『口笛』 (2021/07/26 2:32)

ーーー男はベンチに腰をかけている。

町外れの路肩にある小さなスペース。備え付けられていたベンチは朽ち果てており、強い衝撃を加えると崩れてしまいそうだった。
歩き疲れていた男は、慎重に腰をかけた。すると、見た目ほど座り辛さはなく、男の体重をしっかりと受け止めてくれた。

男は遠くを眺めた。
目の前には国道が敷かれており、休むまもなく車が走っている。その数メートル先、ほんの少し上の虚空を見やると、畑や林などが目に入った。
ぼんやりと眺めていると、やがてその景色に飽きてしまったので、さらに上の方を見やった。今日は入道雲が大きく発達するような、気持ちの良い夏晴れであった。

風が吹き、雲が流れていく。その様を見届けているうちに、いつしか足の疲れはなくなっていた。男は立ち上がり、再び歩き出した。


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