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「You are cool.」子どもたちから大統領への手紙~ヒューマン・バラク・オバマ第12回


■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■

「ありがとう。そして楽しんで、国を治めることを~子どもたちからオバマ大統領への手紙」という本がある。2008年にオバマ大統領が初当選した直後にアメリカの子どもたちが書いた手紙、約100通をまとめたものだ。表紙のオバマ大統領の似顔絵も子どもが描いている。

8年前に書かれた子どもたちの手紙には、当時のオバマ大統領への社会の大きな希望が反映されている。

ある9歳の女の子は「私はあなたに投票しました/私と私の家族はあなたがマケインよりも助けになると思いました」と書いている。9歳に投票権はもちろん無い。親が大統領選について、バラク・オバマについて、子どもにいろいろと話したのだろう。「史上初の黒人大統領」の誕生に国中が盛り上がっていた。希望に溢れていた。親も教師もオバマ大統領について子どもに語り続けたのだ。

この女の子の親は、もしかするとこの子を投票所に連れていったのかもしれない。投票所にもよると思うが、投票ブースに子どもを連れて入っても差し支えはない。だからこの女の子は自分自身がバラク・オバマを次期大統領にふさわしいと判断し、自分も投票したのだと感じているのだろう。この子にとってオバマ大統領はアメリカ人がよく言うように「マイ・プレジデント」なのだ。

Thanks and Have Fun Running the Country: Kids' Letters to President Obama  Edited by Jory John


手紙はワシントン州シアトルの学童保育所の指導者が思い付き、子どもたちに書かせたもの。他州にある同じ系列の学童保育所にも声を掛けたため、手紙はニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ボストン、サンフランシスコなどからも寄せられている。地名と手紙の内容から察するに、どれも都市部にあり、それほど豊かではない家庭の子どもが多いように思える。人種的マイノリティ、移民の子どもも多く含まれている。

多くの子どもが「大統領に当選しておめでとう」に続いて、「大統領として●●をしてください」と、なんらかの社会問題を持ち出している。そこに挙げられている問題は個々の子どもたちが実際に直面しているものであることが多く、子どもたちは親や先生が満面の笑顔で語る新大統領なら、きっと解決してくれるに違いないと大きな期待を寄せていたことが文面から伺える。


■リーマンショックのまっただ中で

「物価を下げるように言ってください。ボクのお母さんとお父さんは働いてなくて、あまりお金がありません」(10歳)

リーマン・ショックは2008年9月15日に起こった。多くの人々が家や職を失い、アメリカは混沌状態となった。大統領選は直後の11月4日。バラク・オバマが勝ち、翌2009年1月20日の大統領就任式を経て第44代アメリカ合衆国大統領となった。就任の瞬間から厳しい経済問題が待ち構えていた。

子どもたちは手紙の中で「増税」「医療保険」「奨学金」について大統領に支援を願っている。4年後に大学に行きたいと言う13歳にとっては、まさに切実な問題だ。子どもたちはまた、街頭で見掛けるホームレスの救済も願っている。「国民全員に毎日10ドルずつ配る」提案がある。ベーシック・インカムを、そうとは知らずに考えついているのだ。(アイスクリームを配る提案もある!)

イラク/アフガン戦争も続いていた。ある少年は「イトコが戦争に行っていた時、とても心配でした」と綴っている。アメリカの子どもにとって戦争は家族が派兵する、ごく身近な事象だ。

移民問題もある。自身はアメリカ生まれだが中南米の祖国に残っている家族をアメリカに呼び寄せる支援をオバマ大統領に願う子ども。家族がキューバ出身で、キューバの当時の窮状を連綿と訴える子ども。

少なくない子どもが自分が大統領であれば何をするかを書いている。「悪い麻薬」を根絶したい7歳児がいる。近所の犯罪を無くしたい子どもがいる。「世界から嫌われているアメリカ」をなんとかするためにオバマ大統領の手助けをしたい子どもがいる。長官か補佐官に子どもを任命してはどうかと提案する子どもがいる。環境問題を憂い、「水で走る車」を思い付いた子どももいる。

難題を抱えた新米のオバマ大統領を応援する子どももいた。「心配しないで。私と、私の家族と、私の友だちと、私の学校が応援します」(13歳)


■「You are Cool.」

子どもたちは自分とオバマ大統領の共通点を見つけようと一生懸命だ。ある7歳の男の子は自分もシカゴ出身で、人種ミックスで、カーリーヘアだと書いている。ある女の子は自分はアラブ系で、オバマ大統領も「半分アラブ系」だと聞いたと書いている。残念ながら、これは大統領選中に広まった誤解なのだが。

他にも「学校に来てください」「子どもと大統領が話せる電話を作ってほしい」など、子どもたちはオバマ大統領をとても身近に感じている。5歳の女の子は「あなたのお家で会えますか?」と書いている。当時11歳と8歳だったオバマ大統領の娘マリアとサーシャに触れたものも多い。年齢が近いだけに、なおいっそうの親近感があったのだろう。オバマ大統領が当選の暁に娘たちに飼うと約束した犬について尋ねたものもある(後にポルトガル・ウォーター・ドッグ種のボーとサニーが飼われることとなった)。ミシェルがあなたを助けますというものも何通かあった。

オバマ大統領は全国民から寄せられる手紙を毎日10通ずつ読んでいる。出先で市民に歓待される際、必ずといっていいほど幼い子どもを抱き上げる。ホワイトハウスで毎年子どもの科学フェスティバルを開催し、子どもたちの発明品を見て回る。黒人とラティーノの少年支援プロジェクトを開始している。

オバマ大統領は子どもに夢と希望を抱かせることが出来る人物だった。子どもたちに「自分もああなりたい」と思わせる大統領だった。子どもたちはオバマ大統領を「Cool」だと思った。子どもたちはオバマ大統領と躊躇なく言葉を交わせた。

だからこそ子どもたちは手紙の中で率直に「ボクの家族は貧しいです」と言い、助けを求めることができた。彼らが手紙で訴えた問題は、今も重要な課題であり続けている。それらを全て解決できれば、アメリカと世界は今よりはるかに良くなるはずだ。冗談でもなんでもなく、大統領と政府は子どもの声にもっと耳を傾けるべきなのかもしれない。

8年前に手紙を書いた5歳から13歳の子どもたちは今13歳から21歳となっている。彼らにもう一度、オバマ大統領への手紙を書いてほしい。彼らが過去8年間に何を思い、何をして、これから先、大統領ではなくなるバラク・オバマに何を望み、トランプが大統領となる今後のアメリカをどう考えているのか。ぜひ聞かせて欲しい。

「あなたは絶対に悪い言葉を使わないと思います」(7歳)



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