堂本かおる

米国ニューヨーク在住のフリーランスライター。テーマは黒人社会、マイノリティ文化、アメリ…

堂本かおる

米国ニューヨーク在住のフリーランスライター。テーマは黒人社会、マイノリティ文化、アメリカ社会、オバマ大統領など。

最近の記事

アメリカの絵本 #6『Yo! Yes?』

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■ 初出:週刊読書人 2017/9/29号 著・画:Chris Raschka  この絵本はどのページもほぼ1単語のみで書かれている。冒頭、黒人少年が白人の少年に勢いよく「Yo!」(よう!)と声を掛ける。白人少年は振り返って「Yes?」(はい?)と答える。ページをめくると、また黒人少年が「Hey!」(ヘイ!)と言う。白人少年は「Who?」(誰に話しかけてるの?の意)と返す。黒人少年は「You!」(おまえだよ!)と言い、白人少年は「M

    • アメリカの絵本#5「 ヘイ、ユー!カミヤ~ポエトリー・スラム」

      ■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■ 初出:週刊読書人 2017/8/25号 Hey You! C'mere! A Poetry Slam 著:Elizabeth Swados 画:Joe Cepeda Arthur A. Levine Books 〜このリズム感! 声に出して読みたい!〜  本作のタイトルを訳すと『おい、おまえ!こっち来いよ~詩の対決』と、非常に活きの良い「詩」の絵本であることがわかる。すべて見開きで全16篇の詩が、カラフルなイラストとともに詰ま

      • アメリカの絵本#4「When God Made You」

        ■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■ 初出:週刊読書人 2017年7月28日号 When God Made You 著:Matthew Paul Turner著 画:David Catrow  『When God Made You』(神さまがあなたをお創りになった時)に登場するのは、溢れんばかりの絵の才能を持つ幼い少女と神。少女に名前はなく、絵本の語り手は少女を「You」と呼び、なぜ「God」が少女をこの世に送り出したかを繰り返し語る。  ある日、自転車で街に出た

        • American Picture Book Review #3 『ブルースカイ ホワイトスターズ』

          ■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■ 初出:週刊読書人 2017/6/30号 Blue Sky White Stars 著:Sarvinder Naberhaus 画:Kadir Nelson 7月4日はアメリカ独立記念日。全米に星条旗が翻る日だ。旗だけではない。多くの人が庭や公園でBBQを楽しむが、プラスチックのコップやビニールのテーブルクロスといった小物やTシャツまでが星条旗カラーの赤・白・青となる。日没後は各地で花火大会となり、筆者の住むニューヨークでも盛大

        アメリカの絵本 #6『Yo! Yes?』

          American Picture Book Review #2 『シェイズ・オブ・ブラック』

          ■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■ 初出:週刊読書人 2017/6/2号 SHADES of BLACK - A Celebration of Our Children 著:Sandra L. Pinkney 写真:Myles C. Pinkney  先日、日本では都立高校の『地毛証明書』が物議を醸したが、アメリカには存在し得ないものだ。ありとあらゆる人種民族の混合国家ゆえに髪も文字どおり十人十色。よって全校生徒の外観を一律に揃えるという概念は無い。  しかし

          American Picture Book Review #2 『シェイズ・オブ・ブラック』

          American Picture Book Review #1 「カボチャとパンツスーツ」

          ■アメリカの絵本をとおしてアメリカ社会を知る■ 初出:週刊読書人 2017/5/5号 The Pumpkin and The Pantsuit 著:Todd Eisner他 画:The Studio  『The Pumpkin and The Pantsuit』(カボチャとパンツスーツ)は、アメリカの子供たちが昨年の大統領選のドタバタ劇を通して選挙の仕組みと民主主義を学べる絵本だ。出版の動機は、米国選挙史上最悪のカオスとなった大統領選を全米の(少なくとも半数の)親が「子

          American Picture Book Review #1 「カボチャとパンツスーツ」

          オバマ元大統領:演説で4,000万円を稼ぎ、若者支援に2億円を寄付~ヒューマン・バラク・オバマ第16回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■  8年間の任期を終えたオバマ元大統領は南洋のパラダイスでのバケーションを存分に堪能し、その後はワシントンD.C.のギャラリーやマンハッタンのレストランに「GQマガジンのモデル」のような出で立ちで現れては、トランプ政権に打ちのめされているアメリカ人民にひと時の幻想を与えた。バラクとミシェルの笑顔を見ると、つい、「あぁ!なんだか良いことが起こりそう!」と錯覚してしまうのである。  しかし今、バラク・オバマの

          オバマ元大統領:演説で4,000万円を稼ぎ、若者支援に2億円を寄付~ヒューマン・バラク・オバマ第16回

          オバマ大統領が書いた「絵本」〜『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 ~ヒューマン・バラク・オバマ第15回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■  バラク・オバマは大統領時代に絵本を一冊出版している。大統領となった翌年、2010年に出された『of THEE I SING - A Letter to My Daughters』だ。(日本語版『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』) (注:以下、英語版を元に書いていますが、いわゆるネタバレとなります)  2人の娘、当時12才だったマリアと9歳だったサーシャへの手紙の形式で、アメリカの13人の偉

          オバマ大統領が書いた「絵本」〜『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 ~ヒューマン・バラク・オバマ第15回

