【最終話】04 空気

【33】レトロなアニメ
お菓子を食べながら、母親と電話する洋一(音声のみ)
洋一「正月帰れないからさ。…うん。今日はこっちもすげー寒いよ。…結婚はまだまだ先かな…相手もいないしね。うん。仕事はまあぼちぼち。…また面白い本見つけてさ。父さんに送ろうかな。……いや、母さんには難しいでしょ」
耳を裂くようなノイズ。
【34】壊れた住宅街 夕方
目を覚ます洋一、水中から解放されたかのように、息を整える。辺りは暗い。狭い路地らしい。
瓦礫だらけで、壊れた建物と、何もない空間が無造作に広がっている。いつも見ていた終末系アニメとリンクする部分がある。
《洋一、車が真っ二つになる瞬間、一瞬矢吹と目が合う。フラッシュバック》
ゆっくり立ち上がり、路地から出て少し歩くと、夕方の空の下、広い道路に顔が涙でボロボロのめりが寝ている。しばらく少し愛しそうに見つめている洋一。しゃがみこんでめりの頭を優しく触る。
洋一「…めりちゃん」
ゆっくり目を覚ますめり。洋一と目が合う。しばらくして飛び起き、洋一の顔を乱暴に触る。
洋一「いててて…」
めり「ほ、本物?」
洋一「痛い」
めり、顔が徐々に崩れていき、大粒の涙を流す。声を出して子供のように泣きながら、洋一に抱きつく。
洋一「おお〜苦しい」
壊れた建物の隙間から歩いてくる毛見。
毛見「矢吹からの誕生日プレゼントだ」
洋一、振り返り、ぼーっと毛見を見つめる。表情を全く変えない毛見。洋一の手を取り、車の方に歩いていくめり。
 
× × × × × ×
 
真っ二つになった車の影を覗くと、肉のミンチとなった洋一に虫が沸いている。膝から崩れ落ち、嘔吐する洋一。放心状態で死体を見つめるめり。
毛見「体はオリジナルじゃないけど、中身は一緒だ。…すごいだろ(洋一に)」
洋一、息が整わない。自分の手のひらを見つめる。めり、ゴミを見る目で毛見を睨み付ける。めりを見返す毛見。
毛見「何か言いたげだな。人間を生き返らせろと無茶を言っといて、まだわがままを言えるか。主人公よ」
めり「……」
毛見「元気出せ。俺はお前が羨ましい。そう言ったじゃないか」
そこにジローを担いだ矢吹が登場し、手に持った小さな銃で毛見の足元に数発発砲。
毛見「あぶなっ。こわっ(必死で避ける)」
矢吹「ケミちゃんハロー♡…キャハハ身なりがまるで今時の人間じゃないのよおぅ!くっだらねェ」
毛見「矢吹」
めり「…ケミちゃん?」
めり、会話する毛見と矢吹を軽蔑の目で見る。起き上がる洋一、ふと矢吹の方を見る。
《井上美嘉の表情、喋り方、笑い方がフラッシュバック》
目が合う洋一と矢吹。ジローを地面に転がし、洋一に近づく矢吹。
洋一「…あ」
矢吹「ハッピバースデイトゥーユーハッピバースデイトゥーユー♪…死ぬって痛かったかしら?(可愛い声)。貴様の中身は本物、形は偽物のクソコピー人間、死んだときの記憶も特別に消さずにお届けいたしましたあ。ボディだけですがハッピーバースデイ女に愛された肉ミンチ野郎。だけど外側はクソコピー♪(笑顔)」
毛見「…キャンプでもしよう」
矢吹「チッ。……はい?はい?はい?」
毛見「この世で最期の晩餐ってやつを…急がなきゃ!」
矢吹、毛見を睨み付ける。毛見、めりの目を見る。
毛見「どうだ。(手を広げて)貸切のこの世で最期の晩餐ってのは、何が食べたい。なんでも作ってやるよ。ワクワクしてきた」
洋一、矢吹を見たまま動かない。
めり「…洋一?」
洋一、何も喋らず。
矢吹「おいおいおい私は生きてるニンゲン全員のロマンチックに付き合わなきゃならねえのかよ!うぜえなァ!」
矢吹、毛見の服を乱暴に掴む。
毛見「どうせお前には消せない。(洋一の肉片を見て)全て運命で決まっていたことだろう」
矢吹「……あーら、そう。」
矢吹、毛見から手を離し、近くに寝転がるジローを八つ当たりで蹴る。目を覚ますジロー。
ジロー「痛っ…うえっ」
矢吹「…クソが。勝手にしろ」
ジロー「……(声が出ない)(困惑)」
立ち去る矢吹。不気味な表情で振り返る毛見。洋一を見つめる。
毛見「私と目があったやつは、好きなように死ねるんだ。理想的な終わりが、選べるのだ」
洋一「…終わり」
毛見「私はその権利をお前たちに配り歩いたのさ。でもきっと、全て決まっていたこと」
見つめ合う洋一と毛見。楽しそうな毛見。ジロー、目を覚ますと今更洋一の死体を見てしまい、大声で嘔吐する。
ジロー「ぶっ…オロロロロロロロロ」
めり「…うるさい」
洋一「うんうるさい」
 

