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2023年ベストアルバム30

今年もやります。みなさま2023年お疲れさまでした。
年間ベストを作成する行為には、単純に好きなものを並べる楽しさもあり、音楽に紐づいた記憶を整理する楽しさもあり、そしてなにより節目で自分の嗜好にしっかり向き合える楽しさもあると思います。
自分の場合、今年はこれまで以上に音楽を通して「作家の意図や感情、ひいては存在を感じたい」と望んだ一年でした。「リアルさ」を求めていたと言っても良いでしょう。4月に就職をして、公私の区分けがいよいよ明確になったことで、「私」の部分でしっかりリアリティを感じていかないとマズいという意識が働いたのかもしれません。
そういうこともあって、今年はかなり骨太なラインナップになったなと思います。個人の雑多かつ偏った感想記事ですが、そんなに言うなら聴いてみるか、みたいに誰かの何かに繋がれば幸いです。対象は2023年リリースの新譜アルバム(EP含む)です。ではどうぞ!

30-21

それぞれの感想と、また特に好きだった曲をひとつずつピックアップしてみました。各アルバムのタイトルからsongwhipのリンクに飛べるので、気になったものがあればぜひチェックしてみてください。

30. Sunrise Bang Ur Head Against Tha Wall - Nia Archives

Release: 3/10
Label: Universal Music

もともとあまり明るくないジャンルなので「ジャングルってこういうもの」と言われてしまえばそれまでなんですが、ビートがとにかく過剰。とにかく乗れという圧が物凄くて、問答無用で体が動いてしまいます。それでいて、ボーカルの歌声はむしろちょっと脱力した感じで、ここのギャップが不思議な心地よさを持っていると感じます。9月に来日公演があったらしいものの、その段階ではまだ存在を知らず、めちゃくちゃもったいないことしたな~~と思ってます。

▶︎好きな曲 : So Tell Me… (M4)

29. Wallsocket - Underscores

Release: 9/22
Label: Mom + Pop Music

先行シングルから最高だったUnderscores待望の新譜。SkrillexなどのEDMで育った出自やパンクスへの参照も窺わせる強烈なビート感で殴り、ポップパンク地の超キャッチーな歌メロとY2Kサウンドで刺す、1stよりもさらにポップに強度を増した作品になっています。1stの最高具合はそのままに、インターネットのインディーシーンから一段上のレベルに達した感じ。
ちなみに、コンセプトとしては「ミシガンの架空の街に暮らす3人の少女」についての音楽らしい。MVから察するにたぶん郊外の街がイメージされていて、そういうところにある素朴で、ちょっとネガティブな感情が、ポップな曲の中で笑いながら泣いているような独特の哀愁を感じさせます。"You don't even know who I am"とか、"She's the daughter of a billionaire"とか、"When’s the last time you saw someone with a ski mask and a gun?"とか。この絶妙な哀愁がUnderscoresらしさというか、100gecsとかとはちょっと違うポイントで、私はそこが好きなのかなーと思います(彼らも彼らで哀愁あるけど)。

▶︎好きな曲 : Old Money Bitch (M8)

28. 石のような自由 - 家主

Release: 12/20
Label: NEWFOLK

いま日本で最も良い歌を書くロックバンドのひとつ。1st、2ndに続いて年末のリリースとなり、本記事作成時点でしっかり聴きこめている訳ではないのですが、瑞々しいバンドサウンドと至高のメロディで上手くいかない人生を歌った先行シングル「きかいにおまかせ」、家主の価値観を象徴するもアルバム未収録だった名曲「ひとりとひとり」など、単体でも必聴の、さらに豊かで力強さを増したロックアンセムたちが並んだ傑作です。3人のソングライターの個性が割とはっきり分かれているのに、作品を経るごとに、BeatlesやTeenage Fanclub、果てはくるりやBUMP OF CHICKENなどを吸収した、一つの冷たくも暖かい家主の世界観をどんどん形作っていくのが聴いていて楽しいです。

▶︎好きな曲 : きかいにおまかせ (M2)

