【最終話】01 バグ
【6】 劇場外 夜
煙草を吸う洋一。空を見上げる。目の前にある建物の角を見つめる。
建物の角が少しずつ崩れ落ち、洋一に向かって倒れる。建物の裏から、目が大きくギョロギョロした、巨大怪獣が出てくる。ものすごい勢いで洋一を潰そうとするが、微動だにしない洋一、不気味な怪獣と至近距離で目が合う。
※※※※※※※※※ 前話続き ※※※※※※
毛見「あの」
声に驚き、横を見る。顔のすぐ近くに毛見の顔がある。少し驚く洋一。
洋一「…え、はい」
毛見「ここ、劇場ですか」
洋一「…あ。まあ。そうみたいですよ(少し離れる)」
毛見「あ、そうですか。…僕、なんだか興味があって。」
洋一「…ああ。舞台の話ですか?」
毛見「……(真顔で無言)」
洋一「ん?…すいません、違いましたか」
毛見「あ、そうです」
洋一「ああ、合ってた。……独特な間があったから」
毛見「(ニヤつく)紹介してくれませんか」
洋一「あ、はい。…あー。ここで待っててください」
中に入り、黒田 優菜(35)を連れてくる。
黒田「え、何」
洋一「舞台に興味があるんだって。紹介してくれって」
黒田「…え。…え、別に私責任者とかじゃ無いんだけど」
毛見「(真顔)」
洋一「はい。連れてきたんで自分を紹介でもしてください」
黒田「何それ。かわいそ…」
毛見「僕は!!役者さんに憧れがあるのに、ずっと憧れているだけで、…僕、そろそろ情けないなって。僕は、一度真剣にやってみたいと思いましてここにきました!…ごめんなさい…僕なんかにできるか分からないんですが。(震える手)」
洋一「…僕って、めっちゃ言いますね」
黒田「……入んな?」
洋一「姐さんだね」
【1】 居酒屋
小上がりの席。Youtubeで小さなおじさんが寿司を握るだけの動画を見る洋一。向かい側にはめり。
めり「うちの社長がさ〜」
洋一「…」
めり「仕事を毎日一生懸命やるのが一番楽しい人生だと思ってるの。仕事で、寝れないだとか食えないだとかは当たり前だって。残業とかもね。最高な仲間と一生仕事を楽しくやって行こうぜってノリ。……一生。」
めり、スマホを見る。消費者金融のアプリ。借入可能残高0円。更新するが変わらない。スマホを消す。
めり「…人生って何かわかってるのかな。おっさんだよね」
洋一「…」
めり「仲間とかってこっちが決めることじゃない?そのセリフは強制だと思わんかねえ」
洋一「…うん」
めり「絶対聞いてないじゃん」
洋一「聞いてる。…微妙に」
めり「コラ(おしぼりを投げる)」
洋一「……もの投げないの」
めり「…あ。初めて喋った」
洋一「…仕事を辞めたいって話ね」
めり「そう!…いや違う!」
洋一、おしぼりを投げ返す
洋一「はっはっは」
めり「最悪」
洋一の「はっはっは」に合わせて画面が縦に揺れ、不自然に何度も再生される。黒目が奇妙に動き、そのうちクリスタルな玩具の星になりめりを見つめる。
洋一「めりちゃん」
めり「…ん?」
洋一「一瞬真顔になっちゃったからびっくりした」
めり「一瞬くらい真顔になったっていいでしょうが」
洋一「へんなの」
めり「…いやいや仕事行きたく無いって話だって。…はあ。飲もう!」
そこに入ってくる、瑛二、優菜、ジロー、毛見。
瑛二「お疲れ!遅くなった」
めり「お疲れ。あ。さっきの。毛見さん?もいるじゃん」
瑛二「おい洋一〜。寝てないか」
洋一「セーフ」
黒田「毛見くんのプチ歓迎会みたいなのもいいかなって、瑛二が」
毛見「はじめまして。毛見です」
注文を頼む。毛見、洋一の隣に座り、向かい側に座るめりを見つめる。
めり「ん?あ、はじめまして。笹木めりです。あなたのお隣は、洋一」
洋一、少しお辞儀した後、めりを見つめる毛見を横目で少し見る。
瑛二「おー。毛見君は笹木狙いか。笹木好きなやついるぞお。あと優菜は俺のだからとりあえず触んなよお」
優菜「(ウザそうに微笑む)」
めり「変なこと言わないで」
ジロー「お前めっちゃうざいな」
洋一「ふっ(変な声)」
ジロー「変な声」
毛見「ジローさんは。…反射神経がいいですね」
洋一「…なんか、独特な間だよね(毛見が)」
優菜「仲良くなれるんじゃない?洋一と毛見くん」
瑛二「やめろ笹木が焼くだろ」
