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【脚本】あの日のぼくは ー交換日記ー


テーマは【嘘】
本当なら400字詰め10枚以内なんですが、現在16枚になってしまっていて…
これから詰めないといけない な、作品です



テーマ【嘘】

あの日のぼくは ―交換日記―(仮)

               たらお

【登場人物】
横山慶太(4)(30) 優しい
横山陽子(30) 慶太の母
横山哲太(30) 慶太の父 

横山典子(32)慶太の妻
横山太郎(4)慶太と典子の子


○街の風景(休日の朝)
   ビル街、交差点信号機の点滅、歩く人々、駅の改札から出てくる群衆、朝から夕方の土手の景色、住宅街などが映る。
慶太(30)のN「人はたまに嘘をつきます……ぼくは嘘つきが嫌いです……そんな事を言ってるけど、たった一度だけついた事がある。今日はその話をしようと思う……」

   ×  ×  ×

T   26年前…
○横山家・居間(夕方)
   午後5時、まだ明るさが残っている。
   積み木遊びをしている、慶太(4)
   部屋の隅に幼稚園バックがある。
夕食の支度をしている陽子(30)

○横山家・キッチン(同刻)
   重ねた皿がカチカチぶつかり合う。
   陽子、急いで味噌汁の鍋の火を止めると慶太の方を見る。
   変わらず積み木遊びをしている慶太。
   揺れは数秒で止まる。
   陽子ホッとして調理の続きを始める。

○横山家・居間(同刻)
   慶太、高く積み上げた積み木の一番上に三角の積み木をのせるが、手が滑り崩れていく積み木。
   同時に再度揺れがくる。揺れは治らず激しくなる。
   台所に居た陽子、急いで慶太を抱き上げ背中を優しくさすりながら揺らす。
陽子「大丈夫だからね」
   陽子財布の入った鞄を持つと、慶太に持たせ玄関へ急ぐ。

○横山家・玄関(同刻)
   揺れは継続している。
   陽子、慶太をおろすと、サンダルを履き慶太に靴を履かせ急いで外に出る。

○横山家・外観(同刻)
   電信柱は左右に揺れ、町民数人が外に出て辺りを見回している。
慶太「おかぁー」
   陽子の足にしがみつく慶太。
   陽子、しゃがむと慶太をギュッと抱きしめそのまま立ち上がる。
陽子「だいじょぶだからね」
慶太「うん」
   揺れがおさまると、皆一様に家に入っていく。
   陽子と慶太も家に入る。

○横山家・居間(同刻)
   陽子、テレビをつける。

○テレビ画面
   四葉区の映像。
   ビルの壁面に亀裂、道路には落下した看板、ガラス窓は破損、車は渋滞し、消防車、救急車、ヘリコプターの音が聞こえ大惨事になっている。
陽子、急いでスマホを探すと哲太(30)に電話をかける。
   コールするが出ない。
   メッセージを送るが既読にならない。
   横では慶太が積み木遊びをしている。

○横山家・リビング(夜)
   陽子と慶太、夕食を食べている。
   スプーンを逆手持ちする慶太、陽子が持ち直しする。
慶太「おとーは?」
陽子「まだ仕事だよ」
   スマホが鳴る。急いで席を立つ陽子。
陽子「もしもし……はい、わかりました……」
   陽子、慶太に背を向けると天井をジッと見つめる。肩で大きく深呼吸するとクルリ振り返り食卓につく。

○横山家・洗面台(同刻)
   歯ブラシが3本挿してある。
   慶太、椅子の上に立って哲太の歯ブラシをつかむ。
陽子「それ、おとーのでしょ?」
慶太「おとーのだよ」
陽子「慶太のはコッチでしょ?」
慶太「うん、こっちだよ」
   陽子、慶太の行動に戸惑いをみせる。
陽子「わかってるんなら、これ持ちなさい」
慶太「うん」
   慶太、素直に持ち替えると歯を磨き出す。
陽子「おとーの事好き?」
慶太「(大きくうなずく)うん」
陽子「そっかぁ」
   陽子、唇を噛み締め慶太の頭をポンとさわる。