27. Life Under The Gun - Militarie Gun

Release: 6/23
Label: Loma Vista Recordings

LA出身、シングルコイルが鋭く燃え滾るディストーションギターと、エネルギッシュで図太いリズム隊とが作る分厚いリフ、そしてハードコアからの影響を感じさせるパワフルなボーカルが彩る、攻撃力と圧と爽やかなポップネスを兼ね備えためちゃめちゃ気持ちの良いパンクス。一曲目からギターのオープンコードで始まる時点で明らかにそれとわかる、捨て曲無しの名盤です。

▶︎好きな曲 : Never Fucked Up Once (M8)

26. After the Magic - Parannoul

Release: 1/28
Label: Topshelf

ある青年を巡る、一つの物語の終焉。歌詞に描かれた青春の終わりは、2年前の衝撃が過ぎ去り、インターネットの特異点としての役目を終えつつある彼の姿をその相似形として描き出しているように思います。私の好きな『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない(桜庭一樹)』という小説には、神秘的な魅力を持っていた主人公の引きこもりの兄が数年ぶりに家を出た途端にその神性を失ってしまう、という描写があるのですが、おそらくParannoulにもそのような瞬間が訪れたのでしょう。しかし本作では、それを他でもない彼自身が、2年前よりも格段に力強く洗練された爆音・轟音で祝福しています。ベッドルームで轟音に向き合う孤独な宅録作家から一躍世界中のリスナーから信奉されるカルトスターとなったこの2年間を「Magic」と呼び、それに別れを告げて外へ踏み出すタイトルと、こうした力強い音像からは、自身が形成してきたシーンを超えて改めて音楽家としての自己を確立させる覚悟を感じます。こういった、作家が己の魂を救済するためだけに書いた作品が私は大好き。ジャケットに描かれた通りの、美しいノイズに彩られた光と希望のアルバムです。本当にありがとう、おめでとう。

▶︎好きな曲 : We Shine At Night (M4)

25. Beloved! Paradise! Jazz!? - Mckinley Dixon

Release: 6/2
Label: City Slang

生演奏主体のヒップホップ。すんばらしい出来です。ウワモノこそラップですが、バックの演奏は極めて良質でグルーヴィなジャズ~R&Bで、両者の絡み合いは聴き応え十分。ぜひ一度生でパフォーマンスを観てみたいアーティストの一人です。

▶︎好きな曲 : Run, Run, Run (M4)

24. Census Designated - Jane Remover

Release: 10/20
Label: deadAir

Stereogumのこの記事にもあるように、今年はシューゲイズをバンドではなくベッドルームで作り上げるスタイル(それこそParannoulのように)がすっかり一般的になったなと実感した一年でした。その筆頭がJane Removerの最新作で、ブラックゲイズすら思わせるディープで陰鬱なノイズギターに終始オートチューンのかかったボーカルが乗る構成は特に象徴的。2021年の1stアルバム(当時はまだdltkz名義だったか)の時点ではUnderscoresよりもう少しアングラなオルタナロックベースのhyperpopという認識でしたが、そういう意味ではオルタナロック(広義)の要素をDTM的なプロダクションに取り入れる潮流の走りだったと言えるのかもしれません。

(余談ですが、上記のStereogumの記事では同じく宅録シューゲ作家のQuannnicの影響元としてmikgazer vol.1が挙げられていて、なるほど確かに基本宅録DTMのボカロ音楽でシューゲやオルタナをやっていたミクゲイザー、およびその他のバンドサウンド系ボカロ曲は史上においてもかなりユニークだったんだなと理解しました。)

▶︎好きな曲 : Backseat Girl (M5)

23. The Ballad of Darren - Blur

Release: 7/21
Label: Parlophone Records

昨年に活動再開を発表したBlurのニューアルバム。変に力みすぎた感じもなく、奇妙な曲を飄々とアンセムにしてしまうBlurらしい軽妙洒脱さが、ここにきて老いとともにさらなる唯一無二の境地に到達しています。グレアムの変なギターにデーモンのソングライティングの才能を掛け合わせた、若かりし90年代から地続きのスタイルを、この壮年の枯れたムードで再演することの哀愁はこの上ない。サマソニでは昔の名曲もたくさん聴くことができ、じっくり時間をかけてバンドとして唯一無二の形に円熟した彼らならではの貫禄と哀愁に圧倒、感動させられました。どうもまた活動休止に入るらしく、このやることやってさっさと帰っていく感じも愛せます。

