にょそ / 上海で働くマーケター
中国市場では、日本ほど自由なマーケティングができないという話
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中国市場では、日本ほど自由なマーケティングができないという話

にょそ / 上海で働くマーケター

こんにちは、にょそです。

私が中国でマーケティング業務に携わりはじめて2021年現在で4年が経ちました。このnoteでは、これまで私が様々な日系ブランドの担当者と打ち合わせしてきた中で「え、そうなんですか?」と最も興味を持たれる「中国でのマーケティングの自由度」についてまとめてみました。
中国にいる身としてはある意味常識的な内容ですが、日本に住んでいて中国市場のことはネット上の情報に頼るという方からしたら肌感が持てない内容かもしれません。

日本のマーケティング知識やビジネスモデルの流用だけで中国市場を戦おうとすると、想定していたマーケティングプランが崩れる可能性があります。最後には私なりの解決策も用意しておりますが、なかなか不自由なため、いまだに苦しんでいるのが正直なところです。

日本との比較や成功例もまじえつつ、可能な限り分かりやすくお伝えすることで、このnoteが中国進出の際のより良い、かつ、より現実的なプラン作りに活かされればと思います。まずは大局的に中国のマーケティング事情を理解していきましょう。

中国における大手プラットフォーマーを理解しよう

本題に入る前にまずは基礎知識として中国の大手プラットフォーマーを紹介します。聞き慣れない名前もあるかもしれませんが、それぞれの役割自体は日本にもありますので、「日本でいうところの、ほにゃららだな」と以降の文章では置き換えながら読んでいただくと理解が深まると思います(表内の対応関係はあくまで参考です)。

ちなみに、最近ではユーザーの時間の奪うことを目的に、ECプラットフォーマーがSNS機能を、SNSプラットフォーマーがEC機能を付けるという流れが起り、境界線が曖昧になって整理が難しく、少しごちゃ混ぜになっていますがご了承ください。

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上記はほんの一握りのプラットフォーマーたちですが、メインどころは抑えていると思います。今回はプラットフォーマーの紹介が主ではないので、紹介はこの程度にさせていただきます。

想定するであろう理想的なマーケティング連携

中国でビジネスをはじめようとしているブランドには、ある程度日本でのノウハウや成功体験があります。

【ブランドA】
DMPを使って広告出稿し、購買/リピートまでしっかり効果測定している。顧客セグメントごとのLTVに応じて予算配分を変えている。

【ブランドB】
One to Oneマーケティングの一環として、自社ECサイトではユーザーの属性や趣味趣向によってコンテンツを出しわけて最適化を図っている。

【ブランドC】
リピーターは獲得コストが安いので、サブスクリプションモデルを中心としたビジネスモデルに切り替え、その後は利益が右肩上がり。

私が経験したクライアントとのヒアリングではもちろんのこと、世の中のビジネストレンドやデータサービスの内容や成功事例を見ていても、上記のような取り組みは、日本をはじめ、多くの先進国のマーケティング現場で実際に行われていることではないでしょうか。

自社ECの顧客アクセス情報が分析できるGoogle Analyticsでは、広告出稿データと購買データを連携させることができるので、広告種類別に1人あたりの獲得コストが計算でき、最適化できます。会員制度を設けている自社ECサイトであれば、個人情報/属性/趣味趣向などの消費者情報も取得&紐づけられ、以下の画像のような「認知のための広告からリピートまで一気通貫した施策と効果検証」が実現できます。

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さらに、オフライン店舗もデータ連携しておけば、来店した顧客がどのような顧客なのかをリアルタイムで把握した上での接客で顧客体験の向上も可能です。

データの統合や整理・分析が複雑化してしまう場合でも、Treasure Dataやb→dashなどのCDPを用いることで、より簡易化できます。ゆえに、自社顧客のデータ(1st party data)をガンガン貯められることに加え、他社データ(3rd party data)も併用しながら、顧客体験の向上を目指すone to oneマーケティングを実践しようとするのは頷けます。

なぜ中国では日本よりマーケティングが不自由なのか?

