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Facebook VR10年史 〜Oculus買収からメタバース企業への挑戦〜①

こんにちは。VRの可能性に惹かれて総合商社からVRスタートアップに転職した及川(@nyannkich)です。

昨今、『メタバース』がバズワード化しており、世間のメタバースへの関心は急激に高くなっています。
その状況の一端を担っているのは間違いなく、Facebook CEOマーク・ザッカーバーグが2021年2Qの決算発表で述べた一言であったでしょう。

『Facebookは今後数年でソーシャルメディア企業からメタバース企業として人々から認識されるようになるだろう』


メタバースとは何のことでしょうか。
マーク・ザッカーバーグは下記の通り表現しています。

「メタバースは次世代のインターネットだと考えている」

「スマートフォンやパソコン画面で見るインターネットではなく、自分がその一部になる、あるいは自分がその中に入ることができるインターネットだと考えてほしい」

メタバースの詳細は多くの記事で説明されているのでここでは詳細割愛しますが、詳しく知りたい方は下記記事を読んでみて下さい。

この発言の後、多くの企業がメタバース構築へ名乗りを上げたように、VRやメタバースを語る上で、絶対に外せない企業の筆頭といえば、Facebookです。
同社は2014年に、創業してわずか一年半のVRハードウェアメーカーOculusを20億ドルで買収してからというものの莫大な投資をVR業界に行ってきています。
また今後もその動きを弱める様子はなく、2021年1Qの決算発表では研究開発費の殆どをVR・ARに費やしていると発言しています。

ちなみにFacebookの研究開発費は以下の通り。上がり方がエグいですね。

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(ちなみに日本企業トップはぶっちぎりでトヨタ。2020年は過去最高を更新し1.16兆円)

間違いなくFacebookはVR時代の到来・VRデバイスの普及、更にはその先のメタバース構築を大幅に早めているでしょう。

Facebookは基本的にR&Dの状況や、経営陣の考えをオープンにしているので、情報はネットを探せば見つけることが出来ます。
ただあまりに情報が多すぎるので、Facebookが、マーク・ザッカーバーグが何をしようとしているのかVR黎明期の2014年から現在までの挑戦の歴史・そして今後の課題について纏めたいと思います。
様々なFacebookの動きを纏めた結果、2万字いう膨大な文字量になったので、1記事で纏めていましたが複数に分けて公開したいと思います。

全体では、

①なぜVR・メタバースに賭けているのか
②Oculus買収によるVRブームの再燃
③VRハードウェア(=VRヘッドセット)
④コンテンツ(=ソーシャルプラットフォームとしてのVR)
⑤ARハードウェア
⑥UI/UX(=次のコンピュータインターフェース)
⑦今後の展望・課題

というテーマでFacebookのVR10年史を書いています。

最初の記事では①、②を見ていきましょう。

なぜVR・メタバースに賭けているのか

まずはなぜFacebookが VR・メタバースに注力しているか紐解いていきます。
FacebookはGAFAMの一角とはいえ、Facebook・Instagram・Whatsupなどを運営する企業で、収益の97%は広告から来ており、VRデバイスやメタバースとは関係性が薄いように感じます。なぜVRやメタバースに注力するのでしょうか。二つの観点から見ていきます。

①次の世代のプラットフォームを求めて
CEOのマーク・ザッカーバーグは複数のインタビューで最も後悔していることの1つとして『これまでモバイルプラットフォームの構築に関わってこなかったこと』を挙げています。(もっともiOSやAndroidが出たのは2007年頃。当時Facebookは非常に小さな会社でプラットフォーム作りに関わることは非常に難しかったのですが)

Facebookはアプリ・サービスレイヤーでは大成功を収めており、約30億人の月間アクティブユーザー(MAU)を抱えている状況ですが、GAFAMと言われる企業の中で唯一アプリ・サービスレイヤーに留まってしまっています。同社の収益はOSレイヤーの企業の意向を大きく受けてしまう可能性があり、その懸念が現実となったのが、2021年4月のAppleによるiOSのプライバシー規定の改定でした。

iOS14.5のアップデート以降、アプリ開発者はAppleのApp Storeやインターネット上でユーザーの行動をトラッキングするにあたり、ユーザーの許可を得なければならなくなったのです。