▶︎好きな曲 : Goodbye Albert (M7)

22. softscars - yeule

Release: 9/22
Label: Ninja Tunes

内容よりもまずジャケ写にやられた一枚。この明らかに現実離れしているのに、同時に此岸へと肉薄する生々しいグロテスクさと悲哀を帯びた姿が個人的にハマりました。音楽面でもそうしたコンセプトはしっかり展開されていて、ギターのディープなノイズや基底にあるエレクトロのサウンドが作る幻想的な世界観の中で、自らの心の傷に向き合う詞が紡がれる、傷だらけでズタボロになりながらどこかへ救いを見出そうとするような、苦しくも美しい作品でした。

▶︎好きな曲 : sulky baby (M2)

21. the record - boygenius

Release: 3/31
Label: Interscope Records

USインディーを代表するSSW、Julien Baker, Phoebe Bridgers, Lucy Dacusの3人によるスーパーグループ。互いに共鳴するアーティストであると同時に同世代の友人でもある3人が、それぞれ他の2人のコーラスに支えられながらボーカルを回し合ったあと、サビで3声が重なるようなところに、まさに「盟友」と呼ぶべき3人の友情を感じて素直に熱くなってしまう。
またそうでなくとも、優れたソングライターが三人揃っているだけあって曲がとにかく良くて、グランジっぽい汚れたインディーギターに唸ったり、ベッドルームポップのような素朴で温かな手触りにしみじみしたり、そして最終的には良い声・良いメロの歌にとどめを刺される、ロックとしてもポップとしても素晴らしい名曲揃い。M1 "Without You Without Them" の3人のアカペラを経てM2 "$20" でバンドインするところなんかはもうガッツポーズせずにはいられません。仲間とともに素敵な音楽を鳴らすことの楽しさを、インディーシーンから世界中へ改めて宣言してみせた快作です。

▶︎好きな曲 : Not Strong Enough (M6)

20-11

20. GOOD POP - PAS TASTA

Release: 3/15
Label: -

邦ハイパーポップを代表する「サウンドギーク」6人が集まった、スーパーグループ・ PAS TASTAの1stフルアルバム。アクロバティックな発想で攻めつつも、J-POPとして気持ちの良いコードの鳴りやメロディーラインはギリギリのところでしっかり押さえていく、センスとパワーとユーモアに溢れたGOOD POPが並ぶ傑作です。客演にもCwondoや崎山蒼志、Peterparker69など非常に豪華なメンツを迎えていて、2023年日本のエッジィなポップシーンを象徴するような作品になっています。特に、ピーナッツくんとのコラボ曲 "peanut phenomenon" はアンセム級の大名曲。10月に出たリミックス集もとても良くて、peanut phenomenonのsix impalaリミックス(!)はサビが謎の歌で丸ごと上書きされてて爆笑しました。

▶︎好きな曲 : peanut phenomenon (M3)

19. Cartwheel - Hotline TNT

Release: 11/3
Label: Third Man Records

ニューヨークのシューゲイズバンドの2nd。ギターもベースもドラムもとにかく重たくて嬉しい。それでいて、どの楽曲も爽やかに突き抜けるリフを軸に据えた形で作られていて、シューゲイザーに求める轟音の圧力と、インディーギターに求める爽快感のどちらも堪能できる稀有なバランス感を持った一枚です。

▶︎好きな曲 : History Channel (M4)

