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解説・「やっちゃばカオス!」前編 カズオの運行日報 第17話

マンガ本編が前回の号外から3週間もかかってしまいました(汗)。
いつもは1〜2週間で仕上げてたんですけどね…。

言い訳…
・想定外の通院が決まったりしてバタバタしていた
・デバイスの調子が悪く電波環境も限界を感じたのでひかり工事や新しいiPadの注文をしたのだがキャリア側の事情でスムーズにいかなかった
・自宅の雨漏りや照明器具の故障でも対応に追われた
・梅の配達もあったんですが雨で収穫見送りの日があったりして予定混乱
・なにより作画じたいにめっちゃ時間かかった

まぁ言い訳はこれくらいにして、解説といきましょう…。

トラックドライバーの仕事は運ぶモノにより多岐に渡りますが、中でも市場の現場はちょっと独特です。

暗黙のルールがあるいっぽう、荷主や場内のルールが「コレ」と決まったモノがないのです。
そのうえその「暗黙のルール」みたいなのも、市場・仲買会社さんによっても違ったりします。
場慣れしてそれを読むまでがちょっと難しいかもしれないのですが、その独特の雰囲気に慣れると初見の場所でも怖くないし同じ市場に何度か行って顔を覚えてもらうコツもあって(中〜後編に描きますね)、そうなれば合っている人には一般より楽しく仕事できる可能性も高いです。

場慣れしないうちに仲買さんやほかのドライバーにガミガミ言われてイヤになっちゃう人も多いのですが向き不向きがあるのでしかたないですね。

しかし難しく考えることはなく、要するに「ルールが決まってないからこそ自主的な気遣いが求められる」というだけです。



一般の仕事との違い

荷下ろし場所、順番の管理がない

まず、一般(市場の仕事以外)の仕事と大きく違うのは…

「受付して電話等で呼ばれるまで待機、あるいは決められた列に並ぶなど荷主がルールを決めて管理している」「降ろす場所、つまり車を着ける場所が決まっている」
…のではないということです。

その代わり、納品はせり・小売店や八百屋さんへの出荷に間に合えば早いぶんにはよく、ジャストインタイムは求められません。
花(切り花、植木鉢などを扱う花卉市場)なんかはもっとユルいです。

いちおうどこの市場でも待機場所・降ろし場所らしきスペースはありますが、そこがいっぱいだったときにどうすればいいかも決まってなければ、待機場所のはずがそこで降ろしたり通路を塞いで降ろしはじめたりしてしまって、通るトラックに待ってもらったりと、ドライバーが自分で臨機応変に判断するのが日常的です。
ここで「どうしていいのかわからない」でつまずく人が多いですね。

カズオが作中で「こんな無法地帯みたいな…」と言ってますが(マンガ内の背景画像では雰囲気が伝わらずわかりにくいですね)、「どこで降ろす決まりなのか」「どこは停めちゃいけないのか」法則が読みづらいのです…。

第17話より。向かって右の建屋にホームがありますが、吹き出しを外しましたので左の待機通路で降ろしてる車と荷物の山が見えるかと。

しかも大きい市場だと仲買会社が何社も入っています。

本来駐車場、待機場所、通路だと思ってもそこでフォークリフト(以下リフトと略)持ってきて積み下ろししてる人もいてそれが普通なので、あとから来たら作業のジャマにならないような場所を探さないとなりません。
場所取りでパレットの山や鍵を抜いたリフト・ターレーを置いてある場合も…。

そこから積んでいく車優先で、作中のように荷受けさんが指示したのに「そこはダメ、どいて」と言われることもあります。


市場での荷下ろしの流れ

実際どう対応しているかというと、それも市場によりけりで作中のやり方とは違っていますが(作中でモデルにした市場のルールがむしろ特殊)、基本焦げ猫がやっている流れとしては、

