代はまともに試合に出たことがないとは言え、小学生の頃は地域のソフトボールチームでは毎日練習を頑張って試合に出ていたし、高校時代は模擬試験が終わる度、さびれたゲームセンターでゴムボールを手に入れ、友人と近所の川べりでキャッチボールをしていた。なので、ひょっとすると栗山監督から連絡があるのではないだろうかと、微かな(本当に微かで、それはもう、「ね」の形をした10000匹のアリの中から「れ」の形をした1匹のアリを見つけ出すくらいの微かな)期待を抱いていたのだが、もはやそれは叶いそうもない。それでも鈴木誠也が怪我で辞退した時には、「代わりは大成」というネットニュースを見たので、「ついに来たか」と沸き立ち、野球道具を揃えるためにスポーツショップに行こうと思い、やっぱり金欠だしなぁと悩んだけれど、それは福岡ソフトバンク・ホークスの牧原大成のことであった。非常に惜しかった。


というのはまぁ、もちろん冗談だけれど、今回のWBCを人並み程度に楽しみにしていたことは紛れもない事実である。もっと早くから侍ジャパンに注目しておけば、京セラドームで行われた強化試合のチケットが取れたかもしれないという後悔はあるものの、宮崎で行われたキャンプや福岡ソフトバンク・ホークスとの練習試合はハイライトでしっかりと観た。そして、中日ドラゴンズ・オリックスバッファローズとの壮行試合やその後の日本の試合の全てがAmazon Primeで配信されることを聞くやいなや、スケジュール帳に試合の日を全て記載し、それに基づいてバイトのシフトを組んだりもした。そしてWBCの試合がある日には飲み屋を飲み歩くことを我慢し、試合開始に間に合う範囲で寄り道をしながら帰宅し、プロジェクターを起動させて試合の映像を自宅の壁に映し、食事の用意をして酒を飲みながら日本を応援する。それくらい僕は、今回のWBCを心待ちにしていた。


今、この文章を書いているのは、準々決勝でイタリアを破った翌日だ。フランスやイタリアの人が野球をしているイメージは全くないから、なぜイタリアが予選を勝ち抜いてきたのかと疑問に思ったのだけれど、実はほとんどがアメリカ出身で、アメリカで野球をしているイタリア人なのだという。言うなれば、みんながヌートバーのチームだということだ。日系人初の侍が、NPBで名をなした選手に混じって大活躍をするから盛り上がるのであって、全員が全員ヌートバーのチームをイタリアに住むイタリア人はどのような心境で応援しているのかと不思議に思うのだけれど、まぁ日本はいつも通り安心安全の大量得点で勝ってしまったから、きっとこのままの勢いで優勝してくれることを願う。


一方で、毎試合「テレビの前」ならぬ「壁の前」で観戦している僕だけれど、毎回途中で寝てしまうのだ。起きている間は緊張感のある試合をしていても、気がつけば大差で勝ってしまっているので、なんだか味気がない。イタリア戦に関しては、ダルビッシュが登板していたことを翌日の朝にハイライトを見て知る始末だ。野球を観ていれば、そりゃ酒が旨いわけで、ハイボールや焼酎がグングン進む。酒がグングン進めばそりゃ眠たくなるわけだから仕方がないと言えば仕方がないのだけれど、なんとかならんのかと思っていると、なんと、準決勝からはアメリカで試合をやるらしい。ありがたいことに日本時間午前8時のプレイボールだ。と喜ぶのも束の間、試合日程をスケジュールに書いたとはいえ、まさか朝から野球を見るとは思っていなかったので、どちらも10時からバイトという有様。つくづく僕は、侍ジャパンに縁がないらしい。

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