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誰も返してくれない本

#小説版リアリティーショー

僕のとても好きな本は、その良さがなかなか人に伝わらない

「ねたあとに」長嶋 有 著(2009年)

ネタバレというほどのネタも、種明かしというほどの種もなく、
夏の山荘に集まった大人たちが様々な“自作の遊び”で暇をつぶし、
その様子をただ覗くように“読まされるだけ”の小説。

主人公のような小説家のコモローをはじめ、
わざわざ巨乳と描写されたアッコさんという女性なども出てくるが、
恋愛を匂わせることすらなく、殺人など起こるはずもなく、
それどころか、話らしき話が一向に始まらない。笑

初めて見かけた時、帯かどこかにあった一文が衝撃ながら納得で、
いま確認する物が手元にないので 全く正確ではないうろ覚えだが、
『殺人も恋愛も人生の9割は何も起こらない』
みたいなことが(小説のおすすめ文なのにw)書いてあり、
でも「確かに」とそこに興味を惹かれ、共感してジャケ買いした。

つまり、何も起こらない9割の方を書いたという意味では、
これほどリアルに日常を切り取った小説はないということだ。

あとから知った驚きとしては、
この小説は朝日新聞の夕刊に連載されていたものだという。
なんともチャレンジング。

因みに“自作の遊び”たちは、いわゆるテーブルゲームで種類も多く、
それぞれがどんなルールで何を用意するかも書いてあるので、
再現しようと思えばできそうという点でもリアルな世界が広がっている。


#読破できない読書家続出

いま確認する物が手元にないので

と書いたのは、いまはこの本が僕の手元にない。

noteで書いてしまうほど好きな本なのに所有していない。

正確には所有していたことは何度もあるけれど、
何度も誰かに貸してしまって、何度も返って来ず、
仕方ないので何度も買い直して、結果はまたここ1年ほど貸したまま手元にない。
(恐らく後輩のM君が持っている #゚Д゚)! )

その良さがなかなか人に伝わらない

と書いたのは、この「何も起こらないことを楽しむ」というのが、
読書欲を満たしたい人が求める小説のあり方とミスマッチというか、
何もマッチさせようがないほど逆行wしたアンチテーゼの域らしく、
最後まで読み進めることができないらしいのだ。

いつも本を持ち歩いている同僚やよく本の話をしている後輩など、
「あ、この人なら大丈夫かな?」という人ばかりに貸してきた。

その人たちは何かの折に「好きな本は何か」というような話題を出し、
それならと概要や魅力、でもなかなか伝わらないリスクも忘れず添えると、
「面白そう!」と“自分ならイケる感”を漂わせる、ので貸してみる。
いつかきっと訪れるであろう「面白かった!」の共感を期待して。

…でも返ってこない。

ただ、皆に総じて感じるのは、“借りパク”するつもりはないっぽい。
きちんと読み切って、私なりに面白さを理解して、
感想と一緒に返す日を夢見る内に力尽きるっぽいのだ。笑

「返して」と言えばいいのだが、別に急いでないし、
その内にお互いが異動したり転職したりして日常に居合わせなくなり、
となると会わない人から物を返してもらうのは意外にも難しく...的な。

僕が貸した中で、この本を読破して返してくれたのは妻だけ。
(最後まで読めずに返してくれた人はいたが。)
さすがの活字中毒の妻 でも最初は戸惑ったらしいから、なかなかなのだろう。

参考までに、彼女の感想としては、
「世界観がわかり出したら一気に面白くなった」とのことだった。

・・・・・

当の僕はと言えば、この本がどうして読み難いのか、
この“返却されない現象”が続発するまで考えたことすらなかった。

好みや志向の問題で、たまたま僕はこういう物に馴染める体質らしい。
何も起きない日常だからこその心の機微なんかをニヤニヤ噛み締めたい。
だから僕にとってはめちゃくちゃ面白い本でしかない。
ましてや自分の読解レベルが高いなんてことはあり得ない。

読む人は選ぶようだがハマる人にはハマる本。

あなたは「ねたあとに」を愉しめる人でしょうか? ふふふ
よろしければどうぞ。文庫版も出てます。

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