(下記のような表示をここ最近見ることが増えたと思います)

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ご存知の通り、FacebookはSNSを通じて集めた個人データを分析し、利用者の関心に沿った広告を表示するターゲティング広告で巨額の収益を上げてきてました。

当然、ユーザーがトラッキングを拒否すれば、最適化された広告が表示される可能性は低くなるので、今までのようにユーザーが広告に興味を持つ機会は減ることでしょう。

米Verizon傘下のFlurry Analyticsによる、世界の約530万台のモバイル端末を対象にした調査によれば、約88%のユーザーがトラッキングしないように要求したそうです。米国内に限っては96%にのぼるとのこと。

Facebookは一般的にターゲティング機能が失われた場合、アプリ業者の広告収入は5割以上減少し事業を継続することができないとしてAppleを猛烈に批判したものの、OSレイヤーを握るAppleには有効な対抗策もなく、事前の発表通りiOS14.5のアップデート内容に反映されることとなりました。

Facebookは2021年2Q決算発表では過去最高益を更新しましたが、3QにはAppleのプライバシー強化施策が大きく収益に影響を与えるとのコメントを発表しています。

上記事例の通り、OSレイヤー企業は実質、アプリ・サービスレイヤー企業の生殺与奪権を握っているようなもので、Facebookとしては何としてもOSレイヤーの座へと上がりたいのです。

また当然、競争はOSレイヤーだけではありません。台頭するソーシャルメディア企業との競争も苛烈になっています。

Facebookの2021年2QにはFacebookのMAUは前年比7%増の28億9500万人で2位以下に大差をつけているので一見安泰のようにも見えます。

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出典:Facebook

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出典:Statista

一方でアメリカの10代だけ見てみるとMAUは28%とがくっと落ちてしまいます。

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出典:Statista

またハーバード大学内新聞によれば、ハーバード大学の新1年生のうち、8割以上は毎日TikTokを15分以上使っているのに対し、24.6%はそもそもFacebookのアカウントを保有していないようです。
Facebookがハーバード大学の学生コミュニティから始まったことを考えるとかなり衝撃的な数字ではないでしょうか。

この現象について米VC CanaanパートナーLaura Chauは、Facebookを含む多くのソーシャルメディア企業は"ソーシャル"メディアから"ステータス"メディアに変わってしまったとして説明をしています。

ほとんどのソーシャルメディアは、当初、小規模で限られたコミュニティの中で利用されます。Facebookはハーバード大学の学生たち、WhatsAppはプライベートなグループメッセージ、Snapchatは友人との1対1のフォトメッセージとして人気を博しました。

しかし、これらのプラットフォームが成熟期を迎えた今、ほぼすべてのプラットフォームが、親密なソーシャルネットワークから、ニュース放映や広告掲載を中核をする内容に変わってしまっています。

元々、Facebookで学生同士、親密なコミュニケーションを楽しんでいたとしても、プラットフォームが大きくなるにつれて親や企業など親密なコミュニケーションを阻害する人たちが多数入ってくることになります。
もはや学生からするとFacebookは安心してコミュニケーションできる場所ではなくなってしまうのです。
そして親密なコミュニケーションが取れる新たなソーシャルメディアへと移行するのです。

Facebook離れが加速しているのはFacebookが一番わかっていることで、今まだ収益力があるうちに、次の収益のタネを見つけようとしているのです。

マーク・ザッカーバーグは「10年〜15年の大きな流れで、新しいコンピューターのパラダイムシフトが起こる」と言っていますが、
その次に来るものこそ、VRであり、メタバースであると踏んで、社運を賭けた投資を行っているのです。

今更、スマホOSのレイヤーに食い込もうと思ってもこの成熟市場では現実的ではないですが、
パラダイムシフトが起きれば、スマホOSを握っていることの優位性は殆どなくなります。まさに今こそFacebookにとって逆転の大チャンスなのです。

