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この世界は白と黒にハッキリと分けられないものがある

この世界は白と黒にハッキリと分けられないものがある。

「なぜ、こんなことを起こしたのですか?」
そう尋ねたのは以前、
遺産相続と所得隠しでゴチャゴチャした怪事件に携わったときのことだ。
僕は、そのときの主犯格の人間にこう尋ねた。
するとその犯人は僕の

「なぜ、こんなことを起こしたのですか?」

という質問に対して吐き捨てるように

「この世界は白と黒にハッキリと分けられないものがある」と言い切ったのだった。

この世界に白と黒にハッキリと分けられないものがある。
その言葉は当時の僕にとってはかなりの衝撃だった。 なぜなら僕は良い大人にもなって、正義はいつも正しいと思っている節があったからだ。
昔子どもの頃に、好きで見ていた戦隊モノは
いつだって正義と悪が分かれていて、
いつだってヒーローは悪に勝っていたではないか。

どういうことなのか、僕はそれから
世界の白と黒とについて考えることとなった。

そのときの事件の真相はこうだった。

そもそもこの事件は
元々どこかから何かしらのリークがなければ、産まれるはずのない事件だった。

僕もよく知らなかったのだが、名だたる政権の大御所や有名人の元には愛人の子として産まれた子どもたちがいて、婿養子に出された子どもたちもままいるらしい。
今回の主犯格は、
明治から続く老舗ホテルのオーナーの家の話しだった。
もう間もなく、第4代当主が自身の息子と世代交代をしてお披露目となる間近、肝心の息子が突然の心臓発作で亡くなってしまったらしい。世代交代し、注目を浴びようと記者会見の場まで用意していたのに肝心の倅が死んでしまっては元も子もない。
しかしまだ世間に息子の顔を晒していなかったことから、かつての先先代の当主は頭を懸命に捻り
一度婿養子に出した先に
「どうかお金は払うから子どもをもう一度自分の戸籍に戻せないか」と相談しに行ったらしい。しかしその婿養子に出した先の人は、たいそうその子どもを可愛がっていたそうで戸籍を戻すことを大反対したらしい。
そしてその頃に疑惑に上がっていた同グループの所得隠しと脱税をマスコミにリークしたのだった。

「なぜ、こんなことを起こしたのですか?」
それに対して先先代の答えは
「この世界は白と黒にハッキリと分けられないものがある。」
それは長年続く家業を続けるために、時にはやむ終えないこともあるということだったのだろうか。

繰り返すが僕は子どもの頃に見た戦隊モノに夢中になっていた。

僕はそのヒーローに憧れて、僕なりの正義を貫こうと生きてきたのに
どうしてこの世界はグレーゾーンが多いのだろう。
法的に所得隠しや脱税は犯罪になるのだろうが、人の気持ちを推し量るにはこの世はグレーゾーンがどれほど多いことか。

駅前では
「未解決事件の情報提供にご協力お願いしまーす」と大量のポケットティッシュ付きのビラがまかれている。

その未解決と呼ばれる事件の中にどれほどの
悲喜交交の愛憎が積み込まれているのだろう。

普段はしがない会社員をしている僕だが
幼なじみのヤツが急に仕事を辞め、
私立探偵事務所などを立ち上げたモノだからたまらない。
僕は否応なく、
「昔から推理とか得意だったでしょ」と
引っ張りだされ問題に連れ回される始末。

特に報酬がもらえるわけではなかったが、
事件解決するたびに美味しい酒をご馳走してもらえるので、何となく付き合ってるうちにこんなハメになってしまった。

今日も携帯のワンコールが三度なる。
それはヤツから事件が起きたことの合図だ。

さて今日はどんな事件がやってくるのか。
軽く背筋を伸ばしながら

「よし、今日もやるか」とひとりごちた。

※最近考える、世界には白黒ハッキリ分けられないものがあるについて小説仕立てにしてみました。ここに推理小説を組み立てるだけの技術があれば尚良いのかもしれません…

#白黒 #小説 #短編集 #推理 #考えること #note


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