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牧野洋『官報複合体』を読む(SAKISIRU関連)


本書を知った経緯は小西騒動

2023年3月は小西文書騒動が盛り上がりました。小西の「亡命騒ぎ」や「クイズごっこ」でおなじみのお馬鹿キャラもあってネットでは大騒ぎです。

文書の扱いについては、アゴラの池田信夫氏の指摘が参考になりました。

また、ニュースサイト「SAKISIRU」で新田哲史編集長も、この電波行政とメディアの構造に切り込んでいて、「マスコミとネットで話が180度違う」も納得しました。

本来であれば、永田町や霞が関に起こりうる陰謀の構造にまで目を向け、党派性を抜きに事実を踏まえ、法的・制度的に本質を見極めるのがメディアの役割だが、事が自分たちのビジネスモデルに関わっていることとあって、空気や流れで不当に論評する危険性が強まっている

選挙の洗礼を受けていない官僚が、国会議員を「罠」に陥れて政治生命を断とうとする陰謀は民主主義を脅かすものだと考えている

SAKISIRU新田編集長の指摘抜粋

今回の騒動の「内容としての本質」は、やはりマスコミと電波行政の腐敗した関係にあり、重大な問題だと思います。そこで新田氏は、【本記事の関連でご興味がある方は下記書籍をご覧ください】として牧野洋『官報複合体』を紹介しています。

これが本書を読んだきっかけです。言い換えると小西が本書に出会った「恩人」と言うところになり、面白くありませんが。

さて、読んでみて、実に良書で推薦と思い、つらつらと書いてみました。

牧野洋『官報複合体』新版2021年/旧版2012年

『官報複合体』はこちらです。2021年に出されています。

なお、2012年に出された旧版もあるようですが、内容を大幅加筆されているようです。

著者のサイトでも紹介されています。

望月衣塑子の帯の推薦はいらない

まず、出版社に疑問を感じるのは内容ではなく望月衣塑子の推薦の帯

望月衣塑子の「帯」はいらない。

これ不要です。これあったら私も書店で絶対手に取らなかったと思います。この本の提起する構造的な問題を望月衣塑子は理解していると思えません。揚げ足取りと週刊誌パクリ質問と反権力ゴッコには辟易とします。

しかし、本書は望月衣塑子を蛇蝎のごとく嫌う人にこそ読んで欲しい、読むべき内容です。この帯があることで「どうせ、またマスコミのチンケな反権力ゴッコ本かよ」感。保守系の読書層をこの帯が遠ざけています。

印象的なのはコロンビア大学ジャーナリズムスクールでダメ出し

さて、本書の内容。特に印象的なのがコロンビア大学で学んだ内容です。同大学ジャーナリズムスクールで課題として牧野氏が日本人向け補習校について書いた原稿を教官に提出しバサバサ斬られます。「この記事では合格点はあげられないですね。」そして強烈な言葉が飛び出ます。

「記事の主人公は誰?」

牧野氏の初稿は、校長・先生・保護者・教育専門家に取材した内容だったそうですが、当事者である「子供」に一切聞いてないとしてダメ出し。子供に聞いて書いてようやくOK出たとのこと。

牧野氏は「目から鱗」としていますが、読者である私も同じくで、WSJやNYTを読む際に感じる「表現し難い違和感」があり、日本のメディアに、自分自身も毒されていたと気づかされました。

米国でのメディアの「ありかた」の具体的情報は貴重

これに関連して米国メディアでの「書き方」について、本書でも紹介されていて興味深いところです。読者からすると英字報道の記述構成が解説されているので英字ニュースの読解の補助にもなります。

本書の強みは日本の現状を反省し「叱る」類書と違い、米国での運用を具体的に記述し解説しているところです。

政治報道の問題点に共感

記者クラブ批判などは従来から多く言われていています。内容として特に政治部記者クラブの問題は他書でも批判も多く、この点の概要には新鮮さはありませんが、全く同感です。この点は牧野氏が寄稿しています。

