【最終話】05 平凡

【36】壊れた住宅街 夜
巨大チンアナゴのような生き物が地面から大量に蠢く。中華まんを食べながら、大きなマシンガン(簡易修理済み)を持つ矢吹。奇妙な生き物を建物の二階から消し、再生したらまた消していく。溜息をつき振り返ると、目の前に井上美嘉の姿をした矢吹が笑っている。表情も変えず、矢吹は力一杯、井上をビンタし、小さな銃を発砲すると井上美嘉は砂となり消える。その砂は窓から外に飛んでいき、窓から昼間のような光が刺す。聖母のような大きな女が、矢吹に笑いかけている。眩しそうにする矢吹、じっと目を凝らし大きな女を見つめて、バズーカで消す。あたりは暗闇に戻る。
矢吹「…時間がない」
 
【37】校舎裏のプール 夜
瑛二、洋一がプールサイドに座っている。
洋一「…水きたない」
瑛二、メソメソ泣き続ける。それを見る洋一。
瑛二「何」
洋一「瑛ちゃん、泣く時、長尺でメソメソするタイプなんだなと思って。おもしれ」
瑛二「ほっとけ」
洋一「女子みたい。めんどくさい」
瑛二「最悪だよ」
洋一「…大丈夫だよ」
立ち上がる洋一。手のひらを動かして見つめ、自分の顔を触る。
洋一「俺なんて、一回死んでるらしいよ」
瑛二「…(洋一を見つめる)」
洋一「でもわからない。俺にはわかるように、なっていない」
瑛二「…」
洋一「つまり俺は本物だろ」
瑛二「…ポジティブ…どうなっちまったんだろ。俺たちどうなるの」
洋一「消えるらしいよ」
瑛二「…俺売れたかったのに…売れることだけが夢だったのに。今は、舞台に立つために練習をしたり、バーでみんなとお酒飲んだり、普通だったことが、そんなことが、したい」
洋一「わかるよ。…母ちゃん父ちゃんも、もういないのかな」
瑛二「……お前の母ちゃん面白いよなあ」
洋一「…目の前で起きなきゃどうしたらいいかわからないな。…何かが無くなることって」
瑛二「よく喋るな。今日の洋一は」
洋一「…いつ終わるのかわかんないからね」
瑛二「…俺ら終わり方選べるの?…毛見が…あいつ何者?」
洋一「……知らん。あいつ、なんで俺らを選んだんだろ」
瑛二「俺、思ってたより死ぬのめっちゃ怖いんだけど。…洋一はそうでもないの?」
洋一「…怖いよ。痛そうだし」
瑛二「痛そうって。余裕そう。俺らもこうやって、喋れなくなんだよ」
洋一「…そうだね。でもみんな平等だよ」
瑛二「平等……確かに。やっぱり、死ぬことの怖さの中にあるのかな。いつかみんな俺のこと忘れて楽しそうに人生して…みんなの中で自分が過去になる寂しさみたいなのとか、自分がいない世界がずっと続いてくことへの孤独感とか。自分より長く生きる奴への嫉妬とか。今回は平等にみんな消えちゃうからそんなの無いのかもだけど。…でも俺は消えたく無いなあ。優菜とも結婚できないし。家族にももう、会いに行けない。芝居だって、できない。…ああ、楽しかったなあ。…あるのかなあ。死ぬことの怖さに、孤独って。」
洋一「…俺、…人生舐めてたから。わからないや」
瑛二「…まさか本気で舐めてたとは」
洋一「…本当に。どうせ死ぬまでの暇つぶし」
瑛二「…暇つぶし…」
洋一「なんとなく死なないようにご飯食べて、なんとなく死なないように働いて、できるだけ長く生きるために夢を持って」
瑛二「…」
洋一「暇だから恋をして、飽きないよう人と関わって笑ったり怒ったり傷付いたりするんだろ」
瑛二「…そんなふうに考えんなよ。…はあ。今日の洋一はよく喋るな」
洋一「……泣き止んだね」
瑛二「人を赤ちゃんみてえに。恥ずかしい」