とりあえず今荷下ろし作業中のほかの車のジャマにならない…つまりリフトが抜き差しできるくらいの間隔を空けて停められる場所に停める

そこでそのまま降ろせそうならば、「荷下ろし中だから横にピッタリ着けないでね」とあとからきた車にわかりやすいようまずウイング、アオリを空けておく

それから荷受けのデスクがある場所に行くか、デスクにいないことも多いので目当ての仲買会社の果物なら果物・野菜なら野菜の担当者をつかまえる

④モノ、産地、何パレットぶんあるかを言って荷物を置く場所の指示をもらう

リフトは仲買によりけりですがたいていは果物と野菜でテリトリー・担当者・リフトも違うのでそこだけ気をつけて。リフトは置き場に余ってれば勝手に使っていいところもあります。
ドライバーに使わせるリフトと荷受けが使うリフトを分けてる所もあるので、焦げ猫は一応「コレ使いますよ」と声をかけて使ってます。
マンガとは逆に、「今無いからいいよ」と、別の部署や自分が使うリフトを貸してくれる荷受けさんがいる場合もあったり、後編で描く予定ですがそういうのも「顔なじみ」になると…だったりします。

1台もリフトが無ければ、そこのリフトを使っているドライバーの様子をみる。荷台のモノが減ってるからもう終わりそうだなとか、パレットで持ってきてるから荷台がカラになってても差し替えの空パレ積む作業がまだあるなとか。終わりそうなら「次借してね」と言っておき、現場から目を離さず待つ。
もちろんバラマキ(件数持ち)の人もいて、荷台にまだ荷物があっても「あとは次の降ろし先、ここはもう終わり」ということもあるので焦げ猫はそういう人に聞いてみることもあります。
逆に自分が「あと何パレ?」「これ全部?」ってほかのドライバーさんに聞かれることももちろんあります。

コミュニケーションが苦にならない人はこういうこともすぐ慣れます

作中にもあるように、バラで降ろす場合はリフトで空パレを持ってきてリフトに挿したまま1個1個パレットに積み上げていくので、パレットに満載になるまで少し間があるな…というドライバーがいれば「すぐ戻すから一瞬貸して!」みたいな感じで交渉すれば今は「やだ」とか「ダメ」とかゴネるドライバーは減ってきています。
もちろん満載を降ろし始めてすぐで、荷台にパレットが入らない状態の場合はスルー。

そんな感じでリフトをキープできたら、指示された場所に荷物を並べる。作中のようにあらかじめパレットに組んである場合は、同じタイプの空パレを降ろした枚数回収する。自分がバラだったりそのあとなにか積む場合はもちろん回収なし。

…という感じです。

物量が増えてるシーズンだと、しばしば持ち帰る空パレがないこともあります…。


ガチにカオスな市場の場合

昔は築地、今も新宿の淀橋市場なんかがそうなんですが、荷物もトラックも通路にまでいっぱいでいきなり場内に突っ込んじゃうと身動きが取れなくなる現場もあります。かといって「入るな」とも言われないのが一般と違うところなのでまずその判断に迷いますよね。

初見でそういうところに行った場合、路駐して歩いて行き、広い場内で自分の荷物の担当さんを探すのに「青い鳥」状態になることもままあります…(ここじゃないからあっち行ってみな、が繰り返される・笑)。
担当さんさえ見つかれば、今は電話で呼んでくれたり通路を通過したいトラックを待たせてくれたり臨機応変に仕切ってくれる場合も多いです。


広い市場では目当ての仲買さんを探しにくい

一般でも、最近は何フロアもあってたくさんの企業に間貸ししてる物流倉庫が増えましたし、広い市場でも守衛さんにだいたいの場所を教えてもらうのも手ではあるんですが…。
が、市場は夜中に行くのでか、守衛さんがいなかったり守衛さんが把握してるとは限らないケースも多いです。

何度も伺うお得意さんが決まっていて、引き継ぎ等でだいたいの場所を教えてもらえるならいいですが、そうでない場合…巨大なフリマ会場で特定の店を探すような苦労はあります(汗)。

何社もの仲買さんが入っていて看板も目立たずどこからどこまでがどの会社なのか、焦げ猫はそこそこ市場の仕事やってますがいまだにお得意さん以外よく把握できていません(^^;)

たとえば横浜の「ホンジョ」と呼ばれている市場なんかは、入って右が金港さん、左が丸中さん…っていうだけなので簡単ですが、大田市場なんかは広い施設内に何社も入っています。

荷物の配置はあまり当てにせず、焦げ猫はリフトの会社名、走ってるならそのリフトが行く先を見てアタリをつけてます。

あと、同じ会社でも規模が大きすぎて品目ごとに担当者やスペースが細かく分けてあるところも多く、基本担当者でないと請けてもらえないばかりか担当外のことは場所すら把握してない…というケースもままあります。


