【最終話】09 最終話
【77】廃墟スーパー
食べ物を漁るめりと洋一。冷蔵庫もまだ一つだけ動いているなど、二人ならギリギリ生きていけるような設備がなぜか生きている。めり、楽しそうに食べ物をリュックに詰める。それを見る洋一。
【78】壊れそうな一軒家 昼下がり
めりと洋一が歩いていると、ボロボロの一軒家が一つだけ残っている。
めり「…不思議」
洋一「え?」
めり「人が生きていけちゃう」
洋一「…めりちゃんのじゃない?」
めり「え?」
洋一「矢吹さんがめりちゃんのために」
めり「…」
めり、《撃った銃弾が突き抜ける矢吹》を思い出す。
めり「まさか」
庭にある蛇口を洋一がひねると、水が出てくる。
洋一「おお」
洋一、めりを見る。
めり「ちょっと、やめてよ」
洋一、めりに水をかける。
めり「ちょっと!!…でもなんかいいね」
洋一「…」
めり「あえっ?間違えたこと言った?…私にも貸せ」
洋一「ははは」
水が飛ぶ先に、虹が出ている。しばらく戯れている二人。
【79】壊れそうな一軒家、風呂
一緒に湯船に入るめりと洋一。
めり「…ねえおかしいよ」
洋一「何が」
めり「…地球、こんなに終わりそうなのに」
洋一「うん」
めり「…えっちな気持ちにならないなんて」
洋一「…俺?」
めり「他に誰が居るんだよ」
洋一「別に悪いことじゃ無いでしょ」
めり「はあ」
洋一「だって俺が急に盛りついたら、怖いと思うよ」
めり「そんなこと考えなくていいんだって。もう(お湯をかける)」
洋一「おい…」
洋一、近くのシャンプーを手に取り、めりの頭にぶっかける。
めり「いやーーー最悪!目に入った(立ち上がる)」
洋一「うわあ!見えてる見えてる(目を逸らす)」
めり「何が!!!(すぐ座る)コラ〜!!」
【80】壊れそうな一軒家、寝室
同じ布団で寝る二人。
めり「また、夜がきたね」
洋一「そうだな」
めり「寝るの好きだって言ってたし、いいんじゃない」
洋一「うん。寒」
洋一、めりを布団の中で抱きしめる。
めり「私と洋一が付き合うこと、まさか地球が終わるまで無いとは思わなかった」
洋一「…まだ終わってないよ」
めり「でも付き合うって何だろ」
洋一「…」
めり「契約として洋一も私のことが好きだという確信とか、好きでいなければいけない約束とか」
洋一「…」
めり「今思えば人間ってくだらない。確かに」
洋一「……美味しいってさ」
めり「え?」
洋一「美味しいって、何であるんだろうね」
めり「…はあ、」
洋一「物は美味しくなくても食べれるし、食べれば生きられる」
めり「…最期、矢吹に聞けばよかった」
洋一「…複雑だなあ。」
めり「私ね」
洋一「うん」
めり「夢の中で矢吹をぶっ飛ばしたの」
洋一「…」
めり「…敵を倒した」
洋一「…」
めり「あれは敵だったのかな。…夢だったんだろうか」
洋一「…めりちゃんの意思でしょ」
めり「うん」
洋一「じゃあ夢かどうかなんて、どうでもいい」
抱きしめる力を強める洋一。
めり(M)「次第に私たちは、お喋りになっていった」
【81】静かな道
お菓子を食べながら、歩く洋一とめり。
めり|(M)「この、終わりかけの世界にはちゃんと昼が来て、ちゃんと夜がきた」
めり「不摂生だな〜」
洋一「でも、あそこのスーパーにある化粧水、全部めりちゃんのだよ。高いのから安いのまで」
めり「うおお、確かに。自炊してもお菓子ばっか食べてたら意味ないよね」
洋一「前からそうだろ」
めり「チョップ(チョップする)」
洋一「痛い。変なの」
めり「樹に会いたいな。私、家族が大好きなの。まだどっかにいるんじゃないかってずっと本気で思ってる」
洋一「ああ、わかる。俺も思ってる」
めり「そしてずっと繋がってるっぽい感じ」
洋一「あーあ。めりちゃんと発想一緒か」
めり「嫌なの?」
洋一「うそ。です」
めり「矢吹がね」
洋一「…」
めり「私のぶっ倒した矢吹がね」
洋一「あ、天狗になってる」
めり「魔法なんてないんだって言ってた。魔法か魔法じゃないか決めてるのは私たちだって」
洋一「…ほう」
めり「(物真似して)お前らは勝手だ。空飛ぶ生物がいても、顔を写すだけでスマホの鍵が開いても大した理由も知らずに魔法では無いと言って。人間が生き返れば魔法だと。魔法か魔法じゃ無いかなんて決めてるのはお前らだ。人間は、魔法が使える。食ったらウンコになり、眠ったら夢を見て朝起きたら忘れる。これも十分魔法だろ!クソがあっ!て。」
洋一「……(吹き出す)やっぱ天才だなあの人」
めり「あれ?」
洋一「毛見くんが、矢吹と加藤は天才って言ってたの、わかる。」
