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目指せ!ES#000:エンベデッドシステムスペシャリストとは


情報処理技術者試験とエンベデッドスペシャリストの関係

国家資格とは

 個人が持つ様々な知識・能力・技術の有無やレベルを,第三者機関が客観的な基準で判断し,証明してくれるしくみが「資格」です.
 ただし一口に資格といってもクオリティは様々で,レベルが高くて習得までに大変な労力を要する資格もあれば,1時間程度の講習を受けるだけでもらえる資格もありますし,専門家の監修により内容のが厳格に担保されている資格もあれば,根拠に乏しい内容の資格もあったりします.自分の楽しみとして受ける分には何でも構わないのですが,進学や就職・ビジネススキルアップのために取得する資格であれば,十分な信頼性と権威をもった資格を取得しなければなりません.
 資格は,誰の名前(責任)で資格証を承認するかによって,大きく「国家資格」「公的資格」「民間資格」に分かれます.これら区分の明確な定義は難しいのですが(参考:https://talent-ize.com/recurrent/certification-definition/).国家資格はその名の通り資格の承認を国家が法律に基づいて行うもので,資格の中でも絶大な信頼性がある,ということだけ理解しておけばいいかと思います.

日本で(ほぼ)唯一の情報系国家資格「情報処理技術者試験」

 「情報処理技術者試験」は情報系技術者…すなわちパソコンやネットワークを取り扱い,システムやプログラムの運用・開発・保守などを行う技術者のスキルを評価してくれる,日本で(ほぼ※)唯一の国家資格です.


※「ほぼ」とつけているのは,他に「技術士」と「技能士」というものがあるためです.
 「技術士」は分野別に取得することができ,その中に「情報工学部門」「電気電子部門」が存在します.「科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある最高位の国家資格」とされる大変高度な資格であることと,ただ合格するだけではだめで,技術士(および技術士補)を名乗るためには税を納めたうえで職能団体に登録を行う必要があること,また技術士になるためには一定期間の実務経験が必須など様々な制約があるため,誰もが挑戦できる資格とは言えません.
 「技能士」は技能検定に合格することで得ることができる資格ですが,広汎な知識を問うというよりも,ピンポイントの「技能」を身に着けているか否かを実技を中心に判断するものになります.また受験資格として実務経験を求めるものもあります.プログラミング(情報)に関する技能士は現時点で作られていません.組込み技術に関わる技能士としては「電子回路接続技能士」「プリント配線板製造技能士」「電子機器組立て技能士」


 情報処理技術者試験の所管は「経済産業省」で,実際の運用は「独立行政法人 情報技術推進機構(IPA)」が行っています.
 「情報処理技術者試験」はレベル(難易度)と専門分野により,全部で13個の試験に分かれています.

情報処理技術者試験の区分(出典:情報処理推進機構 試験区分一覧

 下位試験が分野横断的に幅広い知識を要求しているのに対し,難易度の高い「高度試験」(上の図でいうピンク色の試験)は専門分野別に分かれています.

エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES)とは

 本連載のテーマである「エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES)」は,名前の通りエンベデッド(=組込み)システムに関する知識技術を評価する試験です.IPAが定める対象者像は次の通りです.

高度IT人材として確立した専門分野をもち、IoTを含む組込みシステムの開発に関係する広い知識や技能を活用して、市場動向・関連業界の動向を踏まえて最適な組込みシステムの事業戦略や製品戦略を策定し、ハードウェアとソフトウェアの要求仕様の策定、及び要求仕様に基づいた組込みシステムの設計・構築・製造を主導的に行う者

(出典:情報処理推進機構 エンベデッドシステムスペシャリスト試験

 本記事執筆時点で発表されている最新の統計(統計資料(令和6年度))によれば,令和5年秋期に実施されたエンベデッドシステムスペシャリスト試験(年1回秋期実施)は以下のような受験状況になっています.