今回の実話ベース部分とそうでない部分


1件目の市場


今回は背景に自分で配達のついでに撮ってきた写真をアニメ化フィルターでぼやかして使ってるシーンが多いですが、「1件目」はたぶん有名なので関係者じゃなくても建物の形でわかる人が多いと思います。

それどころか、そこでのくだりは焦げ猫が実際に遭遇したときのやり取り・ドライバーの風体とかほぼまんまなので、当事者が読んだら絶対バレる(笑)。

まぁでも数年前の話なので時効ですね。
もう批判はしないでおきます。
要は「降ろしにくるドライバーは知らないんだからお前(リフトマン)がちゃんと指示してくれよ」ってこの方は言いたかったんです。

第17話より。ちょっと怒鳴りすぎだったけどね


2件目の市場

「2件目」は建屋だけモデルにした市場がありますが、あんなやんちゃそうな子はその市場にはいません(笑)。

ただ、ナンバープレートのついた「せり帽」をかぶってちゃんと会社の作業着を着てる人ばかり市場で働いているかというとそうではありません。
比較的服装に鷹揚なところも多く、茶髪、私服、ピアスの若い子や遊び人風のロン毛のオッサンが普通に働いてるところも多いのはたしかです。
くるドライバーにも服装などの風体や車両の飾りにケチはつけないので、表現の自由を好む人にはもってこいでもあります(笑)。
(だから市場の人なのかドライバーなのかわかりにくい)

荷受けや仕分けの詰所が吹きっさらしの場所にデスク置いただけ…っていうところも多く、冬には大きなストーブが置かれ喫煙所も兼ねてて、みなさん決まった休憩時間というより手が空くと一服してるという感じだったりします。
降ろすのにヘルメットの着用や輪留めも求められないですし、一般に比べるとそれくらいユルいムードです。
それは出荷する選果場でも似たような感じです。

言葉は最近は丁寧な人が増えましたが、まだまだぶっきらぼうな人も多く、いちいち気にしてたら楽しく仕事ができません。

ちなみに2件目の市場でカズオに絡む若い子のモデルは、市場じゃない全然違う仕事の話で会った人なんです。
ヒップポップにどっぷりの人で、業務連絡的な会話が普通にあのノリ(身体を揺らし指でジェスチャーしながら韻を踏んでしゃべる)だった人がいておもしろかったので(爆)。

第17話より。ヒップポップが好きな人独特のフリのつもり。

カズオと市場の人たちのからみについてはフィクション多めですが、「要領をわかってない人は面と向かって文句を言われる」のは事実です。
焦げ猫なんか、初めて行った市場で「わかんねーヤツよこしやがって!!」って吐き捨てられましたよ。
その代わり、あとから「会社に出禁にしろとクレームが入った」というような遠回しなことはよほどでない限りないでしょう。


フォークリフトの乗り方について

時効だから言いますが、焦げ猫は若い頃、市場の仕事ではしばらく無免でフォークリフトに乗っていたことがあります。
乗らなきゃ仕事にならないし、配車がカツカツで講習に行かせてくれる会社がなかなか無かったので…。

ここだけの話、市場ではリフトに関しては結構無免のドライバー多いと思います(^^;)

「免許」という言い方を普通にしますが、実際は「講習修了証」を持っているかどうかです。

見よう見まねで慣れれば乗れてしまうし市場では自分でリフト運転が必須…の割には、一般の現場と違いいちいち修了証見せろと言わないので。

ただ、講習を受けていないと安全に関する禁忌がわかりません。

作中でも「マストは寝かせて駐車しましょう」とありますが、これは講習に行って初めて教えてもらったことのひとつです。

第17話より。これは「マスト・爪が起こされている状態」です。

市場の現場では、マストや爪を上げっぱなしで置いていく人や、作業中サイドブレーキをかけずに降りちゃう人が結構います。
自分も無免のときはそうだったので苦笑いですが、それはやはり安全のため講習受けてからは守ってますね。

ただ、禁忌とされることもときにはテクニックだったりします。

たとえば、必要以上に荷物を高く上げるとバランスが悪くなり危険なのでやらないようにと講習では言われます。
が、狭くて、小回りの効くリフトでさえパレットを挿してしまうと取り回しに苦労する現場では、ジャマな荷物をかわすために自分の荷物を高く上げて障害物の上をまたがせる形で回ります。

あと、リフトを次に使いたい人が待っていたりして急いでいるときに、バラでパレットに積んだ場合マストをめいいっぱい起こして(マストを自分側に傾ければ、少なくとも前後には崩れにくい)アクセルベタ踏みとかですね…。

