【最終話】08 愛よ友よ

【71】めりの夢 白黒
静かな空間。遠くを見る矢吹の顔。徐々に背景が見えていくが、何もない。歌を歌う矢吹。
矢吹「ハッピバースデイ、トゥーユー。ハッピバースデイ、トゥーユー。」
遠くで矢吹を見つめるめり。顔はやつれてなどおらず、綺麗。
矢吹「お前は何も知らない」
矢吹、めりの顔を大切そうに触っている。
めり「…これで終わりなんて、あり得ない」
矢吹、顔を触るのをやめ、めりに背中を向ける。急に赤ちゃんのような口調になる矢吹。
矢吹「家族がいなくなったの」
めり「…家族」
矢吹、めりに背中を向けたまま、子供みたいに泣いたり笑ったりする。めりの前を、やつれた傷だらけのめりが、走って横切る。矢吹を振り向かせ、胸ぐらを掴む。
傷めり「返せ!!!全て返せ!!私の全てを!家族を!返せ!こんなの嘘だ!!私は終わらない!人生が本当に終わるなんて耐えられない!!こんなことだから!!働きたくなかった!!人に、気を使いたくなかった!!朝だって起きたくなければ、みんな嫌いだったの!!洋一を返して!!恋がしたかった!!!大人になんて、これだからなりたくなかった!!!!あああああ!!!」
矢吹「大人って|(鼻で笑い、傍観するめりを見る。)」
傍観するめり、傷だらけの自分をじっと見る。
矢吹「大人ってただの大きくなった人間よ。ただそれだけ。…お前のなりたくないものって?アハハハハ」
傷めり「笑うな!!!」
矢吹「自分の成長過程が気に入らないからってすぐ名前をつけんだよ、人間は愚かだから!!みじめだから!!!キャハハハハ」
傷めり「笑うな!!笑うな!!笑うな!!私は愚かじゃない」
矢吹「素直で可愛くて、どこか人と違うって?主役は私に違いないって?そう思ってる?この素朴な感じがいいでしょ?って?」
矢吹、傷めりを突き飛ばし、蹴りを入れ吹っ飛ばす。
矢吹「人格は見たものや聞いたもの、感じたものだ。目があった人間に説明されることだ。自分で説明できるようなことではない」
傷めり「黙れ黙れ黙れ!!!死にたい今すぐ殺してよ!!!なんでこんな世界にしたのよ!!!!」
矢吹「はいはいはいわーかーりーまーしーたあー。確かにお前は特別だ」
矢吹、傍観するめりにバズーカを向ける。一筋、涙を流すめり。
【72】近くの古い一軒家だったはずの空間
目を覚ますめり。汗をかき、動悸がすごい。そのうち、飛び起き、洋一と瑛二を探す。居間だったはずの空間は破壊された住宅街の空き地へと化しておる。
 
《アコーディオンの音。歌う矢吹の口元》
めり、飛び起きて辺りを見回す。次々破壊される住宅街。校舎さえも沈んでいき、瞳から泥の涙を流す大きな女がめりを掴もうと覗く。
杏とめいを襲った怪獣も既に瓦礫ばかりの住宅をぺちゃんこに踏み潰していく。
めり「洋一!瑛ちゃん!!!どこ!!!」
泣き叫びながら逃げ惑うめり。チンアナゴのような不気味な生き物は、高速で奇妙に蠢く。毛見の声が聞こえる。
毛見「恐怖を捨てろ」
めり、耳を塞ぐ。振り返ると、関節を曲げ走る、大量のカラフルな老人がすごい速さで近づいてくる。
めり「無理よ!!!」
そこで洋一の声がする。
洋一「めりちゃん」
はっとするめり。振り返ると、目の前から消える化け物たち。矢吹、加藤だけが目の前に立っている。
矢吹「選べ」
めりの背後には、いつの間にか洋一と瑛二もいる。
矢吹「おはようゥ♡……私が作った唯一の主人公は笹木めり、お前。…次の世の創作者となる。これは最初っから決まっていた」