めり「瑛ちゃんいちいちうるさい」
毛見「恋なんですね?」
めり「あ?」
毛見「恋なんですね」
めり「や、聞こえた上で『あ?』ですけど」
洋一「(吹き出す)おもしれー」
めり「私が?(半ギレ)」
洋一「ん(毛見が)」
瑛二「…ちょっとお二人さん仲良いですね。付き合ってるの?」
めり「いやいや、そんな訳ないじゃないですか〜」
瑛二「(食いぎみ)だよね。で今日の公演どうだった?」
めり「瑛ちゃんって本当にうざい」
優菜「まあまあまあ」
【2】 洋一の部屋
暗闇で終末世界系アニメを見る洋一。破壊される街や人。真剣な洋一の眼差し。
そのうち、テレビを消してソファに寝転ぶ。Youtubeを開いて小さなおじさんが肉を食べるだけの動画を見る洋一。
【9】めりの実家
リビングに母と父、大声で歌う風呂上りのめり。
めり「う〜〜〜〜仕事行きたくねえ〜〜〜」
そこに歯磨きしながら現れる笹木樹。
樹「うるさい」
めり「うるさくねえよ」
母「ねえ新しい掃除機買ったほうがいいと思う?」
父「動かなくなったの?」
母「動くの」
父「…(?)」
樹「俺もう寝るから。まじで静かにしろよ」
めり「わかってますがな」
樹「いつもわかってねえから言ってんだよ」
母「ねえ新しい掃除機買った方がいいと思う?って聞いてるよ私」
めり「知らないよ」
樹「買ったらいい」
母「ねえお父さんはどう思う」
樹「(買ったらいい、の口)」
父「買ったらいい」
母「本当に思ってる?」
めり「仕事やだなア!」
樹「だから声がでけえんだって」
父「ははは」
母「ねえ、掃除機いぃ」
樹「買ったらいい(優しい声)」
母「本当に思ってるの?」
父「思ってる」
母「でもまだ動くんだよお」
めり「お前顔黒すぎるな」
樹「おいなんだいきなり。黙れ」
【10】めりの部屋
寝転びスマホを見るめり。大量の仕事のLI N Eが来ていて、閉じる。少し動悸の後、深呼吸し目を瞑る。
めり「…大丈夫、大丈夫だ」
めり、スマホで貯金残高を見る、17円の表示。
めり、布団にどんどん食い込んでいき、そのうち消えてしまう。
―――――――――――――――――――――――――
【11】洋一の美術会社
朝方、何やらパソコンに向かい、美術の原稿を作っている洋一、パソコンと台本を行き来してメモをしている。そこに出勤してくる神楽さん(45)。
神楽「洋一早いな」
洋一「おはようございます」
神楽「現場明後日だもんな。えらいぞ〜」
洋一「そうっすね」
神楽「…俺もう眠くて。今日嫁が朝からすごい怒ってるし。ちょっと出勤遅くなっちったよ」
洋一「…」
神楽「別に俺何にもしてないのに機嫌悪くてさ、嫁がね。…………生理かよ。」
洋一「最低ですね」
神楽「あ、もう閉経してるか」
洋一「面白くないです。」
神楽「洋一まで俺に冷たいのかあ。そういえばやっと本読んだよ」
洋一「…ああ。…あざっす」
神楽「面白かった」
洋一、黙々と作業し、神楽を無視する。不服そうに微笑む神楽。
そこに入ってくる井上美嘉(矢吹)
井上「おはようございます。よろしくお願いします」
洋一、少し固まる。
神楽「井上ちゃんだ。(太い声)」
洋一「…ん?」
神楽「今回の現場だけ新しく、入るんだ。よろしく」
洋一「…ああ。……そうゆうの言っといてくんねぇかな」
神楽「今タメ口使ったよね」
洋一「間違えただけです」
井上「井上です。よろしくお願いします」
洋一に微笑む井上美嘉。お辞儀をする洋一。
洋一「…工藤洋一です」
目が合う二人。謎の緊張感が漂う。
× × × × × ×
倉庫で物を運びながら井上に仕事を教える洋一。ひと段落して、井上の近くに腰掛ける。汚れたジーパンに、少しくたびれたパーカー、無造作に縛られた髪の毛の井上を、横目で見る洋一。それに気づく井上。
井上「…なんですか?」
洋一「…ん?いや。別に」
井上「……わ。ジロジロ見て。イモ臭いとか思ってそうな顔」
洋一「……いやいや」
井上「失礼な。私だって休日は女子ですから。…見せてやりたいわ」
洋一「………美術好きなの?」
井上「まあ、程々に」
洋一「…そうなんだ」
井上「洋一さんは?」
洋一「え?」
井上「どうしてここにいるんですか?」
井上の睫毛の長さや、女性らしい胸の張りが目に入る洋一、目を逸らす。
