【最終話】07 どうしようもない人間たち

【60】校舎入り口 ※【50】続き
雨が降ってくる。杏、めい、校舎に入ってくる。ジローの死体を触るめい。それを見る加藤。杏、加藤をゆっくり睨むように見つめる。それに気づく加藤。
加藤「最後の雨だな」
見窄らしい顔で泣きながら、矢吹に飛びつく瑛二。
瑛二「優菜を返してくれ!!」
矢吹「消したばっかだっつの。またかよ」
瑛二「生き返らせてくれ。戻してくれ、…だって。矢吹さんだって俺の前で生き返ったんじゃねえか」
矢吹「私は創作者だからな、ボディのスペアが山ほどある」
瑛二「お願いします!!!」
矢吹「…おめえ友達はいいのかよ(ジローを指差す)自分の感情だけでわめきやがって、だから最終話でふられるんだよ。全員消すたび戻せ消すたび戻せってか。それじゃ延長するだけ!!!ブーーーー!!!(下品に唾を飛ばす)クソ人間(笑顔)」
瑛二「洋一だって生き返ったんだろ!俺は聞いたんだよ。お願いします」
矢吹「ヤーーー!うるさあい!!!!ヤー!!!…ヤ〜♪…自分が死ぬまでは寂しいから一緒に居させろって?俺が寂しいから先には死んで欲しくなかったって?…お前は人のお望みのエンディングを勝手に書き換えようとしてるんだぞ。狂ってんだろお。……(急にめりを見て指を差す、笑う)」
瑛二、号泣。毛見に近寄り、弱々しく胸ぐらを掴む。
瑛二「お前神様なんだろ?もう一度、もう一度優奈にあわせてくれよ!それだけだろおい!!」
毛見「私は神だが、お前たちの思ってるような存在ではない。」
瑛二「ふざけるな!!…お前人でなしか?…お前も優菜とジローと散々関わっただろう?」
毛見「人の悲しみを決めつけないでくれ。」
加藤、毛見の泣き顔を思い出し、毛見を見る。
毛見「……お前の神はお前自身だ。…全員そうだ。信じがたいからみんな目を逸らしてるんですよ」
隅で肩を震わせて泣いているめり。それを見つめる洋一。
毛見「いいですか。私と目があったここにいる人間たちよ。自分のエンディングは自分で描いているものだ。それが無意識かどうかは、(洋一を見て)神のみぞ知る。」
洋一、ずぶ濡れで毛見と目が合い、矢吹にゆっくり視線を動かす。正面を向き、人形のように表情を変えない矢吹。声を出して泣く瑛二の泣き声が雨にかき消される。
加藤「…最後の夜だ」
矢吹、一点を見つめたまま動かない。

【61】近くの一軒家 風呂
風呂に入るめり。顔はボロボロ。
《家族で食卓を囲むめり》
《ジローの笑顔、優菜の笑顔》
涙が止まらないめり。天井を見る。
《樹の顔が浮かぶ》
堪えるも、どんどんこぼれ落ちていき、小さく子供みたいに声を出して泣く。
【62】近くの古い一軒家、居間
窓辺で黄昏れる洋一。風鈴の音が響く。部屋の隅には廃人のようになった瑛二が、寝転んでいる。洋一、スマホを取り出す。電波は圏外。着信履歴は母親でいっぱい。それをボーッと見つめる。
【63】校舎裏のプール 夜中
杏とめい、折り紙で作った手作りの魚釣りをしている。
めい「これがこんな暇つぶしになりますか?」
杏、眠たそうな顔をしている。
めい「最後の夜だって言ってた」
杏、うなずく。
めい「もしかして最後の晩餐、あのバーベキューですか」
杏、ニコッと笑う。
めい「確かに美味しかったですけど」
杏、鞄から急にチャッカマンと蝋燭を出す。
めい「おっしゃれ〜」
杏、誇らしげにそれを飾り付け。めい、紙の鯨が釣れて、それをじっと見つめる。
めい「なんだこれ、楽しいな!!…海行きたいな」
杏、手を止めて振り向く。めい、審判台に登り、立ち上がる。
めい「……二人で旅に出るってどうでしょう!」
杏、動きが止まる。
めい「最後っていうことだし、寂しいですもんね」
杏、少し戸惑った後、笑顔で頷く。
めい「決定!わーい!逃げろ逃げろ」
杏とめい、はしゃぎながらキャッキャとハイタッチ。鞄から花火を出す杏。めい、屋上を指差す。
そこに加藤が入ってくる。めい、杏、動きが止まる。
めい「…ここで師匠に見つかるとは最悪」
加藤「おい、面と向かって言うなよ」
【64】屋上
花火をする杏とめい。端に座って空を見上げ、星を眺める加藤。タバコに火をつける。杏、加藤を指差す。
杏「ヤンキー」
急に喋る杏に、目を丸くする加藤。
× × × × × ×