めり「…何を」
矢吹「加藤が作ったのは…チッ。誰だお前(加藤に)目を腫らして人間みたいに」
加藤、少し無言。真顔で言い訳を考えている。
加藤「寝違えただけだ」
まじまじと加藤を見る矢吹。めりの方を見直す。
矢吹「お前だ」
瑛二を指差す矢吹。瑛二、自分が選ばれた嬉しさが隠しきれず少し笑みを浮かべている。洋一、それを見逃さない。
矢吹「二人しか連れて行けない、あとはさよなら」
矢吹、洋一にバズーカを向け、近づいていく。
矢吹「死にたかったって。最後はどう?(井上美嘉の口調)」
洋一「…」
めり「許さない!!」
庇うように手を広げ洋一の前に立つめり。表情を変えない洋一。
めり「洋一と一緒に生きるの」
矢吹「……何にしがみついてんだ?毎度お前はァ」
瑛二「そ、そうだよ!三人で生き残りたい!!ここまできたんだ」
洋一、瑛二のぎこちない表情を見つめる。
洋一「…」
矢吹「あらららららららあ。思い出にでも浸ってんのか。すぐ忘れるから大丈夫だよん。…全てに必ず終わりは来る」
めり「洋一もここでは終わらせない」
矢吹「生意気いうなガキ!!その日常も、悲しみも、恋愛感情ですら私が作ってやったんだぞわかってんのかァ!???」
そこに現れる巨大な怪獣と、その頭に乗る杏。加藤、振り返り杏と目が合う。勝利の微笑みを、うっすらと浮かべる杏の表情が加藤の目に印象的に映る。加藤を踏みつぶす怪獣。
矢吹「あ?」
杏、めりを見つめる。めり、見つめ返す、杏の口元が動く。
杏「伏せて」(めりに)
振り向くと、怪獣は消え、杏が矢吹に銃を突きつけており、一気に撃つ。
矢吹の頭が吹っ飛び、血しぶきが舞う。唖然とする、めり、瑛二、洋一。
瑛二「えっ…」
杏「想像」
めり「想像…?」
死んだ目をする杏の、表情を見つめる洋一、何かを悟る。洋一の背後に現れる毛見。
毛見「私の天才どもを」
とっさに毛見に襲いかかるめり、突き飛ばし馬乗りになり、数回殴ってから、首を締める。
毛見「神殺しだ、神殺し。神殺し、ダ。ワハハ。アヒヒイ」
瑛二「笹木やめろ!」
めり「やらなきゃやられる!!終わる!!!そんなの嫌!!!誰かに決められるなんて!!終わらせられるなんて…」
杏、洋一を見つめる。目が合う二人。
杏「…私は行く」
杏の口角が上がる。銃を乱暴に捨て背中を向け、歩いていく杏。それを見届ける洋一。矢吹の声がする。
矢吹「いい度胸だなア!」
周りを見回す瑛二、パニック状態。息耐える毛見。すぐに瑛二の背後に新しい毛見が現れる。
毛見「終わりとは、そうゆうことではない」
瑛二「ぎゃあああああ(毛見をぶん殴る)」
瑛二、近くに銃が落ちていて、拾い、毛見に向ける。手が震えていて、力が入らない。そのまま毛見に襲いかかり、叫びながら毛見を銃で殴る。
洋一「瑛ちゃん」
毛見「人間くさくて非常にいい。矢吹と加藤はやっぱり天才だ。神殺し、神殺し」
めり、瑛二を哀れみの目で見つめる。
めり「………私が消える」
矢吹「消えないのわかってるくせに」
めり「うるさい!!!どこにいるの?!矢吹!!!出てこい!!!」
洋一「…めりちゃん」
瑛二「笹木」
矢吹「終わりたい?そんなに終わりたいか?」
めり「嫌ああああああ!!!」
毛見「主人公」
めりの意識がプツリと切れる。
【74】白い世界
めりの視界がぼやけ、そのうちはっきりする。矢吹と加藤が椅子に座り、何やらゲームのような機械をいじる後ろ姿。
ゲーム画面には、ピクセルが荒いめりの絵が映し出され、神の声が聞こえる。