18. infinity signature - Full Body 2

Release: 11/20
Label: -

フィラデルフィアの3人組シューゲイズプロジェクト。AVYSSの記事に書かれている「My Bloody ValentineがBGMのビデオゲーム(PS2)の世界?」という謳い文句がまさにそうで、VaporeaveからHexDに至る過程でスカム的な露悪趣味にも接近した粗いエレクトロサウンドが作る虚無のノスタルジーを、MBVライクな分厚いノイズが重たく塗り潰す、2023年のインターネット音楽の結節点にして特異点のような一枚。過去のノスタルジーに浸ろうとしてもそこにも暗い時代の虚無があるのみ、かといって現在や未来にも希望はない、そんな時代の「閉塞」のメタファーとしての轟音の役割を考えてしまいます。 ただ、HexDやその周辺ジャンル自体はTikTokでめちゃくちゃバズっているそうで、TIkTokネイティブの世代にとってはもっとポジティブな憧れやAestheticsの象徴として響いているのかもしれません。

▶︎好きな曲 : enix wake (M1)

17. Se Bueno - TURQUOISEDEATH

Release: 7/28
Label: Longinus Recordings

ロンドンの16歳(!)によるLonginusデビュー作。アーメンブレイクで突き上げる高揚感をディープなリバーブサウンドで受け止める、神秘的な包容力のある幸福度の高いアルバムです。ParannoulやAsian Glow、Astrophysicsといった客演メンバーが切り拓いた新世代のシューゲイズが、折しもリバイバルを迎えたドラムンベースとDTMの中で結びつき、こうしてさらに若い世代の作家に霊感を与えるようになっているのは胸熱ですね。

▶︎好きな曲 : The Sky Fell (M2)

16. Rat Saw God - Wednesday

Release: 4/7
Label: Dead Oceans

オルタナ界で一躍注目の的となった、ノースカロライナ出身のバンド。MJ Lendermanの期待を裏切らない爆音オルタナギターはもとより、バンドのテンションに合わせて絶叫するボーカル、メロディやリフのポップネスなど、シューゲやハードコア、グランジが好きな方なら迷わず喝采してしまうこと請け合い。一方、M4 "Formula One"などではカントリーバンドとしての側面も見え、一見乖離しているようにも思える音楽性ですが、この良い意味で洗練されきっていない生々しい「いなたさ」こそがWednesdayの本質なのだと思います。

▶︎好きな曲 : Bull Believer (M2)

15. no public sounds - 君島大空

Release: 9/27
Label: APOLLO SOUNDS

君島大空の2枚目(そして今年2枚目でもある)のフルアルバム。1月リリースの『映帶する煙』もとても好きでしたが、今回のアルバムは「好き/嫌い」よりも先に「凄さ」がやってきて、ひっくり返りました。全体的にメロウなテイストだった前作に比較しても、一級の演奏家たちによる生身のセッションワークのパワーとDTM的なアグレッシブな編曲のアイデアが交差する楽曲は活力に満ち溢れているし、それに負けない説得力を持った歌(メロディ、歌唱、歌詞、シンプルに超上手い)とがせめぎ合う高揚感と緊張感によって、聴き手の心身のあらゆる感性を楽曲全体に惹きつけて離れられなくしてしまう磁場が生じている。別に戦ってもないのに「勝てねえ」と思わされる、圧倒的な「力」。バンド畑の人も、電子音楽が得意な人もみんな必聴です。

▶︎好きな曲 : 16:28 (M8)

14. 呪詛告白初恋そして世界 - moreru

Release: 11/30
Label: MUSICMINE

苦しい現実からの逃避を夢見つつも、そこから逃れられないことを徹底的に直視して刻みつける、そしてその痛みのままに叫び回る、自傷行為のようなアルバム。爆音と絶叫による暴力的なフラストレーションの発露に、やぶれかぶれのオタクユーモアと表裏一体のリアルさ、そしてそうした過剰さの中に確かに存在する歌心もとい「歌によって救われたい」という気持ち、それらをないまぜにしてありとあらゆる感情をカオティックに爆発させた大作です。

▶︎好きな曲 : 夕暮れに伝えて (M8)