寝そべり、星を見る三人。加藤はウトウトしている。
加藤「静かだな…人間が急激に減ったからバグが収まってる。」
めい「…私たちももうすぐ、師匠か矢吹さんに消されるのかー」
加藤、起き上がり、めいを見る。めい、空を見上げたまま。
めい「星は綺麗だなあ」
加藤、なんとも言えない表情でめいと杏を交互に見る。
加藤「随分呑気だな。もうすぐ終わるかもって時に」
めい「師匠もね」
杏、微笑む。
めい「楽しかったです、師匠たちが作った世界。…でも私たち、海とか見たいなと思って」
加藤「…」
めい「逃げちゃおうかなって」
我が子を見るように、めいを見つめる加藤。
加藤「…海と、空と、この星空は、…俺がデザインしたんだよ」
めい「…すごい」
加藤「矢吹は、お前らの感情とか、生命の仕組みとか、終わりが来ることとか。もっと難しくて…大変なものを作った。俺はただ、想像しただけなんだ…」
流れ星が光る。少し沈黙。ウトウトする杏とめい。
めい「…師匠。急に語り始めるのやめてください。」
杏、ウトウトしており、夢の中に迷い込む。
【65】杏の夢の中
杏とめいがヒーローの格好をしている、目の前には大きな怪獣。いかにも悪役。二人は、ポーズをとり、自分より遥かに大きな敵に立ち向かっていく。
神(N)「果たして、結末はいかに!次回!少女戦士ふたりはアンメイ!さらば友よ、最後まで戦い、地球を救え!」
【66】屋上
めいに起こされ目を覚ます杏。
めい(小声)「すごい顔して寝てましたよ」
杏、少し寝ぼけて、微笑む。
隣でアホみたいな顔で眠る加藤。めいと杏、目を合わせて頷く。

【67】近くの古い一軒家、居間
風呂上りの洋一、窓辺でビールを飲む。廃人のようになった瑛二が、寝転んでいる。めりが冷蔵庫を覗いている。
洋一「くう…。」
めり「…今日は絶対終わらないよね」
洋一「明日なんてすぐだよ」
めり「寝たくない。1日くらい寝なくても大丈夫だよね」
洋一「…最後の睡眠かもしれないのに?」
めり「…」
洋一「俺は好きだったよ。寝るってことが」
めり、洋一に抱きつく。
めり「起きて一人ぼっちだったら、……殺すかも」
洋一「怖いわ」
めり「こんな気持ちになるんだ」
膝を立てる洋一膝に顎を乗せるめり。洋一の顔を掴んで自分の方に向け、笑顔を見せる。
めり「最後の笑顔あげる」
洋一「…めりちゃんが俺を生き返らせたの?」
めり「…」
洋一「…おせっかいだな」
笑顔を見せる洋一。めり、困惑してから、嬉しそうに微笑む。徐々に大きく笑い声をあげる洋一。めりの顔を掴む。
洋一「最後の笑顔じゃないの?」
めり、つられて笑い声をあげる。ふたりで笑う。
洋一「ははははは」
めり「はははははは」
瑛二「うるせえよ!!!!!」
急に怒鳴る瑛二。ふたりは笑うのをやめない。瑛二、起き上がり二人を見る。洋一、瑛二に座布団を投げる。直撃。
瑛二「いて」
めりも便乗して近くのぬいぐるみなどを投げる。直撃。
めり「今日は、全部忘れちゃうんだよ」
瑛二、しばらく静止。動かない。そのうち涙を流しながら、洋一に座布団を投げ返し、切れそうな声で笑う。
瑛二「最後の日以外は、俺が一番明るいやつだったよな?お前らなんてめーっちゃマイナス思考だったくせに」
洋一「瑛二うるさいだけ」
瑛二「それがいいんだろ(泣き叫ぶ)」
めり「泣き虫だなあ」
瑛二「お前だって風呂で泣いてただろカス(泣き叫ぶ)」
めり「は?!なんで知ってんのよ!!!最低!!」
洋一「ははは。…平和だな」
風鈴の音が鳴る。