《終末世界系アニメと、小さなおじさんが寿司を握るyoutubeがフラッシュバック》
洋一「俺は別に」
井上「…単純に楽しいからとか。いろいろありますよね〜」
洋一「……実は物書きになりたくて」
井上「わあ。そうなんですね」
洋一「現場勉強しながらって最初は思ってたんだけど。一回、書いた本が売れたりして。…たまたま当たったってやつ。調子に乗ったまま…ではないけど。…でも今は別に何にも。…本当何もない。結局ずっと、ここに居るし」
井上「へえ。いいですね楽しそう。今度見せてくださいよ」
洋一「…ああ」
井上「読みたい」
洋一「…あ、…んー、はい」
少しの沈黙。黙々と作業する二人。
井上「……洋一さんはオバケみたことありますか?」
洋一「オバケ?」
井上「幽霊とか」
洋一「……唐突だな。…えっ、見えるの?」
井上「見てないなら居ないし、見たことあるなら居るって思ってて」
洋一「…ああ。俺は無いわ」
井上「へえー」
洋一「井上さんは?」
井上「私はありますよ、中学のとき。お家で寝てたら、頭の上に蟹が出てきて」
洋一「蟹…?」
井上「はい。…何ですか?見たことないのにオバケのレパートリーは人間しか無いとでも?」
洋一「……変なの〜」
井上「…死んだらオバケになるんだったら虫や魚だって死ぬじゃないですか。」
洋一「…なんか、オバケって間抜けなネーミングだね」
井上「こうゆう話面白いですよね(微笑む)」
【12】瑛二のバイト先のバー
狭くて薄暗いカウンターに、めり、上田 真由(25)が座っている。カウンター内には瑛二と真口 健太郎(26)。
真由「久しぶりですぅ〜。瑛ちゃんさん」
瑛二「おうそうだね。まあ、笹木も忙しかったみたいだしな」
めり「あー。まあ、そうだね」
真由「そうなんですよう。こいつ全然遊んでくれないしい。忙しかったんだもんね」
めり「まあねー」
健太郎「あ、俺初めましてっすね。健太郎っていいます」
瑛二「真由ちゃんはコイツ初めましてか」
真由「真由です〜。めりの友達です」
微笑む健太郎。爽やか。
めり「…健太郎くんってなんかモテそうだよね。…ね、思ったよね?」
真由「そんな、思ってないしぃ。とか言って瑛二くんもイケメンですからね」
瑛二「おおありがと、わかってまあす」
めり「うざあー」
ジロー「ちなみに俺は」
真由「うるさい黙り伏せろ(声変わり)」
ジロー「やばいって」
真由「健太郎くんって確かにモテそうかも」
健太郎「いやいや全然っすよ。お姉様方こそ」
めり「お姉様方って。年上なのバレとるぞ」
真由「そりゃバレるでしょ〜。うちらみたいなモテない女がぁ、健太郎くんみたいなイケメンと喋れるだけでもありがたいよ」
瑛二「褒めすぎ褒めすぎ」
めり「巻き込まれてる」
真由「だってそうでしょ。うちら男っ気ないもん」
瑛二「笹木は洋一がいるよ」
めり「そうだよ私は洋一だよ」
真由「まだ言ってんのー?…ウケるんだけど。」
めり「…ずっと言ってやろ」
真由「てかあれ男っ気にカウントするとか本当ウケる。…洋一くんって確か全然イケメンじゃないですよね〜。静かで全然面白くなさそうだし。めりセンス大丈夫な感じ?」
店に誰もいなくなり真っ暗。正面を見つめ無表情のめり。どこか不気味。めり、真由に、技をかけ転ばせ首を締めると、通常の店に戻る。
めり「うん大丈夫。ありがと」
瑛二「…笹木飲み過ぎじゃね」
めり「はい?どこが」
瑛二「今一瞬目いってたけど」
健太郎「よかったら連絡先交換しませんか(真由に)」
真由「|(一瞬めりを見て)えー嬉しいありがとぉ〜。(わざと気まずそうに)めりもいい?」
めり「や、いらん。ごめんね、私明日仕事だからもうすぐ帰んなきゃ」
真由「なかなか仕事辞めないよね〜。辞めたいくせに。意思よわあ。」
めり「…そうなんだよね」
真由「意思よわあ。」
めり「…」
瑛二「真由ちゃん飲み過ぎ。笹木にも色々あるんだよ。きっと」
真由「(食いぎみ)それは私の方が超仲良いからわかってます。こいつとまじ付き合い長んだから」
めり「…瑛ちゃん。カットされてる」
真由「仕事の愚痴言ってる時のめりきついし。こいつきついですよ?でもめりがいいならいいかあ。友達だし。」
瑛二「…笹木、顔」
