【最終話】02 生命

【29】白い世界 ※安っぽいコント番組のようなテンポ。
真っ暗な画面に砂嵐、時々人間。ラジオがぶつぶつ切れるような音。ノイズ。
 次に昭和のブラウン缶テレビ。古臭いCMのような映像が流れる。
神(M)「矢吹、加藤、聞こえますか?私は、全てを創ることを、指揮するものです」
一瞬だけ全裸の矢吹が映る。矢吹、音が大きすぎて耳を塞ぐ。
神(M)「(音量調節している音)そこにはまだ、何も無い」
神(M)「さあ、世界の再起動を始めましょう」
耳を裂くようなノイズが聞こえ、目を覚ます矢吹。服は着ていない。そこには、広さも狭さもわからない真っ白な空間が広がっている。
矢吹「…あ(発声練習)」
  突然何もないところから裸の加藤が飛んでくる。
矢吹「ヒッ。おっ」
加藤「わ」
  目を合わせる二人。何もないところから男性の低い声が、アナウンス調で聞こえる。
神「矢吹、加藤、聞こえますか?私は、全てを創ることを、指揮するものです」
矢吹「(音が大きすぎて耳を塞ぐ)」
神「(音量調節している音)」
  そこに現れるレトロな大きいアーケードゲーム。
(※以下吹替音声)
加藤「なんか、聞こえるの?」
矢吹「え?(聞こえないの?)……」
神「貴方達の存在していた世は消えました。失敗したのです。ここには最低限の言語と、次の世に引き継ぐ造形をした見本の体、それしかありません。」
矢吹「(自分の体を触って)柔らかい、変。色も地味」
神「全てを創る為に必要なある程度の言語は、ここにあります。これはとっても曖昧です。これから全てを、貴方たちが創り上げるのです」
加藤「……なんか言ってる?」
矢吹「…?(首を傾げる、もう一回、のジェスチャー)」
 