× × × × × ×

めり、瑛二は寝ている。眠れない様子の洋一。ただ目を開けて、たまに鳴る風鈴の音を聞いている。すぐ隣にはめりが寝ており、少し顔を見る。洋一に寄り添うような形で寝ており、それをじっと見つめる洋一。誰にも気づかれず、寝ながら涙を流す瑛二。
ふと起き上がり、スマホに文章を打つ洋一。机に置いてあった水を飲む。台所に現れる毛見。
毛見「エリートだよなあ矢吹と加藤は」
その声に、そちらを見る洋一。
スポットライトのように、台所の小さな電気が毛見を照らす。
毛見「加藤は空と海と大地と、この世をデザインしたんだ。思いやりと感性で。想像出来るか?」
洋一「…」
洋一、少し沈黙し、驚くこともなく見つめている。
毛見「矢吹は感情を、ルールを。痛みを悲しみを終わりを、作って、意味をもたらした。本当に賢くて本当は優しくて繊細なやつなんだ。お前たちはいくらでも幸せになれるはずだった。感情に名前をつけたりして楽しんでさ。怒り、悲しみ、喜び、幸せ、不幸せ。私は自分たちで作ったこの世で生きる人間に憧れていたのさ。最後にこの世界で生活ができたこと、忘れても、忘れきらないだろう。」
洋一「…憧れ(鼻で笑って)」
毛見「この世は、始まりから出来ていないんだ。知らないだろ。まるで始まりがあったみたいだ。素晴らしいよあいつらは。素晴らしいよ、この世は」
洋一「…いつだったか思ったことがある……人は痛いのが怖くて、恐怖が怖くて…飽きても自力で死ねない。それがなければ俺もこの人生に飽きて死んでたよ」
毛見「わかるよ。わかる。案の定、恐怖に侵食までされて再起動ときたもんだ。終わらせなければならなくなった。俺らを恨まないでくれよ。でもお前は生きている」
洋一「……もう飽きさせてくれていいよ」
毛見、瞳を輝かせ部屋の明かりを見つめる。
洋一「…あーあ。なんでもそうだ。…一話目と、最終話はなんでこう。なんでもそう。…そうゆうもんなんだよ。変にテンションが上がって……あんたにわかるかな」
毛見「愚かだ」
毛見、洋一を真ん丸の目でじっと見る。不気味に口角をあげる。
毛見「己で描いたシナリオの癖してまだ悲劇の主人公気取りだ」
洋一、毛見と目があったままじっと見つめ合い、しばらくして不気味に微笑む。めり、目が開いている。そのまま、目を瞑る。
――――――――――――――
【68】公園までの道
杏とめい、大きなリュックを背負って、ヘルメットのようなものを被り、静かな住宅街を歩く。めい、鼻歌を歌う。
めい「静かだね」
杏、頷く。
めい「お腹空かない?」
杏、首を振る。お腹いっぱい、のジェスチャー。めい、鞄からうまい棒を出す。
めい「いつ最後の晩餐になるか分からなくても、これでいい」
杏、目を丸くさせ、羨ましそうに唾を飲み、微笑む、
めい「半分あげますよ」
杏、嬉しそうにする。めい、一口かじる。
めい「パッサパサ」
杏「パッサパサ(嬉しそうに)」
公園の入り口がある。目を見合わせるふたり。進んでいくと、大きな池とボートがあり、灯りに照らされ水面が光っている。
めい「ここの明かりは、なんでつきっぱなしなんでしょう」
杏、水面を見つめる。
めい「私たちを待ってたみたい。海じゃないけど、綺麗だね」