          オバマ大統領は私にも「同胞なるアメリカ人」と呼びかけた。~ヒューマン・バラク・オバマ第14回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■  オバマ前大統領は演説の最初によく聴衆に向って「My fellow Americans,」と呼びかけた。fellow は「同胞の」「仲間の」といった意味を持つ。つまり「私の同胞たるアメリカ人の皆さん」。  多種多様な人々で構成され、米国籍を持たない人も多いアメリカ。オバマ大統領の言う「アメリカ人」とは、いったい誰を指すのだろうか。  ここで言うアメリカ人とはアメリカ生まれの米国籍者だけを特定しているの

          オバマ大統領は私にも「同胞なるアメリカ人」と呼びかけた。~ヒューマン・バラク・オバマ第14回

          トランプと黒人社会の戦争が始まる〜ヒューマン・バラク・オバマ第13回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■  今回の大統領選で投票した黒人女性のうち、トランプに票を投じたのはわずか「4%」だった。黒人女性たちは歴史・経験・知性・本能によってトランプを回避しようとした。その願いもむなしくトランプが大統領となった今、黒人社会は今後4年間の在り方を模索し始めている。 ■アメリカの大虐殺  トランプの就任演説は日本語訳もなされたが、アメリカ社会の背景抜きでは伝わり切らない部分がある。  「都市の中心部(インナーシ

          トランプと黒人社会の戦争が始まる〜ヒューマン・バラク・オバマ第13回

          「You are cool.」子どもたちから大統領への手紙~ヒューマン・バラク・オバマ第12回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■ 「ありがとう。そして楽しんで、国を治めることを~子どもたちからオバマ大統領への手紙」という本がある。2008年にオバマ大統領が初当選した直後にアメリカの子どもたちが書いた手紙、約100通をまとめたものだ。表紙のオバマ大統領の似顔絵も子どもが描いている。 8年前に書かれた子どもたちの手紙には、当時のオバマ大統領への社会の大きな希望が反映されている。 ある9歳の女の子は「私はあなたに投票しました/私と私の

          「You are cool.」子どもたちから大統領への手紙~ヒューマン・バラク・オバマ第12回

          黒人の子どもにオバマ大統領が必要だった理由~ヒューマン・バラク・オバマ第11回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■  オバマ大統領が無類の子ども好きなことはよく知られている。  ホワイトハウスにはピート・ソウザという専属フォトグラファーがいて、ホワイトハウス内はもちろん、オバマ大統領が行くところどこでも同行し、大量の写真を撮ってはホワイトハウス公式ウエブサイトや公式インスタグラムにアップしている。各メディアもソウザ氏の写真を使うことが多い。政治的な緊張感が漂う写真も多いが、目を引くのは子どもとオバマ大統領の写真だ。

          黒人の子どもにオバマ大統領が必要だった理由~ヒューマン・バラク・オバマ第11回

          ミシェル・オバマを「サル」~メディアを読まない医師・教師・町長 ~ヒューマン・バラク・オバマ第10回

          2017/1/1 ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■  「ヒューマン・バラク・オバマ」シリーズの一環として、今回はミシェル・オバマの人生について書くつもりだった。ファーストレディとなる前は錚々たるビジネス・キャリアを築き、ホワイトハウス入り後は外交的でフレンドリーなキャラクターを披露し、数々の重要な社会貢献を行い、同時にファッション・アイコンにもなったミシェル。なにより夫バラク・オバマ大統領とこれ以上はないほどの見事なパートナーシップを発

          ミシェル・オバマを「サル」~メディアを読まない医師・教師・町長 ~ヒューマン・バラク・オバマ第10回

          マイ・ブラザーズ・キーパー ~ 黒人少年の未来のために:ヒューマン・バラク・オバマ第9回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■ 今から2年前、オバマ大統領は「マイ・ブラザーズ・キーパー」と名付けたプロジェクトを立ち上げた。"my brother's keeper" とは聖書の創世記にあるカインとアベル兄弟の物語からの言葉で、今では「同胞や同志を見守る者」の意味で使われている。その名のとおり、このプロジェクトの目的は教育や就職で不利な立場にある黒人とラティーノの男子青少年を成功に導くべく支援することだ。 オバマ大統領がこのプロジェ

          マイ・ブラザーズ・キーパー ~ 黒人少年の未来のために:ヒューマン・バラク・オバマ第9回

          不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦~法の不平等を正す~ヒューマン・バラク・オバマ第8回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■  先週の金曜日。オバマ大統領は冬の休暇で故郷ハワイに赴く前に、153人の刑務所収監者に恩赦/減刑を与えた。これで累計1,324人となる。うち395人 は終身刑だった。すでに過去11人の大統領が与えた恩赦の合計数を上回っている。  オバマ大統領の大量恩赦はアメリカが長年格闘してきた「ドラッグ戦争」に基ずく。ドラッグ戦争の「解決策」は大量の黒人を刑務所に閉じ込めることだったが、それは黒人社会を崩壊させこそす

          不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦~法の不平等を正す~ヒューマン・バラク・オバマ第8回

          不法滞在の子どもたち~合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ ~ヒューマン・バラク・オバマ第7回

          ■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■ トランプ次期大統領がオバマ政権の政策をことごく覆す発言を繰り返す中、シカゴ市長のラム・エマニュエルがニューヨークのトランプ・タワーに赴き、トランプと会談した。 エマニュエル市長は2012年にオバマ大統領が大統領令を発して施行したDACAと呼ばれる法律を無効にしないよう、陳情したのだった。DACAは通称DREAMERSと呼ばれる、子どもの時期に親に連れられるなどしてアメリカにやってきた若い不法滞在者(※)

          不法滞在の子どもたち~合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ ~ヒューマン・バラク・オバマ第7回