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企業内法務担当者向けアカデミック活動のススメ

みなさん、おはようございます!
法務の飯田さんからバトンを頂き、法務アドベントカレンダー15日目を投稿します。
なんとなく、内容もバトンをつなげるものになった気がします。若い(キャリアとして)ころ、あんな視点もってなかったなあと、飯田さんの発信を見ていて、いつも襟を正す思いです。
企業で法務やら知財を担当しているoga10ruといいます。渋谷の片隅で日本版ファッションローをひっそりと叫んでいます。

さて、よくある法務に限らずキャリア論として、他の(法務)パーソンと何が差別化できているのか、というものがあるかと思います。その文脈で考えた時に、私にとってはアカデミックな活動(法学系学会での発表や会の運営、論文発表)が、あるなと考えています。
この分野で、大した業績があるわけではないのですが、実務に活きる知見を得られたことはまちがいなく、長期的にみてこの活動が今の自分を形づくる要素であることは、まちがいないと思い、今年のアドベントカレンダーは、このようなテーマで書いてみたいと思います。まず、最初にこのnoteでお伝えしたいことは、

少しでも興味があったらアカデミックな活動しませんか?こわくないよ! 

です。何か尖った、人と差別化できる強みを持ちたい、その手法を模索している・悩んでいるという方には、よいきっかけになるのではないかと思います。また、もともと興味があるんだけど、なんか閉鎖的でこわい、えらい先生に気を遣ったりしなきゃいけないのでは。。とか、そういった点もあったりするのかもしれませんが、私もあらゆる事情を知っているわけでもなく、実際そういう面もあるかもしれませんが、可能な限りそんな不安も払拭できればと思います。
それでは、ご興味をお持ちの方は、少しの時間、お付き合いいただければと思います。なお、今回、アカデミックな活動は、いわゆる学会での研究活動を中心的に指すものとしてお話します。

1.私のアカデミックな活動

まず、私が、所属している学会は、以下の通りです。著作権法学会以外は、すべて会社員になってから、入会しています。

・著作権法学会
・工業所有権法学会
・知財学会
・ファッションビジネス学会
 他、知財系の協会等の研究会等の活動の少ししていますが割愛

こういった学会へのかかわり方として、(1)研究会に参加する、(2)研究発表をする、(3)論文を投稿する、(4)運営に関わる などがあります。私は、ここに掲げた学会のうち(1)のかかわり方を基本としつつ、 知財学会に関しては、(1)~(4)すべてのかかわり方をしています。それぞれについて、どんなことをするのか、まずは、ご紹介してみたいと思います。

(1)研究会に参加する。
これは入会さえすれば(場合によっては、フリーな研究会もあります)、ほとんどの場合可能です。法学系の研究会の場合は、判例研究、制度研究等が多いように思います。参考に、後述の学会の最近の研究会のテーマを拾ってみましたが、どうでしょうか、ちょっとでも気になるものはありますか?

「タコの滑り台事件」判例研究会@著作権法学会
「ファッションローと文化の盗用」@知財学会(ブランド経営分科会)
経営デザインシートの事例研究@知財学会(経営デザイン分科会)
誹謗中傷対策、新プロバイダ責任制限法(発信者情報開示) @法とコンピューター学会(総会)

一般的には、発表者がテーマについて発表し、発表者と参加者(大学の教授・学生・研究者、弁護士、弁理士、企業担当者)の間で議論し、意見交換、知見を深めていく形です。だいたい二時間くらいが多いように思いますが、コロナ禍前はその後の懇親会で延長戦なんてことも。コロナ禍で多くの学会がオンラインでの研究会の開催をしており、参加のハードルはかなり下がっていますし、学会に所属しているからといって参加の「義務」があるわけではない(ところが多い)ので、興味のある発表の時に参加してみるというのでも十分だと思います。このコロナ禍でオンラインとなり、会場費がかからないためか、無料のものも多くなっております。

②研究発表をする。
こうなると、かなりハードルは上がります(笑)いきなり研究発表するというのは、難しいですし、例えば、判例研究などは、(私自身も不十分ですが)ある程度の型のようなものがあり、特にハードルが高いかもしれません。ここは、何度かいろんな方の発表や論文を見ていくことで、なんとなく習得していくことができるのではないかと思いますし、あとは、習うより慣れろ、で、何度かやっていくうちに、それなりになるのではないでしょうか。この点、一見、様式美のように聞こえてしまいますが、議論をより充実させるために必要な情報を揃えるようなもので、企業における仕事(リサーチ報告など)と本質的にはかわりないと思っています。

③論文発表(投稿)をする。
アカデミックな活動のひとつの成果として研究内容を論文にまとめて投稿し発表するということがあります。査読(審査)があるのが通常であり、必ずしも発表の機会を得ることができるわけではありません。しかし、研究としてひとつのゴールであり、このゴールに向けて、発表を行っている方も多いと思います(大学の研究者の方は、基本的にそういるプロセスを踏まれています)。基本的には学会誌に掲載されます。(学会に所属すると年会費を払うことになりますが、ほぼこの学会誌代のようなもので、本一冊分購入したら、研究会にも参加できるような感覚です?)

