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壁からネコ〜前編〜



「猫飼いたい。」

小学生の頃、そう言い続ける私に母がビックニュースを持ってきた。どうやら知り合いが飼っている猫が赤ちゃんを産んだらしい。
里親を探していたようで一度母と見に行くことになった。その猫は満月みたいにまんまるな目をしたキジトラだった。メロメロになった。


ところがどっこい、その子猫を抱いた途端、腕に大量の湿疹が現れた。私も母もこの時まで知らなかったが、私はなんと猫アレルギーだったのである。


長年の「猫を飼う。」という夢を志半ばで絶たれた私は泣いた。悔しくてとりあえず泣いた。これからの自分の人生に「猫」は存在しない。大袈裟でもなんでもなく、それくらい絶望だった。
でも、それと同時にほんの少し安心した。
私はこの子を抱いた時、幼いながらにほんまにこの子を責任を持って育てられるんか?と不安に思ったのである。

舞い降りない、舞い落ちてきた天使

それから10年の月日が過ぎ、慌ただしい毎日を送っていた。高校受験失敗、両親の離婚、忙しい短大の授業、バイト、母の入院、就職。本当に色んなことがあった。
毎日毎日働いて、この生活に癒しなどなかった。…この時までは。

当時、私は実家で母と兄と暮らしていた。
相変わらず猫は好きだった。母と保護猫サイトを見ては、帰ってきて猫が転がっていたら…ヤバない?と猫アレルギーのくせに妄想を繰り返していた。兄はあまり動物に興味がなかった。

その夜も母と保護猫サイトを見ていると、家の裏からニャーニャーと子猫の鳴き声が聞こえてきた。

我が家は賃貸で、家の裏には大家さんが住んでいる。
大家さんの家の庭で野良猫が赤ちゃん産んだんかな?と、その程度しか考えていなかった。

しかし、夜中になっても子猫はデカい声で鳴き続けている。
窓やベランダから声がする方を見ても姿は確認できない。あまりにもデカい声で鳴き続けているため、中々寝れず、私はイライラし始めた。猫好き失格である。
大家なにしてんねん、どうにかしろ。そんなことを思いながら明日も仕事やから寝な…と布団をかぶって無理矢理寝た。


翌朝、子猫の鳴き声は聞こえなくなっていた。
親猫がどっかに連れて行ったんかな?なんて呑気に考えながら寝不足気味で仕事に向かった。


仕事を終え帰宅すると、兄が自室の壁に耳を当てている。私は兄と非常に仲が悪い。だから声も掛けずとりあえず無視をした。でも気になって横目に見て見ると兄と目が合ってしまった。
そして兄は私の目を見てこう言ったのである。 


『こっから子猫の声がする…!』


そんなワケないやろと思いながら、兄に言われた通り壁に耳をあててみた。
なんと本当に鳴き声が聞こえてきた。鳴き疲れて枯れ気味の声だった。


もう一度説明する。我が家は賃貸だ。それもペット禁止の。助けたところで飼うことはできない。

しかしこの猫どうする!?と必死になっていた私たちは、とりあえず大家さんに事情を説明した。
しかし、壁に穴を開けられたら困る、可哀想やけどそのままにしてほしいと断られた。

壁に穴を開けられて困るのはもちろん分かる。
分かるけど、ここで死なれた方が困る。なんとしてでも救いたい私たちは、この大家と話しても無駄や!とキレ気味に大家さんの家を後にした。

その夜は何もできず、弱っていく子猫の鳴き声を聞きながらどうしようとない気持ちになっていた。


そして我が家は一致団結し、次の日とんでもない行動に出るのである。

つづく。

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