× × × × × ×
 
 
床に指で絵をかく加藤。アーケードゲームみたいなものを操作する矢吹。
 
矢吹「最低限の言語かあ。…私と、あなたが、が決めていいんだって」
加藤「なにを」
矢吹「何もかもを。お喋り出来る言語は、存在している。」
加藤「へえ、私にも見せて」
|(※まだ第一人称が私しか無い)ゲーム機には色のついたボタンがたくさんあり、一つ押すと「あ」と音が鳴る。画面には枠が出て来る。矢吹はそれを操作し、まずは平仮名の形を一個一個創っていく。
加藤「自分の呼び方を何種類か作ろうよ。『私』ってどこか(加藤の顔を見て)しっくりこない」
矢吹「いいね。なんでも決めていいらしいから」
加藤「わで、んー。んー。わだ、ごごご、ごぁ、」
矢吹「何やってるのよ」
加藤「何がいいんだよ」
矢吹「うーん。ウォ、われ、お、わ(発音を探している)…オレ、ってどう?」
加藤「オレ?なんで?」
矢吹「前の世が全部消える前に、そういう名前の生き物を飼育したような」
加藤「ふーん。それでいってみっか。理由はともあれ」
矢吹「あと、それ」
股間をまじまじと見る矢吹。
矢吹「見てて変な気持ち」
加藤「貴方にはないの?」
(※まだ相手の呼び方が貴方しかない)
矢吹「ないわよ。そんな変なやつ、気持ち悪い」
加藤「中身(内臓)が出ちゃってるのかな、(引っ張る)…痛い!これ俺と繋がってる」
矢吹、加藤の頭を叩く。
矢吹「繋がってんのは見たらわかるわよ。…不快な事を伝える言語も決めましょう、鬱陶し
い時とか目障りな時の。短いやつで。相手のことを指す」
加藤「…ウェーとか。オエぁとか。オロロロロ」
矢吹「嫌」
加藤「…気に障った時の呼び方でしょ?」
矢吹「そうよ」
加藤「…マヌケってどう?」
矢吹「お、いいわね」
加藤「なんで決定の権限が全部矢吹なの?」
矢吹「…く、クッ(怒りを込めてみる)、……クッソ…クソってどう?」
加藤「なんか嫌だ」
矢吹「(加藤の真似して) 痛い!これ俺と繋がってる……見たらわかるわよクソが(大声)あ、いいわね。」
加藤「言われた側は最悪の気分」
矢吹「それであってるわよ」
神(声)「私にも名前をつけてくれないか」
矢吹「(神の真似して)私にも名前をつけてくれないか?だって」
加藤「誰が」
矢吹「知らない、なんか音だけするの。さっきから。」
加藤「そんな物に名前つけれないわ」
矢吹「自分を説明してみて」
神(声)「私はこれから創る物の全てを支配し、包み込んで、監視して、守り抜く…守り抜けそうな…感じの存在を目指していきます」
矢吹「最悪の存在ってことね(嫌味を込めて)」
加藤「うーん。矢吹ってここに来る前?何色だった?」
矢吹「色?うーんどうだったっけ…」
神「すべては、想像せよ」
矢吹、目を瞑り想像すると赤い謎の気持ち悪い生命体現れる。
加藤「…ううん(考え込む)」
矢吹「記憶が曖昧なんだけどね。てか一生懸命描いてるのに(加藤を指差す)、想像でこんなんが出せるなら描かなくて良かったでしょう?!そういうの説明しときなさいよ。このクソが」
  赤い謎の気持ち悪い生命体、アーケードゲームに吸い込まれる。
加藤「もうクソで良くない?」
矢吹「そしたらこれから出来あがるもの色々変な感じになりそうで嫌ね。支配する予定らしいし。てか加藤は、なんで私の色聞いたの?」
加藤「てかオレ達、何を創るんだっけ」
矢吹「すべてだよ。全部」
加藤「…何か身につけるものを存在させるのはどうかな?」
矢吹「は?」
加藤「えっ?」
神(声)「私の名前を…」
矢吹「うるさい今違う話してるのよ(結構怒ってる)!」
加藤「たとえばこの矢吹の色(赤色)でさ、」
加藤、想像すると矢吹に赤色のワンピースが着用される。
矢吹「素晴らしい」
気を遣って神が想像した、丸くて薄い全身鏡が突然出現。
加藤「オレだ」
矢吹「えっ…?これ私?素晴らしいわ…。こうゆうの最初から置いといてよね」
加藤、もう一度想像すると加藤にも青いスーツのような服が着せられる。
加藤「うおー、すげー。オレは前の世まで、確かこの色の生物だったんだよ」
矢吹「ふうん。才能あるわ」
加藤「オレ達みたいなのが沢山存在してさ、最初小さな形で生まれてどんどんどんどん大きくなるのどうかな?」
矢吹「何言ってんの…?!意味がわからなすぎるわ。飼育するってこと?」
加藤「そう!」
 想像で加藤が作った赤ちゃんが出てくる。
矢吹「誰が飼育するの?」
加藤「自分達!」
矢吹「……え??は。全然意味わからん」
加藤「え、意味わからんか?音だけのやつなんか言ってない?」
神(声)「んー育て合うってこと?」
加藤「まーそんな感じ?でも最初こう…小さくて、(生まれてヘソ脳を切るジェスチャーなど)だんだん大きくなってって、大きいやつが自分が産んだ小さいやつを育てたらいいよ」
神(声)「あーはいはいはいはい」
矢吹「聞こえてるね」
加藤「本当だ」
矢吹「名前何にする?私達みたいな生き物の。てかこれどんだけ大量に名前決めるの?クソすぎ」
加藤「オレ決めていい?」
矢吹「なに」
加藤「ミンミン」
矢吹「嫌」
加藤「オレが前に飼育してた、生き物の名前」
矢吹「ダサい」
加藤「ダ…?なにその言語」
矢吹「ダサいは、どうしようもないとか、見てられない、見たくないとか、見てるだけで不愉快とか、そうゆうことよ」
加藤「矢吹、今作っただろ」
神(声)「ヌァ、にん。ハァンヌァ…ゴホッ(発音を探している)」
加藤「え?大丈夫?」
神(声)「…ヌァんガン、ゲン…ニンゲン」
矢吹「ニンゲン?…ちょっとミンミンに引っ張られてない?」
神(声)「ニンゲン」
