えりアルフィヤさん応援「感想戦」#3「ウイグル・中央アジア」の読書
えりアルフィヤさんが4月に補欠選挙で当選されました。その応援とアンチのネガティブキャンペーンで感じたことの続きです。
ネガティブキャンペーンの中で特徴的であったのが「ウイグル問題」に関連して理解した上でのアンチは少なく、「えりアルフィヤ=中国・中共の手先」論で埋め尽くされた点です。
初めは「中国との関係が悪くなる」「日本がウイグル問題に関与するリスク」的な反応を想定していましたが、まるで逆の罵倒が来たことには、正直言って驚きました。彼女の当選を契機に、日本の「ウイグル問題」への関心が高まることを中国共産党が少なくとも「歓迎」ではないことは確かでしょう。
ただ、ウイグルに関して日本で報道があったとは言っても、政治的な問題からも、遠慮がちになって手薄だったことを示してるようにも感じました。
今回のえりさんの当選で、ウイグルや中央アジアに関して改めて読書してみました。このうち、3つの点を強く感じました。
(1)日本人が苦手の「言語」「民族」「宗教」の問題が3つとも根底にある
言語・民族については拙稿でも少し触れました。改めてこの問題が日本人にとって縁遠いものだと実感しました。
これにイスラームも当然絡んでいます。言語・民族・宗教は日本が悩まなくてすんだ幸運な環境にあったからこそ、安直なアンチの罵声があるのではないかと感じました。
これに限らず、高校の教科書などで言語・民族・宗教の側面を遠慮がちに記述した(としか思えない)ために、かえって分かりにくくさせてないか、と感じます。また現代に続く問題意識での歴史叙述の場合は政治的に慎重な表現をせざるを得ないこともあります。この地域の歴史の理解が難易度高い理由の一つと思います。
また、『信長と天皇』等の著作で知られる日本中世史の今谷明先生がウイグル近代史について書かれています。20年以上前の著作ですが、「火薬庫」が現実化しているという意味で、日本中世史での凄惨な権力闘争を見続けてきた著者からの鋭い洞察と言えます。地域の専門家も現地取材や書きにくい(だろう)ことも書かれ、貴重と思います。
入門としては中央大の梅村坦先生のブックレットが簡潔にまとめられており、いいかもしれません。
(2)「ウイグル=反中共シンボル」の単純図式だけでは理解できない
以前より感じていたのが、ウイグル問題を「反中国のネタ」のように使う言説が見られたことです。その延長として「えりアルフィヤがウイグル問題を軽視している」との趣旨の反応が見られました。大変残念に思いました。
彼女自身のウイグル問題に関して一見すると他人事感や慎重な言い回しをしていますが、ウイグル問題を軽視してるとはとても言えません。むしろ全く逆です。産経新聞でのインタビューでもそうしたスタンスが読み取れます。
私なりの言い方ですと「反中共を言うことを自己目的にしたウイグル問題ではなく、国際的関心事としての人権外交での関与でないと問題の解決にプラスにならない」と言うところです。
【追記2023年8月23日】産経新聞のインタビューも参考になります。
問題の難しさを高口康太氏も指摘しています。
確かに、ウイグルで行われている人権侵害は深刻で問題です。福島香織氏の著作でも相当酷い現実を知らされました。
一方で、中国共産党としては当然ですがテロを黙認できるわけありません。少し間ですがテロが頻発したことは日本でどれだけ知られているでしょう。主な事件でこれだけです。
ちょうど、対比として安倍総理暗殺事件や岸田総理暗殺未遂事件が起きました。「テロリスト」の主張に一切耳を傾ける必要無いと思います。
しかし、中国でのウイグル問題のテロでは背景を完全無視で良いとも言い切れません。ここが問題の難しさにあります。中国共産党の強硬な武断的統治にが「テロリスト」を作り上げてしまっている面が見逃せません。「人権侵害→反発でテロ→さらなる抑圧の人権侵害→テロで反撃」の悪循環をどうやめさせるか。
だからこそ国際的関心事として国連はじめ国際社会の関与の重要性があります。国際的関心事になぜ日本が口を出す必要があるのか。G7の一員として世界をリードする大国だからです。「日本が世界をリードする」えりアルフイヤさんの出番、と思います。