13. But Here We Are - Foo Fighters

Release: 6/2
Label: Roswell Records

フーファイ新譜。彼らのキャリアでも屈指の名盤だと思います。バンドの精神的支柱でもあったテイラー・ホーキンス、そしてデイヴ自身の母親を立て続けに亡くすという悲劇的状況からこのゴリゴリのロックサウンドを決めてるの素直にカッコよすぎと思うし、一方で彼らにしては全体的にハードコア性というか暴力っぽさが滲み出ていて、そのちょっと余裕の無い感じから彼らの決意とか苦悩みたいなものがダイレクトに感じられてかなりグッと来てしまいました。これを聴いたあとにデイヴグロール自伝を読んで、テイラーと母親がバンドや彼の人生においてとても大切な存在だったことを改めて知り、それを失ってもなお止まらずに進み続けるフーファイの在り方に胸を打たれました。

▶︎好きな曲 : Rescured (M1)

12. Hackney Diamonds - The Rolling Stones

Release: 10/20
Label: Polydor

今年後半はストーンズの新譜にビートルズ最後の新曲と赤盤・青盤のリミックスもあり、英国人ロックスターの伝説っぷりをまざまざと認識させられました。特にストーンズの新譜は完全新作フルアルバムということで、80歳にしてこの熱量のものを作れるのが本当に怪物という他ないし、そういうのを除いてもシンプルにロックンロールとして曲が良すぎる。タイトで踊れるリズムに派手なギター、そしてあの色気ある歌声をこんなにビビッドな今風のサウンドプロダクションで、現在進行形で聴けるとは思っていませんでした。なんでそんなに元気あるんだ。それでいて、ラストの"Rolling Stone Blues"ではタイトル回収みたいな曲名で一気に往年の土臭いブルースを聴かせてくれるわけで、生涯現役のエネルギーの裏に秘めたいぶし銀の哀愁を感じて普通に涙腺に来ました。発売記念のライブ映像とか見てもめちゃくちゃしっかりライブしてるし、どこまでも生きる伝説すぎる。
アルバム名 "Hackney Diamonds" は「(強盗に)割られたガラス」みたいな意味合いらしく、ゴージャスさと不良っぽい若々しさ、それでいてちょっとくたびれた愛嬌なんかも感じられて良いタイトルだなと思います。齢80にしてなお、身に覚えはないけど女の子を怒らせてしまった曲から始まるというのも、なんともタイトルに合っていて微笑ましい。
個人的に、ストーンズの楽曲はR&B出身ならではのリズム感がすごく好きで、その点チャーリーワッツ亡き後の活動がどうなるのか不安だったのですが、このぐらいバキバキでモダンな作風だと、よりパワフルなスティーブジョーダンのドラムもマッチしてる気がしますね。チャーリーが叩いている"Mess It Up"と"Live By The Sword"を聴くとやっぱり、あの軽やかで正確無比に芯を捉えたドラムが好きだ……ともなりますが。

▶︎好きな曲 : Whole Wide World (M5)

11. Get Up - NewJeans

Release: 7/21
Label: ADOR

一切の無駄な装飾やベタつくグルーヴもなく、6曲12分というスピード感で爽やかに気分を盛り上げて過ぎ去っていく、暑い夏にぴったりのクールな一枚でした。都会的に洗練されていながら、どの曲もサビでキラーな歌メロをぶつけてきて、しっかり印象を残していくさまがものすごく鮮やか。サマソニでライブを観ることもできたんですが、あの灼熱地獄でも歌・ダンスともに安定感抜群にこなしていて、シンプルに能力値がめちゃくちゃ高いこともよくわかりました。そこに世界トップクラスのプロデュースがついたらそりゃこうなる。本作でいえば、パワパフとのコラボをはじめY2Kのコンセプトが随所で徹底されていて、ボックスセットも3000円弱とは思えないほど内容が盛りだくさんで、自分たちがカルチャーを作っていくんだという気概に圧倒されました。若い世代のクリエイター文化に働きかけて一緒に盛り上げていこうとするプロモーションも印象的です。

あと、プロデューサーのミンヒジンが参照しているらしい曲のプレイリストを下半期よく聴いていたのですが、必ずしもダンスミュージック主体というわけではなく、ソウルやラテンなど幅広いところから都会的なオシャレな楽曲が集められていて良かったです。