めり「…あとさ、展開はお前が決めていいって矢吹に言われたの。なんか、ものを食べながら。結構、豪華なやつ。あ、最後の晩餐みたいになっててさ。そんで私、『…』って顔してたら、食い終わってからでいいぞぉ(物真似)って。あの言い方何」
洋一「ふははは(爆笑)。言いそう」
めり「へへへ」
洋一「ジローちゃんに急にキスしたの思い出した。んーまっとか言って」
めり「ははは地獄だったね」
洋一「…それ一個ちょうだい」
めり、お菓子を洋一に渡す。
洋一「服にこぼしてるよ」
めり、笑顔を洋一に向ける。
洋一「あれー最後の笑顔ってこの前言ってたのに、違った(笑顔でめりの髪をくしゃっと触る)」
めり「へへへ」
洋一「…」
めり「私、家族以外の人間にほとんど、なんか、興味が湧かないんだけど、…なんか洋一は違うんだよね」
洋一「…」
めり「これって結局なんの好きなんだろ。なんか。大好きだよ」
洋一、めりを少し見つめ、微笑み、頭を叩く。
【82】庭
洗濯を干す二人。めりは、無邪気に走り回り楽しそう。
めり「…なんか、夢のシチュエーションすぎると思うよ。」
洋一「何が」
めり「世界が二人きりだったらいいのにって願っている男女は多いと思うよ!ってこと!」
洋一「ああ。まあ、はい」
めり「うっす…」
【83】一軒家のベランダ 夕方
缶ビールを飲んでる二人。笑うめりの横顔を愛しそうに眺める洋一。空が綺麗にふたりの瞳に映る。空を見て、立ち止まるふたり。
洋一「加藤さんはさ」
めり「うん」
洋一「褒められる訳でも、認められる訳でも尊敬される訳でもないのにこの世を、こんな綺麗に作ったんだね」
めり「…」
洋一「だって、加藤さんを知ってる人間って、矢吹さんしかいないんだから。それなのにあんな楽しそうに、俺がデザインしたんだって。楽しいだけで物が作れるなんて、正直俺には到底無理かもしれない」
めり「…毛見君からのダメ出しとかあったのかな。」
《矢吹と加藤が椅子に座り、楽しそうに何やらゲームのような機械をいじる後ろ姿。》
めり「ないか。そうゆうのは」
洋一「すげーよな」
めり「…矢吹も」
《矢吹「私は嬉しいんだ」》
めり「すごいよ」
洋一とめり、静かに空を眺める。
めり「こうしてるとなんか、私たち結婚したみたいだね」
洋一「確かに」
少し沈黙。
洋一「…いや、そうかなぁ」
めり「考えたら違ったんだね。わかった(洋一を叩く)」
洋一「綺麗だな」
めり「私も、加藤さんと矢吹みたいになるのかな」
洋一、めりを見つめる表情がどこか諦めていて、切ない。
洋一「ならなくていいと思うよ」
めり「…」
洋一「きっと目指しちゃったらめりちゃんが選ばれた意味がないんじゃない?」
めり、洋一を見つめる。
めり「選ばれた意味か。…そう考えると自分の環境とか、思い出。気に入ってる。お母とお父の子供で、樹の姉で、洋一と知り合って、今はいつも一緒。最高。センスいい。これ以上は無し。死んじゃったら、この最高な組み合わせは2度とないよ」
めり、洋一を見て微笑んでから、寂しそうに空を見上げる。
めり「…矢吹はすごいな」
【84】廃墟スーパー
少なくなっている食料。漁る二人。
【85】寝室
抱き合って眠る二人。洋一の目が開いている。
【86】夜の道路
道路で寝転ぶ二人。空には星が光っている。洋一、目の下に少しクマがある。めりは目を瞑っている。
めり「…洋一」
洋一「ん?」
めり「洋一は怖くないの?」
洋一「何が?」
めり「…終わってしまうかもしれないこと」
洋一「……怖くはないけど」
めり「ないけど」
洋一「…身近に感じる」
めり「…(目を開ける)」
洋一、体を起こし、めりの手を取り立たせる。何もわからず、立ち上がるめり。洋一、めりの手を握る。見つめ合う二人。
洋一「…ごめん」
めり「…どうしたの?」
洋一、めりの目をじっと見る。握った手を離す。
洋一「………もう飽きた。めりちゃんと居るの」
めり「…え」
洋一「俺が書いたんだ」
めり「…何を?」
洋一「…シナリオ」
音が無くなる。過去の街が破壊される走馬灯。手を振る瑛二やジローや優菜の死がフラッシュバック
洋一「めりちゃんも知ってたでしょ」
脚本を読むめり、パソコン画面、メモのフラッシュバック
めり「今ここで冗談言わないで」
洋一「めりちゃんは俺のこと好きだから、生き返らせてくれたけど」
めり「洋一」
洋一「めりちゃんと居るっていう物語は俺の好みじゃなかった」
めり「洋一。…ちょっと気が変になってるんだよ。」
めり、洋一に手を伸ばすが、洋一、めりを振り払う。
洋一「触んなあ!!!!」
めり、目から涙が溢れ出てくる。
洋一「ごめん。ずっとめりちゃんと、この世界を彷徨えっていうのは難しいわ。…俺、元々死にたかったしね。やっぱりあの時死ぬべきだったかな、エンディング、ミスってる。」