中国市場における、物売り/ブランド側の自由なマーケティングを阻害する要素はズバリ以下の3点です。

1. 自社ECが流行らない
2. プラットフォーム間での送客が難しい
3. 法律に対応するためのリソースが厳しい

この3点を中国マーケティングでの受け入れ難い現実としてもう少し掘り下げます。

1. 自社ECが流行らない

こちらは、もしかしたら皆さんは感覚的、もしくは、風の噂でご存知かもしれません。しかし、実際は結構受け入れ難く、中国進出時のマーケティングプランに入れる企業様も結構いらっしゃいます。特に「日本では自社ECでサブスクリプションモデルを採用してリピートで儲かってるブランドです。」という企業の担当者様は注意が必要です。

実はUNIQLOやルイヴィトンなど、中国でも自社ECをしっかり運用しているブランドは無くはないです。しかし、そのようなブランドは「天猫などの大手ECプラットフォームで一定の顧客数を確保した上で、自社ECに流す」という作業を行なっているのだと思います。なので、私自身、中国に進出したてのブランドが取る策としては、少し厳しいような気がしています。競合他社がしていないからこそやるべきだ!・・・というのは理解した上です。

中国に来た2017年当初、私は「そのうち世間でも一般的な買い物方法として自社ECは流行るだろう。だって天猫(Tmall)や京东(JD)などの大手ECプラットフォームの言いなりなんて、どのブランドも嫌だもん。」と思っていましたが、2021年現在でもまだまだECプラットフォームがブランドよりも強い印象です。

 「なぜ自社ECが流行らないのか」に対する明確な答えは正直分かりません(ごめんなさい)が、ユーザーがECプラットフォームでの買い物に慣れてしまった、618やW11などの大型イベント時に、しっかり値下げされた商品を買いたい、というユーザー心理は原因としてあると思います。一見素敵な自社ECサイトを作ったはいいが顧客が全然流入せずクローズ、という案件を何回か目の当たりにしてます。

自社ECがないと、「自社ブランドのブランディングや消費者行動に合わせたページコンテンツの出しわけが思ったようにできない」「認知から広告配信、購買、リピートまでの一連の流れで効果検証&最適化ができない」といった問題が発生し、ブランド担当者の頭を悩ませることになります。 

ちなみに日本の自社ECではよくある“会員制度”は、中国では各EC系プラットフォーム内に設置することになります。この辺は、後の「打開策とジレンマ」で詳しく書きます。

2. プラットフォーム間での送客が難しい

日本では「SNSの投稿で目的先URLを貼り付けて、ECへ送客する」ということが可能です(Instagramは少し難しいですね)。しかし、中国ではプラットフォーム間の利害関係がモロにサービスに反映される傾向があるため、残念ながらURLの貼り付けは自由ではありません。

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表中の○はURLなどで直接送客できます、という意味なのですが、かなり少ないですね・・・こんなにも融通がきかないなんて・・・。
さらに残念なことに、例えば、SNS微博(Weibo)→EC天猫(Tmall)の送客は○になっていますが、効果測定はできません。正確には、”正しくありません”。

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こちらの画像はEC天猫(Tmall)のデータ分析画面(生意参谋=Google Analyticsみたいなもの)の一部を切り取ったものになります。要は、SNS系から来たユーザーはどれくらいいて、いくら購入しましたというデータなのですが、この「訪問数=22」という数字はおそらく正しくないです(にょそ調べ)。また、購入金額(右から2番目)とCVR(一番右)は「-」となっていますが、天猫によると購入金額などの購買行動のデータはサポートしていないみたいです。以下、「淘外媒体?」の定義文を引用。

(中国語原文)
访客通过您外部投放的媒体资源引导点击直接进入您的店铺或商品详情页。注:淘外媒体渠道暂不支持查看下单、转化等后链路数据

(日本語意訳)
訪問の定義は、外部メディアを通じて直接店舗ページに入ることです。
注:外部メディア経由の注文数や転換率などのデータはサポートしていません。

つまり、2章の理想的なマーケティング連携で掲載した図でいうと「認知と興味」「購入とリピート」の2部分で、顧客も、データも、共に分断され、一貫性のあるマーケティング(同ユーザーの追跡)の実現がかなり困難になっています。

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3. 法律に対応するためのリソースが厳しい

最後の障壁は法律です。私は法律家ではないので、詳しい説明等はできないのですが、これまで取り組んできた案件で法務部と一緒に調査した内容から重要なことだけをピックアップしてお伝えできればと思います。

日本と中国の明らかな違いの一つは管理の厳しさです。グレートファイヤーウォールはもちろんのこと、ウェブサイトやデータ関係も例外ではなく、徹底して政府に管理されています。

余談ですが、私がはじめて上海に旅行に来たとき、グレートファイヤーウォールのおかげでiPhoneに入っていたアプリのうち、使えたのはWechatだけでした。しかも、電話番号がないのでWifiすら繋げられず、さらに唯一使えたWechatも2日目には電話認証コードを求められ、日本の電話では中国でコードを受け取れない、つまり、iPhoneが鉄の塊と化すという地獄を見ました。(余談終わり)