▶︎好きな曲 : Super Shy (M2)

10-1

10. Everything Harmony - The Lemon Twigs

Release: 5/5
Label: Captured Tracks

稀代の天才ソングメイカー・ダダリオ兄弟を擁するThe Lemon Twigsの新譜。まず何よりもメロディが強すぎて泣いてしまう。それを伸びやかに歌い上げるボーカルと、シンプルながらも美しいコーラスワーク、バロックポップやインディーギターの暖かみとが重なり合った豊かな響きとが、核としてのメロディをさらに力強く引き立てていて、"Everything Harmony"というタイトルにも納得の傑作です。

▶︎好きな曲 : Any Time Of Day (M4)

9. COMBER / UNDERTOW - SPOILMAN

Release: 5/28
Label: Long Legs Long Arms Records

同時リリースの2枚。厳密にはアレですがセットで扱わせてください。冒頭で「リアルさ」という言葉を使いましたが、その意味では本当に徹頭徹尾リアルな音を鳴らしている、とんでもないバンドです。ソリッドなリフが作る緊張感と、そこからの爆発を生々しく録音した圧の高い強力なハードコアが並ぶ2枚。個人的には、"COMBER" の方がより硬派で鋭く、"UNDERTOW" の方がよりスケールが大きくドラマチックな印象です(ジャケットもそんな感じだ)。2枚分のレコーディングをわずか一日で済ませたり、巣鴨の滝野川西区民センターというゴリゴリの公共施設でフリーライブを開催したかと思えば事前告知もなくその場で新作フルアルバムを販売したりする、狂気的・変態的ともとれる異常なユーモアを内包しているところも大きな魅力です。また、この区民センターフリーライブが本当に素晴らしく、伝説として語り継がれていくライブに立ち会えたのかもしれないとさえ思っています。今後の活動がとても楽しみです。

▶︎好きな曲 (COMBER) : Fantastic Car Sex (M5)
▶︎好きな曲 (UNDERTOW) : AlterEgo OverDrive (M2)

8. Fine Line - パソコン音楽クラブ

Release: 5/10
Label: HATIHATI PRO.

M4 "KICK&GO" が今年一番聴いた曲だったみたいです。こういう、オタクがオタクなりのやり方で超楽しいポップスをやってみせている感じが個人的に一つの理想で(他には、先述の"GOOD POP"や『ディスコの神様』"Fun Tonight"などがこれにあたります)、思わずニヤニヤしてしまう。中盤で持ち味のキッチュなエレクトロミュージックに振れるのも、「いや、全然やりたいことやってるだけですけどね」と言われているようでニクい。問答無用で最高になれるアルバムです。

▶︎好きな曲 : KICK&GO feat. 林青空 (M4)

7. electric angel - that same street

Release: 3/9
Label: -

先述のmoreruのドラマー・Dex氏によるサイドプロジェクト。いわゆるミクゲイザー最大の魅力は合成音声(初音ミク)の透明さとオルタナロックの不穏さとの違和にあると考えているんですが、本作は初音ミクの歌声に絶叫するスクリームの狂躁を掛け合わせることでそれを極限まで突き詰めた、ミクゲイザー最右翼の一つとさえ言うべき音楽だと思います。初めて聴いた時の衝撃は今年の中で一番大きかった。11月にSiren for CharlotteからリリースされたEPももちろん良かったです。

▶︎好きな曲 : 絶体絶命☆ギャラクティカ (M1)

6. system BIOS - phiome

Release: 9/1
Label: -

VaporwaveもHyperpopもHexDも飲み込んだノイズとグリッチの非現実感覚の狭間で、ニンテンドーDSやWii、3DSのあの独特にアンビエントなシステムサウンドたちが寂しく響く、もう戻れないあの頃の残響に手を伸ばすような、この上なく胸を締め付けられる音楽です。インターネットのノスタルジーもついに自分の世代まで来てしまったんだなという感慨も相まって涙。なお、phiomeというのはどうもhyperpop系で耳にしたことのあるvai5000の別名義みたいです。