めり「…」
【13】洋一の家
めり、住宅街を千鳥足で歩く。洋一の家の前に着いて、ドアを静かに叩く。
めり「よういち♪」
洋一「…なんでまた。うちに来ちゃったの?」
ドアを開ける洋一。酔っ払って洋一の家の床で寝そべるめり。
めり「いいじゃん別に。だめ?」
洋一「いいけど、うるさいのはだめ」
めり「わたしがぁ?」
洋一「めりちゃんうるさいんだもん。いつも」
めり「洋一が無視するからじゃん」
洋一「無視してないよ(スマホいじる)」
めり「それだよそれ。無視って言うんだよ」
ムスッとするめり。洋一、スマホを消してタンスをさぐる。
洋一「ん、パジャマ」
めり「(見る)」
洋一「牛乳飲む?」
めり「飲む(めりの頭にパジャマ被せる洋一)」
洋一「瑛ちゃんのところ行ってたの?」
めり「そうだよ」
洋一「ほう」
めり「…洋一の悪口言って帰ってきたよ」
洋一「それはそれは」
めり、洋一を見る。洋一、気づいてないフリ。めり、ふと机の上のパソコン画面とたくさんのメモに目を止める。
めり「新しい本?」
洋一「…うん。読む?酔っ払い」
めり「うん」
洋一「酔い覚めてからね」
温めた牛乳をめりに渡す洋一。めり、机に牛乳を置き、洋一に抱きつく。
洋一「めりちゃん」
めり「ごめん、あまりにも、…いとお、しくて」
めりの頭に手を乗せる洋一
洋一「アホ。寝ろ」
―――――――――――――――――――――――――
【14】めりの悪夢
社員達の口元、強張った顔で、真面目に働いているめり。社員が全員気味の悪い妖怪の姿に変身。(昭和の特撮番組の予告編のよう)機械的なナレーション(何を言っているかわからない)。奇妙に笑う妖怪たち。めり、財布を開くとそこには千円札一枚。めりの歯がボロボロと崩れ落ちる。
【15】洋一の家 朝
ソファで寝る洋一とめり。めりが先に目を覚ますと、顔の目の前で洋一が寝ている。めり、しばらく動かない。洋一が少し動いたので寝たふりをするめり。目を開ける洋一。
洋一「めりちゃん」
めり「…」
洋一「寝たふりバレてるよ」
めり、目を覚ます。少し沈黙。
めり「チューしてもいいよ」
洋一「おはよ」
めり「…おはよう」
少し沈黙。めり、微笑む。
めり「しないんかい」
× × × × × ×
支度を終えるめり、洋一、歯を磨く。パソコンの隣にある脚本を少し触る。
めり「ちょっと見ちゃおっかな」
洋一「どうぞ」
洗面所に行く洋一。その間に脚本を覗くめり。内容は世界が終わってしまう話。
※プロローグの矢吹のセリフが重なる。
【16】洋一の夢
暗い家の中。テレビだけがついている。洋一、一人目が覚めるが声が出ない。体が思うように動かない。口を大きく開けるが、声を出すことは叶わない。重い体を動かし、ロボットのようにぎこちなく立ち上がると、息がしやすくなり、倒れ込む。顔を上げると、ソファに座り洋一が書いた脚本を読んでいる井上がいる。(ハッピーバースデイトゥーユーを歌う)それを見つめていると、井上は、洋一に気づかず急に、テレビ画面(砂嵐)を見て奇妙に大笑いする。すぐ静かになり、洋一へ振り返る。見つめ合う二人。井上の首が、魂の無い人形のような動きでコキ、と曲がる。一瞬テレビが消え部屋が暗くなり、洋一の背後に立っている井上。
【17】洋一の現場
撮影現場。物を運ぶなどバタバタしている。洋一、美術の荷物を運んでいると、井上が、全身黒い服、ボサボサの頭で近寄ってくる。
井上「最初のシーンのは全部運びました」
洋一「ありがと。神楽さん見た?」
井上「見てないです。てか、これあげます」
ちいさなチョコレートを洋一の手に渡す井上。そのまま手首についたゴムで髪の毛を縛る。
井上「さっき盗んで来ちゃった」
洋一「うん。ありがと」
井上「はあ眠い。朝って寒いし眠いし。……最高ですね」
洋一「ある意味。…てか神楽さんは?」
井上「昨日飲んでたみたいで、多分どっかで寝てます」
洋一「あのおっさん…」
井上「今日は二人っきりか〜」
洋一「…」
井上「あ。ごめんなさい。変な言い方。…まあ先輩頑張ろ」
【18】めりの実家
布団に包まるめり。顔だけ出して放心している。カーテンを少し開け、外を見つめる。
そこに部屋のドアを思いっきりノックする音。
