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ショッピングモールのテナントが倒産したら

辛いニュースが続いています。

新型コロナウイルスの感染拡大で企業倒産が増えている。東京商工リサーチによると、コロナ関連の倒産は27日に累計100件となった。旅館など宿泊業と飲食業で約4割を占めており、資金繰りで行き詰まって倒産に至るケースが多い。「コロナ倒産」100件 宿泊・飲食で4割 需要急減で行き詰まる(日本経済新聞 2020/4/27 18:20)

できればどのようなテナントとも長くお付き合いしたいものですが、平時でさえ小売業は新陳代謝が活発な産業で、倒産するテナントは日常的にあります。
万が一の事態が起こってしまったとき、ショッピングモールのデベロッパーは何をしているのか、を整理してみます。

1.「倒産」って何が起きているのか

会社の経営が立ち行かないことを「倒産」と一纏めに呼びますが、あくまで一般的な用語で、具体的な手続きや起こっていることをみると、様々な種類があります。私は以下の3種類に整理しています。

①清算型の倒産…会社をすっかり畳んでしまう手続きで、手続きとしては「破産」が一般的です。この倒産の場合、会社に資産は残っておらず、債権は大概放棄する羽目になります。
②再生型の倒産…事業を整理して、生き残りを目指す形です。「民事再生」「会社更生」はこれに含まれます。事業を継続しながら債務整理をして、生き残っていける事業の形にして行きます。
③夜逃げ型の倒産…上記の手続きを踏まず、音信不通になってしまうパターンです。正直一番しんどいです。手続きも一番時間がかかります。

以下はこの①②③ごとに、ショッピングモールのデベロッパー視点で何が起こっているか、何をしているかを書いていきます。

2.倒産の気付きかた

<①②の場合>
大抵、倒産はある日突然やってきます。
朝、仕事を始めてちょっと落ち着いたぐらいの時間、突然FAXが届いて知る、ということが私は多いです。
そのFAXには弁護士の名前で「破産申立のお知らせ」など、そのテナントが倒産したことのお知らせと、「店舗にある商品その他の動産は当職(注:弁護士の一人称)が管理しますので、持ち出したり触ったりしないように」という、初めて見るとかなりドキッとさせられる言葉が書いてあります。

<③の場合>朝見に行ったら誰もスタッフが出勤してこず、商品が持ち出されている…という状況になっていて、会社に電話してもつながらない…というところから知ることが多いです。ただ①や②なのかどうか突き止めるまでは結構時間がかかったりして(各方面に裏取りしないといけないので)、結構バタバタしているうちに「ああこれは倒産したのか」と気付かされる、といった形です。

3.まず何をするか

<①の場合>倒産を知ったらすぐに閉店してもらわなければいけません。
破産申立した時点で、その会社は商品を顧客に販売する能力を失います。そのため営業は停止です。
ただ、ショッピングモールの場合、テナントの区画と共用通路との間には壁や扉がない場合がほとんどです。
そのままにしておいては店舗区画に顧客が入り放題になってしまうので、仮設の壁(パーテーションパネルや幕など)を立てて、そのテナントへの立ち入りを止めないといけません。
仮設の壁には店舗が営業終了したことと、弁護士から受け取った文書のコピーを貼り付けます。
(※)本来なら倒産手続きをすすめる弁護士が店舗閉鎖などの手配をするのが筋なのだと思いますが、小売業は拠点が多いことが殆どであり、現場へ来ることはできない場合がほとんどです。
そのため、デベロッパー側に商品・店舗区画を閉鎖する対応を依頼されることがほとんどです。というか、清算の中でトラブルにでもならない限り、債権者集会以外で弁護士の先生にお会いしたことはないです…。

<②の場合>営業を継続しながら手続きをする事がほとんどですが、このような事態に陥るテナントは、焦げ付いた債権があったり、賃料を減免していたりするので、今後継続してお取引ができるかどうかを考え始めます。

<③の場合>スタッフが居ない店を開けておくこともできないので、①と同様に店はデベロッパーで閉めます。
そこからテナント側で連絡のつく人を探していくのですが、大体は難航します。商品をおろしていた会社の方からデベロッパーに連絡をいただくこともあります。が、お互いにあまり得る情報がない場合も、悲しいですが多いです。

4.事後対応と結末

<①の場合>
テナントは会社の清算をすすめるので、お取引は終わりです。
次のテナントに早く借りてもらったほうがデベロッパーとしては儲かるので、一刻も早く出ていってもらえるように賃貸借契約解除の手続きを進めます
退去に伴ってテナントからデベロッパーに支払ってもらいたいお金(区画の内装を撤去する原状回復費用や違約金など)は支払う能力がない事がほとんどなので、妥協した形で契約終了をすることになります。

<②の場合>
再生計画が立てられ、どの店を残すか、ということが決まります。
そのときに自分のショッピングセンターに入っているお店が残る店になれば継続してテナントとしてお取引ができますが、一度倒産していることに違いはないので、取引条件をどうするか…という悩みと、また倒産しないだろうか…という若干の不安を抱えながらお付き合いすることになります。

<③の場合>
事後対応は③が一番厄介です。
日本では、借家人は法律で保護されており、例え連絡が取れなくなったとしても勝手に追い出すことはできません。これは住居の賃貸借だけでなく、ショッピングモールのテナントでも同じです。
ですので、まずはなんとかして会社側の人と連絡できないか各方面に問い合わせます。ただ、夜逃げするような会社なので、当然連絡はつかないわけです。どこまで尽くしても誰も見つからないということもあります。

そうなってしまうと、テナントの区画を開けるためにできることは裁判しかありません。資料を集めて立ち退きを求める裁判を行います。
この裁判も相手方(テナント)は出てきません。出てきたらいろいろな人に居場所がバレてしまいますからね。
なので欠席裁判で勝訴するのですが、勝訴したらすなわち立ち退きができるわけではありません。裁判所の執行官という人がやってきて、店舗区画に残っている動産をどうするか決め、最終的に片付け方が決まって初めて区画がデベロッパーの手に戻ってきます。

夜逃げしてしまったテナントからは当然何らの違約金もとれず(敷金は返さずに済むぐらいです)、区画の解体費用はデベロッパーで負担しなければいけないです。裁判も弁護士費用がかかりますし、お金は出ていくばかりで更に時間もかかります。これは本当にしんどいです。

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