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にゃるらが読んで面白いと思ったマンガ15選 2023

↑去年の。

 本や音楽もどうぞ。

 2023年に新刊が発売しているという条件で、去年好きな漫画を15作品選んでいます。よろしくね♪
 ちなみに今年も『このマンガがすごい!』で5作品選んでいます。毎年選び続けて5年目。


・エイハブ

 凄まじい。猿渡先生本人が「最高傑作」と評する通り、この一冊に猿渡哲也作品の執念が詰まっている。
 原作は、世界十大小説とも呼ばれる『白鯨』。原作は歴史的な背景の説明が多く現代の感覚では読みづらさも伴っているのですが、猿渡先生の大胆な構成と読者の誰もが認める漫画界トップクラスの画力により、原作の迫力ある動きのあるシーン、そして猿渡先生がほぼすべての作品に込めている宗教観や男の生きざまが遺憾なく発揮されている。

 あらゆる場所で『タフ』を見かけるようになった昨今、まずは猿渡先生の名作短編たち……タフパラやロックアップなど(個人的にはGOKUSAIが好きですが人を選ぶか)の作品を今までお勧めしてきましたが、『エイハブ』は先生の集大成とも呼べる大傑作ですので、一冊なにか読み応えのある骨太な漫画を読みたい気分の際はぜひ。

・コーポ・ア・コーポ

 この記事でも紹介した、無頼派な小説家・西村賢太先生が推薦していたので興味を持った作品。端的に言って素晴らしかったです。去年、完結で映画にも鳴りました。あの破滅的な生涯を満喫した西村賢太が勧めているボロアパートモノの時点で期待大でしたが、みごとにハードルを越えました。

 ボロアパートに住んでいる住人たちは、みんな一癖も二癖もありつつ、非常に人間らしい。住民が自殺しても動揺せずに見慣れてしまうくらいに退廃的な生活を過ごしつつも、それでも憎みきれない、むしろその等身大な生き方にどんどん惹かれていってしまうのはさすがの漫画力。
 誰だって心に抱えた闇を持ちつつ、それでも付かず離れず生きていく。恋人を殴っては逮捕されたり、それすら小説にしてきた西村賢太先生が魅入られるのも頷ける。西村賢太作品を読むに、先生も狭いアパートでぎくしゃくとした同棲でジリジリと精神をすり減らしてきた。今作でも多種多様な複雑化した人間関係はあるものの、それでもギリギリの部分で優しさと暖かみがあったりなかったりする。『めぞん一刻』から若さを抜いたようなビターな読み応え。

・令和元年のえずくろしい

 こちらは、さきほど紹介した『コーポ・ア・コーポ』と近いシェアハウスモノであるものの、救いの無さというか、登場人物たちのドロドロとした人間臭さが比じゃない。
 僕自身、数年間シェアハウスに居たので非常にわかる。シェアハウスにしか住めない貧乏人たち・サブカル人間たちがそう簡単に理解し合うことはたいへん難しい。それでも僕らには若さがあったこと・住民に女性は極力避けることを徹底していたものの、本作では女性も住民として組み込まれているので、見ていて嬉しくない、羨ましさのかけらもないつらい恋愛模様もそっくりそのまま描かれています。
 いい意味で懐かしいサブカル。陰鬱だけで一冊できあがっており、不快さがアクセントで病みつきになってしまう感覚。令和の世界にも、きっとこのシェアハウスは姿を変えて各地に存在しているのでしょう。

・死亡遊戯で飯を食う。

 ライトノベルのコミカライズ作品。
 賞金アリのデスゲームに毎回参加して生き残り続ける主人公の物語で、顔のいい女たちが生死を賭けた愛憎入り交じる心理戦が堪能できる。人数の少ないまほいくみたいな読み味。といっても、まだ1巻なので今後どのようなデスゲームがあるのかまだ未知数ですが。

 ものすごく線が綺麗で、フリルの揺れる動きを追っているだけでも気持ちよくなれる。とにかく作画が良すぎるうえに、ここまでフリフリかつ血の気のある美少女たちの連続は、本作でしか摂れない要素なので、じっと次巻を待ち続けている。どのコマひとつ取っても、なんなら背景すらもまた繊細でとても素晴らしい。