樹「おーい何しとんじゃあ」
めり「…」
樹、勝手にドアを開ける。めり、起き上がる。
樹「こんにちはァ」
めり「うっさいな」
樹「お前仕事は?」
めり「…寝坊したの」
樹「最近毎日寝坊してる?もしかして」
めり「…」
樹「やば。ちょっとテレビを貸してくださいな」
めり「ここでゲームしようとしてるじゃんこいつ」
樹「あたりめえだろ。俺の部屋にはテレビがない」
布団に潜るめり。テレビがつく音。少しして起き上がる
めり「うるさいなあ」
気づくと部屋にはぎゅうぎゅうに大量のお婆ちゃんが正座している。薄暗く、テレビ画面はカラーバーのみ映し出され、不愉快な音が小さく鳴り続ける。
樹「仕事辞めればあ?」
樹の声で現実に戻る。スマホを見ると、カードの滞納通知が来ている。
めり「……死んじゃいたい」
樹「ああ?」
めり「全部をやめたい」
樹「…辞めればあ?」
めり「…何かを真剣に頑張ったり、出来るだけたくさんの誰かに認められたり。なんでそんなものにいつの間にか誰もが…憧れてるんだろう。って……洋一の本に書いてあった。……共感しています」
めり、表紙に洋一の名前が入った文庫本を手に持ち、表紙を眺める。タイトルは「混沌」
樹「きも。いきなり変なモード入んなよ」
めり「うっせえなジジイ(叫)好きな人の言葉は響くんだよ」
樹「年下だババア」
めり「…たまにはいいでしょうが」
樹「まあ何か辞めたとしても、いちいち死なねえぞ」
めり「…」
樹「あとこれ昨日貰ったからやるわ」
でかいサイズのチョコバーをポケットから出す樹、ベッドに投げる。
めり「…おい小僧、優しいなお前」
樹「当たり前だろうが。話しかけんな」
めり、少しにやける。枕で樹の顔を潰し、ゲームを妨害するめり。
樹「それはない!それはない!」
【19】洋一の現場
井上の後れ毛を見つめぼーっとする洋一。現場は進行している。真剣な表情の井上の表情が印象的に洋一の瞳に焼き付く。
―――――――――――――――――――――――――
× × × × × ×
洋一の現場。休憩時間。洋一が一人で弁当を食べていると、神楽が起きてくる。
神楽「ごめん。まっっじで寝てた」
洋一「…」
神楽「めっちゃ無視じゃん。めっちゃ怒ってるじゃん。…ごめんな。」
洋一「…おう」
神楽「(あくび)…俺上司だぜ?」
洋一「まあ許してあげますよ」
神楽「…すいませんねえ。井上ちゃんは?」
洋一「え?どっかに居るんじゃないですか?」
神楽「…鞄もないんだよね。はあ。これだから若いのは」
洋一「…寝てるか?飯食ったら電話してみます」
【20】瑛二のバイト先のバー
カウンターに優菜とジロー。カウンター内には瑛二と健太郎が居る。瑛二、カウンターの外に出て他の人を接客している。
優菜「瑛二ってさ。すごく接客向いてるよね」
ジロー「まあそやな。ずっとやってるし」
優菜「腹立つんだよね(小声)」
ジロー「何が」
優菜「あのいい人ぶってる感じがよぅ(小声)」
ジロー「感じがよぅって。誰やねん」
優菜「…やるか?」
ジロー「だる。この人」
健太郎「仲良いっすね」
ジロー「え?どこ見てんの?」
優菜「幼なじみなの」
ジロー「全然違うやろ」
そこに瑛二が戻って来る。
瑛二「俺を仲間外れにして、ジローと楽しそうに喋ってたでしょ」
優菜「ううん。全然楽しくなかった」
ジロー「そうか」
そこに入って来る洋一。
瑛二「え?洋一じゃん。久しぶりだな一人で来るの」
洋一「仕事帰り。…明日撮休」
瑛二「笹木は?」
洋一「知らん。ビールください」
瑛二「…ほう」
洋一「……新しく入った子が…逃げちゃって」
瑛二「逃げたってか」
そこで店内に入って来る毛見。その後に入って来る真由。
瑛二「おう。これまた珍しい」
毛見「…(振り返らずに)あ、別々です」
ジロー「わかるわ」
洋一の隣に座る毛見。洋一の方を見る。
洋一「何」
毛見「不吉な香り」
洋一「…そうですか」
洋一の近くに駆け寄る真由。
真由「てかあれだよね。めりの…」
洋一「…ん?」
真由「めりの…あれですよね!脚本家目指しちゃってる…でも美術やってる…洋一くんですよね!あってます?」
洋一「…」
真由「てか、垢抜けました??(指を差す)えっ。褒めてるんですけどぉ。すいません」