× × × × × ×

ボートに乗るふたり。杏、必死でボートを漕ぐ。
めい「全然進まないなあ。運転手が悪い」
杏、スネた顔。頬を膨らます。
めい「そんなわかりやすくスネないでください。貸してみ。私がぶいぶい言わせてやりますから」
杏、オールをめいに渋々渡し、得意げに漕ぐめい。少し漕いでからすぐにオールを置き、ボートの上に寝そべる。
めい「疲れた」
杏、めいを睨む。
めい「あ、星がある。こんな時に」
杏、空を見上げる。星空。
めい「師匠がデザインしたって。不思議だね」
杏、じっと星空を眺め、深呼吸。
めい「…杏、私と友達になってくれてありがとう。最高です」
杏、起き上がりめいを見る。空を見上げたままのめい。
めい「…起き上がれません」
杏、微笑み、めいに手を差し伸べる。杏の手を取るめい。その瞬間、上から現れる巨大な怪獣。|(※杏の夢と一緒)の影に覆われ、ふと杏が上を見上げると、白い光を放ち、ボートが爆発する。
池の中に沈むボート。静か。
池はとても深く、溺れる杏。ふと目を開けて、必死でめいを探す。振り向くと、血だらけで肉だまりになっためいが目の前に浮遊しており、杏の手には、もげた めいの手だけが握られていた。杏、唖然としてめいの手を離し、肉だまりになっためいを見つめる。そのうち、次々と瓦礫が落ちてきて、必死で瓦礫に捕まり池から出る杏。ようやく池から顔を出し、岸までずぶ濡れのまま這い上がるように出たあと、あたりを見回す。薄暗い。
ボートが一台残らず破壊され、めいの姿はない。明かりは少しだけ灯っていて、あたりは薄暗い。何も無かったように静か。茫然と立ち尽くし、涙を流す杏。そこに加藤が現れる。
加藤「…悪く思うな」
振り向く杏。加藤に気づく。
加藤「あいつに頼まれた」
杏、一筋涙を流し、耐えきれず加藤を睨みつける。淡々と喋る加藤。
加藤「……木っ端微塵に」
杏、めいと最後に握った自分の手を見る。感触を思い出し唇を震わせ泣く、声にならない声を出して泣く。加藤、立ち上がり杏を見下すように見つめ、喋り始める。
加藤「お前は死ねない。……お前は前の世の創造者の生まれ変わりだ」
杏、加藤を睨む。
加藤「隠してたわけじゃない」
杏「…」
加藤「わかってたはずだ。お前が夢見たことは全部現実になっただろ。最初にあったときのお前らはヒーローみたいだったよ。」
杏、俯き、加藤を見ない。
加藤「時期に終わる。そしたら全て忘れるか、お前が選んだように進め」
加藤、杏の頭に手を起き、ポンポンとし、その場を去る。杏、涙を流しながら呆然と池を見つめる。そのまま寝そべり、星空を見つめる。
杏「…終わっちゃった」
【69】屋上※回想
屋上に寝そべり、めい、加藤は起きている。杏は寝ている。小さく寝息を立てている。
めい「…師匠、私たち旅に出るので。…途中で私だけぶっ殺してもらえますか」
加藤「…口悪いぞ」
めい「…最後のお願いです」
加藤「…」
めい「杏が死ねないなら、せめて杏の…トラウマになりたい。…私は最悪な人間ですから」
加藤「…お前」
めい「なんとなくわかってたんです。杏が、…私とは違う生き物だってこと」
加藤「…」
めい「私と居ることを選んでたこと……あ、知ってます。師匠もちょっと私のこと可愛がりはじめちゃってますでしょ」
加藤「自分で言わないでほしいもんだな」
めい「いいんですよ」
加藤「…」
めい「師匠は辛いこと、たくさん知ってて大変そう」
加藤「俺はそうゆう運命だから大丈夫だよ」
めい「…運命って、もし全部にあったら、最悪ですね」
めい、真剣に加藤を見る。目を逸らす加藤。
加藤「…」
めい「寝るのも最後だと思ったら、こんなこと言いながらでもちゃんと眠たいんですね」
【70】公園からの道
加藤、歩いている。少し経って、涙が溢れ出てくる。拭っても拭ってもぬぐいきれず、しゃがみ込む。
加藤「チッ…あーめんどくさい。誰だよ俺を人間にした奴は」
そのうち声を出して泣いてしまい、必死に泣き声を殺す。
加藤「…あーあ。…もう。…悲しくて仕方ねえ…」
空を見上げる。星空が光っている。声を殺して泣く加藤。

【最終話】08 愛よ友よ


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