まぁ、そういうのが黙認されてるのが市場でもあります。

よいこのみなさんはちゃんと講習修了証をもらってから乗りましょう(爆)。


ラップの巻き方

マンガの流れと前後しますが、はじめにカズオが荷物にラップ(ストレッチフィルム)を巻いてる場面。

第17話 前編より

カズオの手袋が白いのは塗り忘れではありません(笑)。

荷物を手づかみするときのゴム引きの軍手だと、滑らないのでかえってラップを巻く作業のときは使いにくいのです。

素手のほうがまだマシですが、摩擦でヤケドしないようにきつく巻くのはコツがいるので…焦げ猫は滑り止めのない綿の軍手にはめ替えるか、長袖の作業着の袖を指までおろしてラップの芯を持ってます(作業着が傷んじゃうので綿軍手忘れたときだけ)。

荷物を積み上げるより、地味にこの作業体力使います。目も回るし(^^;)

巻き方じたいはYoutubeで運送屋さんが上げてるもので、コレが焦げ猫が実践してる巻き方に近いです。ご参考に↓

もし長袖も綿軍手もない!…というときは、芯を持った手をチョンチョンと浮かせながら、角のときだけしっかり押さえてテンションかけながら巻いてます。
あと裏技としては、ゴム引き軍手だけはあるならあまり巻きやすくはならないけど、裏表ひっくり返して手にはめるという方法もあります。
あくまでも焦げ猫の自己流ですので、佐竹さんじゃないけどオススメしていいものやら…?

動画内の「アダプター」ですが、これサイズが合う合わないがあるんですよ。
現場によって使うラップのメーカーが違ったりして、芯の径が合わないことがままあります。
あればコレ使うのがいちばんラクですけどね。

あと、青果に限らずたいていの仕事でラップを自分のトラックにストックしておきますが、傷がつかないよう気をつけてください。
傷がつくと傷の部分を使い切ってしまわない限り毎回そこから破れます。


バラとパレット

長距離で市場の仕事をしてる場合は、帰り荷を積むのにジャマになるので空パレットを回収できません。
それもあってバラが基本でもあります。

槍杉さんがやってたようにですね。

りんごを積む若き日の槍杉さん、 第10話「やりすぎヒストリー 後編」より


焦げ猫が今やってるのは地場なので、あらかじめパレットに荷物を組んだ状態でトラックに積み、市場ではリフトで降ろして同じ規格の空パレを回収するだけです。

しかし、バラで行けと言われても、中にはやはり「市場での作業に時間をかけたくない」と、「捨てパレ」を使う人もいました。
いわゆる「ワンウェイパレット」ですね。

今そういうことをやってる人がいるかどうかわかりませんが…。

「捨てパレ」というのはぶっちゃけ返ってこなくていいパレットです。
実際にはそういう商品名のパレットがあるわけではなく(厳密にはあるけど使ってる企業は少ない)、選果場や市場の隅っこに放置してある半分壊れた木パレや、輸入物に使われている「スキッド」(←底板が無くて本当にスノコみたいなヤツ)を拾って流用するんです。

最近はゴミを出すのもタダじゃないっていうからみの問題で、大きさや使い勝手が規格外で強度もない「捨てパレ」の類は嫌がるところも多いらしいですけどね…。

ちなみに青果と一括りに言っても、パレットはいろんなのを使います。
商品の箱のサイズが違うからです。
たとえばみかんやレモンはドール(バナナが輸入されてくるときの木パレ)の小(大と小がある)、玉ねぎなら長めの野菜パレ、キウイならビアパレ(飲料用の細長いサイズ)が収まりがいいのでそのように使い分けてます。
納品したときは、持っていったパレットと同じ規格のものを差し替えで回収します。


今回も長い解説をお読みいただきありがとうございます(^^;)

直近でやってる仕事でもあり、一般フリーの次に自分が長くやってきた仕事でもあるので、力が入ってます(笑)。

大変なところばかり書いてしまいましたが、マンガ本編次回では楽しい側面を描く予定ですので、解説もまた楽しみにしていただければ幸いです。

この解説記事の元マンガ「カズオの運行日報 第17話前編」はこちら↓

「カズオの運行日報」マガジンはこちら…2tドライ・2t冷凍車・4t一般の仕事などを今までに描いています↓


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