中国で取得した個人情報は、中国国外に持ち出すことは法律で禁止されています。したがって、購買履歴(POSデータ)の分析や会員情報収集は中国国外のサーバーで管理することはできず、必要であれば中国でサーバーを借りてそこに置くことになります。ちなみに中国ではAWS(Amazon Web Service)ではなく、Alicloud(阿里云)がトップシェアです。

さらに厄介なことに、自社でシステムを保有する限りは、中国のサイバーセキュリティ法21条(くらい)の「等級保護制度」に各企業がしっかり対応することが求められています。ここ2年くらいは「た、た、対応してるに決まってるじゃないですか〜」とあやふやにしても問題なかったのですが、近年は政府が本腰を入れ始め、摘発例も多くなってきているみたいです。

■等級保護制度について
第1級:ウェブサイトレベル

いったん破壊されると、関係する公民、法人およびその他の組織の合法的な権利・利益が損なわれるが、国の安全、社会秩序、公共の利益には危害が及ばない一般ネットワーク。
第2級:小さいデータ系システムレベル
いったん破壊されると、関係する公民、法人およびその他の組織の合法的な権利・利益に重大な損害が生じ、または社会秩序および公共の利益に危害がもたらされるが、国の安全には危害が及ばない一般ネットワーク。
第3級:大きいデータ系システムレベル
いったん破壊されると、関係する公民、法人およびその他の組織の合法的な権利・利益に非常に重大な損害が生じ、または社会秩序および公共の利益に重大な危害がもたらされ、または国の安全にも危害が及ぶ重要ネットワーク。
第4級:天猫などのプラットフォーマーレベル
いったん破壊されると、社会秩序および公共の利益に非常に重大な危害がもたらされ、または国の安全に深刻な危害をもたらす特に重要なネットワーク。
第5級:軍事システムレベル
いったん破壊されると、国の安全に非常に重大な危害をもたらす極めて重要なネットワーク。

サイバーセキュリティ等級保護制度の概要 (前編)より
※レベルはにょそが追記
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/law/pdf/others20187.pdf

例えば自社のウェブサイトを考えてみてください。なんの変哲もない情報サイトですが、問い合わせフォームでユーザーの情報を取得していませんでしょうか?もし中国でこのようなウェブサイトを構築すると、等級保護2級に該当し、ウェブサイトのセキュリティチェックをはじめ、内部統制まで対応して、かつ、証拠を公安へ届け出る必要があります。

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仮に、個人情報が100万件以上あるデータベースを持てば、等級保護3級は免れず、さらに厳しい対応が求められます。そこまでのリソース(カネ、ヒト)は、進出したてのブランドにはかなり厳しいのではないかと思います。

外部の会社に依頼してデータを管理してもらい、それを活用することも方法の一つですが、資産を外部の会社に管理されることと、データの抽出・利用するたびにコストが発生してしまうことの悩みがあります。

実際に困っていることと考えうる対策

では、実際のケースで起こっている問題は何か?
ズバリ2点、外部広告の効果測定と消費者行動の分析です。

外部広告効果測定の問題

これまでnoteを読んでいただいた方なら「外部広告の効果測定が難しい」ということは容易にイメージいただけるかと思います。SNSで広告をしても見た人数とインタラクティブ数(コメントやいいねの数)しかわからない。インフルエンサー施策が本当に効果があったのかわからない。いずれも送客数が不明です。しかし、大多数のブランドがこの状況下で資金を投下しないといけないというのも事実です。

考えうる対策としては、送客数の代わりとなる何か良い指標を見つけることです。私はその指標は「検索数」だと考えているのですが、詳細は今後の記事で共有しようと思います。

消費者行動分析の問題

マーケティング戦略を立案する際、戦略ターゲットやコアターゲットを決定することが多いと思います。例えば、1級都市に住む年収30万円以上の音楽に関心のある男性、可愛い好きの18~24歳の女性などです。先ほど「認知&興味、購入&リピートが分断されている」と説明しましたが、いざ施策を実施するとターゲットに設定した人たちが本当に認知し、EC店舗を訪れて購入しているのかはブラックボックスです。つまり、決定したターゲットのカスタマージャーニーが正しいかの検証が難しいです。