②Facebookのミッションとのマッチ
Facebookのミッションは『世界中の人々を繋ぐ』です。
ハーバード大学内の学生を繋いたサービスだった創業初期から、今では世界中の人をソーシャルメディアを通じて繋いでいます。

Facebook・Instagramなどで友人の投稿を見ることで会っていなくとも何となく繋がっている感覚というのは誰しもが経験済だと思います。
私自身、海外一人旅で偶然出会った人と仲良くなるとFacebookのアカウントを交換することが多いですが、いまだにちょくちょく連絡を取る人が何人かいます。
Facebookがない時代であれば一生関わる手段がなかったと考えると、Facebookの人を繋げる価値は非常に高いと思います。

しかし片手サイズに収まる画面でのコミュニケーションが本当の意味で人々を繋ぐと言えるのでしょうか?

マーク・ザッカーバーグはスマホでのコミュニケーションについて下記のように言っています。

私たちは基本的にこの小さな光り輝く四角形(=スマホ)を見ることに多くの時間を費やし、人とコミュニケーションをとっています。
これは人がコミュニケーションを取る良い手段だとは思えません。

今日、私たちが行っている会議の多くでは、スクリーンを通して人の顔を見ています。これは人間が物事を処理する良い手段だとは思えません。

私たちは部屋の中で人と一緒にいることに慣れていて、『あなたが隣にいる』という空間感覚を持っています。
スマホは人の自然な行動とフィットしません。アプリとではなく、人は人とコミュニケーションを取りたいのです

確かにひとたび電車に乗ると、9割の人がスマホを食い入るように見る光景は異様です。

マーク・ザッカーバーグはVRを通じて自然にコミュニケーションを取り、本当の意味で繋がれる世界が来ると確信しています。
2020年年始には自身のFacebook投稿で、今後10年のVRへの期待を下記の通り述べています。

VR・ARは、自分が別の人や別の場所にいるかのような臨場感をもたらすものです。次のプラットフォームは、私たちが周りの人々から離れてしまうようなデバイスではなく、私たちがお互いにもっと一緒にいられるようにし、テクノロジーが邪魔にならないようにしてくれます。
初期のデバイスの中には不便なものもありますが、これらはこれまで誰も作ったことのない、最も人間的で社会的なテクノロジープラットフォームになると思います。
どこへでも 存在 できるということは、膨れ上がる住居費や地域による機会の不平等など、現代の最大の社会問題に対処するのにも役立つでしょう。
現在、多くの人が「仕事があるから都市部に行かなければならない」と感じています。
しかし、多くの都市では住宅が不足しているため、住宅費は高騰し、生活の質は低下しています。
好きな場所に住み、好きな場所で好きな仕事に就くことができたら、と想像してみてください。
私たちが構想しているものが実現すれば、2030年にはこの想像が現実に近いものになるはずです。
https://m.facebook.com/zuck/posts/10111311886191191

20世紀は『人の移動』が大幅に拡大した世紀でした。
1903年にはライト兄弟が世界で初めて有人飛行を成功させ、1908年にはT型フォードが販売されました。
これによって、より遠くに、より気軽に移動できるようになり、本来は出逢うことのなかった人々を繋げてきました。

一方で、21世紀は『人の移動』が大幅に減少する世紀になるでしょう。
2020年のコロナパンデミックにより移動が大幅に制限される中、バーチャルで会うことの心理的ハードルは下がっています。

人の目的は、"移動"ではなく"人に会う"ということです。
VRデバイスが向上すると、VR上での会話体験は対面での会話体験に限りなく近くなります。

そして人の移動は大幅に減り、本来の目的である人に会うことに、より時間を使えるようになる未来がやってきます。
(勿論、人に直接会う・移動するという価値はなくなるのではなく、むしろ希少になることでより価値を増すものだと考えています。今もZoomで会うや直接会うを使い分けているように、そこにVRで会うという選択肢が新たに増えるのです)

