汚部屋と風水
「鯉が欲しいんだけど、どこかで買えるか知ってる?」
男運と金運を上げるため、風水にのめり込んでいる友人にそう聞かれた。
ちなみに、我が家からサボテンやら、その他の観葉植物がすっかり消えたのは、
「自宅には、分厚くて丸い葉の植物しか置いちゃだめ!こんなギザギザに尖ったアロエやサボテンなんてもってのほかよ!これじゃお金貯まんないわよ!」
という彼女の一言のためである。
そんな友人は、丸々と太った真っ赤な鯉が欲しいという。
「鯉って....まさか、アパートで買うつもり?」
「そうだけど?」
友人のアパートは、昨年、ハーフミリオンを出して購入した、夢のstudio、日本でいうところの広めのワンルームである。
マンハッタンのチェルシー。それも、20年ぶりにダウンタウンに戻ってきたバーニーズニューヨークから徒歩1分の最高の立地。
絵に描いたようなオシャレなゲイやアーティストが多く住む、ドアマン付きのビルティング。
60代の前オーナーとゴールデンリトリバーが数十年暮らしていたというその部屋は、完全改装され、夢の空間が広がっているはずである。
そんな期待を胸に、始めて、その空間に足を踏み入れた時、目の前の光景がうまく処理できなかった。
リフォーム代を渋って、自ら工事を監督する.....というニューヨークの常識からすると、ありえない決断をした彼女は、いい加減な業者に散々振り回された挙句、未完成のままの新居に住み続けることもう8ヶ月。
未だ、キッチンのカウンタートップはないまま、流し台は、物置という名のゴミ箱状態。工事の道具から、シャネルの紙袋まで、ぐちゃぐちゃに詰め込まれている。飲み捨てられたコーヒーの紙コップ、いくつ転がっていただろう.....
バスルームの床には、洗濯物と空になったシャンプーのボトルが無造作に放置され、洗面台には、髪がぎっしりからまったブラシ。
業者が途中で工事を放り出したため、未だトイレの水が流れず、洗面器に水を貯めて流している、と聞いた時は、言葉が出なかった。
そんな環境で8ヶ月......!!
どれだけ逞しいの......!?
そして、ここで丸々太った真っ赤な鯉を飼おうとしているなんて.....
もう感嘆するしかない。
部屋が汚くても、死にはしない。ここにその生き証人あり。
だけど、鯉を探す前に、有能なクリーニングレディを探してほしい。
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