【最終話】06 理想

洋一「…矢吹さん」
うつろな矢吹の目を見つめ、矢吹の頬にそっと触れる洋一。
※※前回の続き※※

戦車は洋一の近くまできて止まる。洋一、矢吹の顔を触り、抱き抱える。この世の終わりを感じて、涙を流す洋一。その背景で、戦車から銃が乱射しており、校舎の玄関のガラスを破り破壊していく。
戦車の動きが止まり、女が洋一を見ている。女は、青髪に白に近い金髪が混じった派手な髪色に、アニメに出てくる美少女戦士のような派手な格好をしており、サングラスを外した。その顔は、黒田優菜。
そこに走ってくるめりと瑛二。
めり「洋一」
洋一に近づくめり。振り向いた洋一はポロポロと涙を流しており、洋一の手はボロボロの矢吹の顔に添えられていた。
めり「…矢吹」
瑛二「ぎゃああああ!!おい、どうすんだよお」
瑛二、ふと顔を上げ戦車を見る。
瑛二「……優菜?」
優菜「…」
瑛二「優菜、優菜!!よかった。無事で」
優菜「……話しかけんじゃないわァ!!!!キラキラスイートマジカルパワー!!!」
瑛二「……え」
優菜「邪魔しないで」
瑛二「優菜…」
優菜「こんの悪党め!変身★……フォワーーーーー!…ブッ。ははは。人生最高。今の私最高!!この世で生き残るのは私!絶対に私〜〜〜!!だから邪魔しないで。もう私は自由なの!今までの私とはオ・サ・ラ・バしたのよ!!ムーンプリズムパワー★!!!ワッハッハッハ!」
瑛二「悪党…?」
そこで戦車から出てくるジャーマン(薔薇をくわえた派手なおじさん)とテマ(チャイナ服を着たコスプレ少女)。戦車のエンジンがかかる。
ジャーマン「優菜ちゃんもうそろそろ、もう一度、発車、するかい?明るい未来のために」
テマ「賛成ダヨ〜オナカスイタヨ〜〜タマンネヨ〜」
優菜「そうね。私たちだけで生きていく世界を、作るーーー(ジャーマンにキス)んーまっ」
そこで現れる加藤。飛びつく瑛二。
瑛二「加藤さん!!最悪だ…なんだよこれェ!優菜が、俺の優菜が…矢吹さんみたいになっちゃったんだよおおお!!!」
加藤「ハハハ」
矢吹「……失礼だろ(吐血)」
そこに現れるジロー。
ジロー「すんません。やばいなんか当たったっぽい。ウンコが止まらん。……あれ?優菜やん」
戦車が誤操作で急発進、銃を乱射し暴れる。
テマ「オヨヨヨヨ?」
ジロー「え」
優菜「キャーーーー!!ジローちゃああん」
少し逃げるが、思いっきり乱射され引かれるジロー。ぐちゃぐちゃになり、漫画みたいに飛んでいく。
ジロー(M)「終わるときは終わるんだ。何事もそうだった。始まらない時は始まりもしない。あと、俺はなんとなく、アホみたいに呆気なく死ぬんだと思った。」
【46】畳の部屋。ジローの幼少期
浦安鉄筋家族を読む、幼少期のジロー。寝そべりゲラゲラ笑う。
ジロー(M)「そういえば一生アホだと思われたかっただけだったし。売れなくてもそれでよかったんだった。」
【47】お笑いライブ 舞台袖楽屋
ジロー、ぶつぶつと相方の七瀬(30)と小池(32)ネタ合わせ。
七瀬「今のちょっと早いな」
ジロー「俺もっとふざけたほうがいい?」
やる気のなさそうな小池。「おん」しか言わず、スマホをいじっている。
スタッフ「耳毛シンドロームさん出番です」
七瀬「もう出番だ、仕方ない(漫画走りのジェスチャー)」
ジロー「漫画の走り方」
【48】ジローのバイト先の工場
死んだ目をして作業するジロー。お婆ちゃんに肩を叩かれ、飴を貰う。会釈するジロー。
【49】ジローの帰り道
ヘトヘトで夜道を歩くジロー。ふと電話が鳴る。相手は優菜。
ジロー「はい」
優菜(声)「ジローちゃん今暇でしょ」
ジロー「暇ちゃうわ。俺も忙しいねん」