めり、息を荒げ、過去の走馬灯に魘される。声にならない叫びを出し、鞄からなぜか入っていた銃を取り出し、洋一に向ける。
洋一、微笑む。めりに近寄り、何故か抱きしめようとする。めり、とっさに叫び、発砲。倒れる洋一。
めり、膝から崩れ落ち、洋一の顔を触る。強く抱きしめ、子供のように泣き叫ぶ。洋一の顔を見て、冷たい洋一に最後のキスをする。
しばらく強く抱きしめ、体を起こし銃を探す。銃もバズーカも鞄さえも消えており、周りを見渡すと、瓦礫や建物も無くなっている。
【87】昼の道路
歩き続けるめり。
めり(M)「…馬鹿だな。…非常に馬鹿だ。…普通『撃てないよぉ…』みたいな感じになるんだから。」
めり(M)「確かに、私は思ったかもしれない。私の日常、どこをとっても面白くなくて、それだけで死にたくなってしまうようなこと。繰り返し死なずに朝が来ると感じてしまうこと。誰にも殺されたくないし、おばあちゃんにもなりたくないし、綺麗なうちに。…終わりたいって。誰も、私の死なんかに悲しんで欲しくないって。あれ(洋一の本)を見て、世界が終わるなら、一番最後でいいとか、矛盾だらけなことを心の中で唱えたのかもしれない。バチがあたった?優柔不断すぎて、神様が、私の望んでいる終わりを感知できなかったのかも。……ああ。神様ってあいつか。…最悪…」
鼻で笑うめり。まぶたはひどく腫れており、小汚い。
めり「一人になるのわかってたら、こんなこと、してない。…矢吹、もう終わったよ。…矢吹、私はどうしたらいいの」
道はひどく先まで続いており、その道の先を睨み付けるめり。
めり「……ふふ」
洋一に選び直されたと気づき、嬉しそうに笑うめり。
その場で寝そべり、空を見る。異常なくらい晴れ渡っており、それを見てまた微笑む。
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《目を瞑ると、家にいて、家族が出てくる。※めりの視点
樹「…(歯を磨きながら)お前本当やばいな寝起き。バケモンじゃん」
めり「うるさい」
樹「ねえみておかん」
母「なあに今忙しいのお」
樹「あ、ごめん。おとんおとんきてきて」
父が近寄ってくる。
樹「見てアハハハハハ」
父「何、アハハハハハ」
めり「え、何、えうっざ」
樹「髪きめえアハハハハ」
母「何私も見たい」
近寄ってくる母。》
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目を開けるめり。ふたたび瞬きをする。
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《目を瞑ると、真由の家に泊まりに来ている。パックしながらスッピンの真由。パックを剥がし、
真由「見て見てこれこの前買ったの(リップ)んで、このリップ使った私これ|(写メ、別人のように漏れている)んで見て」
変な顔して自分のスッピンの顔を指差す真由。ゲラゲラ笑うめり。
真由「おい笑いすぎだろ」
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目を開けるめり。思い出して笑い、ふたたび瞬きをする。
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《目を瞑ると、居酒屋にいる。瑛二、優菜、ジロー、洋一がいる。
瑛二「でさ、そのオーディションで披露した俺の演技さ、再現していい?」
優菜「もうやめてよ〜」
ジロー「それ前見たけどそんなおもんなかった」
瑛二「おいやめろ」
ジロー「笹木の顔見て、全然笑ってない」
めり「ごめんごめん面白いよ」
瑛二「おい、逆に傷つくわ。洋一どうゆう教育してんだよ」
洋一「ふ」
ジロー「ふ!」
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目を開けるめり。空がゆっくりと動く、しばらく深呼吸してまた目を閉じる。
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《目を瞑ると、洋一がいる。
目の前で寝ており、寝息を立てている。触ろうとして
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手を伸ばし目を開けると空がゆっくりと動き、洋一はいない。静かに涙を流すめり。
スゥッと力が抜けて、また、目を瞑る。もうめりは目を覚まさない。
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