④運営側に回る
私自身は、いくつかの立場で運営側に参加をしている学会がありますが、例えば、所属学会で分科会等を立ち上げたり、事務局を仕事をしてみたり、より当事者としてかかわっていく方法です。勉強や研究が好きというところとは、少し別軸の活動になりますので、ここまでのかかわり方するということは非常にレアなケースとは言えますが、興味のある分野で、研究活動自体が広がって欲しい、その分野で業界全体に影響を与えていきたいというような場合は、こういった選択肢もあります。

2.企業法務担当者の視点で活動を通じて得られる、得られたこと

では、実際に、企業の法務担当者がアカデミックな活動をする価値や意味、メリットなんてあるの?というお話をしてみたいと思います。

①専門性が(飛躍的に)あがる
これはどの程度のかかわり方をするかによるところではありますが、まちがいなく参加している分野の専門性が上がります。もちろん、書籍、セミナー、インターネットの記事等で学ぶ機会は多くありますが、アカデミックな場で学ぶ場合、研究である以上その網羅性は非常に高く、また、当該分野の高い専門性を有している方向けに自論を展開するため、情報の質・量ともに非常に高いです。そんな場に、企業の法務担当者に居場所があるのかという懸念もあるかもしれませんが、むしろ、企業の担当者の実務に即した意見や考え、実体は非常に求められていて、期待されているところだと実感しています。多くの研究者(士業の方も含みます)が、机上の空論にせず、意味のある議論をしようと企業実務家の話を真剣に聞いてくださいますし、実務を本当に知りたがっています。
また、一歩すすんで、自分で発表しようとなった場合、その分野の判例、文献を可能な限り大量に短期間に読みますし、ひとつの結論を導くために集中的に検討をしますので、ブートキャンプのような形でインプットすることになり、かなり力がつくといえます。実際の発表の場面では、聞いている側からの質問に対応していく中で、より深く検討することができます。この過程で、論理的なコミュニケーション力も磨かれるかもしれません。複数の部員を抱える企業であれば、部門内でこういうブラッシュアップをする機会があるかもしれませんがが、このような出稽古をすることで、新たな知見・成長の機会をえられることは、経験的に基づくものですが保証します。また、会社の外で通じる知見を得ることで、所属企業に価値を提供できるのではないかと思います。
また、(後述することに関わりますが)知財情報の活用の領域で非常に熱心に学会発表やSNSでの情報発信されている野崎さんがよくおっしゃっていますが、情報発信しないと、情報は集まってこないということがあります。知識や情報は、企業法務担当者にとってまさに商売道具ですから、SNSに限らず、研究発表という形でも発信し、情報を得て、また、発信するというサイクルで最新の情報に触れながら、専門性を磨くことができるのかなと思います。

②ネットワークが広がる
コロナ禍この点は、本当にマイナスなのですが、通常は学会・研究会は、その分野の多種多様な専門家があつまる場ですので、ネットワークを広げる非常によい機会です。その場で知り合った方々とその後、(飲んだり)勉強会を開催したり、知り合った弁護士さん(と飲んだり)にお仕事をご依頼することになったりすることもあります。実際の研究発表や論文を拝見した上でご依頼することになりますので、どういうところに強みをお持ちなのか、ご経験が豊富なのか、かなりの確度でわかった上で、ご依頼することができます。学会の年次大会(年1回の大きな研究会)などは、著名や先生方も多くいらっしゃいますので、そのような先生方に自分の発表や考えについて、ご意見を伺えたりと勉強になります。いまのところ冷たくあしらわれたことはありませんし(笑)、研究目的で集まっていますので、非常に好意的にお話を聞いていただけます(あ、あの○○法の○○先生だ!みたいなミーハーな気持ちで話しかけたりも。。)。むしろ、こんな若者(この業界においては。。)から何か知見を得ようと質問されることもあり、もっと勉強しよう。。。。。。と帰り道、途方に暮れることがあります(笑)
あと、個人会員として参加をすれば、基本的に所属組織が変わっても、継続して参加できますので、転職等によって断絶することなく、基本的には個人のネットワークとして、関係を継続することができると思います。