瑛二「(察し)真由ちゃんの席、こっちだから戻んな」
真由「すぐ戻るう。今日めりは一緒じゃないんですか?」
洋一「うん(スマホ見ながら)」
真由「そうなんですか!てかすごい聞きづらいんですけど付き合ってる訳じゃないんですよね?」
洋一「…さあ」
真由「じゃあなんですか?」
洋一「え?」
真由「…え?じゃあなんですか?」
洋一「…別に関係ないでしょ」
真由「…あー。ですよね!あの子勘違いしやすいところあるからもう付き合っちゃってるって思ってそうじゃないですか?昔から勘違いしやすいとこあって」
洋一「…ああ」
真由「てかなんか顔変わりました?ちょっとかっこいいですね。とか言って〜。てか…めりのことあんまり相手にしてない感じですか?……」
洋一「…」
真由「言いません言いません。わかりますよぉ。めりって私以外友達いると思います?友達…心開いてる友達!」
洋一「さあ、……居そうだけど」
真由「(被せて)ね、居なさそうですよね。てか洋一くんってテレビとかも美術作ってるんですよね?最近有名なのやりました?芸能人とかに会ってるってこと?」
毛見「俺は、この女の目を見ない」
急に声を出す毛見。少し静寂。洋一、ふと顔を上げると毛見と目が合う。
毛見「俺はとっても人間に厳しい生き物なんだ(小声)」
洋一「……(少し吹き出す)」
ジロー「怖いって世界観が」
優菜「たまに怖いよね毛見くん」
ジロー「洋一もな」
瑛二「…俺もちなみに笹木の友達ね。真由ちゃん戻って」
真由「…え、なんかごめんなさい。はい。ちゃんと戻るえらい?」
健太郎「えらいね」
真由「可愛い?」
健太郎「可愛い可愛い」
ジロー「…あしらわれてるぞ(優菜に耳打ち)」
真由「やーんまた健太郎くん家行くう」
瑛二「…まじかお前」
健太郎「まじですね。…まあこんな時もあるっしょ」
【21】洋一の家
薄暗い部屋、机に向かい脚本を書く洋一。
《S#11 「……わ。イモ臭いとか思ってそうな顔」》
脚本内容『俺はただの、脇役だった。
もしもいつかこの身が消えてしまうのだとしたら、
愛する人の手で、憎しみや虚しさに溢れた涙と共に滅ぼされるか。
呆気なく、想い人の手で知らぬ間に消されるか。
心が決める最も愛しい人間によって』
《とある高層ビルの屋上。洋一、縁に立ち、下を見つめる。強い風が吹いている。ふと、飛び降りようと片足を離すと、ピアノの音が聞こえる。誰かが洋一の腕を掴む、振り向くとそこには井上。井上は微笑み、そのまま洋一を抱き寄せて熱くキスをする。再度、ピアノの音が聞こえる。》
洋一、近くにあった脚本を手にとり、ぐしゃっと丸める。洗面所へ歩き、鏡を見る。
洋一「……気持ち悪い男」
部屋の洋一が居る所以外が崩れ落ち足場がなくなる。
【22】繁華街
歩く酔っ払いの優菜と、ジロー。
優菜「毛見くんは今日も怖かったね」
ジロー「ありゃいつもやろ」
優菜「てかあの女の子も怖かった」
ジロー「ああ、真由ちゃんだっけ」
優菜「うん怖い」
ジロー「珍しいやん。優菜が悪口言うの」
優菜「別に悪口じゃないよ」
ジロー「むしろ愚痴っぽいの初めて聞いたわ。…なんか嬉し」
優菜「嬉しいかあ。そりゃ良かったぁ」
ジロー「おっさんかい」
優菜「ジローちゃんの言うおっさんってめっちゃ綺麗だね」
ジロー「あんま自分で言わん方がいいぞ」
優菜「綺麗やろがい」
ジロー「確かにな」
優菜「…今日も朝まで帰ってこないしなー。瑛二」
ジロー「どんまい」
優菜「…あ。うちで飲み直す?(肩組む)」
ジロー「……アホちゃう?」
優菜「…内緒にしてることがあるんだ」
ジロー「何。さけくさ」
優菜「…じゃあ、一旦、二軒目行きません?」
ジロー「ええけど仕事は?」
優菜「ほどほどで帰ったらええんやて」
ジロー「ええんやてって。」
優菜「行くのか行かんのか」
ジロー「…行くけど!」
優菜「いえーーーーい!!!!」
優菜、急にジャンプし少し走り出す。
ジロー「うっさいって。どうしたん。キャラ崩壊〜」
優菜「…私ジローちゃんと喋ってるのが一番楽しいんだ」
ジロー「…ん?」
優菜「これが内緒にしてたことやねん!言うなよ。」
ジロー、ため息。
ジロー「なんで関西弁なの」
【23】めりの家 朝