神(声)「矢吹はこの世でいちばんの悲しみを知っていました」
めり「誰?」
神(声)「今の世で、毛見(もうみ)と呼ばれていたものです」
めり「…悲しみを?」
ワクワクしながら瑛二とめりを作る矢吹と加藤の後ろ姿。そこで声が毛見の声に変わる。
毛見(声)「前の世で、矢吹の誕生日の日に矢吹の家族は心中した。矢吹は連れて行かれなかった」
めり「…それが…この世で、一番の悲しみ…?」
毛見(声)「いくつかあるエピソードにも聞こえるし、一番と言われるとピンとこないって?」
めり「…」
毛見(声)「傷つくことに、内容は関係ない。矢吹は、前の世の生物の中でいちばん傷つくことに詳しかった。幸せにも、不幸せにも、笑顔にも、泣き顔にも」
めり「矢吹が…?」
矢吹と加藤が、楽しそうにめりと瑛二を作るのを見つめるめり。矢吹は加藤とじゃれあっている。
めり「…ねえ」
めり、振り向く。
めり「……だから何なの?」
めり、一筋の涙を流す。
めり「…嘘かも本当かもわからないのに同情しろって?こいつらなんかに…?」

【75】食卓
お洒落な食卓で向かい合う矢吹とめり。テーブルはバカほど長いが、めりと矢吹しかいない。テーブルには豪華なステーキ、ケーキなどが並ぶ。矢吹はそれを上品かつ、乱暴に食べる。めり、それを見つめる。
矢吹「夢の中ってこんな感じだよな」
めり「…」
表情を変えないめり。
矢吹「こんなテンポな気がしない?」
めり「…食べながら喋らないで」
矢吹、動きを止め、上品に口を拭く。
めり「…あんたはさっき、杏ちゃんに」
矢吹「…(めりを見る)」
めり「ぶち殺されたはず」
矢吹「…口悪くなったこと。めりは、何をしたら満足なの?最後の晩餐を用意した。」
めり「名前を呼ばないで」
矢吹「おお。こわ」
めり「普通みたいに喋らないで」
めり、涙ぐみ、涙を流す。
矢吹「あーあ、また泣いてんの」
めり、矢吹に思いきり手元にあった布を投げる。
めり「辛いの。お母と、お父と、タツキにも。ジローちゃんにも優菜さんにも、もう会えない。矢吹にはわからない」
矢吹「わかるよ」
めり「わからない。わかるなんて絶対に言わないで」
矢吹、大袈裟なほど大きなグラスでワインを飲み、ゲップをする。そしてめりの泣き顔を見て、高らかに笑う。
矢吹「私は嬉しいんだ」
めり「…」
矢吹「終わりを悲しむために、涙を作った」
めり「…」
矢吹「終わるのを惜しむために、愛を作ったんだよ」
めり、涙が止まらない。見つめ合う二人。矢吹は優しく微笑み、御馳走を食べ続ける。
めり「苦しいの。寂しいの」
矢吹は、大切なことのように優しく語り出す。
矢吹「愛は、選べるんだよ。特別なの。自分で想わないと、目があったり、関われば誰でもいい訳じゃない。お互いに」
めり「…」
矢吹「いいでしょ。これ。加藤もケミちゃんも気に入ってた」
めり「矢吹は苦しくないの?」
矢吹「何が?」
めり「終わってしまうこと」
矢吹「…私は終われない。だから何度も終わりが来る。真剣に悲しんでたら消えたくもなっちゃうでしょう」
めり、矢吹を見つめ、涙が止まらなくなり、最後の晩餐に手を伸ばす。泣きながら食べていく。
めり「…人は、何で生かされたの?」
矢吹「…さあね。意味があると思う?」
めり「意味がないことに気づいたことがある。すごく消えたくなった」
矢吹「…そっか」
めり「…矢吹」
矢吹「何?」
めり「私、矢吹を殺さなきゃいけない」
矢吹「…そう。好きにしろ」