【38】廃墟の校舎内、階段
杏とめい、裏庭を双眼鏡で見る。料理をしている毛見とめり、加藤とジローが見える。
めい「…おいしそう」
杏、うなずく。
めい「てかこれ(双眼鏡)めっちゃよいですよね?」
杏、親指を立てる。
めい「作ったの誰だと思う?(自分を指差す)」
杏、しらばっくれながらめいに指を差す。二人で戯れる。
めい「どうにかしてあのご飯達をもらわんといかんです(小声)」
杏、険しい顔。再び双眼鏡で裏庭を見るめい。
めい「肉があります!肉発見。てか私発明家になっちゃおうかな。あ、最終的に」
杏、めいの肩を叩き、首を振る。
めい「そうか。もう今最終的なとこか」
杏、また首を振り、めいを指さす。
杏「…もう発明家」
急に喋った杏に、笑うめい。杏は親指を立てる。
めい「さっきあのアホそうな男の人に見つかりましたね」
杏、大丈夫大丈夫のジェスチャー。

【39】裏庭
簡易的バーベキューセットで肉を焼く毛見。めちゃくちゃ嬉しそう。めり、切った野菜の山を無表情で運ぶ。ジローは焼き加減を見ており、加藤は椅子に座り黄昏れている。
めり「…怖い。だんだん実感湧かなくなってきた」
ジロー「何が」
めり「今が、絶体絶命だってこと」
毛見「そんなこと忘れちゃってくださいよ。」
ジロー「一番思い出させる要素お前やろ」
めり「ジローちゃんは最初から呑気だもんな」
ジロー「よくわかってへんからな」
そこに大量の高級そうな缶詰やお菓子や酒を持った杏とめいが走ってきて、転ぶ。ばら撒かれる食料。
めい「おーっと足が滑ったあ」
加藤「…足が?…おい」
ジロー「あ、いた」
めり「(無言)」
毛見、食材を見て目を輝かせる。加藤の肩に手をやる。
毛見「やっぱり、天才だよ(加藤の目を見て)」
めい「いてててて(棒)これから困るかなあと思ってたくさん食料を独り占め…はっ、二人じめしてたのがバレてしまったあ」
杏「…たあ」
加藤「…はあ」
めり「誰?」
めい「めいです!杏です(杏を指差し)師匠(加藤を見て)、私も焼いた肉が食べたいです」
加藤「…師匠になった覚えが無さすぎる」
めい「これ全部分けっこしますんで」
毛見「いいじゃないか。大勢の方が楽しいし。はあ〜人間っぽくて、いい」
加藤「ケミケミさ」
毛見「?」
加藤「…初対面だろ」
毛見「ええ」
加藤「…じゃあ…」
毛見「じゃあ何故って?神にもわからないことがきっと、あるでしょう。細かいことはいい。」
めり「…女子がいなくて寂しかったからいいじゃん。ちょっとトイレ行ってくる」
ジロー「…神?」
めり「…(毛見と加藤を見て)あ!トイレ行ってる間に色々終わるのだけはやめてね」
ジロー「なんかあなた慣れてきちゃってるわ」
めい「これ(グミ一個)あげますんで、これ(巨大肉)と交換で」
ジロー「…はっ!…めっちゃ舐められてる」
加藤「…まあいいや。俺パトロール行ってくるわ」
【40】ボロアパート
廃墟と化した学校の近くのボロアパート。老夫婦で住んでいた形跡がある。子供のおもちゃなども置いてあり、漫画もテーブルに乗っている。人は居ないため、勝手に風呂に入る矢吹。外には歌声が聞こえている。
風呂上りの矢吹、ドライアーをかける。電気がチカチカしている。ドライアーを止め、部屋の電気を見つめる。近くにある水を飲む。
矢吹「…ニンゲン」
ふと仏壇が目に入る。知らないお爺ちゃんが笑っている写真。しばらく見つめた後、息を飲み、またドライアーをかける。大きな声で歌う。
矢吹「きよし〜この夜〜星が〜ひかる」
そこに窓から入ってくる加藤。