③名刺代わりになる(お仕事につながる)
研究発表を重ねていくと、対外的に、なんとなくこの分野にこの人強い(興味がある)のだなと思ってもらえやすいというのがあります。今ですと、SNS上の発信がありますので、SNSに代替できる分野ではあるかも知れませんが、この分野に強い人と思ってもらえると情報が集まってきやすく、かつ、取りに行きやすいということがあります。企業の法務担当者にとって、この分野に強いと対外的に思ってもらえる場面というのはそう多くはなく、長く特定の分野で頑張っていきたい場合、長期的にみて、かなり大きな収穫な気がしています。例えば、私はファッションローの研究活動をしていますし、論文発表もしていますが、かなり多くの場面で、ファッションローやられている方ですよね、とか、論文読みましたよと言っていただける機会があり、それを入口として、多くの知見を頂いています。あと、研究がお仕事になっている方が多いことが大前提にありますが、技術系の方は、企業に所属していても当たり前に学会発表されていると思いますが、それと比較をすると、法学系でアカデミックな活動をされている企業の方は少ないかもしれません。その意味で差別化要因ではあるかも知れません。また、年に何回か大学の授業を持たせて頂くことがあります。こういった機会は、(ここら辺はあまり詳しくありませんが)アカデミックな場で発表等しているかということは、お声がけを頂く要素の一つになっているようです。

④視野(知見)が広がる
①が縦のベクトルだとすれば、これは横のベクトルです。学会に参加していると、いろいろな研究会開催の連絡を頂きますが、今、現在興味のない(伸ばそうとしていない)分野のものも当然にあります。例えば、私の場合は、今現在関わりのない分野である特許の分野などです。学際的な学会であれば、マーケティングやデザインなどもあり得るかも知れません。こういった他領域へのアクセスがしやすくなるメリットがあります。特に、学会の年次大会ですと、多くの様々な発表を見ることができますので、「ちょっと覗いてみる」ことで、特定のトピックについては、なんとなく知っておくことができたります。こういった「ちょっと知ってる」領域を多方面に広げておくことは、企業法務担当者は、部署移動、会社の方針等で担当領域が大きく変わり得るという性質があるので、意外と有効なのではないかと思います。その点で、転職の場面でも、有効かも知れません。
この視点で、法学系以外で、かつ自分の所属に関わる領域の学会に参加するのも面白いと思います。私の場合は、ファッションビジネス学会がその位置付けですが、法領域ではないテーマ、例えば、サステナブルファッションや、アップサイクルといったビジネス上の重要なテーマについて、アカデミックに学ことできる機会として重宝しています。

⑤ロビイングへに参加できる
特定の産業の立場として、法改正を訴えたい、制度を変えていきいといういわゆるルールメイキングの仕事をしていきたいということを考えている方もいるかも知れません。一般的には、業界団体からの発信等で関わっていくことが多いのかも知れませんが、学会として意見表明することもあり、アカデミックな活動の中で、関わっていくこともできるかも知れません(ヒアリングを受けたことはありますが、私自身はあまり関わってこなかった分野ですので、的外れでしたらすみません)。

3. まとめ

少し長くなってしまいましたが、自分の活動で得られたことが少しでも伝わり、何かのきっかけになれば嬉しいなと思います。興味を持っていただけた方は、コメント頂ければ、とても嬉しいです。
色々良い面を書きましたが、もちろん、良いことばかりではなく、一生懸命やろうとすればするほど、土日が潰れますし、会社としてこういった場での活動が認められていない方もいるかも知れません。また、アカデミックな活動をするというのは、やはり大変なことで時間も取られます。しかも、すぐに多くの何かを得ることができる性質のものではないので、必ずしも万人にとって良い方法ではないのかも知れません。しかし、長期的な視点で関わっていて損の無い分野かなと思います。私自身も仕事や家庭の事情で数年離れていたこともありますし、今ほど、主体的に関わっているのも、この4−5年の話ですが、研究会の参加だけは、学生時代から細々と続けて来たものが、この数年で、少し形にできてきたという印象です。あと、業界団体の活動でも似たようなことが得られるかもしれませんが、この辺りは、私はあまり詳しくありませんので、その点もコメントいただけると嬉しいです。

アカデミックな活動にふれてという事で、最後に、弁護士として、企業法務パーソンとして、そしてアカデミアとしても活躍されている中川先生が以前ツイートされていて、私がとても感銘を受けた国立図書館法の前文を掲載しておきたいと思います。学ぶ・研究するのであれば、この言葉は心に刻んでおきたいと思いました。

「国立国会図書館は、真理がわれらを自由にするという確信に立つて、憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与することを使命として、ここに設立される。」

4.補遺

私が所属している学会や知り合いが参加している学会、興味をもっている学会リンクを貼っておきます。(他にも、おすすめのものがあったら教えてください!)

法とコンピューター学会
情報ネットワーク法学会
情報処理学会
情報法制学会
著作権法学会
日本ベンチャー学会
工業所有権法学会
日本知財学会
日本労働法学会
日本消費者法学会
日本経済法学会
※入会には、会員の紹介が必要な場合があります。

次は、みみずくさんです!!

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