優菜(声)「強がんな」
ジロー「一応用件をおっしゃれ」
優菜(声)「ご飯行こう」
ジロー「…しょうがないな行ったるわ」
優菜(声)「いつも来てくれるのわかってるよ」
財布の中を確認するジロー。中身は二千円しかない。空を見上げ、ため息をつく。少し微笑むジロー。
――――――――――――――

【50】校舎入り口
急ブレーキをかける戦車。
めり「ジローちゃん!!!」
血塗れで倒れるジロー、めり、泣き叫ぶ。
戦車から飛び降りる優菜。恐る恐るジローに近づき、顔を優しく触る。ジロー、嘘みたいに顔が血塗れのまま動かない。ボロボロと涙を流す優菜。
優菜「ジローちゃ…」
加藤、バズーカで戦車を消し、ジャーマンとテマは吹っ飛ぶ。
加藤「…すまん矢吹」
矢吹の近くに落ちていたマシンガンに持ち替え、洋一を突き飛ばして、矢吹を乱射する。小さくなる奇声をあげる矢吹。悲鳴を上げるめり。
めり「もうやめて!!!もうやめて!もうやめろよ!!!」
加藤「何を」
めり「もう終わるんでしょ!!いっぺんに終わらせてよ!!!」
洋一「…めりちゃん」
優菜「うううう」
優菜に近づく瑛二。ジローを見て涙を飲み、優菜を無理やり強く抱きしめる。
瑛二「大丈夫、大丈夫だよ…俺が守ってやるから。どうしちゃったんだよ。」
優菜「…離して」
瑛二「大丈夫。怖かったよな。俺が…いつもの優菜に戻っていいよ」
優菜、瑛二を突き飛ばし、思いっきり蹴りまくる。
優菜「うるせえんだよ!!ああああアアア!!!もう!!ジローちゃんが死んでんだぞ!?瑛二のそうゆうところに本当にうんざりなんだよ!!!!…君…いつも偽善者で理想主義で…うああああきめえんだよ!!!このエゴイスト…」
少し沈黙。優菜、座りこみ、ジローを泣きながら抱きしめる。ジローの目が少し切なく開いている。腰を抜かしたまま何も言わない瑛二、情けなく涙を流す。優菜を見つめる。
優菜「ごめん。……多分、瑛二のこと、好きになれなかったの私………ジローちゃあああん」
子供みたいに声を上げて泣く優菜。
そこに白い光が放ち、少女戦隊ものに出てきそうな巨大な怪獣が現れる。巨大生物が優菜を軽々つまみ上げ、遠くに投げようとする。
優菜「キャアアーーーーーーー」
足をもたれ、プラプラ揺らされる優菜。
めり「優菜さん…!」
瑛二「あんなの…優菜じゃない」
加藤、それをボーッと見つめている。優菜を掴む怪獣の手元が大きく派手に爆発し、花火で「H A P P Y」とカラフルに模され、怪獣の手元ごと消える。血の雨が降る。怪獣の肩に矢吹がしゃがんでいる。小さな爆弾を持った矢吹が、怪獣の肩から飛び降り、自分が投げた吸収クッションにゆるっと着地。
矢吹「舐めやがってバカ女ァああ!!!こっぱみじんの刑!!!…なーに腰抜かしてんだ貴方たちい?!私言ったよな。ここからは順番だ。もう終わるんだよ!言ったよね〜終わるよーん!!さっさとキャンプの続きでもやれ!急げェ!キャハハ」
影から矢吹の様子を見る、杏とめい。表情を変えない、ジローの死体を見て、めい、えづく。涙を一筋流す、杏。
瑛二「あんなの…別人だ。優菜じゃない」
洋一、悲しそうに瑛二を見る。
――――――――――――――

【51】エレベーター
エレベーターに乗る優菜。瞳にはこれまでの全てが、映画のフィルムのように映し出される。
【52】優菜のオフィス
 綺麗なオフィスの一角。シャンプーや香水、石鹸など匂いにまつわる広告のポスターが壁に張り巡らされている。パソコンで資料を作る優菜。そこへ電話が鳴る。受話器をとる優菜。
優菜「お電話ありがとうございます。パリソナメシュお客様センター、黒田でございます」