▶︎好きな曲 : eshop maintenance (M3)

5. Heaven Knows - Pinkpantheress

Release: 11/10
Label: Warner Records UK

アッパーながらもスタイリッシュなUKガラージのビートに煌めくY2Kのバイブス。MVとかはもう少し下った時代(2000年代半ば〜10年代初頭)の感じで、こういうのはFrutiger Aeroというらしい。溢れるディズニーチャンネル感が最高です。

ただ、本作が単なるY2Kブームに乗っかっただけのものでないと感じる理由は、せわしないビートをいなすリズムの気持ちよさとメロディとしてのキャッチーさを両立した(むしろ前者があるからこその後者か?)ボーカルラインにあるといえるでしょう。M1 "Another life" のハネた感じやM5 "Nice to meet you" サビの譜割りの緩急の付け方、M10 "Blue" のようなスローテンポな曲でもしっかりビートを感じさせる歌メロなどが特に好きです。このお洒落にビートを「乗りこなす」感が、巧いダンサーとかアクロバティックなBMXとかを見ている時にも通じる感覚をもたらす、ビジュアル的にもスタイリッシュで耳にも気持ちの良いアルバムです。

▶︎好きな曲 : Nice to meet you (feat. Central Cee) (M5)

4. Less - deathcrash

Release: 3/17
Label: Untitled (Recs)

ロンドンのスロウコアバンド。12月頭の来日公演を観ても思ったことなんですが、バンドサウンドのみで空間を作り上げて支配するのが本当に上手い。丁寧な演奏で多層的に静と動を生み出しながら、静で空間を作り動で一気に塗りつぶしてまた一気に虚空に帰る、みたいにして空間のダイナミクスから丸ごと掌握してしまう腕力を持ったバンドです。その意味で「静」も単なる「動の前フリ」ではなくて、彼らの音だけが響く虚空に捉われてどんどん吸い込まれていくような感覚を味わえる瞬間なんですよね。それを生で体感できたライブが本当に凄くて感動したので、次回作を出した折にでもまた来日してくれることを願って止みません。

▶︎好きな曲 : Distance Song (M5)

3. 12 hugs (like butterflies) - 羊文学

Release: 12/6
Label: F.C.L.S.

溜め息が出るほど素晴らしい、羊文学の4th。呪術廻戦などの大型タイアップもあり、バンドに期待される役割がどんどん大きくなっていく中、ポップスとしての歌と、インディ、オルタナロックとしてのソリッドかつダーティーなバンドサウンドの両面でさらに力強さを増してそれに応えてしまう実力に敬服するほかありません。バンドで音楽をやっていくことへの強い愛着や、より良い音楽を作って世に伝えていこうという真剣さ、そして(おそらくは商業的な意識とも綱引きしながら)それを実際にやってのけてしまうパワーを感じてただただ圧倒されます。1人のロック好きとして、こんなバンドが今も存在してくれることが本当に嬉しい。本作や昨年の3rdアルバムに、中学生ぐらいの頃に出会っていたら、間違いなく自分の人生にとって重要な作品になっていたんだろうなと思います。

▶︎好きな曲 : GO!!! (M4)

2. Stereo Mind Game - Daughter

Release: 4/7
Label: 4AD

4AD発、ロンドンの3ピースバンド。ソリッドに削ぎ落とされたリズム隊が作る静かな高揚感と、その間隙を埋めるように広がるドリーミーなリバーブサウンド、コーラスワークとの組み合わせに酔いしれる、ドリームポップ、サッドコアの大傑作です。「酔いしれる」という表現がこれほど適切に思える作品もそうありません。
先述のdeathcrashとも共通して、こちらも空間やそこに流れる静謐さの表現がとても上手なのですが、アプローチとしてはdeathcrashのような静と動のシャープなコントラストというよりもグラデーションで徐々に空間を轟音で満たしていく手法が主体で、それに伴うトリッピーさ(4ADらしいといえば確かにそう)をかなり強く感じます。

▶︎好きな曲 : Party (M3)