矢吹「だーーーーーー!!!…」
加藤「歌声でっか。もう何も居ないから外に響き渡ってたぞ」
矢吹「…ふーん」
加藤「普通に驚いてたな。初めて見たんですけど」
矢吹「…チッ…試しに気抜いてただけ」
加藤「試しに…意味不明」
矢吹、近くの座布団を加藤に投げる。加藤、避ける。矢吹、立ち上がると冷蔵庫から牛乳をとり、一気飲み。寝転がり勝手にその辺の漫画を読む加藤。矢吹、再び仏壇の写真に目をやり、眉間にシワを寄せて写真を倒す。
矢吹「ニンゲンって面倒。…(窓を開けて叫ぶ)腹減ったーーーああぁ」
加藤「学校に食料あるよ」
矢吹、加藤を睨む。
矢吹「キャンプってなら御免」
加藤「焼いた肉もある」
ニヤつく矢吹。加藤、漫画を読んだまま。舌打ちする矢吹。
【41】裏庭
火を囲むめり、洋一、瑛二、ジロー、毛見、杏とめい。焼いた肉や魚、野菜、めいたちが持ってきたお菓子や食材を食べている。
瑛二「…女子が三人も居るのに料理のうまい奴が一人もいねえなんて」
めり「瑛ちゃんはさっきまで暴れてたんだから何も言わないで」
瑛二「おい。暴れてたって言うな。泣くぞ」
毛見、ものすごく美味しそうに串に刺した食材を食う。それを軽蔑の目でゆっくり見るジロー。
めい「肉ください」
ジロー「(見ずに)自分で取れ」
めい、ジローの皿から肉を取り、杏と分ける。
ジロー「もう!ちゃう」
そこに不機嫌な顔で現れる矢吹、とその隣は加藤。
加藤「…呑気なもんだ」
矢吹「肉よこせ(銃を向ける)」
加藤「(銃を下げて)くれねえよそれじゃ」
洋一、矢吹が気になる様子。めり、串刺しの焼けた肉を何本か持ち、矢吹と加藤の元に歩き、渡す。
加藤「ありがと」
めい、杏に耳打ちをする。
めい「師匠の彼女かな」
杏、首を傾げるが、違う、の顔。
めい「師匠の彼女ですかあーー!!」
杏、手で思いっきりめいの口を塞ぐ。矢吹、肉をガサツに食べながら首を傾げる。杏の目をじっと見つめる。目が合う二人。それを見るめい。
矢吹「…フゥ〜なるほどぉ。」
杏に不気味に微笑む矢吹。少し警戒する杏。表情は変わらない。
加藤「彼女な訳ねえだろおー!!(同じ感じで叫んであげる優しさ)」
矢吹、何本か焼けた串をとり近づき、毛見の顔を掴むと、微笑む。息を飲む毛見。次第に力を込め、離す。そして瑛二の目を近くでじっと見る。
矢吹「…私矢吹。あなたたちと仲良くするなんて虫唾が走るのお!とっとと食べて寝て食べて寝て!わかるか?本当のところは巻きでこの世を消して消して消して消しまくりたいんだよーーーーーん!!んーまっ(ジローの顔を掴んでキス)おえ、どゲロくせ――なあクソ!!!!あ。ハッピー?ハッピーハッピーハッピー」
それをじっと見つめる洋一。洋一の顔を見て、にやける矢吹。
矢吹「どうしたの?肉ミンチちゃん。」
ガサツに肉を食べながら、去っていく矢吹。校舎の中に消える。瑛二、放心状態。
加藤「ごめんな。あいつトラウマを残すのだけは得意で」
ジロー「大得意やな(傷心)」
めい「かっけ〜(小声)」
毛見、固まったまま動かない。(萎縮)
加藤「…俺と矢吹は創作者つって、この世を作った、作家みたいなもん。例えば〜。見て(空を指差し微笑む)これも俺がデザインした訳。ケミケミは…言うなれば神様」
めり「神様…?」
毛見、近くにあった酒を開け、一気に飲むと、嬉しそうに微笑み、ゲップをする。
毛見「ニンゲンは素晴らしい。今日は人生の打ち上げだ」
瑛二「お前が神様…?」
めり「…」
加藤「ケミ様なはずだったんだけどな」