ここからはFacebookのOculus買収からの軌跡を振り返っていきたいと思います。

Oculusが生んだVRブームの再燃

VRが初めて世間から注目を受けたのは1990年代のことでした。当時家庭用ゲーム機が普及してゲームが注目されてたことや映画でCG技術が取り入られ始めたこともあり、世界の様々な企業がこぞってVRデバイスの開発を進めました。日本でもSEGA・任天堂・SonyなどがVRデバイスを作っています。
下記は任天堂の『バーチャルボーイ』です。任天堂がVRデバイスを作っていたなんて驚きですよね。



しかしVR映像は暗闇の中にハコが浮いているようなもので体験価値は低く、すぐにVR酔いを起こしてしまうもので、ブームはすぐに下火になってしまいます。

その後も研究機関・軍事機関等では開発・研究が進められていましたがデバイスは巨大で、しかも数百万円もするようなものだったので世の中に普及する兆しはありませんでした。

しかし2012年、状況が一変しました。
VRハードウェアメーカーOculusが開発したOculus Rift DK1(開発者キット)が3日で100万ドルを集めて大きな話題を呼んだのです。(最終的には250万ドル程集めました)
しかも販売価格は約300ドルと開発者が簡単に手を出せる価格で、2013年で6万台を量産するまでに至りました。

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出典:Kickstarter

なぜ数百万円するVRヘッドセットがたった3万円という安価な価格で販売できたのでしょうか。主に二つの理由がありました。

一つ目は、スマホが2000年代後半から2010年代前半で大量生産されたことにより、ディスプレイが非常に安価で手に入るようになったためです。VRヘッドセットのディスプレイにもスマホと同じサイズのディスプレイを活用することで、コストを下げることが出来ました。

二つ目は、発想の転換によってもたらされたものでした。当時のVRヘッドセットは視野角が非常に狭く広くするためには機材も必然的に大きくなっていきました。そこでOculus創業者パルマー・ラッキーは湾曲した魚眼ディスプレイを利用することで飛躍的に視野角を広げました。
そのまま映すと当然映像は歪むのですが、ディスプレイの歪みを逆算して映像自体にも歪みを入れて投影することで、自然に見える素晴らしいアイデアを採用したのでした。技術的に難しいものではなかったためその後、様々な企業が同じ仕組みを採用することになります。

そして次の開発者キットOculus Rift DK2の発表を行った後、2014年3月、創業してわずか一年半のOculusが20億ドルでFacebookに買収されました。
これによって20年の時を経て再び世界中でVRが注目されるようになりました。

当時、この投資はOculusを知らない人達を非常に驚かせましたが、Oculusは界隈では既に有名でした。
上述したDK1の件もそうですが、伝説的なプログラマーと名高いジョン・カーマックがジョインしていたこと、またAndreessen Horowitzが既に投資をおこなっていたこと等、有名にさせる要素は多分にありました。

またOculus創業者パルマー・ラッキーの類稀なる天才性も注目されたのだと思います。彼は学生の頃よりPCを独自に組み立てたり、iPhoneの修理を引き受けお金を稼いでは新しいハードを買い集める謂わゆるギークでした。
買収当時は21歳でしたが、17歳ごろからVRに興味を持つようになり、独自に当時手に入れられるだけのVRヘッドセットを買い集めて、改良を重ねていきました。PCのギークコミュニティでフィードバックを貰いながら開発を重ねている中で、ジョン・カーマックの目にとまり、Oculusにジョイン。その後、Oculus  Rift DK1は生まれることとなります。

Oculus  Rift DK1は20年間ものVR冬の時代を大きく変えたものであり、今はOculus Quest 2と名前を変え、VR業界を牽引していく存在となっています。
いかに このデバイスが革新的だったかを示す、Andreessen Horowitzのクリス・ディクソンの発言を引用してこの記事を締めくくりたいと思います。

新技術のデモを見て、今まさに未来を垣間見ているのだと興奮したことは人生で数えるほどしかない。アップルII・ネットスケープ・グーグル・iPhone・そして最後にOculus Riftだ


次回のnoteではFacebook VR10年史 〜Oculus買収からメタバース企業への挑戦〜②として、VRハードウェアの進化・ソーシャルプラットフォームとしてのVRについて紹介したいと思います。

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