  • エンベデッドシステムスペシャリスト試験(令和5年秋期)

    • 申込者数 2547

    • 受験者数 1841

      • 受験率 72.3%

    • 合格者数  305

      • 合格率 16.6%[受験者数ベース]

ちなみに,2547名という申込者数は,同時期(令和5年秋期,令和6年春期)に実施された高度試験の中で最も少ない(ニッチな)ものです.申し込み数ナンバーワン・ツーの高度試験である「情報処理安全確保支援士」(年2回春秋実施)と「ネットワークスペシャリスト」(年1回春期実施)の東京情報も参考に示しておきます.

  • 情報処理安全確保支援士(令和6年春期)

    • 申込者数 20432

    • 受験者数 14964

      • 受験率 73.2%

    • 合格者数  3284

      • 合格率 21.9%[受験者数ベース]

  • ネットワークスペシャリスト(令和6年春期)

    • 申込者数 16085

    • 受験者数 11089

      • 受験率 68.9%

    • 合格者数  1704

      • 合格率 15.4%[受験者数ベース]

エンベデッドシステムスペシャリストを目指そう

需要大,供給不足の組込みエンジニア

 マイコン(マイクロコンピュータ:家電製品などの制御に用いる小型のコンピュータ)技術・センサ技術・ネットワーク技術が発達し,IoT(Internet of the Things)やエッジコンピューティングという概念が浸透している今,その根幹となる組込み(=エンベデッド)技術の需要はますます高まっています.
 需要が高まる一方で,組込み技術者にはプログラミング(ソフトウェア)の知識やシステム工学的な知識だけでなく,深いハードウェアの知識が求められるためか,エンジニアの供給が少ない状況が続いています.プログラミングだけでなく,モノ作りに興味がある人はぜひ,「エンベデッドシステムスペシャリストの取得」を大きな目標として,組込み技術にチャレンジしてみて欲しいと思います.

エンベデッドシステムスペシャリストは勉強が大変

 情報処理技術者試験を受けようとする人は,市販の試験対策参考書を購入して勉強する人が多いですが,エンベデッドシステムスペシャリストは受験者数が少ない試験なので,試験全体を俯瞰して学べる参考書がとても少ないという現状です.
 本連載が,学習の一助になればよいなと思っています.

連載「目指せ!エンベデッドシステムスペシャリスト」について

解説の対象

エンベデッドシステムスペシャリスト試験は「午前I」「午前II」「午後I」「午後II」の4つに分かれていますが,このうち「午前I」に相当する部分は,応用情報技術者試験と同等の試験範囲ですので,本連載では対象外とします(ただし「午前II」「午後I」「午後II」の問題に関連する知識の場合は触れる場合もあります)

キーワード知識解説・午前問題解説は無料

 エンベデッドシステムスペシャリスト試験の過去問に登場した内容から,特にエンベデッドシステムに固有の知識や頻出部分を中心に解説していきます.
 過去問からピックアップしたキーワード解説や午前問題の解説は無料パートとし,どなたでもお読みいただけます.

午後問題解説・解説リクエストは有料

 午後問題の解説記事は有料とします.また午後問題解説記事に「この問題/このキーワードについて解説してほしい」という要望を送るフォームを設置しますので,ご要望をお知らせください.(いただいたリクエストはできるだけ尊重致しますが,ご希望に添えない場合もありますのでご了承ください)


執筆者
N.Y.City(山口直彦)

工学院大学学生職員、組み込みエンジニア、専門学校HAL東京(先端ロボット開発学科)教員を経て、現在東京国際工科専門職大学(情報工学科)助手。プログラムや電子回路、産業用ロボット教育等に従事。その他、音楽情報科学研究、文筆業、ラノベ研究や発達障害者支援、写真等も。

主要著書
コンピュータの動くしくみ(電子書籍再刊)』(秀和システム,2019年)
小説の生存戦略 ライトノベル・メディア・ジェンダー』(青弓社,2020年)
Web連載「イメージでしっかりつかむ信号処理」(APS-WEB,2023~)

より詳細なプロフィールはWeb(N.Y.Cityのまちかど)へ。


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