○横山家・リビング(翌朝)
   陽子と慶太、朝食を食べている。
   スプーンを持つ慶太、少し戸惑いながら直された持ち方で食べている。
慶太「おとーは?」
陽子「おとーは遅くに帰ってきて、もう出かけたよ」
慶太「ふぅーん」
陽子「会えなくてさみしい?」
慶太「おとーに会いたい」
   陽子、少し考えると両手をパチンと合わせる。
陽子「あ!そうだ!おとーと交換日記しようか?」
慶太「(首を傾け)こうかんにっき?」
陽子「ノートにね、手紙を書くの。そうするとそれを、おとーが読んで返事書いてくれるの」
慶太「うん!やる!こうかんにっき!やりたい」
陽子「うん!やろう!そして慶太も、おとーみたいに頑張って幼稚園行くんだよ」
慶太「(大きく頷く)うん」
   慶太、満面の笑みを浮かべる。

○横山家・リビング(夜)
   夕食の片付けも終わりゆっくりと座っている、陽子と慶太。
   慶太の前に開かれたノート(ジャポニカ学習帳のマスのあるノート)
   陽子の前にはメモ用紙にした使い終わったカレンダーを裏返した紙。
陽子「慶太、おとーに何書く?とりあえず慶太が言う事を、おかあちゃんが書くから、写しなね」
慶太「うん、わかった」
   慶太、両腕を組んで天井を見る。
陽子「腕なんか組んで、一丁前になったわね。おとーみたいだわ」
   陽子の瞳が少し潤んでくる。それ以上にならないように視線を紙に向けペンを揺らす。
慶太「決めた!おとーしごとがんばってね。ぼくもようちえんがんばるよ」
   陽子、慶太の言葉を言いながらペン(なまえペン)を走らせる。
   慶太にわかりやすく、大きめの文字で書く。
陽子「おとー しごとがんばってね ぼくもようちえんがんばるよ でいいのかな?」
慶太「うん いいよ」
陽子「そしたら、これ見ながらノートに書くんよ。おかあちゃんは洗濯物畳んじゃうから」
   陽子、書いた紙を慶太に渡して奥へ行く。
慶太「うん」
慶太、紙を見ながらノートのマス目に文字を書いていく。

○横山家・リビング(深夜)
   陽子、慶太の書いた交換日記を見ている。

○横山家・居間(朝)
   パジャマ姿の慶太、襖を開けて出てくる。
陽子「おはよ!慶太」
慶太「おとーは?」
陽子「もう仕事行っちゃったよ。そうそう、ノートに返事書いてたから後で読みなね」
慶太「(満面の笑みを浮かべ)ほんと!」
   テーブルの上に置かれたノート。
   慶太、嬉しそうに開く。

   けいたへ
   おとーは、しごとがいそがしくて
   いっしょにあそべなくて
   ごめんな
   けいたは、ようちえんがんばっていくんだぞ

慶太「おとーがへんじかいてくれた!やったー!」
   大喜びする、慶太。

   ×  ×  ×

(回想はじめ)
○横山家・居間
   子供用の小さなテーブル。
   慶太、嬉しそうにノートに文字を書いている。
   鉛筆の端を口元に置いて悩んでる。
   消しゴムで勢いよく消し紙がくしゃくしゃになり、少しちぎれる。
   慶太の文字の隙間に、大人の書いた文字。
   何日分ものそんな慶太の姿が重ね合わさる。
   哲太と野球しているイメージが映る。
(回想おわり)

   ×  ×  ×

T   半年後
○横山家・玄関(朝)
   幼稚園カバンを肩に掛けた慶太、玄関に腰掛けている。
陽子の声「けいたー!いつもの靴は洗っちゃったから、棚の中に入ってるのを履いて行ってね」
慶太「はーい」
   靴棚を開ける。
   埃がついている哲太の革靴がある。
慶太「おとーのくつだ」
   慶太、革靴の先の方を人差し指でそうっとなぞると、ゆっくりそうっと閉める。