考えうる対策としては、プラットフォーム同士のデータ連携を神に祈る、もしくは、消費者調査を定期的に実施することだと思います。しかし、消費者調査にお金をかけないと判断する(まずはテスト運用だ、と考える)ブランドも多いので現実としては問題のまま放置されることの方が多いように感じます。

打開策とジレンマ

日本に比べて中国でのマーケティングは不自由だということを長々と書いてきましたが、それらを打開しているブランドがあるのも事実としてあるので、簡単に2例紹介します。

UNIQLOの例
UNIQLOは世界的な大手アパレルブランドですが、中国でもトップクラスを走っているエリートブランドです。

天猫や各種SNSをはじめとしたプラットフォームに加え、オフライン767店舗(2020年8月期、IR情報より)、自社ECと自社会員制度を融合させています。
左:自社EC、右:自社会員制度(Wechat)

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巨大なユーザー基盤を天猫(tmall)で作って、それをオウンドメディアへの流し込み、データを取得して再度マーケティングに活用するということを行っています。

O2O施策への取り組みも本格的で、ECで購入しても実店舗で商品の受け取り可能であることや、店頭で使えるクーポンを会員ページで発行するなどの施策を行っているのは有名なことです。

ちなみに中国における会員制度ですが、プラットフォーム側が独自に用意しているものを使用するブランドが多いです。ユーザーからすると同じブランドなのに複数のプラットフォームで買い物するとせっかくのポイントが分散するという悩みがあります。しかし、Wechat上に会員制度を構築して、分散したポイントなどのデータを連携させることで、ユーザーにとってはすべての特典をそこで管理できるというメリットがあります。

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Perfect Diary(完美日记)の例

Perfect Diaryは中国化粧品ブランドの最大手ですが、独特なマーケティング手法で注目を集めました。今では真似する企業も非常に多いのですが、顧客とのWechatグループと自社メディアとしてのWechat Storeを構築し、ユーザーと密なやりとりの中でプロモーションを重ね、再度リピートしてもらうという手法です。

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左の画像はWechatグループで、”小完子”というキャラクターが日々おすすめや商品紹介、プロモーション内容をWechat Storeのリンクと共にWechatグループに送ってきてくれます。Wechat Storeのリンク先が右の画像です。いずれもWechat内で完結しているため、プラットフォーム間の分断の問題は関係ありません。

顧客を低コストでリテンションし続け、かつ、カスタマージャーニーも描ける優秀な事例だと思います。

ジレンマ

上記2つの例で共通して言える重要なことは「自社メディアの構築と集客の仕組みづくり」です。自社メディアでより多くの顧客情報を取得してマーケティングに活かす、そしてプラットフォーマーからは離れていく。自分主体のマーケティングは多くの制約を取っ払うことができます。

しかし、現実はそう甘くないのも事実です。なぜなら、Wechat Storeは本来個人向けのプラットフォームであり、マネゴトをしても、ほとんどユーザーが集まらないからです。某大手日系ブランドの似たような案件も一度請け負いましたが、ユーザーがさっぱり集まらず、半年で撤退しました。構想段階では「いける!」と百戦錬磨のブランド担当者とも意気投合したのにも関わらず、です。

また、自社メディアを立ち上げるための開発費用、および、その後の店舗運用費用も厳しいものがあります。集客の望みが薄いことを分かっていながら、投資の判断に踏み切るのは難しいですし、正直私からは積極的にオススメできる方法ではありません。これが理想のマーケティングへの前進と現実との間に潜む個人的なジレンマです。

おわりに

中国市場におけるマーケティングの多くの不自由な点や制約をお伝えしてきました。確固たる解決策がまだ見つけられておらず、皆さんにお伝えできないのは非常に申し訳ないのですが、現状は十分に知っていただけたと思います。

まずは天猫などの大手ECプラットフォームを最大限利用しながら売上を上げ、ユーザー基盤ができた後に自社メディアを検討するのが得策ではないかと思います。

その中でも、PR部分の指標を検索数に設定したり、定期的に市場調査を入れることで間接的ではありますが、カスタマージャーニーを構築・効果検証したりと、地道な方法で今後の事業拡大を狙ってみてはいかがでしょうか。

今後も中国市場のリアルなマーケティングの現場や中国事業の為になるnoteを書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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にょそ / 上海で働くマーケター
中国におけるマーケティングの現場や私自身の実践内容をもとにしたノウハウを共有します。 現在中国で売上が伸び悩んでいるブランド関係者はもちろん、今後中国市場で事業を検討している方、就職活動・転職活動中の方のためになる情報を提供していきます。株式会社unbot在籍中。