ウイグルの人権で中国政府に問題あるのは確かですが、中国への嫌悪感の発露や「反中共のシンボル」として使うのが適切なのかどうか。
日本国内でのウイグル問題の啓発に三浦小太郎氏はじめ保守系言論人が大きく貢献したのは確かで強く敬意を表する一方、リベラル系の知識人は中国の人権問題をどれだけ言ってきたでしょうか。口をつぐんできたのは確かです。「人権」が政治スタンスの道具の単語になって良いとは思いません。
なお、熊倉潤氏が昨年出された著作が特に共産党の70年に焦点を当てて書かれており、事情を丹念に追って読み解いています。政治的にもきわどい面がある中で、客観性を意識した相当な労作と思いました。熊倉氏は中国のウイグルへの「ジェノサイド」という西側の主張について疑問視しており、「民族抹殺」というより「民族改造」という解釈の指摘は理解できるところです。
(3)そもそも「中華民族主義」「トルキスタン民族主義(汎トルコ主義」「ロシア覇権主義」で三つ巴の構図
中央アジアが民族の興亡の舞台であり、宗教も絡んでいます。「中華民族主義」「トルキスタン民族主義」「ロシア覇権主義(ソ連共産主義)」での三者三様の思惑で、三すくみの面もあります。
当然、この3つの観点があるので歴史叙述なども複雑です。読んでみましたが、非常に難しいと感じました。地域名称一つとっても「立場」が反映されてしまいます。「東トルキスタン」「新疆自治区」「中央ユーラシア」。
特に中国から見れば、歴史的にも「西」や異民族の反乱で歴代王朝が何度も危機に陥り、滅んでいます。これを考慮すると現在のウイグル問題に中国共産党が過剰なまでに神経質になり、弾圧的な対応をするのも、全く同意できませんが歴史的な背景とすると理解はできます。
こうした点は「歴史上の話ではなく、現代の話」であることが、歴史的にも言語・宗教・民族の興亡の経験のない日本では肌感覚で理解が難しいところです。
また、トルコのウイグルへの関心はあっても、中国では相当なタブーです。中国は「東トルキスタン」分離独立には徹底して強硬な態度です。2019年2月にトルコ外務省は声明で「イスラム教徒でチュルク語(Turkic)系の言葉を話すウイグル人に対する中国政府の措置は人類にとって大きな恥だ」と非難していました。その後エルドアン大統領が一転し撤回しましたが、この問題は非常に根深いものです。
今回、驚いたのがトルコ出身のエコノミストのエミン・ユルマズさんのコメントです。「新疆ではない。東トルキスタンです。」とハッキリ書いていて見てびっくりしました。
私も少しばかり中国をやりましたが、中国だと「東トルキスタン」の表現だけで、公安が即時飛んでくるレベルと思った方がいいです。日本では天安門や64が有名ですが、同程度以上であることはあまり知られていません。(その是非はここでは置きます。)
そういえば先日えりさんも、「トルキスタン」「ウイグル」についてツイートしています。
「西」はNATO・米国、「南」はインド、そして「東」は日本・米国が控えています。そういう難しい地域の専門家を衆議院議員として議席があることの価値は非常に大きいと感じています。
えりさん自身の見解も聞いてみたいところです。当事者である彼女自身も、ジョージタウン大学で中央アジアの研究をしており、河野太郎氏の「太郎とかたろう」で話しています。えりさん自身も米国大学で専門家としてやってきただけに、自身から見た、この地域の歴史についての本も出して欲しいところです。
というわけで、彼女の当選をきっかけに、改めていろいろ読んでみましたが、関心が高まるのは良いことではあると思います。(中国共産党は気に入らないと思いますが。)
ウクライナ後のロシア弱体化を見据えた中国の中央アジアへの働きかけをどう見るか
中国側が中央アジア5か国と連携強化を図り、広島サミットの「裏番組」で中央アジア首脳会議も行われていました。
一方で日本も何もしていないはずもなく、6月に麻生副総裁が首脳会談をやるように総理に指示し、中央アジアとの連携強化を強く唱えています。
えりさん「出番」です!
とはいえ、次の選挙も間近?ということもあり、それどころではないのかもしれません。ともあれ、暑い中頑張って欲しいところです。
(えりアルフィアさん応援エッセイ)
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