・ゆうえんち

 バキの外伝であり、夢枕獏の外伝でもあるとも言える。まったく意識していませんでしたが、バキの外伝作品も全て読んできているな……。
 もう手放しで絶賛。素晴らしい。板垣先生・夢枕先生、両者のファンとしても大満足。強靭な肉体を誇る男たちの乙女心からくる詩的な表現が、「これこそ夢枕獏だ!」と、いちいち興奮させられる。
 僕は毒タイプのキャラクターが大好きなので、死刑囚の中でも柳龍光、さらにはマスター国松すら、こんなげに恐ろしき化け物として登場するのが嬉しい。

 イカれた老人の毒手を「異形の蓮華」と形容するセンス。
 素晴らしい。自分はいま新たなグラップラーたちの伝説を読んでいる。

・出会って4光年で合体

 去年、彗星のごとくDLsiteランキングに現れ、多くのえっちなオタクたちに衝撃を与えた一作。
 R18作品としてのエロも十分ながら、同人だからこその入魂具合、「4光年」につながる壮大なSFストーリーに、読者たちは度肝を抜かれてしまった。なにより見せ場のシーンでの画力がまた良い……。
 2.3度読み返しての勝手な解釈ですが、なんでもないキモオタと絶世の美少女が結ばれる展開を納得のいくシチュエーションがいくよう逆算に逆算を重ねた結果なのかなと想像しています。キモオタと美少女のカップルが成り立つ整合性を追求し、真摯に突き詰めていったのかなと……これは僕の考えでしかないものの、とにかく数年に一度あるかないかであろう作家性の爆発は是非目を通していただきたい。

・黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ

 藤田和日郎先生の中短編シリーズ。
 去年まで連載されていた『三日月よ、怪物と踊れ』はシリーズ最長6巻分。今までが1.2冊でまとめられていたので、長く黒博物館の世界に浸れて嬉しい。あまりに、イギリスの時代設定がしっかりしているので、ついに図録(設定資料集)まで登場。すごいことだ。

 今までもつねにゴシック・ホラーでしたが、今回はゴシックの原点により近いフランケンシュタインがテーマ。ゴシックと藤田和日郎の組み合わせの時点で何一つの文句もなく、少しでも惹かれたなら即手にとって問題ないでしょう。これからも、たまに中短編をお出ししてもらえると嬉しいですね。
 どのシリーズから読んでも問題ないので、もう10年以上前の作品となりましたが、まずは一冊完結のスプリガルドからが入りやすいでしょう。

・煩悩☆西遊記

 三蔵法師がえっちな仲間とともに天竺を目指す物語……と書くと、何作もありふれていそうで紹介が難しいのですが、本作の特徴は仏教における「煩悩」の扱いに対して非常に真摯な点でしょうか。
 僕が趣味で仏教関連の本を読んでいるにあたり、本作が性欲と煩悩、そして仏門として生きることの尊さを、ハーレム漫画の形ながらポップに描いているのはたいへんありがたかった。煩悩に関してお硬い言葉で説明を受けてもピンとこないからね。
 本作の三蔵法師は、とてもセクシーな仲間たちから積極的なアプローチを受け続ける。そのたび性欲に負けないよう必死に耐えていく姿に仏門の重さを感じさせる。ゆるいハーレムもののノリだからこそ、エロに負けない男気が光る。
 煩悩に負ける、仏門を諦めることで魅力的なヒロインと添い遂げることができる。が、仏教から離れ凡人と成り果てる三蔵に魅力はあるか、自身が仏の教えを全うしているから惚れているのではないかと説く姿は、なかなか並のハーレム漫画ではなかなか見れない問いかけです。

・SAN値直葬!闇バイト

 きららMAX連載の4コマ漫画。
 きらら作品でクトゥルフものなうえで、絵柄も独特。

 もし諸星大二郎がきららで連載していたら、こんなノリだったのではないだろうか。ゴシックなキャラクターデザインと尖ったギャグによって、きららの中でも異彩を放つ。
 わりとがっつりホラーやクトゥルフを行う回もあり、バックストーリーも骨太で、個人的には刺さりまくりで遠慮なくグロもあるのが新鮮。それゆえ、きらら読者からの人気がどれだけ得られていくかは見守っていきたいですが、本棚にそっと置いて、ちょっぴり怪奇な気持ちに浸り際に開くような漫画です。僕の中では、高橋葉介とか諸星大二郎の日常寄りホラー枠。つまり、かなり好き。

・陰キャギャルでもイキがりたい!