クレーム「おお、やっと出たか。お宅の石鹸と入浴剤、使っているもんだけどね」
優菜「いつもご利用ありがとうございます」
クレーム「臭いんだわ」
優菜「…臭いと言うと、香りが強いと言うことでしょうか」
クレーム「好きな匂いじゃない、言うてんの」
優菜「左様でございましたか。ご不快な想いをさせてしまい大変申し訳ございません」
クレーム「いい匂いかと思うて、家族みんなでたくさん使って、家中その匂いなんじゃ」
優菜「申し訳ございません。恐れ入りますが、定期購入の会員様でしたら、お客様番号かお名前をお伺いしても…」
クレーム「うちに、掃除にこい」
優菜「…恐れ入ります、そう言ったサービスは出来かねておりまして。」
クレーム「こびりついた匂いをどうにか責任とってくれないと困る」
優菜「申し訳ございません。ご家庭に伺うことは出来かねますので、」
クレーム「なんでじゃ、お前はこんな気持ちになったことなかろ。今回はイレギュラーなんじゃから来てくれ」
優菜「申し訳ございません、そういった対応はできかねまして」
クレーム「バカかお前は?!同じことばっか言いやがって。契約してやってる相手に対して」
優菜「大変申し訳ございません」
クレーム「お客様の目線に立ったらわかるだろ、不安なんじゃこのまま部屋と、ワシの鼻の中がこの匂いになってったらどうしてくれんじゃ、このまま死ねってか」
優菜「大変申し訳ございません」
クレーム「申し訳ございませんしか言えないのか。マニュアル通り話しやがって」
謝りながら手元で違う資料を作る優菜。顔と声だけは謝っている。
【53】休憩室
休憩室で弁当を食べる優菜。色とりどりのオカズが、綺麗に詰められている。瑛二からのLINE【今から稽古。お腹すいた】の後、目をウルウルさせたスタンプに【夜ご飯カレー希望】。
そこに職場仲間のふくよかな女性、ユマが向かい側に座る。
ユマ「おっつかれさまでーす」
優菜「あ、お疲れ様」
ユマ、食べ方がぶりっこ。
ユマ「いっつもすごいですねーお弁当。彼氏の分も作ってるんですか?」
優菜「まあ、そうね」
ユマ「結婚しないんすか?」
優菜「まあいつかはしたいけど」
ユマ「ですよね〜〜私も、結婚するなら今の彼氏かなって思ってて。黒田さん彼氏さんいましたもんね〜〜(声が大きい)」
優菜、ユマの食べ方が気になって自分の弁当に集中できない。
優菜「ちょっと今日生理痛重くて。ご馳走様、お先に」
ユマ「もったいなーい。大丈夫ですかあー?食べてあげましょうか〜?」
そこに通りかかる部長。
部長「黒田、お前顔色悪いんじゃないか?」
優菜「ああ、ちょっと貧血で」
部長「そうか〜。無理するなよお。でさ、休憩中にごめん。次の販促のデザインの件で、後で話があって」
優菜「はい、あ、休憩明けに打ち合わせですよね」
部長「そうなんだけど」
優菜「あ、じゃあ、…今じゃなくても」
不気味に口元が緩む部長。距離が近い。そのまま片方の口角が耳までさける。
部長「無理しないように」
優菜「はい」
真っ暗になる休憩室、スポットライトに照らされ、だらしなくご飯を食べるユマ。首から上が静かに爆発する部長。
【54】瑛二と優菜の自宅
優菜、ヘトヘトでソファに座る。カレーの材料を持っている。寝落ちしてしまい、その間に瑛二が帰ってくる、
瑛二「ただいま」
優菜「あ、おかえり。えっ?ごめん。こんな時間。」
瑛二、ふとカレーの材料に目をやり、微笑む。
瑛二「一緒に作ろっか」
優菜「え」
瑛二「カレー」
時計を見ると、23時を回っている。
優菜「…今から?」
瑛二「ほら立って」
優菜、瑛二に手をひかれ立ち上がる。笑顔の瑛二。
優菜「…」