○横山家・台所(深夜)
   陽子、交換日記を開く。

   おとーへ
   おとーのくつ きたなかったよ
   ちゃんときれいにしないと
   だめだよ

   はっ!とする陽子、急いで玄関に行き靴棚を開ける。
   埃のついた哲太の革靴、つま先に慶太が引いた一本の真新しい線。
   陽子、目頭が熱くなり仕舞い込んでいた悲しみが一気に噴き出してくる。
   同時に自分の腕(長袖シャツ)に噛みつき嗚咽を殺す。

○横山家・寝室(同刻)
   慶太、片足を布団から出しバンザイの姿勢で寝ている。

○横山家・台所(朝)
   慶太、パジャマ姿でトイレから出てくる。
陽子「慶太」
慶太「(振り向き)んん?」
陽子「おとーが靴汚れてるの教えてくれてありがとうって」
慶太「うん」
陽子「それでね、慶太。おとーね。急に遠くで仕事しなくちゃいけなくなって……交換日記出来なくなってごめん。て言ってた」
慶太「うん、わかった」
   慶太、交換日記を手に持つと部屋へ入って行った。

○横山家・玄関(同刻)
   慶太、そうっと靴棚を開ける。
   哲太の革靴がなくなっている。
   靴のあった場所を軽くなで、またそうっと閉める。
慶太(30)の声「この日からぼくは……ぼくからは父の話をしないようにした……」

   ×  ×  ×

T    そして今…
○ビル街(休日の朝)
   交差点信号機の点滅、歩く人々、駅の改札から出てくる群衆、朝から夕方の土手の景色、住宅街などが映る。
   慶太、典子2人の間には太郎、歩道橋の端から街を見ている。
   3人の後ろ姿が映っている。
慶太のN「数年後、母から父が地震の時に職場で棚の下敷きになり、ずっと植物状態だった事を聞いた。聞いた日イコール父が亡くなった日……」

○公園(同刻)
   歩いている人、ベンチに座る人、写真を撮る人などイメージ映像。
   慶太と典子ベンチに座っている。
   砂場からこちらに向かって走ってくる慶太。
   慶太、しゃがみ太郎の靴の泥を払う。
慶太のN「埃に覆われた父の靴を見た時、あの日のぼくはもう父は居ないんだと確信した……それは…」
   慶太、太郎のズボンの腰の辺りを両手でキュッと持ち上げお尻をポンと叩く。
慶太のN「それは……交換日記の万年筆で書かれた返事の文字がたまに滲んでいた事があったから……」

(回想はじめ)
○横山家・リビング(深夜)
   陽子、慶太の書いた交換日記を見ている。
   交換日記のページ、万年筆で返事をゆっくり書く陽子の手。
   ペンが止まると、涙一粒文字の上に落ちる。
   滲む文字。
(回想おわり)

慶太のN「父が居ないのに、居るように嘘をつき続けていた母……ぼくはその嘘に気づいていないフリをした……」

○公園(同刻)
   慶太、太郎をギュッと抱きしめる。
太郎「何すんだよ、おとー!痛いよぉ」
   慶太の胸の中でもがく太郎。
慶太「たまには、いいだろ。男同士さ」
太郎「いやだい!はなせよ!おとー」
慶太「しゃあないな」
   慶太、太郎から離れる。
   典子のスマホが鳴る。
典子「もしもし?あ、おかあさん?……あ、はい、今からそちらに向かいます」
慶太「飯できたから早く来いって?」
典子「それもあるけど、太郎に早く会いたいみたい」
慶太「そっか」
   慶太、太郎の背中をポンと叩く。
慶太「ばあちゃんとこ、行くか?」
太郎「(大きく頷く)うん」
   両手を伸ばす太郎、慶太抱き上げる。
慶太のN「この子がもし嘘をつくような事があったら、相手を悲しませない嘘をついて欲しい……ぼくに似てくれたらの話になるけどね」

   慶太と典子、並んで歩いている。
(終わり)


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