また、私も先日の毎日オフレコ破り騒動について感じたことを書きましたが、本書がちょうど同じような指摘をしていて、「答え合わせ」になったところです。

オフレコに関しては、本書ではAP通信の記者行動ガイドラインが紹介されていて、私も初めて知り、驚きました。当然ながらこの点日本のメディアは報道しない自由を発揮しています。日米の余りの落差に唖然としました。

取材対象者が大勢の記者を集めてバックグランドブリーフィングを行おうとしたらどう対応したらいいのか。APの記者は強く反対し、オンレコへ切り替えるよう主張すべきである。バックグランドブリーフィングは様々なルートで日常的に行われている。特に注意しなければならないのは取材対象者が政府高官である場合だ。

牧野洋『官報複合体』河出文庫212PでのAP通信のガイドライン

日経と企業の癒着を具体的に指摘

一方で、経済に関連し、日経の記者と企業の癒着については政治部の記者クラブ問題とは異なり、必読の内容です。この実態をかなり深く書いています。たいていの日経OBも情報源としての関係と「仁義」から余り書かないと思いますが、日経がいかに企業のヨイショだけを書いているか構造と実態が改めてよくわかります。役所と企業の「ポジショントーク集」で相場を見ると危険だと思い知らされました。

関連して、牧野氏は米国で「消費者の守護神」の異名を持ち、WSJの看板コラムニストのウォルト・モスバーグの紹介が強烈です。ここは強く印象に残ります。

彼が「企業から距離を置く」ための14項目には敬服します。しかし、逆に言えば、日本の広報担当者はこれと反対のことをやらないと出世できないということです。そして日経の記者がこうした倫理文書を鼻でせせら笑っているのが目に浮かびます。日経の商品記事はこの反対で書かれているという前提が読者に必須です。

①金銭や贈答品を取材先やPR会社から受け取らない
②取材先やPR会社から講演料は受け取らない
③相手持ちの招待出張や格安商品は受け付けない
④取材先に助言しないし、どんな形の諮問委員会にも入らない
⑤時に取材先からTシャツを貰うが着ると妻に嫌がられる
⑥取材対象企業の株式もハイテク株ファンドも保有しない
⑦自分の年金運用先にもハイテク株ファンドも含めない
⑧評価用に支給された新製品は必ずメーカー―に返却する
⑨廉価なマウスやソフトは返却せずに捨てるか寄付する
⑩発売前にメーカーから製品説明を受けても批評を書くとは限らない
⑪製品説明を受けても好意的な批評を書くとは限らない
⑫批評のために使用した新製品を気に入ったら通常価格で自腹で買う
⑬批評を書くに際して自社の広告担当者と接触しない
⑭たとえ講演料なしでも取材先の依頼で講演しない

「ニーマン」については竹中平蔵氏も言及している

米国のジャーナリズムについてニーマン財団の話は、実は私としては初耳ではなく、竹中平蔵氏のチャンネルで初めて知りました。

当時の大蔵省はコロンビア大学のニーマンフェローと接触したがってて竹中さんに接触させたと話しています。このこと自体が大問題だと思いますが、先方に一蹴されたことを竹中氏は話していて必見です。

メディア論をメディア関係者だけが論じる段階は過ぎた

コロンビア大学でジャーナリズムを学んでいるもう一人有名なのがビデオニュースの神保哲生氏です。問題意識として共感です。

My News Japanの渡邉正裕 氏も同様に日経OBです。書評で「破壊には実践あるのみ」と力強いメッセージで、同感です。これらから強く感じるのは、メディアの問題は、メディア関係者だけの課題でのフェーズは過ぎ、読者側の問題であることです。

防衛増税について感じた疑問も「答え合わせ」

特に、最近にあったマスコミ騒動で深刻だと思うのが、防衛増税に関連した動きです。強く疑問に思った点を拙稿にまとめたところ、本書を読んで「答え合わせ」であるかのようにピッタリ来たところです。

特に、新聞やテレビのビジネスモデルの崩壊の局面でもあります。そのなかで読者は報道をどう読むのか、再考せざるを得ない状況に直面させられるだけに、本書を強く推薦したいと思います。


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