矢吹「わかったって。もう一回言いやがったぞ!」
加藤「いいんじゃない?これくらい決めさせてあげようよ」
矢吹「言語が初めから必要だってわかってたのは貴方?」
加藤「……オレ?」
矢吹「んな訳ないでしょ(上を指差す)」
神(声)「はあい、違います。言語は上の会議で決めた、勿論私も意見しました」
矢吹「最初の『はあい』クソ。すごい、初期言語こそ決めるの大変そう」
加藤「貴方っていう誰か指す時の言語、もう一個作らない?」
矢吹「なぜ?」
加藤「これから会うニンゲンには貴方って使って、古参のオレ達は違う感じで呼び合う」
矢吹「古参?古参?!何、古参て…難しい。」
加藤「なにがいい?」
矢吹「うーん…(加藤を指差して)タイっ…ンマーっ… めっ。…テメェとかどう?」
加藤「なんか不愉快だけどお洒落でいいな」
矢吹「不愉快とお洒落って一緒に使えるのね」
加藤「テメェ、テメェ、かあ。練習」
矢吹「いいよ」
加藤「うーん(ちぐはぐなシャドーボクシング)どうしようかな、」
矢吹「じゃあ私が練習する!…テメェはクソ!!」
加藤「嫌な気分」
矢吹「いいじゃん。これくらいが。テメェで決まりね」
神「私の名前…」
矢吹「ニンゲンサイコウとかで良いんじゃない?」
神(声)「嫌です」
矢吹「…はあ〜(でか溜息)…加藤、何文字がいい?」
加藤「2文字か4文字…数字が必要だって言うのも音の人たちの会議で決めたの?」
神「数字だけは私が結構ほとんど決めたっぽいのだ」
矢吹「ほんとかよ、なんか口調変になってるし」
加藤「すごいなあ。ケミケミってどう?」
矢吹「可愛い(適当)」
神(声)「…」
矢吹「でもほんとに可愛いの?テメェの姿」
神(声)「姿も決めてください」
加藤「えっそれも決めていいの?!オレらが?!想像しよ」
矢吹「じゃあ加藤が想像したのに私が付け足ししようかな。いい?最高に偉くて一番強そうで…支配者よ。そんな感じで行けよ」
加藤「難しいな…ニンゲンの中ではデカめで…なんかキラーン、みたいな。フハハハ。ファファファア!!みたいな?」
加藤が想像した真っ白な髪の毛のデカめのおじいちゃんが出てくる。
矢吹「…ぽい。(適当)でも可愛くはない」
加藤「才能あるだろ。ちゃんとぶら下がってるやつも付けた(股間を指差す)」
矢吹「じゃあ私がそれにこれを身につけさせて」
矢吹が想像した白くてなんだかやばい服を身にまとう神。
加藤「ケミケミどう?いい感じ?」
神「感謝する……いい感じってどんな感じだったろうか(綺麗な声)」
矢吹「こんな感じだろ〜(適当)」
神「感謝する」
加藤「ケミケミ…ニンゲンは大きくなりすぎたら、こんな感じで口の横のシワッとか目の横のシワッとか増えることにしよう」
矢吹「萎んでくの?…………何故…?!…まあいいや。てかミンミンとかケミケミとか繰り返すの好きね」
加藤「可愛いでしょ」
矢吹「ケミで切らない?一回で」
加藤「なんと」
矢吹「私繰り返し系好きじゃないのよね」
《生命の誕生》
神(M)「矢吹、加藤はその後もたくさんの物事を決めた。時間の経ち方、星の名前、宇宙の設定。新しい言語、世界。人間の増やし方。たくさんの時間をかけて。
人間が生きる環境。《恐竜時代や戦争時代》創られた過去。生物が増えすぎると大変なので、人間全てに寿命というタイムリミットがあり、古く生きてる人間が、新しく産まれた人間を飼育する。人間は、肉体の中に魂という中身があると思い込んでいる。だから、人に優しくなれる。人間は、愛や、情に弱い。恐怖にも弱く、兎に角とても儚い。自ら寿命を終わらせた人間たちは、故障したとみなされ、同じ人格でやり直しをしなければならない。…人間には、個性というものがあり…」
矢吹「それ全部説明しようとしてるの?だるいよ!!…ねえねえ、1人だけ、自分でニンゲン作ろうよ。選ばれしなんちゃらみたいな」
神、モノローグを遮られムスッとしている。目の前にはプレゼン会場のようにいくつかの液晶に映った地球、人間、そして愛や平和や生活についてが記されている。
矢吹「私たちも、誰かの親になるのよ。こういうのは絵で書いた方がいいよね」
加藤「じゃあ俺も」
神(M)「2人は想像ではなく、こちら(ゲームのような機器の画面)を使って絵を描き、特別なニンゲンを一人づつ作った。初めて『心を込める』ということが行われた瞬間だ。ニンゲンを作っている二人の笑顔は、とても輝いていた。」
神「準備は整った」
矢吹「随分長かったなー。人間だったら金よこせっていうよ。あ、私も人間か〜。にしても私たちは終わらないって。罰を与えられてるみたいで変だわ」
加藤「罰か。」
神「初めの合図を」
矢吹「ん?初めの合図?」
少し沈黙。何も言わない神。
加藤「ん?……あ。わかった。これより、生命の始まり〜なんたらかんたら〜みたいなやつをやりたいの?」
矢吹「なんたらかんたら?はァ?」
加藤「そんな難しいこと言ったか俺」
矢吹「ケミケミがやれば」
矢吹「もう、繰り返すなって」
神「…はい」
加藤「かっこよく頼む」
神「…これより生命の始まり、全てをスタートさせる。私がこの世界の…ケミとなった」
矢吹「ケミってダサかったね、やめたらよかった」
加藤「うわっ。可哀想」
 
テロップ「こうして、何回目かの世界は始まった。」
 
神(M)「街が出来、人間が出来、記憶が埋め込まれた。そして歴史も全て、埋め込まれた。ここからは人間達で作っていく。」
《街、人、生物、建物、海、空が出来ていく様。》
 

【最終話】03 戦士

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?