【35】廃墟と化した学校 裏庭
廃墟と化した学校。階段の踊り場で寝る瑛二。薄目を覚ます。ボロボロのドアの隙間から光が降り注ぐ。
裏庭で火起こしをするジロー。様々なキャンプグッズが置いてあり、それを見ながら目を輝かせる毛見。
毛見「僕もやってみていい?」
ジロー「(離れて)怖いわあ。僕って言ったり私って言ったり俺って言ったりするしなあ」
毛見「面白いやつですよね」
ジロー「……自分で言うなよ」
端の方で座り込み、何もしないめり。真顔で鶏肉を切る洋一。生きている鳥が頭に浮かぶ。
洋一の手元を至近距離で覗く加藤。
加藤「…何してんの」
洋一「(驚いて)…鳥を」
加藤「…ああ。…って。顔色悪」
洋一「ああ。んー。…さっき全員、ゲロ吐いて…」
加藤「ゲロ?…ゲロて。はは」
洋一「……誰です…」
加藤「あぁ俺。加藤」
洋一「……いや知らな」
洋一、無視して鶏肉を切る作業に戻る。加藤、洋一を睨み、置いてあった生の人参を手に取り勝手に生で食べる。加藤、歩き出し、優しく毛見を叩く。
加藤「何してんの」
毛見「えっ、えっ、いやっ別にっ…ああキャキャキャキャンプを」
ジロー「死ぬ程どもるやん」
加藤「あ、君も顔色悪。…ゲロ?」
ジロー「…なんで…わかるんですか…?(真剣)」
そこに走ってくる瑛二、全てなぎ倒し毛見に襲いかかり、馬乗りになり、ボコボコに殴る。止めずに見ている加藤。
加藤「…元気だな」
めり、立ち上がり瑛二に近づく。
めり「瑛ちゃん。やめて」
瑛二「優菜をどこやった!」
めり「…瑛ちゃん!!」
洋一、後ろから瑛二を押さえ、喧嘩を止める。加藤、口笛を吹く。瑛二、息が整わず、毛見をみている。
加藤「元気なのいいけど、…かっこ悪いよ。…そんで君いいやつだな(洋一に)」
瑛二「なんだよそれ!!優菜はこいつに…こいつの仕業に違いないんだ!!俺の家に忍び込んで…こいつ何者なんだよ!ずっとおかしいと思ってたんだよ!」
加藤「…何言ってる?取り乱すな。…どうせすぐ終わる」
めり「…なんの意味があるの?」
加藤「あ?」
めり「…あなたは誰?」
加藤「俺は加藤です」
めり「……優菜さんは消えたの?」
加藤「え?さあ。どこの誰のことだか」
毛見「優菜さんは…俺と目と目合わせておしゃべりをしている」
瑛二「あ?」
洋一、毛見をじっと見つめる。
洋一「…既に消えたんなら、本人が望んだって?…それを今瑛二にいうのは、ひどいと思う」
毛見「ごめんなさい。…これが空気を読むってことか」
瑛二、洋一に振り向き、腕を振り払う。
ジロー「…優菜…」
瑛二「全員意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ!!!それまでは普通だったんだ…急に、目から黒い、水を、ドバドバふ、吹き出して、化物みたいに…。気がついたら優菜は居なかった。その時こいつが居たんだ。俺は見えた」
加藤「それはバグだよ」
めり「…」
加藤、大事そうに野菜を切りながら答える。
加藤「多分まだその子消えちゃいない。それは君の過剰な妄想みたいなもん。」
瑛二「…俺は見たんだ…見たんだよ」
加藤「…あんねぇ。この世は、お前らニンゲンの過剰な不安と恐怖でバグが起きて、それが現実と混ざりまくっちゃうようになったんだよ。だから今回は俺と矢吹でこの世を終わらせなきゃいけなくなっちゃった」
めり「…じゃあ、あの洋一も。私の妄想…?」
加藤「それは」
加藤、洋一を横目で見る。
《洋一、車が真っ二つになる瞬間、一瞬矢吹と目が合う》
加藤「本人にしかわからない」
洋一、加藤を見る。
瑛二「じゃあ、…優菜はどこに」
加藤「知らねえけど。ケミケミは君を担いでここまで来たんだから。ぶん殴ったことは謝ったほうがいい」
瑛二、毛見を見る。毛見、ボコボコの顔で不気味に遠くを見ている。
瑛二「…ケミ…ケミ…?(毛見を指差し)」
ジロー「名前へぼいな」
加藤「おい嘘だろ」
ジロー「あっ(遠慮して、貴方がつけたんですねの手)」
洋一「…一回落ち着こ」
瑛二「…うう〜(声を出して泣く)」
洋一、瑛二をなだめる。ジロー、それを寂しげに見つめ、その向こうにいる杏とめいに気が付く。
ジロー「ん?」
杏とめい、静かに、のジェスチャー。

【最終話】05 平凡

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