瑛二「俺疲れてんのに優しくない?…ふふ。まあ気にすんなってこんな時もあるよ。」
テレビをつける瑛二。優菜、時計を見つめ、仮面のように微笑む。テレビで、【美少女戦士セーラームーン】が流れる。優菜、それをじっと見つめる。
瑛二「いいのやってないな」
テレビを消す瑛二。
【55】居酒屋
ジョッキを思いきり置く優菜。隣にはジロー。
ジロー「割れるって。また荒れてるし」
優菜「いいでしょ。たまには」
ジロー「たまにはって。アホかいつもやんけ」
優菜「ジローちゃんが悪い」
ジロー「なぜ。どこが」
優菜「あー私ってなんなんだろ。なんなんだと思う?」
ジロー「うーんめんどくさい。いい顔しい。自爆」
優菜「酷すぎやしないか」
ジロー「美しい。素晴らしい。かっこいい」
優菜「ちょっと言い過ぎ」
ジロー「それがめんどくさい言うとんじゃ」
優菜「そんなこと言わないで」
ジロー「キャリアウーマンなんやろ、いいやんけ。瑛二は愚痴も聞いてくれへんのか」
優菜「…瑛ちゃんには言えないでしょ」
ジロー「俺やったらいいんかい。じゃ、帰るわ」
優菜「さよ〜ならあ」
ジロー「止めて欲しい〜今のは止めて欲しい〜お願いお願い。…ほらめんどいやろ。あんたは四六時中こんな感じです」
優菜「ひっどいなあ」
そこで運ばれてくる唐揚げ。
ジロー「唐揚げや〜」
優菜「唐揚げだ〜〜」
大喜びする二人。
優菜(M)「ああ。私はこうなんだ。ずっと、瑛ちゃんの前でも、仕事中でも、こうなれたらいいのに」
【56】瑛二と優菜の家 寝室
ベットの上の二人。ぎこちの無い気持ち悪いキスをする瑛二。
優菜(M)「ああ。言えたらよかった。瑛二のキス。お前の、キス。触り方、全て、面白くねえ。気持ち悪い。ああ、お前だよお前。下手くそ、思ってたのと違う。見てろこうやるんだよって笑って。」
瑛二の頭を無理やり抱き寄せ、熱いキスをする優菜。
優菜「こうやるんだよ」
優菜の目からは黒い液体が流れ落ちる。
【57】帰り道 ※【49とリンク】
夜道を歩く優菜。ジローに電話をかける。
ジロー(声)「はい」
優菜「ジローちゃん今暇でしょ」
ジロー(声)「暇ちゃうわ。俺も忙しいねん」
優菜「強がんな」
ジロー(声)「一応用件をおっしゃれ」
少しの沈黙。
優菜「ご飯行こう」
ジロー(声)「…しょうがないな行ったるわ」
優菜、笑顔でスキップ
優菜(M)「違うの。ジローちゃん」
【58】瑛二と優菜のアパート、前
アパートの外に出ると、街が破壊されており、振り返るとアパートは無くなっている。
急に真っ暗になり、優菜の視界が真っ白に消える。
【59】地下の倉庫
目を覚ます優菜。見知らぬ倉庫で寝ており、そこにはドラァグクイーンや女装したおじさん。コスプレイヤーが薄暗い中で身なりを整えている。歌を歌うものもいて、きらびやかに見える。倉庫なのにミラーボールがあり、その中にジャーマンとテマもいる。
優菜(M)「世界は終わるんだと、感じた。私は、私らしく」
《ジローの笑顔》《瑛二のキス》
真剣な顔で、涙を流す優菜。
優菜「なんで、なんで…終わる前に変わらなかったんだろう」
テレビが置いてあり、そこに映るのは少女アニメの【セーラームーン】。
優菜(M)「髪くらい染めたらよかった。好きな服くらい選べばよかった。すぐ出来たはずなのに。大きな声で言えばよかった、憧れてるもの。好きなこと、面白いと思うもの、セーラームーンになりたいこと。」
※変身シーン 優菜、美少女戦士に変身


【最終話】07 どうしようもない人間たち

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