1. Hinemosphere - Lily Fury

Release: 8/5
Label: Siren for Charlotte

文句なしの年間ベスト。あまりにも素晴らしい作品です。ポストロック、ハードコア、ブラックゲイズ、百合、SF、生命、ここではないどこか、全てを詰め込んだ愛と暴力と祝福と悲哀の音楽。寂寞とした合成音声が紡ぐ少女・ライカとアンドロイドの2人の物語は確実な終焉へと向かい、激情のままに溢れる轟音と絶叫でさらにその絶望は加速する。それでもなお、その全てを肯定しようとするライカとアンドロイドとの間に知覚された深い愛情が一筋の光となり、本作はどこまでも悲しく、そして美しい結末を迎えます。表現したいコンセプトが突き詰められているのはもちろん、それを顕現させるための音楽的技法の選択(合成音声によるモノローグを付ける、など)も非常に冴えている、そしてシンプルに曲がカッコ良すぎる、疑う余地のない大傑作です。

正直、始めは「こんな曲書けないよ〜泣」というスタンスで聴いてしまっていたのですが、途中からあまりに強度の高い楽曲と世界観に感情を鷲掴みにされ、終盤には当初の卑屈さも忘れて本当に清らかな涙を流しました(電車内で)。心からありがとう。今後の活動もとても楽しみです。

▶︎好きな曲 : Lilium Aquarium (M4)

次点30枚

  • Sunburn - Dominic Fike

  • The Worm - HMLTD

  • Cuts & Bruises - Inhaler

  • Stepdrum - quannic

  • Yard - Slow Pulp

  • UGLY - slowthai

  • Desire, I Want To Turn Into You - Caroline Polachek

  • Back To The Water Below - Royal Blood

  • Green Unleaded are the Product - Green Unleaded

  • everything is alive - slowdive

  • 10,000 gecs - 100 gecs

  • Back In The Day - Swami Sound

  • I Killed Your Dog - L’Rain

  • Here I Stand - 揺らぎ

  • tx3k - Texas 3000

  • 宇宙から来た人 - PSP Social

  • つくる - ひとひら

  • タオルケットは穏やかな - カネコアヤノ

  • 感覚は道標 - くるり

  • 1STST - TESTSET

  • パレードが続くなら - YUKI

  • NYAN NYAN INNOVATION (OPEN) - ひがしやしき

  • happyender girl - ex. happyender girl

  • 終末エンドロール - kinoue64

  • animacy - 衿

  • JAPANESE AMAPIANO - audiot909

  • Heavy Heavy - Young Fathers

  • With a Hammer - Yaeji

  • Me Chama de Gato que Eu Sou Sua - Ana Frango Elétrico

  • Sator Arepo - Judgitzu

おわりに

以上、私の2023年はこんな感じでした。当然聴けていない新譜も多く、その中にもきっとどハマりできるものがあることでしょうから、年末年始は他のみなさんの年間ベストを読んで取りこぼしを回収する活動に従事したいと思います。

しかし、こうして並べてみると、自分の守備範囲がオルタナロックとインターネットにかなり偏っていることを改めて痛感します。これまでの遍歴もあってのことなのでそれはそれでいいんじゃないのと思いつつ、それ以外のジャンル、特に盛り上がってきているらしいフォークへの理解がだいぶ浅いので、来年はフォークを聴き始めたいと思っています。今年もこのノリでヒップホップを聴くようになれたので、よく知らない音楽ジャンルに挑戦する気概は来年も持ち続けたいです。

あとは既存の守備範囲を深めるという意味では同人音楽もっとちゃんと掘るようにしたいですね。

社会人になっても(今のところ)音楽ちゃんと聴けるということがわかったし、金銭的な余裕ができてライブにも学生時代よりたくさん行けるようになったし、時間をみつけて自分で曲書いたりもできたしで、音楽的には充実した一年が過ごせたんじゃないかと思います。素晴らしい音楽を生み出してくれた皆様に心から感謝。また来年も素敵な音楽体験ができれば嬉しいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました!


仲間内でやってるマガジン。こちらもよければ。


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