ソファで目覚めるめり。起きると、近くで樹がイビキをかいて寝ている。机の上には空になったお酒とお菓子が散らばり、頭がガンガンする。
ふと、樹の寝顔を見て鼻で笑い、机の上の酒の瓶を持ち上げ思い出し笑いをする。
めり「飲み過ぎ」
樹に布団をかけるめり。
【24】外 朝
めり、散歩に出かける。メッセージを遡り、洋一が今日休みだと確認すると、電話をかける。3コール目で出る。
めり「もしもしおはようございます」
洋一「…」
めり「ごめん寝てた?」
洋一「うん」
めり「いっつーも寝てる」
洋一「…」
めり「…洋一?」
洋一「…おあんじゅう」
めり「…は?」
洋一「おあんじゅう、おあんじゅう、おあんじゅう」
めり「洋一」
洋一「洋一。洋一。洋一。洋一。おあんじゅう、おあんじゅうおあんじゅうおあんじゅうおあんじゅうおあんじゅうおあんじゅう」
めり「…ふざけてんの?」
洋一「洋一。洋一。洋一。私は、洋一。私は、洋一。洋一洋一洋一洋一洋一洋一洋一洋一洋一洋一洋一」
めり「…」
洋一「笹木めり(耳の近くで矢吹の声)」
恐怖で電話を切るめり。発信履歴を確認する。番号は洋一で間違いない。息を整え、もう一度かける。
めり「………洋一?」
洋一(声)「…はい」
めり「…(息をつく)さっき、電話出た?」
洋一「出たよ」
めり「…聞こえてた?」
洋一「? すぐ切れたよ」
めり「……そう。…あ。仕事、辞めたんだ。私」
洋一「…そっか」
めり「今日、遊びに行ってもいい?」
洋一「…ごめん」
めり「…」
洋一「今日は一人にして」
立ち止まるめり。
めり「なんかあったの?」
洋一「…」
めり「洋一」
洋一「うるさいな」
めり「…」
洋一「ごめん。しばらくそっとしといてほしい。……切るわ」
【25】瑛二と優菜の家 昼
とあるアパートの一室。キッチンでご飯を作る優菜、ソファでテレビを見る瑛二。
優菜「昨日飲みすぎたんでしょ」
瑛二「まあねえ〜」
優菜「お味噌汁あるけど」
瑛二「ラッキー」
キッチンに立つ優菜に近寄る瑛二。抱きつこうとすると、優菜の電話が鳴る。
優菜「ごめん仕事の電話だ」
少し離れる優菜。電話の声が漏れている。少しして戻って来る。
瑛二「今日はリモートなの?」
優菜「うん。ご飯食べてからやろうと思って」
瑛二「そっか(抱きつく)」
優菜「何。二日酔いなんでしょ」
瑛二「それは関係ない」
優菜「今ご飯できるから待ってて」
瑛二「…優菜は絶対いい嫁になるよ」
優菜「ありがと。もらってね」
瑛二「もちろん」
優菜「(微笑むがどこか機械的)」
瑛二のスマホが鳴る。
瑛二「笹木だわ。はい」
めり(声)「よ」
瑛二「よ、じゃねえよ今優菜とイチャイチャしようとしてるのに」
優菜「めりちゃん?」
瑛二「うん」
めり(声)「瑛ちゃん最近洋一と喋った?」
瑛二「洋一?まあ、喋ったよ」
キッチンで電子レンジを開ける優菜。しばらく中を見つめ、ゆっくりと機械的に開けたり閉めたりする。
めり(声)「元気ないって言うか。引きこもってるみたいで」
瑛二「あー」
《S#20 バーでの言動、真由の行動を思い出す》
電子レンジを高速で開けたり閉めたりする優菜。音が響く。
瑛二「ちょっと待って。優菜どうした?」
優菜「…え?…ううん?」
めり(声)「どうしたの?」
瑛二「いや、こっちの話」
めり(声)「…ちなみに洋一と、電話で話した?」
瑛二「いや。…会った。なんで?」
めり(声)「いや。私、電話で話したんだけど。…いや電波が悪かったっていうか。気のせいだとは思うんだけどさ」
優菜、自分をビンタする。目から、黒い涙がドバドバと溢れ出す。
瑛二「え?」
めり(声)「ん?どうしたの?」
瑛二「いや。え?」
瑛二と目が合う優菜。黒い涙がドバドバとこぼれ落ち、急に部屋の家具が消え薄暗くなり、一瞬で光に包まれる。
【26】住宅街
電話が切れてしまいかけ直すめり。『電源が入っていない』アナウンス。直接瑛二の家へと足を運ぶ。
× × × × × ×
瑛二のアパート自体が無くなり、空き地になっている。めり、放心。
めり(M)「…わからない」
―――――――――――――――――――――――――
【27】近くのコンビニ 昼