めり、よく分からずその辺の酒を開けて飲む。洋一、毛見をぼーっと見つめる。
洋一「…タバコ吸ってくるわ」
めり「…私も行く」
洋一「や、いいよ」
めり「…」
校舎に向かう洋一。それを不機嫌そうに見つめるめり、酒を一気飲み。
ジロー「何、ふられたん?」
瑛二、吹き出し笑う。めり、ジローを殴る。便乗してめいと杏もジローを殴り、その場から遠く逃げていく。

【42】校舎前入口
入り口玄関に座り、グラウンドを見つめる矢吹。空から巨大な黒目の大きな化け物が髪の毛を垂らし、笑顔でこちらを見つめている。
それをバズーカで消し、グラウンドから時より生える透明な巨大チンアナゴのような物体を引き抜く。一度全てが消える。またゆっくりと、巨大チンアナゴが生え始める。
矢吹、振り向くと、少し離れて洋一がいる。タバコに火をつけ、その場で座って吸い始める。
洋一「…あの」
矢吹「あい?」
洋一「…俺と、会ったこと、ありませんか」
《井上美嘉の表情、喋り方、笑い方》
矢吹、目を逸らす。
矢吹「知らねえなあ。(あくび)そんな金玉の小さそうな男は」
一瞬時が止まる。
急に破壊音が鳴り響き、ド派手な女の笑い声がする。矢吹、声のする方を睨み、小さい銃をセットし歩き出す。
矢吹「なんか来たアアアアアア!!誰だお前はアアアアア」
洋一「声でか」
巨大な戦車のようなものが校門を突き破る。戦車の上に派手すぎる格好でサングラスをかけた派手な女が乗っており、ド派手に笑い声を轟かせている。グラウンドから飛び出ていたチンアナゴたちは戦車によりプチプチと音を立てて潰れていく。
矢吹、微笑み、バズーカを戦車に向ける。
矢吹「終わらせてやんないと」
どこか切なく囁く矢吹の表情を、横目で見る洋一。光に包まれる。
【43】ボロアパート
畳の部屋の小さなアパート。風呂上りの杏、冷蔵庫から牛乳を出し、飲む。古臭いテレビゲームをするめいを見る杏。
めい「たのしー」
杏「ウエ」
めい「どうしました?」
杏、首を振り、冷蔵庫に牛乳をしまう・
めい「ここでお腹壊したら終わりですよ」
杏、座り、ドライアーをかける。
めい「あそこには男子もいるし。(戦車の音を聞いて)なんかすごい音する」
めい、二階に走っていく。杏もついていく。窓を開ける。何も見えない。
めい「あの人たちも消えちゃうのかな」
杏とめい、目を合わせる。
めい「矢吹って人すごい怖かったね」
杏、間をとってうなずく。二人で一階に走っていき、杏はドライアー。めいはゲームに戻る。
めい「本当に二人だけになったらどうしようね」
杏「…」
めい「魚とか釣って食べてさ。でも魚とかも消えたのか?」
杏「…」
めい、ドライアーをかける杏を見る。
めい「聞いてないじゃんアホ」
杏、ドライアーを止め、めいの目を見る。ドライアーを指差し(今ドライアーかけてる!)、不貞腐れた表情。
【44】裏庭
急に大きく戦車の音が響き、目を見開くめり。
めり「…洋一」
めり、表入り口に走る。ジロー、瑛二が後を追う。加藤、バズーカを持つ。
毛見「…終わる」
加藤「あ?」
毛見「今日が終わる」
遠くを見つめる毛見、どこか表情が不気味。儚く一筋の涙が溢れる。
【45】校舎入り口
片目と肩を突き抜けるように撃たれた矢吹が、血を流しヒクヒクと不規則に動きながら倒れている。それを茫然と見る洋一。
洋一「…矢吹さん」
うつろな矢吹の目を見つめ、矢吹の頬にそっと触れる洋一。


【最終話】06 理想

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