 顔が好き。さらに言うならインナーカラーが好き。漫画内でこんな繊細にインナーカラーの境界が描かれていることが珍しく、その丁寧なタッチに魅入る。さすがサブカルチャーを題材にした作品だけあって、ファッションの等身大ならしさは出色の出来。百合姫連載。
 女子高生たちが陰キャを自称しながら、いろんなサブカルチャーを体験したり語ったりしつつも、百合姫だけあったイチャつきを見せてくれる。10代の頃に鋭敏な感覚を持ったサブカル者の、恵まれているような逆に不幸でもあるような空気感が好き。互いに友達がいて良かったね……。こうして印象に残った漫画を並べてみると、僕はどうしようもなくモラトリアムが好きなようです。

・ヤニねこ

 この記事でも書きましたが、思い切った下品な世界観の「臭い」も素晴らしいのですが、それ以上に、貧乏アパートでごちゃごちゃと過ごすしょうもない日常のドタバタコメディが沁みる。

 みんな等しくバカで貧乏だからこその友情……大人になるにつれ失くしてしまっていくモラトリアムが描かれる。それ以上にあまりにヤンマガすぎるギャグが目立つけれども……。いい漫画です。2巻には僕も寄稿したりしていますよ。


・アンダーニンジャ

 同じくヤンマガつながりで『アンダーニンジャ』。
 連載時からのんびり読んでおり、去年はアニメも楽しませていただきましたが、本作特有の独特なテンポは唯一無二。なにか起きているような居ないような、異常なようなゆるいだけのような。そんな空気から時折発生する無情な殺人。現代にひっそりと馴染む忍者を描くにリアリティがすごい。実際に忍がまだ存在した場合、これくらい日常に馴染んでいるじゃないか、現代兵器と合流しているんじゃないかと妄想が広がる。
 アニメも、このゆるやかなテンポで未読の視聴者を翻弄していてよかったですね。癖になる漫画です。

・絶対BLになる世界 VS 絶対BLになりたくない男

 あまりBLには明るくないのですが、だからこそ「こういうあるあるが存在するんだろうな」と想像しながらクスッとしています。
 自称モブ顔の主人公は、自身がBL漫画の登場人物であることに気づき、できるかぎりボーイズなラブに発展しないよう、「BLあるある」なシチュエーションを回避し続けるというギャグ漫画。
 冷めた視点でBL世界の異常さを解説しつつ、それでも時折巻き込まれてしまったり、身内(弟)がすっかりBL世界の恋愛を堪能して染まっていく様子に辟易していく様子が面白い。何十年も培われてきたBL界のルールと重みが俯瞰できる点でも読み応えばつぐん。

・冥天レストラン

 2023年ベストキャラクターデザイン賞をあげたい。ホネホネなヒロインの魅力に骨抜き。
 あの世のレストランで働くこととなった主人公が、来店してくる成仏前のお客さんたちが無事に昇天できるようなメニューを提供していくキャラクターのケレン味が効いた人情モノ。名店と冥天が掛かっているのかな。
 かわいく、カッコよく、心温まる。雑誌連載だと一作はこういう箸休め的な漫画があってほしい、スッと沁みるタイプの漫画です。

・ニセモノの錬金術師

 『僕の妻は感情がない』の杉浦次郎先生が趣味で連載していた漫画に、新たな作画担当がついて一から連載された作品。
 いわゆる異世界モノではあるものの、元が商業でない作品であるだけに、展開や世界観、待ち受ける残酷さが既存の想像から逸脱していて手に汗握る。これが元から商業作品であった場合、確実に手加減されていたであろう設定や展開の原液を直接ぶつけられ、じんわりと進行していく取り返しのつかなそうな衝撃への下準備がどんどん積まれていく感覚にゾクゾクする。
 『僕の妻は感情がない』、アニメ化おめでとうございます。次は、ニセ錬もアニメでしょうか。



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