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読書録:「人はなぜ夢を見るのか」③夢の進化心理学説・明晰夢の研究編

夢の進化心理学説

フィンランドの意識学者レヴォンスオは、レム睡眠・夢には進化心理学的に個体の生存率・繁殖成功率を高める機能があったために生物種の間で発達して残り続けている、と主張している。ここでいう進化心理学とは、自然選択の対象は種でも個体でもなく1つの遺伝子であるとする進化生物学説、心は多数のモジュールからなりその多くは無意識に作動するという認知科学説に基づく仮説である。レヴォンスオは、夢は脅威的状況のシュミレーションであり、このような夢を見ることは狩猟生活時代のホモ・サピエンスの生存率を高めたのではないかと主張している。

レヴォンスオは夢が狩猟生活時代の脅威的状況シュミレーションであることの根拠として、次のような統計による分析を挙げている:

夢の中では筆記・計算を行うことがほとんどない。レヴォンスオが引用した統計によると、夢で筆記・計算を行った人ことがある人は1.0%以下となっている。個人的には、夢では本の表紙を見たり数ページ読むことはあっても自力で書いたり計算したことはない。

ホールの統計的調査によると、夢がネガティブな印象を与える割合は80%以上を占めている。逆に、夢で幸福を感じる内容は全体の5.8%ほどしかない。
また「攻撃的・敵対的遭遇が60%以上を占める存在」を“敵“と定義すると、男女に共通して夢の中で”敵”にあてはまる存在は「動物」と「見知らぬ男性」が該当している。ちなみに見知らぬ男性が男性の夢に出現する割合は女性の2倍ほど、独身男性だとさらに高くなることがホールの統計的調査で明らかになっている。

夢の中における人物同士の社会的相互作用は、45%が攻撃・敵対を含んでいる。次に多いのがセックス・恋愛、その次に多いのが友好関係を築くこととなっている。

④子供の夢には動物が出現しやすい。6歳の子供なら約40%、18歳以上の成人なら10%以下になる。また成人の夢に登場する動物はイヌ・ネコ・ウマ・ウシなど、より身近な動物や家畜が登場しやすくなる傾向がある。

明晰夢と内省的自己意識

明晰夢とは、夢の中で「今、自分は夢を見ている」と自覚できるタイプの夢を指す。ほとんどの夢は夢であることを自覚せずに見ている「偽の覚醒」状態の夢である。

サン・ドニの「夢とその操縦法」によると、音楽で夢に登場する人物を操作する訓練を自分自身に課したところ3段階にわたって3ヶ月で次の能力が身についた。

①自分が夢を見ていると自覚する
②夢の最中に任意のタイミングで覚醒する
③夢の特定箇所に集中して深掘りする

私は夢を見ている最中、指が6本になっているのに気づいて明晰夢になったことが2回だけある。

スティーブン・ラバージによるレム睡眠実験

1980年代、睡眠学者スティーブン・ラバージの実験によりレム睡眠中は夢の中で目を動かすと実際にその通りに現実世界で目が動く、また夢の中での目の中の手の動きがわずかな親指の痙攣となって外部に伝達できることを発見した。これがほら話でないことを証明するため、ラバージは目の動きをモールス信号にして夢から現実へと送った。

ラバージによると、明晰夢はこのようなことを考えていると見やすくなるという。

「夢の中で明晰になる」という強い意志を持つ
②毎朝夢日記をつけ、最低1つ以上夢を記録できるようにする。
③普段「今自分はここにいる」と頻繁に確認・意識する習慣をつける
「これは夢ではないか?」と自問する習慣をつける
指の数をチェックする。これは私個人で思いついたやり方。

今日は中古屋の事務所で「シンクの隣に監視カメラの映像を映すPCを置いている」という奇妙な家具の配置を見た。「普通の人がこんなものの置き方をするとは思えない。もしかして夢だからこんな奇妙な配置になってるのでは?」と本気で疑った。見たことないもの・変な動物・奇妙な配置の家具などなどを見たらすぐに「これは夢ではないか?」と疑ってかかるようにしている。

夢見と内省的自己意識

渡辺氏の統計的な調査で、「内省的自己意識」が高い人は夢・明晰夢を見やすい傾向があることがわかっている。内省的自己意識とは、自己の内部を観察する能力を指している。対してアイゼンク人格テストによる性格診断(外向性-内向性、安定-不安定、タフ-繊細)は夢の見やすさと相関がないことが明らかになっている。
個人的には夢日記をつけるようにしてから「あの夢はそういう意味だったのか」と納得することが増え内省的自己意識が向上した気がしている。
夢をコントロールすることや明晰夢を見ることの利点は、メンタルヘルスに影響を与えるようなネガティブな夢を克服したり無意識下における問題を解決できることである、とラバージは主張する。このような夢の利活用は精神療法に応用できるのではないかと期待されている。

夢と自我体験

発達心理学者のシャルロッテ=ピューラーによると、自我が誕生する瞬間を「自我体験」と呼ぶ。これは幼児期に「自分がここにいる。それはなぜだろう」と抽象的かつ絶対的な事実を意識することを指している。
「日本国の〇〇町、〇〇街の〇〇ー〇〇、2階」という時間や位置を表す情報に対して「今、ここ」でなければならないのか?という疑問が生じる「自明性の裂け目」が幼児期の自我体験の基盤となる。

映画館で映画を見終わった後に「ホントにこっちの世界に戻って来れたのか?」という奇妙な不安感を感じることがあるが、これが自我体験における自明性の裂け目に相当するようなフィクションの映像の世界と現実世界の自明性の裂け目の感覚であると考えられる。

夢の中や普段の生活の中で「今自分はここにいる」と自覚するには、このような自我体験を思い起こすと良いかもしれない。




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