めり「矢吹は、怖くないの?」
矢吹「うるせえな。ごちゃごちゃ」
めり「…」
矢吹「恐怖を作ったのも私じゃ」
めり「…私を主人公にしてくれてありがとう」
矢吹「…」
めり「洋一を守ることができた」
矢吹「……はあーうっせ。きも。…最後のチャンスをやるよ」
矢吹、小さなバズーカと銃をめりに渡す。
矢吹「最終話の展開はお前が決めていい」
めり「…」
矢吹「食い終わってからでいいぞぉ」
しばらく最後の晩餐を楽しむ二人。少しして、めりがワインを飲み干し、小さな銃に手を掛ける。じろじろと銃の様子を見ているが、矢吹は気にせず食べ続ける。矢吹に銃口を向けるめり。
矢吹「…もし、消えるんだったらどうする」
めり「…」
矢吹「もう体のスペアは無い。死んだら数億年の時を超え次の世に飛ばされる。」
めり「…矢吹は、魔法が使えるでしょ」
矢吹「お前らは勝手だ。空飛ぶ生物がいても、顔を写すだけでスマホの鍵が開いても大した理由も知らずに魔法では無いと言って。人間が生き返れば魔法だと。魔法か魔法じゃ無いかなんて決めてるのはお前らだ。人間は、魔法が使える。食ったらウンコになり、眠ったら夢を見て朝起きたら忘れる。これも十分魔法だろ」
めり「……」
矢吹、立ち上がり銃に顔を少し近づける。
矢吹「私はもう魔法を使わない。お前は人間をその手で消すんだ」
めり、息が荒くなり、銃を両手で持つ。
矢吹「愛のために」
めりが叫び、発砲し、矢吹の片目に穴が開き、血が噴き出す。ゆっくりと倒れる矢吹。

【76】住宅街
ほとんど建物のなくなった瓦礫だらけの道路。そこでめり、瑛二、洋一が頭を並べて仰向けで寝ている。目を覚ますめり、涙を流しながら目を覚ます瑛二。洋一は目をつぶっている。空は青く、昼間で晴れている。
めり、瑛二、何も言わず空を見つめる。
瑛二「…空って綺麗だよな」
めり「…え…うん」
瑛二「…加藤さんがデザインしたんだって」
めり「…」
瑛二「空も、海も、大地も、星も」
めり「人間も…?」
瑛二「…それは毛見だって」
めり「…ええ。…あいつ?…なんか嫌だな。」
洋一も、目を開ける。
瑛二「それだけは言ってやんなよ」
めり「ああごめん。……矢吹と話した」
瑛二「…俺も加藤さんと話した。…洋一起きてるか」
洋一「うん」
瑛二「…俺行くわ。…お前らと会えて本当にたのしかった」
洋一「…どこに行くって」
瑛二「……数億年超えて違う世界に。」
洋一「…やばこいつ」
めり「やばいね今の」
瑛二「いや違うんだ。今のは真面目にだって。…色々世話かけたな洋一」
洋一「…世界が終わって」
瑛二「うん」
洋一「…瑛ちゃんって、器用だと思ってたけど実際結構キモいんだなってみんなにバレて、よかったよ」
瑛二「…そうか…思ってても…言わなくていいぞ」
洋一「ごめん。意外と本当に引くとこもいっぱいあった」
瑛二「その一言も…いらない」
めり「ふふ」
瑛二「笹木。絶対今のタイミングで笑っちゃいけない」
洋一「ははは」
瑛二、起き上がる。
瑛二「バカにしてるなー。もういい。ちょっと便所」
歩き出す瑛二、何かを察して起き上がる洋一。
洋一「瑛二」
瑛二、振り向く。洋一、笑顔で手を振る。
瑛二「ふっ。何だお前」
笑顔で振り返す瑛二。背中を向け、歩き出す。
めり(M)「瑛ちゃんとは、それで最後になった」


【最終話】09 最終話

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