何事もなかったような昼間。店内に入るが放心状態のめり。スマホにメッセージが光る。めりがスマホを見ていると、一気に外が薄暗くなり、夕方になる。振り返るめり、
めり「…あれ?…」
スマホの時間は18時。
真由「わっ」
めり「びっくりした」
すっぴんでオールバックのパジャマの真由が現れる。
真由「ヤッホお」
めり「…誰ですか…。あんた家この辺だったっけ」
真由「健太郎くんの家に住み着いてるの。てかそうだ昨日洋一くんに会いましたわ〜」
めり「住み…え?洋一?」
真由「友人としてご挨拶しときました。瑛二くんのバーに来てたよ。てかやっぱイケメンだよね洋一くん。イケメンっていうか雰囲気あるわ。背大きいし。」
めり「はあ。この前と言ってること全然違うけど」
真由の顔のパーツがゆっくり少しずつ不自然にずれていく。
めり「……真由?」
真由「いい奴そうじゃん。合格う」
真由、上からクソでかい岩が落ちてきて無残に潰れる。光に包まれ、破壊されていくコンビニ。めり、走ってコンビニから出て空を見上げると、大きな化物が空から覗いており、コンビニを踏み潰す。めりはギリギリ助かる。
めり(声)「この時、私は思った。多分真由が死んだのはこの世界でちっぽけな出来事で、それはそれは当たり前に予想がつく話で、だって私は」
後退りし、走るめり。化物は消え失せ、昼間に戻っている。無音。振り向くといくつかの建物が崩れて無くなっており、瓦礫にまみれている、人の声もせず静かで、風の音だけが聞こえる。
洋一「…めりちゃん」
前に振り向くと、目の前には酷くオンボロのジープに乗る洋一が居る。静寂。建物などは破壊されているものが多いが、所々そのまま存在している。
洋一「乗る?」
めりしばらくの放心の後、喜びを隠せず少し微笑み、助手席に乗る。
めり「……そういえば運転できたんだっけね。」
洋一「そこ?」
めり「久々に見た。ハンドル握ってるとこ」
洋一「…(鼻で笑う)呑気」
めり「…死にたくなくなったの?」
洋一「…俺さ」
めり「…」
洋一「…状況がよく分かんないけど、めりちゃん大丈夫かなって思って」
めり「…よく分かんないね(嬉しそう)」
洋一「でも俺」
一度、光に包まれる。
洋一「…俺さ」
めり「…えっ?」
洋一「…状況がよく分かんないけど、めりちゃん大丈夫かなって思って」
めり「…よく…分かんない」
洋一「でも俺」
再び、光に包まれる。洋一、のっぺらぼうになり首を不気味にふる。
洋一「…俺さ」
めり「…洋一」
洋一「…状況がよく分かんないけど、めりちゃん大丈夫かなって思って」
めり「……洋一!!!」
恐怖で洋一をビンタするめり。洋一の首が回転する。
洋一「でも俺の」
再び、光に包まれる。ジープが縦に真っ二つに割れる。スローモーション。車から振り落とされ、吹っ飛ぶめり。洋一が乗ってた方は潰され粉々になる。めり、恐る恐る立ち上がり、洋一の方に歩く。
八つ裂きになった洋一が残酷に息絶えている。顔はのっぺらぼうではなく、洋一のまま。めり、声にならない叫びをあげ、腰を抜かす。
めり「夢だ。夢しかありえない。絶対に」
一人静かに洋一を見て涙を流すめり。ぐちゃぐちゃになった洋一に触れると、震えながら息を飲み立ち上がる。ゆっくり歩き出すめり。足が震えている。
めり(M)「私は思った。どんな世界でも、選ばれし者は生まれた時からその定めが決まっている。まさかそれが自分だなんて、誰も」
建物の隙間に少しの光が見え、恐る恐る近寄り、隙間を覗く。
そこにはバズーカを背負った矢吹(29)がしゃがんでいる。しばらく目が合う二人。
矢吹「あ。モノローグ読んでる時にごめん」
そこに突如現れるコンビニを潰した大きな化物。唸り声をあげ、それを見ためりは腰を抜かす。矢吹、めりの前に立ち、右手でクソデカマシンガンをぶっ放し、投げ捨て、背負っていたもう一つのバズーカを化け物に向けると、光に包まれ、化け物が爆発する。
矢吹「おーーーい加藤どこ言ったーーー!!!」
めり「キャァああアア!!!いったいなんなの!!!!!!!」
矢吹「ああごめん。私矢吹って言うんだ。よろしくなァ!!」
【28】タイトル「最終話」オープニングアニメ
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